蘇州市の農村の余剰労働力に対する労働政策
中国に進出する外資系企業は、整備された大都市の経済特区を外し、周辺の都市に進出する傾向が相変わらず根強い。これは、政府の厳しい管理下で、人件費の高い都市労働者を雇用することになる大都市の経済特区での工場建設を避け、比較的自由な経営環境で、低賃金の農村余剰労働力を利用し経営を行うとしているからである。
このような状況下、大都市の周辺都市の労働政策を把握する必要が出てくるかと思われる。上海市の周辺都市のなかでも有望な投資地域と見られている、蘇州市の農村の余剰労働力に対する労働政策をレポートする。
1.概況
蘇州市の2002年のGDPは2080億元、前年比14.5%の増加、労働者の平均賃金は1万4466元(下崗労働者(国有企業からの一時帰休の労働者)を除外した労働者の平均賃金は1万5924元)、農民の純収入は6134元である。この農民の1人当たりの純収入は高く、全国31省、自治区、直轄市のなかの首位上海市の6212元との差はわずかに78元である。
2.外資系企業の投資状況
蘇州市は、1990年代積極的に外資系企業の投資を誘引してきた。1993年から2002年までの外資系企業の年間投資総額は、20億ドルから28億ドルに達している。2002年は、外資系企業の契約投資額は、100.7億ドルに達した。
モトローラ、デュポン、フィリップ、松下、サムソンなどの多国籍企業85社が、200の関連会社と30の研究所を設立している。外資系企業の投資は、製造業が多く、電子・IT産業、紡績業、医薬品産業などが中心的位置を占める。
3.農村余剰労働力に対する戸籍政策
蘇州市は、2003年4月、「蘇州市戸籍准入登記管理方法」を交付し、従来の市民と農民を区別した「非農業戸籍」と「農業戸籍」の区別を取り消し、すべて「居民戸籍」とし、農民たちは、現在就職活動において、戸籍による差別がなくなった。
この結果、制度上、使用者側が、都市の労働者を優先的に採用すること、都市の労働者が敬遠する労働を農村労働者に押し付けること、農村労働者を軽蔑した態度で接すること、契約制で就職している農民から「管理費」等の名目で金銭を徴収することなどはできなくなった。
4.公的職業紹介機関の役割
公的職業紹介機関は、労働市場の情報のネットワーク化に努め、市区と郷鎮(郊外の農村地域)の求人・求職情報のネットワーク化を完了した。現在全市の求職者は、市内・市外の差別のない、同じ条件下で就職情報を得られることになった。
5.農村の余剰労働者の職業研修
外資系企業は、質の高い労働者を希望しているが戸籍制度を変更しただけで技能がなければ、農村からの労働者は外資系企業の工場で働けない。このため市労働社会保障局は、近年、技能研修事業を大幅に拡充し始めた。各地域の職業技術研修センターを利用し、機械、電子、紡績、建築、飲食業の基礎的な研修を実施し始めた。加えて、一定水準に達した者には市の「技師資格証書」を授与した。この結果、2002年には、合計16万5000人が研修の後、各種「技師資格証書」を授与された。
6.他地域からの農民の流入
蘇州市の場合、経済発展に伴い他地域から仕事を求めてきた大量の農民が流入してきている。このため、市政府は、都市の治安の安定を考慮し、こうした他地域からの労働者に対しても職業研修を実施し、2002年、2万8100人に対し、各種「技師資格証書」を授与した。しかし、今後さらに周辺農村からの流入人口は増加すると予想され、どの程度まで対処できるかが不確定要素となっている。
2003年11月 中国の記事一覧
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