労働協約、協約賃金および労働紛争に関するISTATの報告書

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境統計

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  • 国別労働トピック:2004年9月

1.はじめに

ISTAT(国立統計局)は、労働協約の内容に基づき、一定の従属労働者の協約賃金に関する報告書を新たに発表した。2004年5月末時点で、現行の全国労働協約の規制を受ける従属労働者が、600万人に及ぶことを明らかにしている。この数は、協約賃金額でみると、全体の46.4%に相当するものである。

従属労働者に関する2004年5月の1時間あたりの賃金指数は、2000年12月を100とすると、109.1であり、先月比0.5ポイント増、前年同月比で3.3ポイント増であった。4半期レベルでみると、2004年1月から3月の数値は、前年同時期に比べて2,7ポイント増であった。

2.労働協約と賃金

2004年5月における数値の全体的な上昇は、靴製造、石工、土木、配達、国民保健サービス関連の職員に関する労働協約が改訂されたことに起因する。2004年5月末時点で適用されている協約の規定に基づいて算定すると、1時間あたりの協約賃金の指数は、この1年間に、全体で2.4%上昇した。この数値の上昇のうち、半分以上(1.3%)は2004年分であり、残り(1.1%)が2003年分である。

2004年5月末で適用されている全国労働協約の適用率は、全体の46.4%である。全国労働協約は、産業別にみると40あり、先に述べたように、約600万人の従属労働者の金銭手当を規制している。全国労働協約の適用率は、部門によって大きく異なっている。土木のほか、農業および狭義の工業では適用率が高いが(土木は適用率が100%である唯一の部門。農業および狭義の工業では、それぞれ94.9%と89.7%)、これ以外の部門では著しく低い。たとえば、輸送およびその関連活動では49.7%、商業・ホテル・レストラン業では22.8%、金融・保険業では12.9%である。

ISTAT報告書によると、2004年5月末に、36の全国労働協約が改訂手続にかかっているとされる。この数は、協約賃金額で見ると、全体の53.6%に当たり、従属労働者数にして63万人に関わるものである。

2004年5月18日には、靴製造業の従業員(約11万人)に関する労働協約が更新された。この新協約は、2004年1月から効力を生じ、規範的部分については2007年12月31日に、経済的部分(規範的部分のうち、金銭待遇にかかわる部分)については2005年12月31日に失効する予定である。同協約は、2004年4月、2005年1月および同年8月に賃上げを規定している。賃上げ額は、2004年4月は平均月約37ユーロ、2005年1月は27ユーロ、8月は26ユーロである。4月の引き上げ分(37ユーロ)は未払い分として支給された。靴製造業に関する新労働協約が適用された結果、繊維・服飾・皮革産業部門全体の協約賃金指数の上昇率が0.5%であったのに対し、靴製造業だけでみると、3.0%の上昇であった。

非金属系鉱物産業部門における1時間あたりの賃金指数が上昇(0.4%増)したのは、石工業(5万4000人強)の労働協約が改訂されたためである。同協約の効力は、規範的部分が2004年1月から2007年12月までの4年間、経済的部分が2004年1月から2005年12月までの2年間である。賃上げについては、2004年5月、2005年1月および同年7月とされている。2003年10月から2004年4月までの協約欠如期間(協約改訂交渉が妥結しないために、協約が空白となった期間)については、190ユーロの固定額が支給されることになっている。2004年5月については、平均して月23.40ユーロの賃上げが実施され、これが1時間あたりの賃金指数を1.7%引き上げる結果となっている。

5月に更新された産業別協約の中で重要なのは、土木業の協約である。同産業の全体に占める割合は、賃金額にして4.7%、従属労働者数にして5%(60万人以上)に達する。同産業に関する労働協約は、規範的部分が2007年12月31日まで、経済的部分が2005年12月31日まで効力をもつ。賃上げは、2004年5月と2005年3月に予定されている。2004年5月の賃上げは月約42ユーロであり、1時間あたりの賃金指数を先月比で3.0%引き上げた。

