就業サービスに関するISFOLの調査結果

ISFOL(労働者職業訓練支援機関)によって2005年に実施された労働の提供に関するサンプル調査(注1)をみると、「過去」と「調査時点」でそれぞれ用いられていた職探しの手段を分析することができる。

求職中の主体が現時点で用いている職探しの手段をみると(表1参照)、男性回答者による民間業者(派遣労働業者Interinaliや求人求職会社Societa di ricerca e selezione)の利用が若干高いものの、性別による差はそれほどない。いずれにせよ、こうした民間業者の利用が、「非公式な」性質の他の手法と比べて多いわけではない(約30%の回答者が「友人、親戚、知り合い」を頼ったとし、また、20%強が「自力で」求職活動をしたと述べている)。一方で、民間業者よりも多く利用されているのは、公的就業サービスのようである(男女平均で11.5%、女性求職者の利用の方が多い)。しかし、派遣労働業者および求人求職会社の利用を併せて考えると、公的就業サービスよりも1%強高くなる(12.7%)。いずれにせよ、年齢の中央値(30-39歳)についてみるとこの官民の格差は小さくなり、同時に「非公式な」手法の利用が増加している。民間就業サービスの中では、派遣労働業者の利用が最も多く、とくに初めて職に就くような(したがって、臨時的な性質の職の提供でも承諾する傾向が強い)若年層(15-29歳)でこの傾向が著しい。「コネ」の利用は、女性の熟年層(40-49歳)で増加傾向にあり、「自力」での職探しは、求職者の年齢が増加するに連れて減少しているようである。ほとんど利用されていないのが「職業訓練学校・施設」であるが(平均で1%に達しない)、他方で、20歳から39歳までの年齢層では「公的採用試験」の利用が比較的多い。地域別にみると、派遣労働業者の割合は北部で高く(北西部12.9%、北東部11.8%)、南部島嶼部(5.3%)や中部(7.7%)で低い。地理的な点での解釈の鍵は、自力あるいはコネによる求職がイタリア全国で主流になっていることである。コネによる求職活動は、32.9%と南部で最も多く、最低の北西部を約10%も上回っている。公的就業サービス(就業センター:CPI)の利用については地域による差があまりなく、先ほど述べたように、民間業者(派遣労働業者と求人求職会社を併せた場合)や「非公式」の求職活動の利用率よりも低い。また、興味深いのは、公的採用試験の利用が南部で多いことであろう(北東部0.8%、北西部1.0%に対して、南部3%)。

出典:ISFOLの2005年"PLUS”より作成

現在職に就いている者で、労働活動を開始したのがここ5年以内の主体が過去に利用した求職方法についてみると(表2参照)、調査時点より前の1カ月間に失業者が行った求職活動に比べて(表3参照)、総体的に「公式の」方法の利用が多い。公的就業サービスである就業センター(CPI)の利用の差はそれほどでもなかったが(男女平均で0.5%強多いが、女性に関しては8%で、主たる求職方法であることに変わりない)、民間業者がより多く利用されているのが顕著である(民間業者全体の男女平均値でみると、失業者の8.4%に対して、職に就いた者は11.3%)。現在職に就いた者についてみると、派遣労働業者の利用率は男女で同じだが(7.1%)、求人求職会社の利用は、男性の方が高い(男性4.8%、女性3.5%)。一方、男性の求職者に比べて女性の求職者による利用が多いのは、職業訓練学校・施設の利用であるが(約3%)、公的採用試験(男女平均で6%強)に比べると利用率は低い。30歳から39歳の年齢層では、派遣労働業者を利用した者よりも求人求職会社を利用した主体の割合が高い(それぞれ5%と5.2%)。逆に、40歳から49歳の年齢層では、派遣労働業者の利用率がより高く(12.4%)、求人求職会社は3.4%にすぎない。

出典:ISFOLの2005年"PLUS”より作成

出典:ISFOLの2005年"PLUS”より作成

一方で、現在の職を見つけるにあたり就業者が用いた方法をみると(表4参照)、民間業者における利用率は、派遣労働業者と求人求職会社とでほとんど同じである。公的就業サービスである就業センター(CPI)はすべての年齢層で満遍なく利用されているが、先に述べたのと同様、求職中の主体よりは利用率が低くなっている。コネを利用したと回答した者の割合は、年齢が上がるに連れて増え、40歳から49歳では約40%、50歳以上では約63%に達している。こうした主体は、職業再訓練を目的とする教育訓練も受けていることが多い。現時点での求職活動を地位別にみると(表1参照)、「非公式」な方法が「公式」な方法よりも多く用いられており、南部では前者が全体の3分の1に達している。公的制度を利用したと答えた就業者の割合は、中部で高い(が10%を超えるほどではない)。一方、民間業者の利用は北部で多い。同様に、教育訓練の利用は南部よりも北部が4%ほど高い。南部では公的採用試験が多く利用されている(8.8%)。

