「雇用創出」が優先課題のドビルパン新内閣:発足後1カ月、雇用状況は依然厳しく

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  • 国別労働トピック:2005年7月

ドビルパン首相は、2005年6月8日、国民議会での一般施政方針演説に際し、「我々の術策の余白の全ては、雇用へと向けられる」と述べ、いかにして「雇用への闘い」に立ち向かうかということに、演説の大部分を割いた。新内閣の最優先課題は、「雇用創出」。首相は、この課題に全力で取り組む姿勢を表明したが、内閣発足後1カ月が経過したフランスの雇用状況は、依然として厳しい状況にある。ドピルバン首相が発表した「雇用のための緊急計画」の注目すべき点は、1)零細企業における雇用創出の促進と、2)失業対策の二つ。計画の概要は以下のとおり。

1.零細企業における雇用創出の促進

今回の計画では、零細企業(従業員数10人未満)の雇用創出に関する施策が最も注目された。具体的には、1)「雇用チケット」の導入、2)「新雇用契約」の実施、3)従業員を10人以上採用することの奨励――が決定した。フランスにおいて、零細企業がこれほど重要視されたことは稀である。

  1. 「雇用チケット」の導入:

    「雇用チケット」とは、雇用契約や給与明細を兼ねたもので、雇用手続きの簡素化が導入の目的。雇用する際に、それぞれ別個に行わなければならなかった税金や社会保障の手続きを、同チケットを利用することにより、1回で済ませることができる。これは、インターネット上でも利用することができ、こうした雇用手続きの簡素化により、企業の雇用意欲を高めるのが狙い。

  2. 「新雇用契約」の実施:

    「新雇用契約」とは、労働法典を遵守する範囲で2005年9月1日から導入される、新しいタイプのCDI(期限の定めのない雇用契約)である。これは、零細企業が新しくCDIによる従業員を雇用する際、これまで3カ月であった試用期間を2年に延長するもの。労働者には、失業給付資格が最初の月から生じ、試用期間中に解雇された場合には、再就職のための訓練が行われる。このように、同契約は「使用者にはより多くの柔軟性を、労働者には新たな安心を」両立させて保障するという特徴をもつ。

  3. 従業員10以上の採用を奨励:

    従業員が10人を超えると、社会保障費が跳ね上がるという現行のシステムを改善する。首相によると、10人目の雇用により生じる社会保障の追加コストは、平均で年5000ユーロ。これを政府が肩代わりする。

2.失業対策:復帰促進、若年者と50歳以上の者への援助

失業率の上昇傾向に歯止めがかからないなか、雇用への復帰促進策として、1年以上失業している長期失業者が、職を見つけた場合は、1000ユーロの助成金を支給する。これは、再就職の際に生じるコスト(交通費等)をまかなうことが目的。また、同計画では、若者に対する支援策も盛り込まれた。その背景には、25歳以下の4人に1人(約78万人)が失業中という、若年層の深刻な失業問題が存在する。支援策の具体的な内容は、1)1年以上失業状態にある5万7000人の若者に対して、2005年9月末までに、ANPE(職業安定所)が、個々に適応した解決策(職業訓練の実施、企業や公共部門における雇用の斡旋等)を提示する、2)採用が困難なセクター(建設業などの仕事がきついという理由で就職希望者が少ない業種)に就職した若者に対して、年間1000ユーロの税額控除を行う、3)学校に通いはしたが、免状や資格を取得できなかった6万人の若者のために、軍隊で訓練を受けながら学位を得る道を開く――等がある。さらに、50歳以上の者を対象とした施策として、1)公務員試験の年齢制限を引き上げるか、あるいは撤廃する、2)労働収入と年金受給の併給に関する制限の緩和、3)ドラランド拠出金(注1)の廃止の検討――が挙げられた。

ドビルパン首相は、同計画を成し遂げるために、2006年度予算において45億ユーロの追加支出を行う方針を示した。また、2006年に実施予定であった所得税減税については、財政赤字がGDP比3%を上回る状況が続く中で、その余地がないとして、「所得税の引き下げの一時停止」を表明した。

新内閣発足から1カ月。政府は、「雇用計画」による施策で、2006年初めまでに、10万人の雇用創出を目指しているが、この1カ月で新たな雇用が生まれたのは500人以下にとどまった。また、2005年6月末に発表された同年5月の失業率(ILO基準、季節調整済み)は、前月から横ばいの10.2%。経済状況の停滞を背景に、国内の雇用情勢は依然として厳しい状況にある。

ドビルパン首相が掲げた「100日以内に再び国民の信頼を得る」ために、引き続きフランス政府は、「雇用への闘い」に立ち向かう。

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