週35時間から実質週40時間労働へ。改正案の発表
―選択労働時間協定開始や時間貯蓄口座の利用可能性の拡大が盛り込まれる

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年1月

ラファラン首相は12月9日、2005年の施政方針(Contrat France 2005)を発表し、この中で週35時間労働制度の改正案を示した。1)週35時間の法定労働時間は維持する、2)しかし、収入増加を望む労働者が労働時間を増やすことを可能にする、3)暫定措置として、大中企業よりも低率に定められた小企業の時間外労働割増賃金率の規定を3年間延長する――が骨子。改正案に対し、経営側は歓迎しているが、労働側は実質的に週35時間労働制を形骸化するものと反発している。改正案は2005年はじめにも国会に提案される予定だ。

改正案の内容

改正案は、法定労働時間を週35時間制に据え置くことを前提に、収入増を望む労働者が労働時間を延長することを可能にしている。その場合の時間外労働時間の長さ、割増賃金率などについては、経営者とその労働者個人の交渉によって決定する。ただし、超過勤務労働時間の上限は、法定の時間外労働時間の上限に設定しなければならない。法定の時間外労働時間の上限は、現在年間180時間。改正案はこれを220時間へ引き上げることも提案している。割増賃金率は、現行水準(10%または20%)以下を認めない。追加の就労時間に対する割増賃金は、現行水準(通常10%又は25%)以下のものは認めない。

この処置により、所定労働時間(週35時間:年間1600時間)と超過勤務時間(上限220時間)を合わせて、「労働協約上の労働時間」とすることが可能となった。最大で1人1820時間となり、週40時間労働に相当する。

時間貯蓄口座(compte epargne-temps)の利用促進も提案。1)口座に貯蓄された時間に相当する金額を年末に現金化する、2)企業年金・従業員向け社内預金の原資への栗入れ、3)有給休暇や職業訓練のために残しておく――などを可能にする。企業の選択肢を広げ、より多くの企業に利用してもらうとの考えだ。

小規模企業(従業員数20人以下)における時間外労働割増賃金率規定に関する例外措置についても言及。小規模・零細企業の経営への配慮をみせた。時間外労働割増賃金率を10%に設定している暫定措置は、2005年末で廃止予定であったが、2008年末まで延長される (従業員数21人以上の中・大規模企業では、割増賃金率は25%)。

こうした改正策により、企業の活性化と雇用の創出が実現し、他の政策による効果も含めて、2005年末には、10%の失業者減少が期待できるという。

政労使の反応

与党や経営者団体は、「世界的にみても、例外的に短いフランスの労働時間制度」の見直しに政府が取り組むことを歓迎している。与党・民衆運動連合UMPのサルコジー総裁は、経済・財務・産業大臣当時から「抜本的な改革」を主張していた。経営者団体のフランス企業運動(MEDEF)のセリエール会長は、「収入増を望む労働者が、労働時間を増やせることができる」という提案について、「労働者と企業の双方の利益となる良い改革の方法である」と高く評価。労働者の購買力は高まり、雇用、経済成長が促進され、その結果、「社会の再建」を果たすことができるとしている。

これに対し、ジョスパン政権時に与党として同制度を導入した社会党(現野党)は、強く反発。フランソワ・オランド第一書記は、「週35時間労働制度の終焉である」と断じた。また、同党の報道官であるアニック・ルプティ氏は、「ラファラン首相の提案は、週40時間制に戻すことを目的にしている」と非難した。

各労働組合も、今回の改正案について、「週35時間労働制度の廃止の企て」と激しく非難している。労働総同盟(CGT)はコミュニケの中で、「労働時間短縮の当初の目的である『雇用の拡大』を無視している」と指摘。フランスキリスト教労働同盟(CFTC)も、今回の改正案は、「ラファラン首相から経営者団体・MEDEFへのプレゼント」であるとし、「求職者を犠牲にして、労働者に労働時間の延長を強いることは受け入れ難い。成長と完全雇用を導く真の産業政策を要求する」としている。労働者の力(FO)は、経営者側が、基本賃金の引き上げではなく、労働時間の拡大により報酬の増加を行うよう求めてくる可能性があると主張。昇給(ベア)の要求ができなくなると強く非難している。また、各労働組合は、労働者の「自主性」に関しても、懸念を抱いている。収入増を望む労働者が、自主的に労働時間を増やすのではなく、労働時間を増加させるよう経営者が圧力をかけ、それに応じざるを得なくなる恐れがあるというのが、彼らの主張だ。

改正法案は、2005年初頭にも、国会に提出される予定。ラファラン首相は、この改正をもって、週35時間労働制度の見直しは終わらせるという意向を示している。

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