現在の職を見つけるために用いた手段を種類ごとに分類すると、公的就業サービス制度(就業センター:CPI)の利用(男女平均で2%強)が民間業者の利用(派遣労働業者と求人求職会社とでそれぞれ男女平均1%以下)を上回る。男女別の差はあまりない。「非公式」な手段の利用が最も多いが(約36%)、公的採用試験を用いて職を見つけたと回答した者の割合もかなり高い。先に述べたのと同様、とくに南部でこの傾向が強い。職業訓練学校・施設の利用はそれほど多くない(2%に満たない)。職を見つけた人たちのうち派遣労働業者と求人求職会社を利用した者は、30歳までの若年層に多いが(あわせて約4%)、それ以上の年齢層では0.5%ほどである。一方、公的制度の利用は、年齢が上がるにつれて上がっている(ただし、3%に満たない)。職業訓練学校・施設の利用率は、若年層で高いが、中高年では1%に満たない。最後に、地域別にみると、北部では派遣労働業者、中部では求人求職会社の利用が多い。南部では、自力およびコネを利用した者が多い。

出典:ISFOLの2005年"PLUS”より作成

イタリアにおける民間就業サービスという新しい市場がどのようなものかを理解するには、2005年1月および2月にISFOLが行った就労業者(ApL)に関する調査結果の要点を簡単に紹介するのが有用であろう。この就労業者は、法律によって定められた法的・財政的要件を満たしたうえで、労働社会政策省の名簿に登録することになっている(注2) 。

この調査から明らかになったことは、活動量からいって、労働者供給業者(注3)と求人求職会社が民間就業サービス市場を占めているという点である。ただし、そうはいっても、従業員数や人材という規模の点を考慮すると、この2つが異なっていることがわかる。労働者供給業者(旧派遣労働業者)は、中規模ないし大規模の企業で、雇用密度も他と比べて高いことが多い(労働者供給業者の内部では、女性就業者の割合は少ないが、被用者労働の割合が高い)。求人求職会社の約90%が、1ないし4人の従業員を抱えているのに対し、労働者供給業者の約70%は、一事業所あたりの従業員数が5人以上いる。総売上高についてみると、労働者供給業者の55%が1100万ユーロを超えているが、求人求職会社でこのレベルの売り上げを上げているのは4.6%にすぎない。法形態に関しては、全体の8.5%が株式会社形態をとっているが、このほとんどが労働者供給業者である。求人求職会社の多くは有限会社である(71.2%)。

本社が置かれた地理的分布を分析すると、民間業者の事業所の分布と公的就業サービス組織の分布が異なっていることがわかる。実際、民間業者の事業所設置は、マーケティングの観点に大きく影響を受けており、インフラの整備が進んでいて諸サービスが利用しやすく、生産組織が活発に動いているような、総体的に社会経済状態のより良い地域に、事業所を開くための投資をする傾向がある。この結果、民間業者の活動地は、イタリア中北部の工業地帯や県庁所在地に偏っている(ただし、労働者供給業者の場合は、南部にも毛細血管のように事業所を配置している)。ISFOLのデータによると、本社レベルでみれば、59.2%が北西部、27.7%が北東部、11%が中部で、南部および島嶼部は2.1%にすぎない。
いわゆる「社会的に阻害された主体」の抱えるしがらみを乗り越えるという観点から、業者の遂行業務についてみると、回答があった20の労働者供給業者のうち、12業者が求人求職活動を、8業者がスタッフリース活動を、7業者が仲介活動を、そして8業者が再就職斡旋活動を同時に行っていると答えている。これに対して、労働者供給活動だけを行っているのは8業者であった。

訓練活動の場合、各業者の違いは、市場の棲み分けに直接に結びついている。すなわち、求人求職会社については、自社で運営している場合であれ外部からの財政支援を得て実施するものであれ、訓練コースが、企業側からの、質の高い専門的な労働の需要に応えることを目的としている。他の主体とのIT網の構築の点では、北中部の業者と南部の業者とで格差がある。南部の業者については、公的就業サービスとの積極的な情報技術上の結びつきをもっているのはわずか3.6%であり、またINPS(全国社会保障機関)やINAIL(全国労働災害保険機関)とのこうした関連性をもっている場合は7%に満たない。回答のあった約87%の業者が、自社サービスの促進策と情報普及策は、新聞広告、インターネット・バナー、公共の掲示板、ラジオおよびテレビによって、企業と直接にコンタクトを取って行っていると答えている。

公的就業サービスとの連携についてみると、回答した業者の約4%がこうした連携を実施したと述べている。他方で、12の労働者供給業者のうち、2003年委任立法276号13条の定める「官民」の連携に関する措置を実施したのはわずか1業者だけであった。

全体的に、上記のデータからは、地域的な差があまりないことがわかる。2003年委任立法276号の立法者が期待したような、官民混合の就労サービス網を整備することを目的とした官民協力関係の強化は、いまだ十分には達成されていない。現時点で参照できるデータをみると、広い意味での就業サービスを共同で運営していく官民のシステム間で、IT網を強化する必要性が痛切に感じられる。公的就業サービスと民間の就労業者、そしてその他の主体(社会保障機関や社会保険機関、Eures(ヨーロッパ就業サービス)の情報網)とのIT網の構築は、全国継続労働取引制度(BCNL)の権限をもつ州のネットワークの完成と同様に、全国レベルで求職者や労働ポストの空きの情報をリスト化し、効果的にこうした情報を普及させることで、情報の非対称性からくる「市場の失敗」を小さくし、できるだけこれを抑えるためのものなのである(注4)。

