2003年第2四半期の労働市場の需給状況

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2003年11月

2003年第2四半期の労働市場は、SARSの影響を受け、求人・求職数が大幅に減少し、労働市場に大きな影響を与えた。特に、被害の大きかった北京市、天津市、石家庄市、包頭市では、求人数が大幅に減少した。

1.概況

SARSの影響は地域的には予想以上に大きく、経済発展の遅れている内蒙古モンゴル族自治区の包頭市、河北省の石家庄市の求人数をそれぞれ前期比54%、40.9%減少させた。また、経済発展の進んでいる天津市、北京市でも、求人数が26.7%、17.9%減少した(注1)。

産業別に見ると、被害の大きかった卸小売業・貿易業・外食産業での求人が、前期比、11万8000人減少し、ホテル・旅館業などでの求人も4万2000人減少した。

使用者側の組織別では、株式会社と私営企業が、それぞれ前期比2.5%と0.4%求人を控えた。

2.産業別の需給状況

産業別の求人比率は、第1次産業が1.8%、第2次産業が32.3%、第3次産業が65.9%で、第3次産業を中心とした求人構造は固定化してきている。ただし、第3次産業はSARSの影響を最も強く受けたため、求人比率は前期比1.8%(前年同期比3.5%)下落した。反面、減少傾向にあった第2次産業は、前期比2.1%(前年同期比3.6%)上昇した。

業種別の求人比率を見てみると、求人の多い業種は、卸小売業・貿易業・飲食業(注2)、製造業、社会的サービス業(注3)に集中し、それぞれ求人の30.2%、26.9%、17.3%を占めた。

求人数から見ると、第3次産業が前期比16万8000人(12.6%)の減少、第2次産業が2万3000人(3.8%)減少した。

SARSの影響を強く受けた卸小売業・貿易業・飲食業と社会的サービス業の求人は、それぞれ前期比11万8000人(18%)、4万2000人(11.9%)減少した。交通・運輸・倉庫・通信業も前期比1万4600人(21.2%)減少した。

地域別に見てみると、卸小売業・貿易業・飲食業の前期比の減少率の大きい地域は、包頭市(51.9%)、石家庄市(36.8%)、天津市(36.5%)、北京市(21.1%)、広州市(18%)であった。建築業の求人の減少率の大きい地域は、天津市(92.2%)、包頭市(51.8%)、石家庄市(48.8%)、北京市(26.9%)である。社会的サービス業の求人の減少率の大きい地域は、包頭市(65.5%)、天津市(64%)、石家庄市(41.5%)、太原市(32.6%)、北京市(15.9%)であった。交通・運輸・倉庫・通信業の求人の減少率の大きい地域は、石家庄市(59.6%)、太原市(48.5%)、包頭市(42.5%)、北京市(36.8%)、広州市(14.1%)、天津市(11.6%)であった。

3.雇用単位の求人状況

雇用単位を見てみると、企業が92.3%と中心を占める。このうち、私営企業、自営業、株式制企業が、63.8%を占めた。

企業の求人数は、前期比0.8%(前年同期比0.3%)減少した。株式制企業が、前期比2.5%(前年同期比0.2%)、私営企業・自営業が前期比0.4%(前年同期比3.8%)減少した。

求人の実数から見ると、企業の求人は、前期比20万700人(10.9%)減少した。このうち、株式制企業が9万8000人(18.7%)、私営企業・自営業が8万4000人(11.9%)減少した。

SARSの影響を強く受けた地域のなかで、企業からの求人が前期と比較し激減した地域は、包頭市(54.9%)、石家庄市(40.5%)、天津市(21.1%)、北京市(18.1%)である。

4.職種別求人・求職状況

各職種別に求人状況を見てみると、商業の販売員と生産・運輸過程における作業員の求人が多く、それぞれ全体の38.2%と33.7%を占めている。これに次いで、専門技術員が多く、11%を占めている。

求職者が集中している分野も、商業の販売員と生産・運輸過程における作業員が多く、それぞれ33.8%と31.8%占めている。これらに次いで多いのは、事務員関係で12.8%、専門技術員が10.7%を占める。

