労働紛争処理をめぐる最近の議論
9%を超える経済成長を実現し、市場経済化が急展開している中国では、近年労働紛争が激増している。国家統計局の発表によると、昨年一年間で22万件を超える訴えが労働仲裁委員会に受理されている。
中国の労働紛争処理制度を簡単に説明すると、「一調一裁二審」の原則により行われる。すなわち、労使に紛争が生じた場合、企業内の調停委員会にかけ、問題の解決をはかる。調停不調の場合、地元の労働局に仲裁申請が届け出され仲裁委員会に持ち込まれる。仲裁委員会は、労働行政、工会(労働組合)、政府が指名する経済管理部門の各代表による三者で構成される。仲裁委員会で問題が解決できない場合には、裁判に提訴されることになる。
現在、上記のような労働紛争の解決のための諸手続きは、93年に制定された「企業労働紛争処理条例」に基づき、国レベル、地方レベルで実施されている。また、95年に発布された「労働法」も、同時に「労働紛争処理」について定めている。ここでは「条例」にも規定された労働紛争処理の「一調一裁二審」の原則や組織などを正式に法律として定めている。
中華全国総工会の幹部養成大学である労働関係学院の孔徳興、王向前の二人の法律学者は、「労働紛争処理法」を立法化し、法律の整備を進めることで、労働紛争処理手続きを改善するよう訴えている。
現在の労働紛争処理制度は、その法律的根拠が曖昧であるため、実際の現場でさまざまな混乱が生じているというのが、その理由である。
紛争処理の現場では、「労働法」と「条例」の規定内容の違いを原因として、どちらの規定を優先して調停を行うかをめぐり、さまざまな弊害が生じているという。また、仲裁委員会での仲裁にあたって、労働組合の役割が法的に明確にされていないということもあり、しばしば労働者が不利な状況に追い込まれることが懸念されている。
2003年3月に制定された「立法法」は、その第八条で「訴訟と仲裁制度は法律によって定められる」と規定している。二人の法学者は、この第八条の規定を根拠として、労働紛争仲裁制度には、単独法による「労働紛争処理法」の制定が必要であると主張する。
しかし、一方では、「労働法」が原則を示し「条例」がその細則となっていることで既にひとつの法体系を築いているとする意見などもあり、法整備の必要は否定しないものの、現在のあり方を肯定的に捉える見方もある。
経済にマッチした労働紛争処理制度の確立のために、政府は90年代半ばからすでに「労働紛争処理法」立法化のための検討に入っている。法治国家を目指す中国では、現在、労使紛争処理のための調停、仲裁、訴訟を法律に基づき、平等に、かつ当事者間での調整を主体としつつ行うことで、労使がともに多大なコストを負うことのないシステムとすることへの期待が高まっている。
労働法第10章 | 企業労働紛争処理条例 | |
労働争議処理原則 | 公正であること、法に適っていること、適宜であること | 労使による調整を重視し、適宜処理、事実を明確に把握した上で、法の下で当事者双方とも平等に扱われること。 |
処理対象の範囲 | 明確な規定はない |
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当事者 | 明確な規定はない | 規定がある |
仲裁の効力 | 60日間 | 6カ月 |
組織、手続き | 仲裁委員会の組織を規定している | 仲裁法定の具体的組織、活動原則、回避、仲裁管轄、代理人、和解、仲裁当事者、仲裁案件の受理、費用の徴収、法定準備のスケジュールなどを規定している |
中国社会保障報2004年4月20日号より作成
2004年7月 中国の記事一覧
- 2003年最低賃金基準と「最低賃金規定」の施行
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