不法移民の就労合法化の可否をめぐる議論

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2006年6月

最近アメリカでは、不法移民をめぐる議論が高まりを見せている。議会下院で2005年12月、不法移民の取り締まりを強化する法案が通過したことを契機に、3月下旬以降、不法移民の就労合法化を求める大規模なデモが全米各地で展開された(注1)。全米で推計1200万人に上るとされる不法移民は、アメリカ経済にとって無視し得ないほどの存在になりつつある。大統領は、不法移民への規制を強化しつつ、期限を区切って彼らに就労を認めるという包括的な法案(注2)の成立を目指しているが、上下両院、また世論の見解は「不法移民は本来アメリカで働くことができないとの原則に立ち返り、不法移民への規制を強化すべき」とするものと、「アメリカ経済の一端を担う彼らに合法的地位を与えるべき」とに大きく分かれている。

拡大を続ける不法移民

アメリカの移民問題研究機関「ピュー・ヒスパニック・センター」によれば、2006年3月現在、アメリカ国内に居住する不法移民の数は約1150万人から1200万人に上るとされる。

2000年時点では、推定で840万人とされていたため、年間で約60万人増加した計算になる。移民のうち約6割と最も大きな割合を占めるのは、貧困からの脱出を求めて国境を接するメキシコ経由でアメリカにやってくる中南米系移民である。彼らはアメリカに入国後、低賃金労働者として、建設現場や工場、サービス業などに従事することが多い。

排除か共存か

不法移民の扱いを巡り、世論も大きく分かれている。ピュー・ヒスパニック・センターが、アメリカ国内で2006年1月以降に行われた各種の世論調査(注3)をまとめて発表したところによると、次のような傾向が見られる。

  • 合法か違法かを問わず、移民自体がアメリカにとって善か悪かについて、国民の意見がほぼ2分されている。
  • 合法移民の受け入れ数(注4)も意見が分かれるところである。回答者の約3分の1強は合法移民の受け入れを現在の水準に保つか縮小すべきと考えており、合法移民の数を増やすべきだとする意見は比較的少ない。
  • 不法移民は、アメリカ人がやりたがらない仕事に就いていると考える人が多数を占める。
  • 国内に在住する不法移民について、永住権や市民権を付与するか、または一時滞在労働者としてアメリカ国内に留まれるようにするといった措置に賛成する者が多数いる。こうした選択肢が示されている場合、彼らを帰国させる、または強制送還に賛成する者は少数である。

法案の調整は難航の見込み

「包括的なアプローチ」を提案しているブッシュ大統領に対し、議会下院は2005年12月、規制強化のみを盛り込んだ法案を通過させた。具体的には、既に国内に居住する不法移民とその家族に対する罰則の強化、メキシコとの国境に、新たに障壁を追加・新設する等が主な内容となっている。一方、上院は賛否両論に分かれていたが、議論の末5月25日、規制強化も含めつつ、一時労働許可を盛り込んだ案を可決(注5)した。上院の法案の特徴は、不法移民の扱いを(1)アメリカに5年間以上滞在していれば罰金や英語習得を条件に合法的な滞在資格や市民権を与える、(2)滞在期間が2~5年の場合、一度出国し再入国する手続きを経て、一時労働者として法的地位を認める、(3)滞在期間が2年未満の場合、出国させる――のように、滞在期間によって分けたことである。またメキシコ国境での約600kmのフェンスの設置や、大統領が5月15日に提唱した最大6000人規模の州兵部隊の派遣なども含んでいる。

上院と下院とで議決が異なった場合には両院協議会による調整が必要(注6)であるが、11月の中間選挙 を視野に、下院では保守派を中心に一時労働許可に対し強硬な反対意見が高まっており、法案の調整は難航が予想される。

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