中国第一汽車集団公司の雇用情況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

  中国最大の自動車会社、中国第一汽車集団公司(以下中国一汽と略記)は、トヨタ自動車と広範囲な業務提携を発表した。中国一汽は、ここ数年、抜本的な経営改革を進めており、その経営手法の中には、中国の国有企業の人員削減・人材養成のモデルケースとなったものもある。

中国一汽の経営概況

中国一汽は、中国を代表する自動車会社であり、1991年から現在まで、中国国内の販売台数において、首位の座を維持し続けている。2000年の販売台数は、40万台に達し、延べ販売台数は、約4000万台である。

国家統計局の発表によると、2000年の売上額は、564億元で、全国第9位である。中国一汽は集団企業であり、直属の系列企業が10社、全資本を取得している子会社が36社、50%前後の株式を取得している系列会社が16社、資本参加している企業が29社ある。総資産額は、約600億元である。

海外企業との提携先としては、ドイツのフォルクスワーゲン社(現ダイムラークライスラー社)などがある。

労務管理改革

1996年から1998年は、中国一汽にとって歴史的にも経営困難な時期であった。1998年、営業利益は1億5000万元に落ち込んだ。このため、1999年、中国一汽は、経営の悪化を改善するために、生産体制の大胆な改革とそれに伴う労務管理改革に乗り出した。

1.非中核部門の子会社化の促進

最初に、9の部品工場と8つの合資会社を分社化し、子会社の富奥公司を設立した。これにより、1万7000人が子会社に配置転換された。

続いて、自動車製造において重要な部門であると見られていた鋳造公司、鍛造公司、鋳型用工具生産公司、装備技術開発公司、非標準装備技術開発公司が分社化され、さらに、エネルギー公司、建築工業公司、運輸公司等が分社化された。この大規模な分社化により、本社は、5万人の労働者を子会社に移動させた。

こうした、分社化経営方針により利益率を高め、その一部は、新技術と新型車の開発に当てた。その成果として、新型車の「解放平頭柴」が開発され、市場での成功を得た。

分社化された子会社のその後の経営の状態を見てみると、富奥公司の初年度の経営は、9000万元の赤字が見込まれていたが、7000万元の利益を出した。その後、中国一汽は、富奥公司との部品購入契約において、3年間で3億2000万元の値引きを受諾させたが、富奥公司は、2億1000万元の利益を上げた。鋳型用工具生産公司は、分社以前は慢性的な赤字経営を続けていたが、2001年は1999年比6倍の増産に成功し、労働生産性を7.5倍に高め、年間赤字額1900万元の企業が、1000万元の営業利益を出す企業に変身した。

多くの子会社は、予想に反し、短期間で黒字経営に転換し、配置転換された労働者の雇用不安を大幅に緩和した。

2.管理方法の改革と管理職の並列化

各部の管理組織を市場の要求に合わせて再編成し、序列をなくし並列化した。

過去、中国一汽の各部門の組織は、政府、党、経営者の思想や方針により左右され序列化されており、経営上弊害が大きかった。また、60以上の部、100以上の課、47の職能に分かれ、所轄内容の重複や作業効率の低い傾向が見られ、「大国有企業病」に陥っていた。

このため、中国一汽は、市場の需要に基づく組織改革を実施し、経営と直接関係のない不必要な部門を大幅に削減し、その人員と経費は、技術センター、営業管理部、設計室、会計監査室、仕入れ部、企業戦略研究部、社会事業部の設置に回した。また、企画財務部の法律担当部門を、独立し分社化した。加えて、党関係の組織を一部削減した。この結果、60以上の部は25部に、高級管理職ポストは、約700から500に削減された。

研修制度と人材確保

中国一汽は、第10次五カ年計画作成において、「2000人の中核的人材を養成し、2万人の人材を育成する」計画を作成し、人材の養成と確保に着手している。

1.大学との提携強化

中国一汽は、技術研修や人材育成を重要視してきた。大学や実社会から多くの研修生を受け入れてきた。また、国務院教育部からは、「国立大学の学生の教学実習と社会的実践の重点単位」に指定されている。

