教員の低賃金と教育問題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

本誌2002年7月号でもお伝えした通り、インドネシアの教員の低賃金は長い間、インドネシアの教育問題の根本に関わる問題とされてきた。

の教育制度が2004年からカリキュラムが全面的に改定することに先立ち、問題となっている臨時採用の教員を2003年には36万人採用することを明らかにしている。教員の不利な労働条件を解決せずに、新しい教育制度が成り立つのか、疑問視する声も少なくない。

教員の低賃金、最低賃金以下で働く臨時教員

インドネシアの教員の平均給与額は、各州の定める最低賃金よりも低い場合が多い。例えば、南ジャカルタで小学校の英語教師をしている女性教員は、大卒にもかかわらず、最低賃金の3分の1の額である15万ルピアの月給しか得ていない。同様に、30年勤続している教員でさえも120万ルピア程度となっている。

インドネシアでは財政難のため、1984年から正規職員として教員は採用していない。しかし、出生率の高い同国では児童数も多く、幼稚園、小学校の教員は慢性的に不足しているのが現状だ。教員1人当たりに対する生徒数も、1:25が理想といわれているが、初等教育では1:35程度となっている。

教員のストライキ、公立校だけでなく私立校の教員も

2002年4月にも全国的に大規模な教員ストが起きたが、いまだに各地でデモが行われている。

中央ジャワのバニュマスで2002年6月26日、私立学校の教員200名が、バニュマスの行政に対して、低賃金を改善するように求めデモを行った。彼らは、公立校の教員は低賃金でも賃金とその他の手当てが支給されるが、私立校の場合は、諸手当などが支給されないため、約3500人の教員が生活難に陥っている、と訴えている。私立校の教員の平均的な給与は、幼稚園の教諭が月額2万5000ルピア(2.9米ドル)、高校の教諭は15万ルピアという著しく低い水準となっている。デモを行った教員は、「教育はすべてのインドネシア人が平等に受けることのできる基礎的な権利であり、政府は私立学校へも補助金を支給する義務がある」と主張している。 大都市などでは、公立校よりも私立校の教員給与のほうが高いことが多いが、地方では必ずしもそうとは限らない。

インドネシアの教育問題

インドネシアにとって教育問題は、財政面からみると優先的項目とはなりえなかったことが分かる。戦後の国家予算における教育費の割合は20%以上を超えたことはかつて一度もないからだ。近隣諸国、例えばシンガポールの場合、マレーシアからの独立後、教員の再教育に非常に力を入れ、東南アジアで最先端の技術を持つ豊かな国に成長した。マレーシア、タイなど経済成長の成功者といわれる国々でも、教育に力を入れてきたといわれている。

インドネシアの場合、2002年にようやく、20%の教育予算が割り当てられたが、教育という性質上、改善には時間を要すると考えられる。

2002年7月8日には、メガワティ大統領が2002年8月1日から公立教員の諸手当を50%引き上げることを発表した。当初の予定では、2002年の1月からの引き上げを予定していたが、財政難のため7カ月遅れた形となった。これにより、教員は毎月最低でも17万ルピアの手当てを受け取ることができ、低い基本給の補助となることが期待されている。また、国家教育省は2002年6月25日、2003年度において臨時採用の教員を36万人追加採用し、初等教育の慢性的な人材不足を解消することを明らかにしている。

インドネシアでは、2004年から教育カリキュラムが改正され、「能力ベース」のパイロットプロジェクトを導入することが決定している。具体的な教育方法やプロジェクトの内容はいまだ検討中とのことであるが、アブドラ・パダレ立法府議員は、教員の賃金制度がこのような状況であるために、この国の教育の質向上が望めないのであり、教員の労働条件が改善されない限り、教育カリキュラムの改訂や臨時教員の増員を行っても意味はないと主張している。

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