外国人労働者受入政策
アメリカの移民政策

アメリカは移民によって建国された国であり、元来外国人を無制限に移民として受け入れていたが、人口の増加に伴い、1880年代以降徐々に選択的・制限的に受け入れるようになった。現在は年間67万5000人の枠を設け、移民の受入れを行っている。

アメリカ移民法は、新規のアメリカ入国者を移民と非移民とに分け、原則的にアメリカに永住の意思なく入国する者であることを立証しない限り移民とみなすこととしている。

移民には、アメリカに永住する権利のある移民ビザ(永住権=グリーンカード)が発給され、取得すればアメリカでの就職や転職、又は自営や投資等をアメリカ人同様全く自由に行うことができる。永住権取得後5年以上経過しその間3年以上アメリカに居住しているか、又はアメリカ市民と結婚し3年以上経過している場合には、市民権取得(帰化)資格が与えられる。

非移民は、アメリカに入国しようとする「一時渡航者」であり、入国目的に応じた非移民ビザが発給される。アメリカで一定期間働くことを目的に入国する場合には、非移民就労ビザを取得する必要があるが、年間発給数には制限が設けられている。

1.アメリカ移民政策の変遷

1965年の改正移民法は、合法移民を中心とする諸政策を規定し、移民により離散した家族の呼寄せ枠と特定の職能を持つ人を採用する雇用枠の2大優先カテゴリーを移民受け入れの基本的な枠組みとした。これは、人道主義的な原理として離散家族の再統合に高い優先順位をつけるとともに、産業界の労働力需要に対しては、職能カテゴリーによる選別で対応しようとするものであった。この2つの基本原則は、現在もアメリカ移民法の根幹をなしている。

1980年代のアメリカは、非合法移民が急激に増加し、大きな政治問題となった。このため86年に非合法移民に関する体系的な政策を盛り込んだ移民改革統制法が成立した。同法は、アメリカに5年以上滞在している非合法移民の立場を公的に認知するとともに、新規の非合法移民を阻止する政策を示した。87年5月から1年半続いたこの非合法移民合法化プログラムは、187万人が申請し、158万人が許可されるという非常に大規模なものとなった。

1990年の改正移民法は、65年改正法の基本原則を踏襲しつつ、家族呼び寄せ、雇用、多様化プログラムの3カテゴリー総数で67万5000人の合法移民枠を定め、92年から94年までは70万人の暫定的上限枠を設定した。家族呼寄せ枠が48万人に、雇用枠も5万4000人から14万に大幅に拡大され、これまで相対的に移民の少なかった国から抽選で移民を受け入れる多様化プログラムが新設された。

1991年には、前述の移民改革統制法により180万人の非合法移民が合法化された。合法移民枠による合法化を合わせると実に280万人もの合法移民が誕生し、アメリカ社会に衝撃を与えた。これは、ちょうどこの時期の経済不況と相まって、移民による福祉負担の増大に対する批判が強まり、移民排斥運動へと繋がっていく。96年には非合法移民改革法と個人責任と雇用機会の和解法(福祉改革法)の2つの法案が成立した。前者は、非合法移民が社会的サービスを受ける権利を連邦・州・地方レベルすべてにおいて禁止するというものであった。後者は、合法移民をその滞在期間と就業状態によって選別し、各カテゴリーごとに受けられる福祉サービスを規定するとともに、家族呼び寄せの場合の身元保証人に最低所得制限を設けるものであった。これにより市民から非合法移民までの移民全体がその法的地位と滞在期間や就労期間によって序列化され、福祉サービスへのアクセス権に格差が設けられた。また上の階層への参入が非常に困難となり、これまで比較的格差が少なかったアメリカ市民と永住権取得者との間にも明確な差が設けられた。しかしながら、これらの施策によって、非合法移民の流入が減少することはなく、移民を労働力として利用しつつ、社会的サービスからは排除しようとする傾向が一貫してみられた。

