総選挙前倒しと各党の労働政策

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  • 国別労働トピック:2005年8月

7月21日、ドイツで連邦議会の解散をH・ケーラー大統領が決断し、総選挙の日程を1年前倒しして今年9月中旬に実施することが確認された。7月1日に社民党(SPD)および緑の党の連立与党はG・シュレーダー首相の信任案を提出。与党議員の一部が採決を故意に棄権することで、野党の信任反対多数によって連邦議会で同首相の不信任を成立させた。ドイツでは首相に解散権が認められていないため、その後連邦議会解散および総選挙実施の判断は、ケーラー大統領に委ねられていた。このプロセスについて連邦憲法裁判所が「違憲」の判断を下さない限り、総選挙は9月18日に行われる予定だ。すでに政策を発表している各党は選挙戦に突入しており、労働政策が大きな焦点となっている。

政策論議が本格化

ケーラー大統領のゴーサインが出る以前から、各政党は選挙プログラムあるいはマニフェストを発表し、政策論争が始まっている。各政党の支持率は、ドイツ公共放送連盟(ARD)によれば、7月25日現在でSPDが27%、緑の党が9%で、連立与党の合計は36%にとどまっている。これに対し、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は42%で、協調関係にある自由民主党(FDP)の7%を加えると半数に迫る。これまで、5月にシュレーダー首相が総選挙前倒しの意向を明らかにして以降、政権交代の可能性は非常に高いとされてきた。ただし、最近では現野党の支持率にも頭打ちの傾向が見られる。このほか、東独地域を地盤とする民主社会主義党(PDS、東独共産党の後継政党)とラフォンテーヌ元SPD党首らの左派勢力による左派連合が12%の支持を得、とくに東独地域では32%に達している。

各党の主張は、焦点となっている労働政策(後述)以外にも、税制、年金・健康保険政策、エネルギー政策などで論争を引き起こしている。とくに税制では、CDU・CSUが来年からの付加価値税2%引き上げを提起し、これに対してはパートナーのFDPなどからも異論が出ている。一方で、CDU・CSUは同時に、失業保険の保険料率を6.5%から4.5%に下げるとしている(FDPも同調)。これに対し、SPDは、高額所得者(収入が単身者で25万ユーロ、既婚者で50万ユーロ以上)の所得税を現行の42%から45%に引き上げるとし、高所得層に負担を求める考えを示している。企業に対する課税は、二大政党ともに税負担軽減を志向している。

各党の主な労働政策

SPD

  • 2003年3月にシュレーダー首相が提起した「アジェンダ2010」の政策を堅持し、与党が推進してきた労働市場改革であるハルツ改革は「後退させない」とする。ただし、政策は一部修正する。たとえば、高齢労働者は失業給付Ⅰ(雇用保険による失業直後の給付)をより長期間受給できる。また、東独地域の失業給付Ⅱ支給額の西独地域のレベルへ引き上げる。
  • 子育てに対する支障を軽減するため、父母は子どもが生まれた最初の年に、就労を中断した際に「両親給付」を受け取ることができる制度を設ける。その支給額は失業給付Ⅰに準拠するため、前収入の67%となる。
  • 最低賃金制度を有効に機能させることをねらい、労働協約当事者が、連邦レベルの最低賃金をすべての部門(地域・産業)で締結することを求める。その締結がなかった場合は、「法的最低賃金措置」を講じるとしている。
  • 解雇保護、協約自治および広域労働協約のシステムおよび有効性については、「完全な形での維持」を保証する。

CDU/CSU

  • 「失業者の雇入れおよび雇用の場の確保をより促進させる目的」で、解雇保護制度と労働協約権の変更を掲げた。たとえば従業員20人までの企業で新規雇用する場合、解雇保護の対象外にすべきだとする(現行では従業員10人までの企業)。また、新たに雇用された従業員が解雇保護を訴える権利を断念する代わりに、同時に解雇保障金の支給を規定するような労働契約の導入を可能にする。さらに、有期の労働(雇用)関係で複数回の更新ができるようにする。
  • 経営者、事業所ごとの事業所委員会および従業員は、広域労働協約の定める労働条件と異なる事業所単位の取り決めができるようにすべきであり、それは広域協約当事者(一般的に労働組合と使用者団体)の同意がない場合にも可能にすべきである。
  • 失業給付Ⅱ(失業給付Ⅰ受給終了者で資産査定をパスした場合、あるいは旧来の生活保護対象者のうち就労可能な場合が対象となる)申請者の雇入れに際しては、雇入れ後に、協約賃金を10%まで下回る賃金の支払を可能にすべきである。
  • ハルツ第Ⅳ法(失業給付Ⅱの仕組みを規定)の根本的な修正を求める。すべての自治体は、将来、失業者に対する職業紹介を自らの手で担うべきであり、それは、連邦雇用機関が長期的に役割を縮小していくことを意味する。また、低賃金労働分野で公的補助を組み合わせた「コンビ賃金」モデルの普及を進め、とくに低資格労働者の雇用を促進するために、国家が社会保険料など労働コストの一部分を負担する。
  • 失業者などの自営業企業を援助する"Ich-AG"(私会社)の仕組みははもはや必要ない。その他すべての労働市場政策措置についても再検討を求める。
  • 失業保険料を長期に支払った人は、「将来、短期間に保険料を払い込んだ人とは異なる立場に置かれるべきである」とし、高年齢労働者が長期の払込期間に応じてより長く失業給付Ⅰを受け取る、すなわち現行の「通常12カ月、最長で18カ月」という給付期間の延長を打ち出している。これに対し、短期間の払込期間しかない場合は、失業給付Ⅰの支給期間も短くなり得るとする。

緑の党

  • 富裕税から得た財源で、労働市場において何よりも低収入の分野で雇用の促進を図る。労働付帯費用は国家補助により引き下げるべきである。
  • 失業給付Ⅱ申請者の状況改善を図る。東と西の支給額は調整し同一にすべきであり、さらに共同生活者(配偶者・家族など)の収入は資産査定の対象から外し、総合的に失業給付Ⅱ給付額を引き上げる。また、長期失業者が、再び労働生活に復帰する機会を増やす。
  • 改革による激しい切り捨ては回避すべきであり、協約自治(広域労働協約を労使が自主決定する仕組み)、解雇保護法制と共同決定システムの変更は考えていない。また、連邦雇用機関も存続させるべきである。職業紹介は単純により早く臨機応変に進められればよい。

FDP

  • 解雇保護法制を弾力化し、解雇保護の対象は50人以上規模企業に限るべきである。
  • 現在の組織形態の連邦雇用機関を解体し、雇用保険機能の民営化を進める。
  • 社会保険制度を統合し、税財源の社会給付を「市民給付」"Buergergeld"に一本化する。

PDS/WASG(左派連合)

  • ハルツ第Ⅳ法の解体を求め、「労働市場改革は法による貧困化であり憲法違反である」としている。共同生活者の収入は資産査定の対象から除外する。東西の支給額の一本化、実質的な最低生計額の引き上げを求める。

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