ド・ヴィルパン首相「雇用のための闘い」第2ステージへ
―学生、労組の強い反発の中、「初回雇用契約(CPE)」導入が決まる

カテゴリー:若年者雇用労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年3月

フランス国民議会(上院)は、2006年3月9日、雇用機会均等法の最終案を可決。これにより、同法に盛り込まれた「初回雇用契約(Contrat Premiere Embauche :CPE)」導入も決定した。4月末施行の見通し。CPEは、2006年1月16日、雇用創出を優先課題に掲げるド・ヴィルパン首相が、新たな雇用促進政策のひとつとして発表したもので、依然として高い失業率が続く若年者(16~25歳)(注1)の雇用促進を目的とする。26歳未満の雇用について2年間の試用期間を設け、この間は理由なしの解雇であっても可能とすることで採用数を増やすのが狙い。同首相は「雇用のための闘いの第2ステージ」として、効果を期待しているが、CPE導入は雇用の不安定化につながるとして学生及び労組らが強く反発。若者を中心に抗議運動が全国的に広がる中での法案成立となった。

初回雇用契約(Contrat Premiere Embauche:CPE)

26歳未満の若者を対象とした新しいタイプの期間の定めのない雇用契約(注2)。26歳未満の若者を採用した場合、最初の2年間は15日以上前に予告さえ行えば、企業はいつでも解雇理由の説明なしに自由に解雇することができる。従業員数20人以上の全ての企業において実行可能。ド・ヴィルパン首相は、「解雇が容易になるために、企業は積極的に若年者を採用する」と主張している。

同法によると、採用から最初の2年間は、若年労働者の育成強化を目的として、企業内外で研修や職業訓練などが行われる。この面では、若年者が個人的な職業訓練を受ける権利を「就職後1カ月」で付与するという優遇措置が盛り込まれた(注3)。若年者への「人的投資促進」が狙い。

給与は、他の雇用契約と同様に支払われる。その結果、「他の期限の定めのない雇用契約(CDI)を締結して採用された若者より賃金が低くなるということはない」とされる。また、CPE契約により就労していた若者が、実働4カ月後に解雇された場合、月460ユーロの失業給付が国から支給される。期間は2カ月間。

また、CPEの場合は敷金の分割払いや連帯保証人無しで、住居を借りることができる。家賃が不払いとなった場合には、18カ月を限度に借り主に代わって家賃が支払われるロカパス(LOCAPASS)というシステムを利用することも可能である(注4)。

政府は、CPEは若年者を「より早く、より確実に」安定した職に就くことを目指すものであるとし、CPEを通じて、多くの若者が「職・住」だけでなく、「生活そのもの」の安定を手に入れることができると主張している。

各方面の反応と法案審議

こうした政府の主張に対し、労働組合や野党だけでなく、与党の一角を占める中道政党UDF(フランス民主主義連合)や高校生、大学生などが「雇用を不安定化させるもの」と強く反発。抗議運動は、全国各都市に広がった。

CFDT(フランス民主労働同盟)は、「若年者層における雇用の安定化どころか、この新たな制度は、雇用主にいつでも若者を解雇する権利を与えている」と主張。「ド・ヴィルパン首相は、若年者における雇用の不安定さをさらに拡大させる選択をした」と強く非難した。FO(労働者の力)は、「26歳未満の若者が、新たな差別に直面している」とし、CGT(労働総同盟)は、「労働に関する権利の大きな後退」という見解を示した。

社会党のオランド党首は、「労働権の破壊の第一歩」と断じ、同政策を撤回させるために、「あらゆる手段を用いて、強く反対する」と宣言。UDF(フランス民主連合)は、「この契約における最初の2年間は非常に不安定であり、とても良い提案とは言い難い」とし、反対する立場を表明した。

さらに、高校生や大学生の組合は、この政策を「若者の雇用を不安定で不確実にするもの」であるとして、1月末から断続的にデモ行進など抗議運動を展開。CPEを「(若者)使い捨て採用契約Contrat Poubelle Embauche」と表現する声もあがった。

2月3日から4日にかけて、レ・ゼコー誌が15歳以上の1005人に対して実施した世論調査(電話調査)によると、「CPEにより、不安定な雇用状態の若年者が増加する」と考えている国民は、60%にのぼった。最大の理由は、CPEの「最初の2年間は容易に解雇できる」という部分。一方、「不安定な雇用状態の若者が減少する」と考えている国民は35%。研修や派遣、有期雇用契約などで就業している若年者が、CPEにより期限の定めのない雇用契約として採用されることが可能となると考えている。

こうした中、1月31日、CPE導入を盛り込んだ「機会均等法案」の審議が開始。野党は、このCPEに強く反対したが、政府は「緊急性があり、一刻の猶予も許されない」として、2月9日、国民議会(下院)で同法案を強行に通過させた。その後も組合や大学生、高校生の組織がデモを呼びかけるなど、全国的な抗議運動が続いたが、3月9日、同法案は上院で可決された。

CPEは、4月末には実施される見通し。政府の半ば強引な決定に対する国民の不満は、ド・ヴィルパン内閣の支持率急落というかたちで表れている(注5)。雇用促進を優先課題として掲げてきた同内閣の勝負どころといわれている。

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