1990年代は、短期就労目的の非移民も増加の一途をたどった。一時的に職務を遂行するためアメリカに滞在する外国人のための短期就労ビザである「Hビザ」は、1952年に導入され、80年代以降、82年の4万5000人から88年の7万8000人へと急増した。これに対し「Hビザ」が実際には特別な技能を必要としない職種への労働力供給に利用されているとの批判が高まり、制度の再編が行われた。1990年の改正移民法は、従来広範で曖昧であった「Hビザ」のカテゴリーを再編成し、「Oビザ」(芸術家等能力優秀者)、「Pビザ」(スポーツ選手、芸能者等)、「Qビザ」(国際交流者)などに対象職種を細分化した。他方、高度に専門家した知識群の理論的・実践的な応用を対象とする「H-1Bビザ」を新設し、初めて6万5000人の年間枠を設けた。しかし、O、P、Qの新設カテゴリー及び看護婦の「H-1Aビザ」を別枠とした結果、年間枠は事実上拡大された。これに対し海外からの大量の技能労働者の導入は、アメリカの専門職の労働条件を押し下げ、マイノリティーの雇用機会を奪うものであるとの批判がなされた。しかし産業界にとっては、永住権申請の煩雑な手続や長い待ち時間を避け、比較的長期(3~6年)で外国人専門職を確保できるという大きな利点があった。このため90年代後半のアメリカ経済の好況によるIT技術者への需要増を背景に、「H-1Bビザ」の年間枠は、2001年から2003年の3年間、19万5000人まで拡大された。

2.現行の外国人受入れ制度

移民としてアメリカの永住権を申請する方法には、1)家族関係による申請、2)雇用関係による申請、3)多様化プログラムによる申請――の3つがある。

家族関係による永住権の申請は、申請者の移民としての地位及び呼寄せ家族の続柄・年齢によって、優先順位と年間発行枠が設けられている。

雇用関係による永住権の申請は、スポンサーとなる雇用主が行うもので、労働のカテゴリーに応じて、優先順位と移民ビザの年間発行枠が定められている。また職種によっては、雇用主が永住権申請書類を市民入国管理局に提出する前にアメリカ労働省から労働証明書を取得する必要があり、この審査に数年かかる場合がある。また、アメリカに原則100万ドル以上(雇用促進地域の場合は50万ドル以上)の投資を行い、10人以上の正社員を雇用するなど、雇用の創出に貢献する外国人投資家は、本人が永住権を申請することができる。

多様化プログラムは抽選式グリーンカードとも言われ、世界各国を6つの地域に分け、抽選で職業や財産などに関係なく、各国平等に移民のチャンスを与えるシステムである。過去5年間の移民データに基づき、移民の少ない地域から抽選で年間5万人に移民ビザを発給する。ただし、年間発給数の上限は、1カ国3500人(年間発行数の7%)となっている。

現行の移民受け入れ制度
(年間総枠67万5000人)
家族関係による申請(年間枠48万人)
最優先 アメリカ市民の配偶者・21歳未満の子供、21歳以上のアメリカ市民の親(年間枠なし)
第1優先 アメリカ市民の21歳以上の未婚の子供(年間枠2万3400人)
第2優先(A優先) 永住権保持者の配偶者と21歳未満の未婚の子供(年間枠8万7934人)
第2優先(B優先) 永住権保持者の21歳以上の子供(年間枠2万6266人)
第3優先 アメリカ市民の21歳以上の既婚の子供及びその配偶者と子供(年間枠2万3400人)
第4優先 アメリカ市民の21歳以上の兄弟姉妹及びその配偶者と子供(年間枠6万5000人)
雇用関係による申請(年間枠14万人)
第1優先 科学、教育、芸術等の専門分野で卓越した能力を有する外国人、顕著な業績の研究者、多国籍企業の役員(年間枠約4万人)
第2優先 修士以上の学位をもつ専門職従事者、際立った才能をもつ外国人(年間枠約4万人)
第3優先 学士以上の学位をもつ専門職従事者、2年以上の見習い又は経験を必要とする熟練労働者(年間枠約4万人)
第4優先 宗教関係者、政府・国際機関関係者等(年間枠約1万人)
第5優先 アメリカへの投資を通じて雇用を創出する外国人投資家(年間枠約1万人)
多様化プログラムによる申請(年間枠5万5000人、うち5000人分はニカラグア・中央アメリカ救済法による特別枠として利用)