2005年11月に回答のあった85の大学および大学財団についてみると、このうち24機関が、労働市場問題に関連して実施された活動に関する情報を2003年委任立法276号の定める仲介サービスに送付したと答えた。また、約60%(14機関)が、こうした仲介サービスを実施したと述べている。さらに、このうち40%以上が北部の州にある機関で、残りの60%を中部と南部で2分している状態である。仲介サービスの実施期間についてみると、全大学機関の半分が1年以上前からと答え、5機関は少なくとも半年以上前と述べている(残りの2機関はごく最近開始した)。所在地の州による全国継続労働取引制度とIT網で繋がっているとする大学の数は非常に少ない。しかし、IT網の構築は、求職者と労働ポストの空きを調べ、労働市場に関する情報を収集し、官民の他の主体と相互に連絡を取る機会を提供するという点で有用であり、必要なものである。

調査の対象グループについてさらにみると、仲介に関する特別なサービスを提供している機関もみられた。つまり、(1)求人求職のマッチングやその促進、(2)職業指導、(3)就職のための職業訓練活動の企画および提供、(4)注文主の依頼に基づいて実施される行政手続の履行などである。(1)から(3)までの活動については積極的に実施されているのに対して、(4)を実施する機関はそれほどで多くない。

とくに、仲介活動を実施している機関のほとんどが、求人求職のマッチングやその推進活動を実施している。こうした推進活動の手法としては、ITを使った情報の発信、セミナーや集会といったイベントの実施、ラジオやテレビ、ウェブでの宣伝などがある。

仲介活動を実施していると答えた機関のすべてが、所定の内部データバンクを整備し、また、ほぼすべての機関が、さまざまな利用者のために特別な窓口を設けている。職業指導の実施に関連する措置としては、履歴書の書き方、面接およびワークショップの企画などにおける支援活動がある。一方、能力判断のための助言といった個別サービスは、そのためのスペースや専門知識が必要なため、これを実施する機関は全体の半分以下である。就職のための職業訓練活動の企画・提供も同様であり、とくに地域や企業の需要を図る難しさがある。

仲介サービスを実施する14機関のうち9機関が、サービス利用者の類型(求職者か使用者か)を探るために特別な措置を講じていると回答している。収集した情報をさらにみると、仲介サービスを実施した機関の約半数は、一定の体系性を持ったデータを収集し分類していることがわかる。

使用者組織や地方自治体、官庁(とくに労働社会政策省)、企業と、仲介業遂行のための合意や協定を締結した(あるいは締結しようとしている)機関は非常に少ない。

これまで述べてきた労働の供給と需要に関する枠組みから、現在進行中の傾向のいくつかを把握することができる。まず、ヨーロッパにおける仲介市場の自由化のプロセスからわかることは、イタリアでも、役割と措置の点で、(競合というよりは)補完関係という意味での官民の連携が現れる傾向がある。原則的には、公的就業サービス制度が、(とくに不利な立場に置かれている利用者をターゲットにするという意味で)労働の提供を操作する制度的・社会的な指導の役割を果たし、民間業者は、だいたいにおいて「弾力的で」高度に専門的な「需要」に特化する傾向があるとすれば、ありうる連携関係は、職の提供であると思われる。

この点、イギリスにおける公的就業サービス制度(Jobcentre Plus;JC+)と民間業者との協力関係について簡単に触れておく。イタリアの場合と異なり、イギリスでは、以前から労働市場において民間主体が活躍しており、就労サービスを特定の対象者に提供する措置の実施の点でも、このことは当てはまる。こうした中で、2004年末に400のJC+に対して実施された調査では、主たる派遣労働業者(Adecco. Manpower. Blue Power)との関係が研究の対象となり、とくに長期失業者とマイノリティー人種といったカテゴリーに対する措置における官民の協力関係の有効性が明らかになった。さらに、官民が協力して行った職の提供は、労働密度が高く、「弱い」労働力が伝統的に大部分を占めていた産業部門(とくに工業部門および建築部門)において大きな成功を収めたことが重要である。

最後に、調査結果の中でも、公的主体と民間業者との有益な協働関係のためには、組織的な側面ないし戦略的な側面からの評価がより重要と思われる。イギリスでは、ほとんどの場合において、意思伝達のシステムを作り上げること、そして目的の共有に重要な役割を与え、「サービスの水準」には限定的な役割しか与えていない。このことに鑑みると、自由化の進んだ市場では、官民のシステムが、均一な質の就労サービス水準を保証する傾向があることを暗示しているように思われる。もちろん、こうしたサービスの提供が、国全体に毛細血管のように広がっていることが前提条件である。

この最後の点からすると、イタリアでは、北部(とくに北東部)・中部と南部との地域格差を埋め、民間業者が全国均一に配置される必要性があるだろう。

出所

  • 当機構委託調査員レポート

2006年4月 イタリアの記事一覧

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