労働者互助共済保険が普及し始める

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

中国総工会は、改革開放政策が進展する中で、労働者の生活の安定を目的に、下部組織に労働者互助共済保険制度指導してきた結果、漸く普及し始めている。

実施の背景

中国総工会は、当初この保険を、計画経済から市場経済に移行する中で、経営不振に陥った企業で働く労働者を救済するために考案した。

この背景には、労働社会保障部が推進する社会保障制度の政策内容は全国的に統一されているが、国土が広く、経済の発展状況に地域的な不均衡が生じているため、各地域により社会保障の水準に差が出ていたこと。発展途上国であり社会主義国の中国の社会保障制度が、広範囲で平等の原則を貫こうとすると、限られた財政では、保障水準が低下が生じることがある。

このような中で、労働者が、病気、失業、身体障害、自然災害による被害、火災等で貧困に陥った場合にどのように救済するかが急務となっていた。そこで、中国総工会は、労働者が貧困に陥るのを防ぐものとして本保険を考案した。この保険は、参加は自由で、財源は、掛け金が主だが、その他に、「単位」からの補助金がある場合が多い。保障内容は、労働者とその家族に対し、病気、失業、自然災害、出産、死亡などに、金銭や物質的援助が与えられる。

普及方法

各下部組織は、次ぎの手順でこの保険制度を広めた。

当初、本保険制度は、加入者の個人負担増加に対する抵抗、「単位」の援助の拒否、保険制度を管理する人材の不足など多くの問題を抱えた。このため、地方の工会は、国家の社会保障制度の現状、互助共済保険と商業保険の相違、本保険の利点を労働者に繰り返し説明した。また、地方工会の幹部が、先行してこの制度を試行している工会の担当者を伴って、本保険の未組織地域へ出向き、宣伝に努めた。加えて、各実施工会間で経験交流会を開催した。

多くの場合この本保険制度を実施している工会は、事務管理組織として労働者互助共済保険管理組合を設立している。工会幹部は、定期的に管理組合の事業報告を聞き、研究と指導を行っている。さらに、保険試行方法等を作成し、入会、保険項目の明細、給付基準、保険金支給の審査・決定手順などを決め、上級工会の保険管理委員会と工会経費審査部門の会計監査を受けることを規定している。労働者互助共済保険の管理方法・実施規則の改定は、労働組合幹部と入会者の選任した代表による審査を必要とし、事業報告を従業員代表大会時に行い、広範囲な労働者が、参加権、提案権、監督権を持つ、民主的な管理を基本としている。

成功例

この保険制度の中で、成功しているものの一つに全国鉄道労組互助共済保険がある。

全国鉄道工会は、1998年に、「中国鉄道労働者互助共済保険試行方法」を作成し、この保険制度を積極的に広めた。2000年には、この保険に対するセミナーと全国実施情況報告会を3回開催した。一方、使用者側の鉄道部も社会保障制度の不備を補うものとして積極的に後援した。この結果、全国の共済保険組織数は、1867に達し、312万人の労働者が参加している。資本金は、総額9.5億元に達し、最近10年間に、15.2万人に対し2億元の保険金が支払われた。

全国鉄道工会の調査によると、鉄道労働者が貧困に陥る原因の70%は、病気によるものである。このため、保険金は高額医療費に対する支払いを主とし、労働災害、自然災害、死亡についても補助的に支払われる。

全国鉄道工会は、最初、石家庄鉄道分局、南昌鉄道局、済南鉄道局でモデル事業が立ち上げたが、現在、各鉄道局によりその保障内容は、様々である。

石家庄鉄道分局工会の場合、病気の種類と医療費により2つの保険金を支給している。労働者は、初期申し込み料の30元と年間保険料の10元を毎年支払う。退職者は、20元を一回納入するだけで終身加入者とする。石家庄鉄道分局工会が、毎年30万元、石家庄鉄道分局が毎年50万元を補助する。医療費の個人負担金額が1000元以上になった時を保険の対象とし、病気の種類と医療費の額により段階的に保険金が支払われる。この方法だと、例えば、労働者の医療費が、年間4万元の場合、個人負担額は、約1700元になる。今日までに、組合員総数の92%、約8万人が加入し、8年間で、2294人に対し、522万元の保険金が支払われた。

南昌鉄道局工会の場合は、加入者は、毎年50元の保険料を納入し、保険金は、加入期間に比例して支払うことを原則としている。

中国総工会は、こうしたモデル事業の経験を基に全国各地に本共済保険制度を普及させたが、制度の内容は各地域が自主的に決定している。

武漢鉄道分局工会は、加入者が毎年12元、鉄道局側が、毎年100万元を支出する。医療費が、1万元以上になった時、その85%から90%を保険金として支払っている。鄭州の2005年までに鉄道局一人当りの平均保険料額(個人の保険料と鉄道局の補助額の合計)を800元に引き上げ、保険金の積立額を2億元にし、保険項目を増設し、養老援助、出産・育児援助も実施する。

各労働者互助共済保険は、基本的には資金の適正規模を維持するために、年度内の収入と支出を均衡させ、若干の剰余金を生み出すよう計画している。

今後の見通し

労働社会保障部が推進している、医療保険制度や年金制度が、大都市や経済的に発達している地域では、急速に普及しているが、経済発展が遅れている地域では、未整備である。工会が、独自に共済保険制度を組織することは、こうした地域で働く労働者を病気に起因する貧困から救うものとして、今後も普及しつづけると予想されている。

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