イタリアからみたEUの社会経済政策

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年6月

最近、EU委員会は、構造改革という激しく議論されてきたテーマに回帰する動きを見せている。就業水準と労働条件に対するインパクトという点から、基本的には否定的に受取られているものではあるが、委員会はこれを、企業の強固な基盤に基づく生き残りおよび発展にとっても、また中長期的な視野に立てば労働条件の改善および安定化の模索にとっても避けられない道としている。

EU懐疑派にとっては、そして、措置計画、白書および指針の増殖に、市場および社会政策に関するEUの措置の不十分さおよび官僚統制的傾向を見出す人々にとっては、こうした委員会の立場は、好ましいものではないだろう。実際、委員会の公表した文書は、理論だけは豊富であるが、政策の実践的な意味および現実主義的な観点が欠如しているのである。

この決して新しくはないテーマは、競争力の維持および社会の結束のために、EU政策の整合と合理化の問題として扱われている。とくに、労働者と企業の適合能力の改善、訓練や人材・社会資本に対する継続的な投資、就労福祉政策という新しい試みの実施、EUの基金のより有効的な利用、競争原理を歪める有害な国家支援に抵抗する能力の獲得、あらゆるレベルにおいて強力な労使制度の実現、行政機関・労使の変更戦略策定能力の強化などによって、変化を促し、指揮していくことの重要性が議論されている。

これらの問題は、EUの雇用戦略において、EU理事会およびEU委員会の定める政策の中心に据えられており、すべて当然予見されたものである。しかし、構造改革に関する日々のプロセスや雇用危機に対する具体的な処理をかろうじてこなしているというのが現状である。この点に関して象徴的なのは、まさにイタリアである。イタリアでは、構造改革が、雇用への影響という感情論に流されただけでなく(アリタリアやフィアットの例)、社会的に支持しうる解決策の探求について行政機関、経営者および労働者側による完全な責任の引き受けとはほとんど関係がない扶助ないし保護的な論理に依存して実行されている。たとえば、所得保障金庫制度、とくに、基金のいわゆる適用除外の実務がこれに当たる。これは、企業および労働者に対する支援を、経済・市場の論理および基準から認められる条件を度外視して行うものである。

企業から追放された労働者を労働市場に再び組入れるという積極政策がないこと、そして、2005年3月の雇用に関する総合レポートでも指摘された公的雇用サービスが慢性的に欠如していることからすれば、いずれにせよ、こうした組入れを可能にする機構がないことは、1991年法律223号にいう合理化および現代化の案を、多くの部分で歪曲化するのに力を貸すことになった。1991年法は、本来は、一時的な従業員の余剰と構造的な余剰とを明確に区別することで、臨時所得保障金庫(産業部門の経済危機や企業のリストラ・再編・転換の場合に用いられる)の利用に限界を設けるためのものだったのだが、結局のところ、機能しなかったのである。さらに、イタリアの産業界の実務は、臨時的な賃金保障という伝統的な措置のために、移動手続き(所得保障金庫を利用して、年金受給または再雇用まで労働者を支援する措置)の利用および職業資格の再付与を、事実上阻害した。結果、市場でより強い力を持つ主体を利することで、改革の重要な部分、すなわち労働市場からの退出の柔軟化を機能不全に陥らせたのである。

文字通りの積極策や労働福祉(workfare)策、そして非効率・非合理な社会的緩衝措置の改革を欠いてきたために、行政機関や労使は、構造的な人員過剰で労働への積極的な復帰の可能性がない場合にも、組合実務で認められてきた金銭的支援措置(年金早期受給、早期退職優遇、年功年金(注1)等)に頼るようになってしまった。社会的有用労働制度や公的有用労働制度のイタリアでの失敗のために、所得保障金庫制度への依存がさらに高まり、今日でも、雇用支援に対する莫大な公的財源が受動的な措置に充てられているのである。

こうしたことを考慮すると、絶賛されている労働積極策や労働者の就業能力を維持・強化するための戦略に異を唱えるつもりはなく、また、これらはとくにイタリアでは長年提唱されてきたことであるので(しかし、いまだ実践されたことはない)、EU文書は積極的に評価するよりほかにない。EUの指示および指針が実施されないということはしばしばあることなので、必要ならば、政治家や労使にこうした指針を真剣に受け止めるための時間を与えるべきだろう。構造改革は、国際競争や新経済に対処し、人材に代表されるようなより貴重な財を保護するためには、これまで以上に必要なものなのである。

参考

  • “AREL europa lavoro economia“ に掲載されたモデナ-レッジョ・エミリア大学教授M・ティラボスキ氏の論稿「イタリアからみたEUの社会経済政策」

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