深刻化する技術労働者の不足

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  • 国別労働トピック:2005年1月

最新統計によると、上海浦東地区では私営企業は1998年には4568社しかなかったが、現在2.3万社を超えている。浦東の登録資本は累計で620億元を超過し、1998年から18倍増加している。また、登録資本が1000万元を超える企業は1300社以上あり、一億元を超える企業も77社存在する。業種では、ハイテクノロジ-産業と現代サービス産業に従事する私営企業は、益々増加傾向にあり、その占める割合も、ハイテクノロジー産業が1998年に8.7%、現代サービス産業が3.1%であったところ、最新統計ではそれぞれ16.4%、15.2%と急速な勢いで増えている。この私営企業の急速な発展は、下崗労働者の需要を高めることに貢献しているが、同時に、海外帰国者、ハイテクノロジー人材、大学卒業者など価値を実現できる人材のニーズを高めているといえる。

高度経済成長や労働集約型から知識集約型への産業構造の転換によって高度技能人材の重要性が指摘されて久しい中国であるが、経済活動の活性化の中心的機動力としての生産部門における技術労働者、熟練労働者の不足が2002年以来注目されている。企業のニーズの急速な高まりに対して、技術労働者、熟練労働者の育成が追いつかず、まだまだ不足していることから、現在企業や経済成長へのマイナスの影響が懸念され、問題となっている。

労働市場の現場では、この急激な技術労働者へのニーズの増加に対応した需給調整システムがまだ整っていない。このため、全国的に技術労働者の不足が顕在化してしまっている。政府発表の統計数字で見る限り、農村余剰労働力を中心に就業者の産業移動が進む中、第1次産業から第3次産業への移行は順調に進んでいるものの、製造を含む第2次産業の従事者については、2003年に少し回復したものの、過去10年間増加傾向にあったものが2002年に激減し、2001年との比較では大幅に504万人が減少している。

そういった状況の中で、2003年12月、中央政府の国務院は、「全国人材作業会議」を招集し、「高い技能を持つ人材」と「優秀な人材」の育成と確保を国家の人材強化戦略ポイントとして定めた。

学歴崇拝が根強い国民性の中で、職業専門学校は長い間人気がなく、教育レベルも低い水準に甘んじてきた。一方で、大学生の就職難などここ数年の趨勢から、大学教育そのものとあわせ職業教育訓練の重要性が見直されはじめている。しかし、現在の水準での国の職業技能訓練では技能人材の採用が間に合わないことから、外資系企業の中には自社で訓練学校を設立し技術者を養成する企業も現れはじめている。

産業と経済がめざましく発展し続ける中国では、今、人材の登用、育成のあり方が問われているが、生産に携わる技能労働者の「技能とは」の問いかけから伝統的職業教育観について発想の転換も求められている。

政府の積極的取り組みが期待される中、労働社会保障部は、2004年4月に全国40都市において「技能人材に関するサンプリング調査」を実施した。この調査結果は、2004年第2四半期の113都市での労働力市場の需要供給調査の結果と併せて総合的な分析が行われ、9月にその結果報告が発表されている。以下その内容を紹介したい。

労働社会保障部の技術者不足に関する調査結果

  1. 企業の人材ニーズ

    2004年4月に全国40の都市で行った技能を有する人材に関する調査結果によると、技師と高級技師が技術労働者全体に占める割合は4%未満であるが、企業側が求める需要は14%以上となっている。このことから需要と供給に格差があることが明らかである。また、企業が最も現在必要としている人材のトップ3は、営業・販売、高級技術労働者、技師と高級技師である。また、普通技能労働者の需要もかなり高く、これを加えると企業の技術労働者へのニーズは3割を超える。(表1参照)

    表1:企業が最も求める人材
    分類 比率(%)
    営業・販売 14.4
    高級技術労働者 12.1
    技師、高級技師 10.9
    中間管理職 10.6
    上層管理職 9.1
    一般技術労働者 8.9
    工程技術(工事技術) 6.8
    科学研究、新製品開発 5.9
    広報 4.0
    財務会計 4.0
    情報電算技術 3.9
    機器メンテナンス 3.7
    ファイル管理、秘書 2.3
    翻訳 1.0
    合計 100.0
  2. 労働市場における技術労働者の需給比率

    企業が必要とする人数と求職者の人数の比率は、高級技師が2.4対1、技師が2.1対1、高級労働者は1.8対1、中級および初級労働者は1.5対1である。また、下記の表が示すように、技術労働者の需要比率は、工事技術者の需要を上回っている。

