国有企業改革の進展と人材市場の動き
―国有企業の組織改革の進展

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年8月

世界銀行の最近の発表によると、2004年のGDP総額ランキングで、中国は1兆6500億ドルで第7位にランクされた。トップは米国で11兆6675億ドルで、中国のおよそ7倍である。第2位以降は、日本が4兆6234億ドル、ドイツが2兆7144億ドル、イギリスが2兆1409億ドル、フランスが2兆26億ドル、イタリアが1兆6723億ドル、中国が1兆6493億ドル、スペインが9914億ドル、カナダが9798億ドル、インドが6919億ドルの順であった。

中国では生産力の飛躍的な拡大によって、輸出産業が大きく成長した。2004年の輸出額は、5933億ドルで、貿易額は日本を抜いて米国、ドイツに次ぐ世界三位。外貨準備高も、2005年6月末には7000億ドルを突破し、世界一の日本に迫っている。

しかし、中国全体の経済水準は1960年代前半の日本の各種経済指標とほぼ符合する。国全体の経済レベルは日本より40年遅れているといわれる。但し、上海周辺のGDPは既に4000ドルを突破し、日本の70年代半ばに匹敵する。

それと対照的に内陸部は経済的に恵まれていない。内陸でもっとも貧しいと言われている貴州省の一人あたりGDPは340ドル、発展途上国と同様の水準である。中国においては、経済発展の度合いも地域格差が大きい。

上記のような経済産業情勢の中、改革解放後、急速に進められてきた国有企業改革が成果をみせはじめたのか、大学生の就職先として最近国有企業が見直されつつあることが各種調査で報告されている。そこで、本欄では、国有企業の組織と人材の現状を2回(次回は11月を予定)に分けて報告してみたい。

1、中国の伝統国有企業の企業組織の特徴

中国の伝統国有企業は、社会大工場を基本な生産単位とし、政府が直接経営に参加していた。社会は、戸籍制度によって都会と農村の二つに分かれ、都会の非農業経済は規模の巨大な企業に組織され、政府は、都会市民の雇用者であった。このような国家企業の中で、国有企業は企業が持つべき特徴(所有権と経営権の分離)はなく、ただのコスト計算の基礎生産単位の性質しか持ちあわせていない。経済の側面においては、国有企業の任務は、政府の指示と命令に従うことであり、党、政府の付属物でもあった。国有企業の生産品目、生産量、生産方法、原材料の仕入方法、製品の販売方法などについて、すべて政府機関によってコントロールされていた。企業管理者の仕事は政府により通達された任務を執行することである。このような党、政府一体化体制のもと、国有企業は生産単位としてだけでなく、同時に党と国家の政治体系の基層組織でもあった。

改革開放以前、中国のサラリーマンは三等級に分けられていた。中央政府直轄の大型国有企業の職員はサラリーマンの上級クラスで、報酬は高く、福利待遇も大変良い。地方国有企業は待遇の面においては、中央政府直轄の大型国有企業には及ばないが報酬は中央政府直轄の大型国有企業と等しい。他方、郷鎮集団企業は報酬が低い上、待遇もない。

改革開放後、経営難に陥るのが殆ど地方国有企業であった。例えば、鞍山の国有企業では、退職金が支払えないということで退職者たちが抗議集会を開いた。改革開放後、多くの国有企業は国の政策によって、株式会社や私有企業へと変身した。また、外資系企業もその数がふえ、高収入だが低福祉という特徴がある。このように民間私営企業は多種多様におよび、状況はより複雑で、高賃金高福祉のケースもあれば、低賃金の上、過酷ともいえる労働条件のもとで長時間にわたって、労働を強いられるケースもある。

中国の80年代中期には、国有企業は70%、郷鎮企業は25%、新進の民間私営企業は5%に過ぎなかった。国有企業改革を中心に改革開放が実施されたことで、民間私営企業はその数を年々増加させている。

1998年になると、全国では、従業員が300人を超え、売上高が3000万元超、又、資産総額が4000万元以上の大中型企業数は、1998年に企業全体数2万3577社に対し、そのうち国有企業は1万2890社で、55%を占めていた。これに対して2002年には企業全体数2万3096社に倍増し、国有企業は7952社で、割合率は35%を占めるにすぎず、国有企業数は大幅に減少した。一方、外資系企業は1998年の3138社から2002年の5496社へと大幅に増加している。回復不可能で、経営が著しく危ない国有企業は淘汰されたため、現在生き残っている国有企業は精錬化され、25年以上の改革開放を経て、国有企業はより一層健全化されてきたといえよう。

2、中国の国有企業における「社会保障制度」の変遷

1951年に公布された「中華人民共和国保険条例」に「労保」という言葉があった。それは、「労働保険」の略称であった。「労働保険」には老後生活、負傷による障害、遺族年金、疾病補助金、医療保険、労災保険、生育についての待遇などが含まれている。但し、こういった「労働保険」の適用は、都市部の「国有企業」に限られていた。

1966年以後は、国家が責任主体としていた「労保」が、段階的に企業に移譲していた。「労保基金」も各企業が自主的に積み立てるようになった。その根拠は、即ち、前述のように企業は国家のものであり、国家の負担は企業の責任で解決すべきという認識であった。これは1985年以前の中国計画経済の本における「労保」制度であった。当時の「労保」制度のもとでは「国有企業」毎に一つ一つの「小さい社会」ができていた。国有企業の職員の生活すべてを企業が保障していた。例えば、職員の住宅、老後、それから職員の医療保険まで、また、企業経営幼稚園から附属学校、職員病院、また、職員の子供の託児所から進学、さらに、こどもの就職まで、すべて、国有企業が面倒を見ていた。これらの福祉保障は、結局のところ国有企業にとって、重い経済負担になり、倒産に追い込まれる要因となっていた。