非移民として一定期間アメリカで働くことを目的とする場合には、非移民就労ビザを取得する必要がある。最も一般的な非移民就労ビザは短期就労ビザ(H)であり、1)特殊技能従事者(H-1B)、2)短期・季節農業従事者(H-2A)、3)H-2A以外の短期・季節労働者(H-2B)、4)研修(H-3)――の4種類がある。特殊技能従事者ビザ(H-1B)は、建築、工学、数学、物理学、医学・衛生、教育、経営学、会計、法律、神学、芸術等に係る特殊技能を要する職業に一時的に従事する人のためのもので、代表的な職種には、コンピュータ・エンジニア、会計士、財務アナリスト、建築士、リサーチャーなどがある。H-1Bビザの発給数は、アメリカ人の雇用確保の観点から、年間6万5000人に制限されている。H-1Bビザ資格者の滞在期間は3年間であり、1度だけ更新可能(最長6年間)である。

その他の非移民就労ビザには、重役・貿易駐在員ビザ、投資家ビザ(E)、企業内転勤者ビザ(L)などがある。

1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)の補完協定は、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国間における非移民の一時的な労働移動の円滑化を盛り込んでいる。このNAFTA専門職ビザより、会計士、建築士、技術者、経営コンサルタント、医師、看護人、科学者、教師等の専門資格を持つカナダ・メキシコの市民は、アメリカで非移民として協定に規定された専門職に就くことができるようになった。滞在期間は1年間であり、延長も可能である。ただしメキシコ人の専門職の入国については、協定発効当初より年間5500人に制限されてきたが、2004年1月からこの制限が撤廃された。

3.外国人受入れの現状

アメリカ国勢調査局の資料によると、2003年のアメリカにおける外国出生者人口は3347万人(全人口に占める割合は11.7%)であり、うち帰化アメリカ市民が1284万人(同4.5%)、非アメリカ市民が2063万人(同7.2%)となっている。

出生地別の割合は、ラテンアメリカ諸国が53.3%、アジア諸国が25.0%、欧州諸国が13.7%、その他の地域が8.0%となっている。外国出生者は、アメリカ国内で、37.3%が西部、29.2%が南部、22.2%が北東部、11.3%が中西部に居住している。入国時期は、2000年以降が13.6%、1990年代が36.6%、1980年代が24.0%、1970年代が13.7%、1970年より前が12.2%となっている。

外国出生者の雇用者数は1927万人(男性1146万人、女性781万人)であり、その内訳は、管理・専門職518万人、サービス業449万人、営業・事務347万人、農林漁業30万人、建設・鉱業・整備228万人、製造・輸送・素材355万人となっている。

2003年の外国出生者の失業率は7.5%であり、アメリカ出生者の失業率6.2%よりも高めとなっている。

アメリカ移民法は、非常に変化の激しい法律であり、2001年9月の同時多発テロ事件以降は、2004年9月30日から原則全ての外国人渡航者に入国時点で指紋情報の読み取り及び顔画像の撮影を課すなど、申請手続・審査の厳格化等が進められてきた。移民法はまた時々の政治情勢によっても大きく左右される。2004年の大統領選挙においては、マイノリティー票獲得のため、共和・民主両陣営から不法滞在者の永住権取得に道を開く移民希望者に有利な法改正が提案された。アメリカの移民政策は、今後とも時々の情勢に応じ種々の改変が行われていくものと予想される。


参考資料

  1. 駒井洋監修・小井戸彰宏編著「講座グローバル化する日本と移民問題第I期第3巻移民政策の国際比較」(2003年7月)
  2. 日本貿易振興会「APEC加盟国・地域における中小企業の人材確保」(2002年2月)
  3. 厚生労働省「外国人雇用問題研究会報告書」(2003年7月)
  4. 榎本行雄著「キーポイント!アメリカ入国ビザ取得の手引き」(2003年11月)

2004年11月 フォーカス: 外国人労働者受入政策

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