同じく2004年5月には、配達業の労働協約の適用を受ける労働者について、賃金関係の規制が改定されている。この合意により、2004年1月、2005年1月および同年12月の賃上げが決まった。2004年1月の賃上げは約43ユーロである。これにより、配達業に関する1時間あたりの賃金指数は2.6%、郵便・電気通信産業部門全体の賃金指数は0.1%上昇した。さらに、2004年1月以降の引き上げ分として、約146ユーロが支給された。

これに対し、2004年5月における行政部門全体の1時間当たり賃金の増加は1.0%であった。これは、国民保健サービス(従属労働者数54万5000人)に関する協約が改訂された結果である。これにより、規範的部分については2002年1月から2005年12月まで4年間効力をもち、経済的部分については2002年1月から2003年12月までの2年間の効力をもつと定められた。また、賃上げについては、2002年1月と2003年1月の2回、賃上げ額は2回分あわせて平均92ユーロである。この結果、国民保健サービスに関する従属労働者の賃金指数は、5.6%上昇することになった。2002年1月から2004年4月に関しては、未払い分として、平均約1,965ユーロが支給される。新たな点としては、一般看護士および精神科看護士に関する特別職業手当の再訂ならびに理学療法士およびマッサージ師に関する特別職業手当の導入がある。

れんが産業およびセメント手工業産業の従属労働者(それぞれ1万人と4万5000人)に、協約改訂交渉が妥結せず協約の適用が欠けた2003年10月から2004年3月の期間について、175ユーロが支給された。また、公共輸送機関関係労働者(約14万5000人)にも、協約の適用が欠ける2002年1月から2003年11月の期間について、平均240ユーロが支給された。

2004年5月には、下記について平均(3.3%)を上回る賃金の伸びがみられた。保険(9.7%)、食料・飲料およびタバコ(5.7%)、土木(5.1%)、化学(4.9%)、冶金機械工(4.7%)、レストラン・ホテル(4.6%)、行政(4.1%)、運送(4.0%)、エネルギー・石油およびラジオ・テレビ活動(いずれも3.5%)。農業部門および商業部門については変化がなかった。一方、賃金の伸びが小幅に止まったのは、運送関連業(0.2%)、木材・木材製品およびゴム・プラスチック(いずれも0.5%)、金融(1.2%)、企業向けサービス(1.0%)である。

全国労働協約の適用率は、2003年12月末時点では全体の72.0%であったが、2004年1月以降、著しく低下している(2004年5月には46.4%)。予想としては、新たな協約改訂がなければ、2004年11月に45.3%にまで落ち込むとみられている。協約の期限満了後3カ月以上経過した協約が改訂されれば、54.6%となろう。

活動形態別にみると、労働協約の適用率の低下は、狭義の工業、および、運送・通信およびその関連活動のみに現れている。それ以外では、適用率はほとんど変化していない。ただし、適用率は、活動形態によってきわめて多様である。土木業では100%、農業では94.9%であるが、取引業、レストラン・ホテル業、金融・保険業、民間サービス業ではかなり低く、さらに行政ともなるとゼロである。

このデータは、協約賃金のこれから半年の動向を評価するのに欠かせない。なぜなら、今後半年については、2004年5月末時点で適用されている労働協約で予定された賃金引上げに基づいて評価されるからである。

期限の切れた労働協約が改訂されなければ、2004年6月から11月の半年間に、賃金指数は、3.2%増から1.9%増へと変化すると予想される。ただし、活動形態ごとに異なる傾向が現れると考えられる。たとえば、農業ではほとんど変化しないが、狭義の工業では6月の3.6%増から9月の1.9%像へと変化し、その後2.1%まで若干上昇するとみられている。土木業では、増加率がほとんど変化せず(6月の5.1%増から11月の5.0%増へ)、販売サービス業では、半年の間に、増加率が若干低下するであろう(6月の1.9%増から11月の1.3%増へ)。運送・通信およびその関連活動では増加率が高くなると考えられる。最後に、行政では、協約の改訂がないために、賃金上昇率は、6月の4.5%から11月の2.0%へ低下すると思われる。

