労働協約に関して紛争増加の予想

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2004年10月

550万から600万人の労働者が、9月以降広場に集結する構えを示しており、「熱い秋(労働紛争が激化した1969年の秋のこと)」の再来が予想される。冶金機械業部門の労働協約の改訂だけでなく、地方交通機関部門や公務員部門の労働協約改訂や、長引いている銀行部門の交渉の問題もある。実際、期限切れから8カ月以上経っている労働協約もあり、労働協約が賃金の購買力を確保できていない状況である。Eurostatの統計もこれを裏付けており、イタリア人の賃金は、EU加盟国25カ国の平均を少し上回る程度であるが、手取り賃金でみると1995年よりも低くなっている。問題は、実際のインフレーションが、賃金の増加を決定する際の基礎となった当初の予想よりも大きいことであり、新経済大臣のドメニコ・シニスカルコにとっては、労働所得の保護が避けて通れない課題となりそうである。

この点に関して、労働組合は、来年の賃金増加率については、インフレーションを考慮した上で、政府が経済財政計画書(DPEF)の中で定めた1.6%ではなく、2%~2.2%とすべきだとしている。このような主張は、1993年の政労使3者間協定(注1)で導入された協約規制(全国労働協約が賃金の購買力の「擁護者」としての役割を、事業所協定が企業の生産性の「配給者」としての役割を果たす)を、事実上放棄する意味を持つとの見方もある。ペッツォッタCISL(イタリア労働組合連盟)総裁は、全国労働協約の交渉を2年から4年にする一方で、現在では労働者の3分の1しか関わっていない事業所ないし地域レベルの補完的な団体交渉を全ての労働者に拡張するよう提案している。要するに、全国レベルの団体交渉の代わりに、分散的な団体交渉を強化しようとしていう案である。この考え方は、全国労働協約のいかなる弱化にも反対しているCGIL(イタリア総同盟)とは逆であり、両者の溝となっている。一方、同じく3大総連合の1つであるUIL(イタリア労働連合)の立場は、CISLとそれほど変わらない(3年後との交渉を主張している)。

政府としては、労使の解決にゆだねるしかない。ただし、労働社会政策省の考えは、CISLの立場と極めて近いと思われる。一方、イタリア最大の使用者団体であるコンフィンドゥストリア(イタリア工業連盟)は、これまでのところ意見を表明していないが、7月にはこの問題に対処することを述べていた。経営者側の立場は、現状維持派(とくに大企業)とアラカルトな解決策(各人が、全国協約か補完的協約か、好みの協約を選択する方法)を望む立場(北東部の経営者)に割れている。企業と労働組合との将来的な力関係に関わる問題であることは明らかだ。

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