このような事情から改革開放後は、一刻も速く伝統的な「労保」制度を破棄する必要があった。

1985年9月、「国民経済と社会発展第7次5カ年計画の制定について」に初めて「社会保障」という概念が提起された。

1999年1月、「失業保険条例」が正式に実施され、2004年1月1日より「労災保険条例」が発効されたことによって、中国における各企業職員の社会保障制度が統一されつつ、全国的な社会保障制度改革も確立され始めた。このように中国の現代保障制度は国有企業の改革によって構築されたといえる。ここで構築された社会保障制度は、国有企業から非国有企業へ、大都市から小都市へ、小都市から農村へと発展していくことになる。

3、中国の企業における「工会制度」

改革開放以前から、中国の国有企業には「工会」という労働者組織がある。それは「労働組合」に類似する組織である。「工会」の特徴を列挙すると次のとおりとなる。

  1. 工会の主な目的が、賃上げなどの交渉ことではなく、社会主義建設に貢献し、労働者.職員の合法的権益を守ることにある。
  2. 工会経費については、会社が全従業員の給与の2%を工会に支払わなければならない。また、工会責任者の給与は会社負担になっている。
  3. 工会は、会社経営に直接、間接的に関与をすることができる。

以上のことから、「工会」と「労働組合」とが根本的に異なることが明らかとなろう。「工会」制度は国有企業独特な組織であるといえる。

「工会」制度の外資系企業での導入、すなわち外資系企業における「工会」の設置は、1995年1月に執行された「労働法」によって、定められている。但し、「工会」設置については義務付けられているが、法律の解釈により、実際に香港、台湾系、欧米系外資企業では工会を設置しないケースが多い。

とくに、珠江デルタ地域においては、改革開放後、中央政府が「委託加工」というビジネスモデルを奨励したこと、地理的にも香港、台湾から近いことを背景に、香港、台湾系の民営企業、工場が多く、そこでは多くの内陸農村からの出稼ぎ労働者が働いている。労働条件が過酷な上、賃金も低く、月に400-500元である。「工会」もないことから労働者の権利保護の観点で近年深刻な問題が指摘されている。

そう行った事態を背景として、中国政府は、香港、台湾系企業、私有企業の悪質な労働条件を監視するために、2004年12月1日に、「労働保障監察条例」を施行した。

このように、民営化が進んでいる現状の中国にとっては、搾取行為(スウェットショップ)を防ぐ為に、「労働組合」が必要不可欠であると考えられる。

4、国有企業における光と影

中国企業の輸出構造はまだ脆弱であると指摘されている。輸出の半分は外資系企業によるもので、機械輸出が4割近くを占めているものの、部品調達は輸入に大きく依存している。外資系は確かに次々と進出しているが、その狙いは中国の外資優遇政策と比較的コスト優位性によるもので、加工.組立など労働集約性産業が多く、研究開発.設計.デザイン.物流と言った機能については外国企業に大きく遅れているといえよう。

また、国有企業改革による大量の失業者も大きい問題である。改革によって、幾つかの国営企業が収益を上げている一方、多くの企業は融資を返済するのも困難な状況である。都市部だけでも失業率は3%を超えている。政府は「最低生活保障ライン」を設定しているが、地域格差は大きく、東北部や内陸の一部地域では地方政府が失業者を救済する資金さえ確保できていないのも実情である。四川省や湖南省の国有企業では2001年来、高齢者を退職に追い込むリストラを徹底的に進めた30~40代の経営者が、恨みを買って殺された事件、また、2002年3月4日、黒竜江省にある中国最大規模の大慶油田(国有企業)では従業員7万人が早期退職などに追い込まれ、会社への不満が高まったため、労働者約2万人が抗議集会を開いた。などの事件が多数発生しているのも事実である。

中国では、いわゆる「人本主義」の経営が必要である。改革開放後の中国国有企業における「人本主義」は、日本の終身雇用、年功序列とは無縁であり、中国の「人本」とは、能力のある人を高く評価し、インセイテッブ、高い報酬を与えることである。国有企業にとって、人材を確保し、流出させないことが課題である。近年の中国の企業組織は、雇用において市場原理、競争原理が徹底され、能力主義に応じた待遇を導入しており、男女雇用均等処遇においても日本のような給与・処遇面での女性差別は薄い。また、罰金制度も徹底している。

国有企業の次なる課題は、優位である「社会保障制度」と「工会制度」の効果を最大限に発揮し、人(従業員)を重視し、人材を単なる労働力としてではなく、資本として認識する必要があるだろう。具体的には、職員が最大限に能力を発揮できる人事システムの開発が必要であり、人材にインセイテッブを与えられるような制度が必要である。たとえば、人材投資株式制度、成果と報酬やボーナスにリンクさせる制度、人材評価制度等を用いて、できるだけ多くの人材を吸収し、導入する。多くの資金を投入し、社内人材訓練制度を強化する必要があると思う。また、企業文化建設を進展させ、国営企業の経営実態の情報開示やデスクロジャーの強化、働きやすい環境を作り、人材を真に尊重し、適切な教育、開発投資を通じて個々の人材の職務上の成長を支援し、その価値を潜在能力一杯まで高め、人材を公平、公正に処遇し、雇用を確保して人材の満足感、モチベーション、コミットメントを最大に導く必要がある。

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