求人倍率から見ると、販売員が0.97倍、作業員が0.91倍、専門技術員が0.89倍になっている。

5.求職者の状況

求職者の状況を見てみると、失業者が最も多く58.9%(リストラ・倒産による失業者が25.9%、新卒の失業者が20%)を占め、次いで農村余剰労働者などが24.4%、下崗労働者(国有企業からの一時帰休の労働者)が9.2%を占めている。

求職者の状況別の比率の増減は、リストラ・倒産による失業者が前期比1%減少、新卒の失業者0.4%増加、下崗労働者0.1%増加、農村余剰労働者などが2.4%増加した。前年同期比では、失業者の比率が0.8%上昇、農村余剰労働者などが3.2%増加、下崗労働者が1.5%減少した。

6.今後の課題

(1)統計上の問題点

今回の統計数値の発表では、地域別の労働市場の状況については、比較的把握しやすい内容になっている。しかし業種別に見ると、労働社会保障部は、卸小売業・貿易業・飲食業、交通・運輸・倉庫・通信業、社会的サービス業をそれぞれまとめて発表しているため、産業別の細かい内容が把握しにくい。

このため、例えば、SARSの影響を強く受けた、各種観光関連産業の労働市場の変化を詳しく知りたくても、発表数値だけでは詳細には把握できない。

なお、国務院発展センターの劉鋒研究員は、SARSによる損失額を81.6億ドルから102億ドルと予想しており、広範囲な業種の雇用に深刻な影響が出たと見られている。

(2)各種労働統計

労働社会保障部による、労働市場の四半期ごとの現状報告は、今後発表内容がさらに充実すれば、進出企業にとって、重要度を増すものと思われる。

使用者側としては、今後、公的機関による各職種別の最低賃金や職種別指標賃金などの四半期ごとの全国的な公開制度の確立を望んでいる。現在では、職種別指標賃金の公開制度は、広東省など一部の経済の発展している地域で実施されているのみで、公的機関より人材派遣会社の情報が先行している。

表1
都市 求職者数より求人数の多い上位3職種 求人数対求職者数の比率
北京市 販売員 3:1
保険業務員 22:1
その他の社会的サービス人員 2:1
天津市 保険業務員 4:1
仕入れ業務員 9:1
電話交換手 5:1
重慶市 地質調査員 29:1
販売員 2:1
電子機器製造過程の作業員 48:1
瀋陽市 ソフトプログラマー 6:1
中級以上の自動車整備士 6:1
コンピューター関連の技術者 4:1
済南市 販売員 2:1
設計・施工人員 2:1
各種サービス員 2:1
南京市 自動車整備士 3:1
ホテルの服務員 3:1
家政婦など 4:1
武漢市 販売員 2:1
冷蔵・冷凍用機械整備員 2:1
家政婦など 2:1
広州市 営業員 3:1
販売員 10:1
経理及び経営管理者 6:1
貴陽市 販売員 2:1
家政婦など 5:1
各種作業労働者 3:1
成都市 コンピューター関連の技術者 5:1
経理及び経営管理者 3:1
デザインナー 4:1
表2
都市 求人数より求職者数の多い上位3職種 求職者数対求人数の比率
北京市 運転手 4:1
財務・会計人員 3:1
秘書・タイプライター 3:1
天津市 運転手 13:1
電気工 33:1
家政婦など 6:1
重慶市 販売員 2:1
仕入れ・小売人員 2:1
運転手 8:1
瀋陽市 公務員 6:1
運転手 6:1
初級財務・経理人員 6:1
済南市 運転手 6:1
管理者 5:1
治安・保安人員 3:1
南京市 コンピューター関連の技術者 2:1
保険業務員 8:1
治安・保安人員 10:1
武漢市 清掃人員 3:1
運転手 4:1
治安・保安人員 3:1
広州市 プロジェクトマネージャー 101:1
運転手 2:1
公務員 1:1
貴陽市 販売員 1:1
運転手 3:1
財務・会計人員 2:1
成都市 治安・保安人員 3:1
秘書・タイプライター 4:1
倉庫人員 5:1

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