マレーシアの新入国管理法とインドネシア人出稼ぎ労働問題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

マレーシアは2002年8月1日から新しい入国管理法を施行した。これにより、マレーシアに不法に滞在しているとされるインドネシア人約167万人が強制帰国させられたとみられている。新入国法の背景には、2001年10月に起きたジョホール州でのインドネシア人労働者の暴動や、2002年1月にケダ州で起きた暴動事件(本誌2002年4月号参照)などがあり、マレーシア政府は外国人労働者、特にインドネシア人の取締りを強化している。

すでに4000万人ともいわれている大量の失業者・不完全就業者を抱えるインドネシアでは、100万人以上の出稼ぎ労働者の帰国が失業状況をさらに悪化させるという懸念と、労働者からの仕送りで支えられていた農村経済がその支えを失い、貧困問題を悪化させるのではないかとの声も出ている。

マレーシアの外国人労働者受け入れの現状

マレーシアでは現在約230万人のインドネシア人労働者が就労しており、そのうち約7割に相当する170万人が不法就労者と推測されている。主に彼らは建設・土木業や、プランテーション農場、木材製造業、メイドなどに多く従事している。マレーシアでは、インドネシア人のほかにも、フィリピン人やベトナム人などが雇用されているが、地理的な近さ、宗教的・文化的そして言語の類似性といった要因からインドネシア人への需要が最も高い。そして何よりも、インドネシア人の賃金の安さがその需要の高さの背景にある。インドネシア・ウォッチングによると、マレーシアでの建設労働者の場合、1カ月あたり500リンギット程度といわれており、この賃金ではフィリピンやベトナム人労働者は働かないという。一方インドネシア人であれば、この賃金であっても125万ルピア(1ルピア=円)に相当し、ジャカルタの月額最低賃金である約60万ルピア、地方の30~40万ルピアと比較しても好条件であることが分かる。

新入国管理法と施行後のインドネシアの様子

マレーシアで2002年の8月に新入国管理法が施行されるまでには、4カ月の不法就労者の帰国期間、いわゆる執行猶予期間があった。その間に推定50万人以上がインドネシアに帰国したとみられている。

新入国法では、不法就労者と不法就労者を渡航させた者は、6カ月の禁固刑と6回までの鞭打ち刑が処せられる。使用者は最大5年の禁固刑か1万リンギット(2632米ドル)の罰金が課せられる。

マレーシアから帰国した労働者が、インドネシア国内の労働市場にどのような影響を与えるかはまだ明らかではないが、マレーシアでの相対的に豊かな生活に慣れた労働者にとって、貧しく雇用のない農村には帰りたくないとの声や、今後の生活の目処がまったく立たない状況での強制帰国に強い不安を感じるとの声があった。

また、今まで海外出稼ぎ労働者の仕送りに依存してきた農村世帯などでは、支出の減少などに繋がるかもしれないとの見方が出ている。インドネシアの出稼ぎ労働者が郷里に送金していたとされる外貨は、年間5億米ドルに上るといわれ、インドネシア経済の一部を支えてきたといえる。

強制的に帰国させられた労働者のうち、多くは再びマレーシアに再入国を希望していることも明らかとなっている。  東カリマンタンに到着した出稼ぎ労働者は、マレーシアからの帰国船から降りると400gの米や1500ルピアの小遣いを政府から支給され、「難民」のような扱いであったと報じられている。

マレーシア国内の反応

マレーシア国内でも、外国人労働者の7割を占めるインドネシア人の強制帰国によって単純労働者の不足が懸念されている。特に建設業では、50万人の外国人労働力に依存しており、そのうち7割がインドネシア人といわれている。そのため、建設業経営者連盟のウォン氏は、加盟企業450社からマレーシア政府へインドネシア人の不法就労者を合法的な手続きによって再雇用できるようなシステムにしてほしいとの要請書を提出したという。

NGOの声

インドネシア出稼ぎ労働者援護会(Kopbumi)やインドネシア出稼ぎ労働者ネットワーク、女性のエンパワーメントに関するインドネシア法律扶助協会、インドネシア法律扶助財団などのNGO団体は、マレーシア政府に対して今回の措置が「厳しすぎる措置」として批判すると同時に、インドネシア政府が、海外出稼ぎ労働者の保護を怠ってきた点も問題であるとしている。

政府レベルでの会談

そのような中で、2002年8月8日、インドネシア・マレーシアの首脳会談がバリ島で開催され、不法就労者の扱いに関する事項が最大の関心を呼んだ。メガワティ大統領はマハティール首相に対して、マレーシアの移民政策の緩和を要請。具体的には不法就労者の強制帰国を1ヶ月の延期することなどを盛り込んだ覚書(Mou)が交わされるはずであったが、会談直前になって大半のインドネシア人不法就労者は帰国したとの理由で覚書の調印が中止になっている。しかし、マレーシアの譲歩という形で、今回強制帰国させられた不法就労者は、正規の入国手続きを行えば、通常の再入国指し止め期間である6カ月を経なくても再入国・再就労を認めるということが決まった。

しかし、この結果に不満を持ったヤコブ大臣は、ハッサン外務大臣と一連の外務省の対応を批判している。

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