団体協約における開放条項の利用状況
ドイツの団体交渉制度において、産業別団体協約からの離脱を可能とする開放条項の利用状況について調査した研究結果が2006年5月に発表された。研究によると、調査対象企業の13%が開放条項を規定した団体協約を有していた。これらの事業所のうち52%が、2005年に開放条項を活用した。開放条項は、団体協約の標準労働時間からの離脱に広く活用されており、より少ない頻度で賃金の削減にも利用されている。
2006年5月、労働市場・職業研究所(IAB)とフレデリック・アレキサンダー大学の2人の研究者は、ドイツの団体協約における開放条項の利用、普及および影響に関する研究結果を発表した。研究は、全産業の1万6000事業所を対象とするIABのパネル調査のデータに基づいている。
研究結果によると、2005年の西部ドイツにおける団体協約適用率は、産業別団体協約が38%、企業別団体協約が3%。東部ドイツにおいては、それぞれ19%および4%であった(表1)。西部ドイツの事業所の半分以上および東部ドイツの事業所の4分の3が団体協約の適用を受けていない。これらのうち、東部ドイツと西部ドイツ企業の3分の1以上は、企業と労働者の個別的労働契約の指針として産業別団体協約を活用している。小規模事業所より大規模事業所において団体協約の適用率が高い。小規模事業所は、賃金交渉の指針として、産業レベルで合意した水準を利用している。団体協約の適用率は、1990年代初め以来低下している。事業所はより柔軟性の高い賃金決定システムを志向している。
企業が団体協約から完全に逃避するのを防止するため、労使は、団体協約をより柔軟にする方法について議論している。事業所組織法によると、経営側と事業所委員会は、団体協約が扱う問題に関して、事業所協定を締結してはならない。しかし、団体協約に開放条項が規定されており、特定の前提条件が満たされている場合、企業は団体協約の基準から離脱することができる。ドイツでは、次のような様々な形式の開放条項が存在する。
- 労働時間の調整のための開放条項は、企業レベルの当事者に、労働時間の配分や時間外労働の扱いについて委任し、制限内における労働時間の削減や延長を可能とする。
- 特別の開放条項は、深刻な経済問題を抱えている事業所が従業員に対し、団体協約の水準を下回る賃金を支払うことを可能とする。しかし、これは制限期間内に限られる。この場合、事業所委員会か経営側のどちらかが、団体協約の適用除外を労使団体に申請しなければならない。労使団体は、事業所の経済状況に照らして、適用除外が妥当かどうかを決定する。
- 労使団体の承認を必要としない開放条項もある。産業別団体協約に規定された特定の問題は、事業所委員会と経営側との自主的な交渉に委ねられている。結果として締結された事業所協定は、労使団体の事前の同意なしに有効とされる。
- 小規模企業は、団体協約よりも低い独自の賃金協定を締結できるとする開放条項もある。例えば、東部ドイツの従業員25人以下の小売事業所は、団体協約の水準より4%低い賃金の支払いを容認されている。
研究結果によると、西部ドイツおよび東部ドイツの企業の13%が、開放条項を規定した団体協約の適用を受けていた(表2)。これらの事業所うちの52%が、2005年に開放条項を利用した。開放条項は、輸送・通信産業において最も頻繁に利用された(西部ドイツ74%、東部ドイツ88%)。東部ドイツの建設産業(89%)や西部ドイツの消費財産業(73%)においても開放条項が頻繁に利用された。
西部ドイツの使用者の71%、東部ドイツの使用者の62%が、労働時間の調整のために開放条項を利用していた(表3)。また、調査対象の西部ドイツ事業所の31%、東部ドイツ事業所の37%が、名目もしくは実質賃金の削減のために開放条項を利用していた。
従業員数 (2005年6月30日現在) |
産業別団体協約の適用率 (%) |
企業別団体協約の適用率 (%) |
参考として団体協約を利用している企業のうち、団体協約の適用を受けない企業の割合 (%) |
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西部 ドイツ |
東部 ドイツ |
西部 ドイツ |
東部 ドイツ |
西部 ドイツ |
東部 ドイツ |
|
1~9人 | 33 | 14 | 2 | 2 | 66(34) | 84(35) |
10~49人 | 49 | 31 | 4 | 7 | 47(49) | 62(49) |
50~199人 | 59 | 48 | 9 | 14 | 32(54) | 38(55) |
200~499人 | 69 | 55 | 12 | 20 | 19(52) | 25(53) |
500人以上 | 79 | 71 | 11 | 17 | 10(63) | 12(67) |
企業計 | 38 | 19 | 3 | 4 | 60(37) | 77(37) |
従業員計 | 59 | 42 | 8 | 11 | 34(48) | 47(48) |
出所:労働市場・職業研究所(IAB)
産業部門 | 西部ドイツ | 東部ドイツ |
||
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開放条項が存在 (%) |
開放条項を利用 (%) |
開放条項が存在 (%) |
開放条項を利用 (%) |
|
農業 | 7 | 84 | ― | ― |
鉱業・電機 | 28 | 45 | 20 | 53 |
採石 | 26 | 44 | 22 | 42 |
商品投資 | 18 | 59 | 13 | 47 |
消費財 | 17 | 73 | 10 | 33 |
建設 | 12 | 54 | 7 | 89 |
小売・修繕 | 16 | 55 | 16 | 31 |
輸送・通信 | 14 | 74 | 4 | 88 |
金融・保険 | 15 | 20 | 8 | 27 |
その他の経済活動 | 13 | 48 | 20 | 54 |
その他の活動 | 9 | 46 | 15 | 47 |
非営利組織 | 8 | 8 | 27 | 39 |
公的機関・社会保障 | 11 | 38 | 12 | 62 |
企業計 | 13 | 53 | 13 | 50 |
(開放条項を含む団体協約の適用を受ける企業の) 従業員の比率 | 29 | 52 | 21 | 52 |
出所:労働市場・職業研究所(IAB)
理由 | 西部ドイツ | 東部ドイツ |
---|---|---|
労働時間の調整 | 71 | 62 |
賃金の削減、賃上げ・付加手当の停止、 | 31 | 37 |
その他 | 19 | 28 |
出所:労働市場・職業研究所(IAB)
出所
- 欧州労使関係観測所ウェブサイト(EIRO)
2006年8月 ドイツの記事一覧
- ハルツ第Ⅳ法最適化法案が成立
- 団体協約における開放条項の利用状況
関連情報
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