3.協約の緊張関係による労働争議

ISTATは、最近、「従業員1人あたりの協約欠如期間」という指数を導入した。

この指数には、次の2つの変数がある。第1は、協約欠如の総期間(協約の改訂を待っている従業員全てについて、協約の適用が欠ける月を足して算定)とそれに直接に関わる従業員との比率(特殊指数)、第2は、協約欠如の総期間と当該産業部門に属する従業員総数との比率(一般指数)である。

したがって、部門ごとのデータは、当該部門に含まれる労働契約について、協約欠如期間の平均を表すことになる。5月時点におけるこの数値は、産業全体でみると、一般指数で5.1カ月、特殊指数で9.9カ月である。農業部門では、ホワイトカラー労働者が協約の改訂を待っているため(2004年12月に、現在の協約は失効する)、特殊指数で5.1カ月である。逆に、農業の従属労働者全体では0.2カ月に下がる。狭義の工業部門に関しては、靴製造業および石工業の協約が改訂されたため、当該部門全体の平均待機期間が減少し(0.7カ月から0.6カ月へ)、同時に、特別指数は、5月に5.4カ月へと上昇した。

5月に統一協約を受け入れたため、土木部門では、一般指数でも特別指数でもゼロである。

商業部門では、レストラン・ホテル業では統一協約が適用されているが、取引業の従属労働者に関する協約は、2002年12月に期限が満了している。したがって、取引業の従属労働者については、待機期間が17カ月である。商業部門全体の従属労働者を考慮すると、待機期間は12.9カ月まで減少する。

運送・通信およびその関連活動では、公共輸送機関関係労働者に関する協約が2月に改訂されたので、待機期間は、特別指数で5カ月に、一般指数で2.6カ月に減少した。

最後に、国民保健サービスの従属労働者に関する協約が承認されたことで、行政部門(国民保健サービスのみで構成される)について、一般指数および特別指数双方の数値が、4月の10カ月から5月の6.4カ月へと低下した。より詳しく言うと、94%の従属労働者が、2004年から2005年の2年間について経済的部分の改訂を5カ月前から待っているのに対し、残りの6%は、2002年から2003年の2年間についても改訂がなされねばならない労働者である(協約欠如期間は29カ月)。

ISTATは、より的確な測定方法である新指針を普及させるために、労働争議に関する情報の収集および整理の手続きを強化しているところである。2004年2月付けのプレスリリース以降、大企業に対する労働監督で明らかになった労働争議に関する賃金不支給時間についての指数(対労働時間比で表される)が公表されている。さらに、空き労働ポストと労働時間に関する新4半期調査に対する変数についても、情報の収集を開始した。この情報は、統計上必要な処理を施されることで、これまでプレスリリースで使われてきた指数を補完し、また、場合によってはこれを代替しうるものである。

労働紛争に関する統計を見直す過程で、ISTATは、このプレスリリースから、アンケート結果に基づくデータの範囲を修正している。特徴的なのは、データの処理に際して、労働喪失時間を、労働関係に起因する争議に関するものに限定していることである。これに対して労働関係に起因しない争議に関するデータは、上記の見直しが終了するまで公表されないことになった。このプレスリリースでは、2004年3月に関する一部データが初めて公表され、同時に、昨年の指数の改定もなされている。

2004年1月から3月に関しては、争議(労働関係に起因するもの)のために失われた労働時間数は、計71万4000時間であった(2003年の同時期に比べて約20%減)。一方、2004年3月の数値(労働喪失時間は25万3000時間)は、2003年3月の半分以下である(56%減)。

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