    表2:技術等級別の需要供給人数
    技術等級 労働力の需要供給人数比較
    需要比率(%) 求職人数(人) 求職比率(%) 求人倍率(%) 前四半期比 前年同期比
    初級労働者
    (職業資格五級)
    17 668661 16.4 1.48 +0.07 +0.03
    中級労働者
    (職業資格四級)
    8.2 314505 7.7 1.5 +0.05 +0.08
    高級労働者
    (職業資格三級)
    2.9 84289 2.1 1.81 +0.22 +0.49
    技師
    (職業資格二級)
    1.8 42065 1 2.12 +0.40 +0.43
    高級技師
    (職業資格一級)
    0.8 16100 0.4 2.39 +0.76 +0.58
    技術員
    (初級職位)
    9.2 426772 10.5 1.33 +0.06 +0.05
    工程師
    (中級職位)
    4.2 176659 4.3 1.41 -0.02 -0.06
    高級工程師
    (高級職位)
    1 23170 0.6 2.22 +0.43 +0.49
    技術ランクや
    職位なし
    - 2330326 57 - - -
    条件なし 54.9 - - - - -
    合計 100 4082547 100 0.93 +0.04 +0.04

    データ源:中国労働力市場情報網モニターセンター「2004年第2四半期部分的労働力市場需要供給状況分析」より

  3. 深刻な高級技能人材の不足

    製造業が発展している地区では高級技能人材の不足が深刻である。江蘇省では製造業の雇用ニーズは40%であり、各業種比率の第一位となっている。第2四半期に企業は275名の募集を行ったが、一人の応募も無かった。重工業基地の東北三省でも高技能人材へのニーズは高く、高級労働者、高級技師が占める割合は、遼寧省が8.8%、吉林省が7.1%、黒龍江省が6.1%と上海が9.4%であることから考えてかなり高い比率であることがわかる。また、広東省では、最近、深セン、東莞市、佛山市などの都市で306社の企業を対象に行われた調査で、128社が緊急に1万8000人の技術労働者の募集の必要に迫られが、応募してきた求職者で企業の条件に合致した者は非常に少なかった。

    この調査結果から、現在、熟練労働者と技術学校の卒業生を、男女の性別に関係なく企業が最も必要としているということが明らかになっている。

    今後「第10次5カ年計画」が終了するまでに、技能労働者の需要は現在よりさらに2割以上増加することが予想され、特に技師、高級技師の需要は倍になるだろうと予測されている。

  4. 原因の分析

    教育体制が学歴教育を重視し、技能訓練を軽視していることが、現在の技術者不足の大きな原因と指摘される。すなわち、技術労働者不足は、経済発展、産業構造の転換の中で早い時期から発生したことであるが、技術労働者の育成と訓練はその流れに適応してこなかった。調査報告書はさらに、一部の大学の専攻や授業カリキュラムでは、市場ニーズにあっていないものが設置されており、同じような専攻ばかりが設置される現象があることを指摘している。各種職業訓練校も2万校以上設置されているが、高技能人材予備軍育成を目標とする学校はわずか200数校の高級技術労働者学校と技師学院にすぎず、その規模は小さく、設備や施設も老朽化し、卒業生の待遇も改善されていないという。このような状況から、短期間で大量の高技能人材を育成することは難しいと現状を分析している。

    また、企業も高技能人材育成に主体的な役割を果たそうとしていないことも要因として大きいと指摘される。従業員の技能訓練への資金投入も圧倒的に不足している。サンプリング調査結果から、大多数の企業は従業員教育を行っているものの、2003年に企業が従業員技能訓練研修に使用した1人あたり教育経費は195元にすぎず、全従業員コストに占める割合は、1.4%にとどまっていることが明らかとなった。企業は経営システムの転換で、目先の利益追求には熱心であるが、短期的視点からの従業員活用ばかりを考え、育成しようという姿勢がみられないことが深刻な事態として指摘されている。半分以上の企業が技術労働者育成のために使う費用は従業員教育費の20%に満たない。

    また、高技能人材の評価、奨励などの制度が未整備も指摘している。職業能力により評価し、仕事の成績を重要評価点とし、職業道徳と職業的知識レベルを重要視して技能人材を評価する新しいシステムはまだ整備されていない。

調査報告にみる今後の取り組み課題

中央政府と全国各地の政府機関はすでの措置を講じ、技能人材育成に力を入れ始めている。全国人材工作会議、全国職業教育工作会議では、高技能人材育成プロジェクトを推進し、「3年で50万人」の新たな技師の育成計画を打ち出した。

今後の取り組み課題としては、次の目標が示されている。

  1. 農村労働力を含めた技能人材群の育成を加速し、大量の良質の技能労働力の育成に力をいれる。政府は、重大プロジェクトどの許可審査や入札の際、申し込み参加団体に対して、技術労働者の育成と雇用についての条件を提示するようにする。多くのルートからの資金調達により、技能人材に育成に関して国家と企業と労働者個人の三者が分担投資するメカニズムを構築する。職業資格制度と学歴証明の双方を重視する制度を推進し、職業教育訓練と就業の統合を図る。「2003年―2010年全国農民労働者訓練計画」を確実に実施する。
  2. 企業の人材育成力を高め、育成速度を加速させる。3年で50万人」の新たな技師の育成計画の主体は企業である。企業は従業員賃金総額の1.5%から2.5%を従業員教育に充当するよう社会的責任を確実に果たすように指導していく。
  3. 技能人材の評価方式を改善し、「職業訓練審査条例」を早急に制定する。

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