1999年より、中国一汽は、大学との提携を積極的に展開し、国際的合弁事業を展開するのに必要な人材の養成事業を開始した。主なものには次ぎの3つの研修制度がある。

  • 大連理工大学と合同で「経営管理研修班」を設置し、課長級管理職80人、係長級管理職38人を研修させた。
  • ハルピン工業大学と合同で、材料工学修士生班を設立し、38人が修士の学位を取得し、機械工学研修班では、26人が研修に参加した。
  • 10名の専門技術職員を米国、英国、ドイツの研究機関や企業に派遣し、研修に当らせた。

2.人材確保対策

中国一汽は、1993年から2000年までに採用した技術者の17%に当る370名が、他企業などに流失し、人材確保対策が急務となった。

優秀な技術者の研究意欲の増進と他企業への流出防止として考案されたのが、「緑区」制度である。

その特徴は、優秀な技術者に、役員並の待遇を与えることである。この制度に選抜された技術者を、1級から3級に分け、1級技術者は、総経理(社長)と同等の待遇が与えられる。また、この制度には、一般職と管理職、学歴、仕事の内容等による区別は一切なく、成績により選抜される。現在までに、1196人が、この制度の恩恵を受けている。

また、最近考案された人材確保制度に、「博士号取得技術者のための車使用管理制度」がある。この規定のより、博士号を取得している技術者は、公司所有の自動車を自由に使用できる。ただし、技術者は、定期的に業績審査を受け、一定の水準に満たない場合は、自動車を公司に返却しなければならない。

過剰人員対策

中国一汽は、最初に分社化により本社の人員削減に努めたが、それだけでは目標を達成できなかった。このため、更なる人件費抑制政策を実施した。

1.「養干分開」方式の創設

1999年から中核部門だけを残し、非中核部門は、できるだけ分社化する経営方針を採用したが、分社化だけでは目標達成は困難であり、一層の人員削減に迫られた。

しかし、中国一汽には、社会主義国家、中国を代表する国有企業として、自由主義経済国家の企業が取るようなリストラを実施することはできなかった。

中国一汽が採用したのが、「養干分開」方式である。この方法は、労働者の危機意識と向上心を促進するためのものである。総経理の竺延風氏は、「これは、労働者を継続雇用のグループと一時帰休させ最低賃金のみを支給するグループに分けた政策である。これにより、一時帰休(多くは、公司内に住居がある)された労働者は、単位の労働者としての資格は維持し続けることができ、公司内の再研修を受講し、試験に合格すると、在職労働者の中の、成績の悪い労働者と交代するのである」と説明している。

中国一汽は、賃金制度を10等級38級に分けているが、一時帰休労働者は最低の1等級1級の賃金を受け取り、復帰した場合は、仕事の内容に見合った地位の賃金を受け取ることができる。

一時帰休を命じられ研修に参加している労働者は、現在3000人以上いる。

2.付属の技術訓練校の整理

中国一汽は、伝統ある国有企業として、幾つかの技術訓練校を経営していた。しかし、こうした訓練校の多額の運営経費は、本社の経営を圧迫していた。このため、整理・統合する必要に迫られていた。

一汽自動車工業学校、一汽高級技術者学校、一汽職業技術学校、長春自動車工業高等専門学校を統一して、「中国第一汽車集団公司教育研修センター」を設立した。同センターは、中国一汽の帰属する単位であるが、3年間の猶予期間後は、独立会計を強いられる。

経営改革の背景

このような、経営改革を進めた背景には次のような事情がある。

1.経営上の原因

中国一汽は、大企業であり、加えて、数十年に渡り計画経済体制の恩恵を受けてきた。人事管理・財務管理が甘く、労働者は、中国一汽の本部組織だけで10万人を超え、託児所、各種学校、公安施設などに労働者を多く抱え、本部労働者と資本を独占している子会社の賃金総額は、年間約18億元に達していた。

2.債権の証券化における取り決め

中国華融資産管理公司、中国信達資産管理公司、中国東方資産管理公司、中国長城資産管理公司、国家開発銀行の5つの金融機関は、中国一汽の財務審査を実施し、78億1000万元の債権を株式化する協議書に署名した。この協議書の中で、中国一汽は、非営利的部門を削減する取り決めがなされていた。中国一汽所属の専門学校などは、これに該当した。

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