ハルツ第Ⅳ法最適化法案が成立

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ドイツ連邦議会は6月1日、長期失業者の就労促進の強化を目的とした「ハルツ第Ⅳ法最適化法案」を可決した。同法案は、増大する失業給付Ⅱ制度の予算を抑制するため、受給者の受給要件を厳格化する規定を盛り込んだ。また、長期失業者が自ら事業を始めることを奨励する、新たな起業助成金を創設した。連邦参議院では当初、キリスト教民主同盟(CDU)の州首相らが法案の修正を強く主張したが、この秋のさらなる見直しを前提に妥協に応じ、7月7日可決された。同法案は8月1日に施行された。

失業給付Ⅱ制度の改革

2005年1月施行の「労働市場における近代的サービスのための第Ⅳ法」(ハルツ第Ⅳ法)は、失業期間が終了した失業者等に支給される「失業扶助」と生活困窮者に支給される「社会扶助」の一部を統合し、稼働能力がある求職者の生存を保障するための「失業給付Ⅱ」制度を創設した。

2005年の失業給付Ⅱに関する支出は、当初計画を大幅に上回る250億ユーロとなった。2006年予算には244億ユーロ計上されているが、1月~4月の支出に基づく試算では、年間280億ユーロ必要になると予測された。これとは別に自治体が負担する住居費補助にかかる支出も2005年は124億ユーロにのぼった。

「ハルツ第Ⅳ法最適化法案」は、増大する予算を抑制するため、失業給付Ⅱの受給要件をより厳格化し、給付を受けている失業者が、12カ月間に3回、正当な理由なく紹介された仕事を断った場合、給付を全額打ち切ることとした。

失業給付Ⅱは、配偶者などのパートナーにも十分な収入がない場合にのみ支給される。これまで擬似婚姻関係による不正受給の証明責任は国の側にあったが、同法案は、証明責任を申請者の側に課した。その基準は、関係の継続期間(通常1年以上の同棲期間)、共同の銀行口座、共同の子供または親戚の介護などである。この規定は同姓のパートナーにも適用される。

受給資格のない者の不正受給を防止するため、申請者のチェック手続きが厳格化される。非開示の資産を調べる目的で、他の公的機関との情報交換が行われる。

受給者の貯蓄に関しては、現在、貯蓄および老後保障の目的で、それぞれ年齢1歳につき200ユーロまで認められている。今回の改正により、老後保障目的の貯蓄は、年齢1歳につき、200ユーロから250ユーロに引き上げられる。50歳の場合、貯蓄できる金額は、1万ユーロから1万2500ユーロに増加する。同時に、老後保障目的以外の貯蓄は、年齢1歳につき、200ユーロから150ユーロに引き下げられる。50歳の場合、この額は、1万ユーロから7500ユーロに減少する。

失業給付Ⅱの新規受給者は直ちに、職業紹介や労働市場への編入を目的とした支援を受ける。妊娠している女性に対しては、子供を世話するために必要なものを購入する資金が援助される。

政府は、これらの施策により、今年、連邦予算で4億ユーロ、地方自治体予算で1億ユーロの節約が可能になると説明する。2007年以降は、連邦レベルで12~14億ユーロ、地方自治体で3億ユーロの予算が削減できると予想されている。

メルケル首相は、キリスト教民主同盟(CDU)の経済評議会の演説において、「働いている者は、働かない者よりも多くを受け取らなければならない」「これらに続いて、今後さらなる対策が取られるが、失業者に支給される財政援助の金額が削減されることはない」と述べた。同首相は、長期失業者に対する就労支援の責任に関して、解決しなければならない問題があると指摘した。

ミュンテフェリング副首相兼労働社会相は、議会において、「できるだけ多くの人々を支援するために、資金を可能な限り効果的に活用しなければならない。我々は、長期失業者を政府の施しによって生活することに慣れさせてはいけない」と語った。

起業促進策の統合

「ハルツ第Ⅳ法最適化法案」は、長期失業者が自ら事業を始めることを奨励する、新たな起業助成金に関する規定も盛り込んだ。

2003年施行のハルツ第Ⅱ法は、失業者が起業して自営業を営む場合、収入が2万5000ユーロを超えない範囲で、月額、1年目600ユーロ、2年目360ユーロ、3年目240ユーロを連邦雇用エージェンシーが助成する「私会社(Ich-AG)制度」を導入した。これとは別に、自営業を開始した失業者に対し、最長6カ月間、従来受給していた失業給付または失業扶助と同額を支給する「移行援助金」が1997年に導入されている。

私会社制度は、ハルツ改革の中間評価において成功した手段のひとつと評価された。しかし、2005年の支出が、予算を10億ユーロも超過する35億ユーロとなった。このため、CDUは、私会社制度の廃止を訴えていた。

2005年11月のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の大連立政権発足に伴う連立協定では、2005年末までとされていた私会社制度の期限を2006年6月30日まで延長するとともに、その後、移行援助金を含めた新しい起業支援の施策を検討し、助成金を一本化することが盛り込まれた。

CDU/CSUとSPDは5月半ば、6月末で期限切れとなる私会社制度に代えて、8月からコストの低い新たな「起業助成金(Gruendungszuschuss)」を導入することで合意した。これにより予算規模は、昨年の年間35億ユーロから20億ユーロに削減される見込みである。

連立政権は、少なくとも支出の3分の1は減額すべきであるという点で一致していた。しかし、SPDは、助成金を法的な義務給付として維持することを主張し、CDU/CSUは、職業紹介機関の裁量に完全に任せることを奨励していた。この点で意見が対立し、新規定の策定作業が遅れていた。

今回合意された新たな助成金は、失業給付I(失業保険財源による通常の失業給付)から最大15カ月間の給付が受けられる。この期間は、従来の私会社制度における企業助成金よりも短いが、移行援助金よりは長い。支給額に対しては新たに法律上の請求権が発生し、第1段階の9カ月間は新・起業助成金が受けられる。さらにオプションとして、6カ月の支給期間延長を請求できるが、その認可は職業紹介機関が一定の評価に従って行う。

新・起業助成金の金額は、従前賃金の最大67%に相当する失業給付レベルの個人では、従来の助成金と同じ程度の額が支給される。これに加えて、月額300ユーロの(労使が拠出する)社会保険負担分が支給される。しかし、期間延長後は、一定額以上は支給されない。連立政権は、失業給付Iの残り3カ月未満の期間を請求する場合は、新・起業助成金を受け取ることができないとしている。

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