労働力人口増加、失業率6.0%に上昇

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

2002年5月3日に労働省が発表した雇用統計によると、2002年4月の失業率が5.7%から6.0%に上昇した。約8年ぶりに高い値である。最近では2000年10月に3.9%という低い値になって以来、失業率は2.1ポイント増、失業者は310万人増加した。27週以上失業している失業者は、4月に16万1000人増加し149万4000人になり、1年半前に増加傾向を示して以来、2倍以上になっている。

4月の非農業部門の雇用者数(季節調整済み)は9カ月ぶりに増加に転じ、4万3000人増となった。2002年2月~4月にかけ3カ月連続でほぼ横這いで、2001年3月から2002年1月まで平均で月14万4000人の雇用減があったことと対照的である。但し、労働力人口は56万5000人増加し、1億4260万人になった。現在の労働力人口の増加は、景気回復期にしばしばみられるように、多くの人々が将来の経済の先行きに自信を深め、一部企業の求人を人から聞いて職探しを開始したことによると考えられる。

雇用が増加した非農業部門の雇用の内訳から労働市場改善の兆しを見出すことができる。製造業部門では1万9000人の雇用減をみたものの、ここ一年間で最も小幅の減少となっている。サービス部門では雇用者数が13万4000人増加した。中でも運輸業、飲食産業での雇用が伸びている。サービス部門のうち、人材派遣会社による雇用は6万6000人増加した。企業が、正社員の雇用に踏み切れないまでも、人材派遣サービスへの需要を増していることを窺わせる。

その反面、民間非農業部門の生産労働者および非管理部門労働者の週当り労働時間は、4月に0.1時間短縮され34.1時間になった。これは、財・サービス需要の増加が予想よりも小幅にとどまったことを示唆している。民間非農業部門の生産労働者および非管理部門労働者の平均時間当り報酬は、4月に2セントだけ増加し14.69ドルに増加(約0.1%増)した。過去一年の同報酬3.4%増加と比較すると賃金上昇が抑制されていることがわかる。

近い将来の景気について、労働者が楽観的であるのに対し、使用者は依然、慎重である。いくつかの職業紹介所では、求人がまだ少ないにもかかわらず、ここ2か月ほどで求職者の職業紹介サービス登録者数が急増している。テキサス州オースティンでは、コンピュータ・プログラマーなどの求人が始まったものの、各社の求人数は一人か二人で競争率が高い。労使の景気に対する見解の相違が失業率上昇の一因になっている。

企業が雇用増に踏み切れない理由はいくつかある。労働省によると、1997年から2002年3月までの期間、米国企業の労働コストは、高い労働需要と医療費の高騰により13%上昇したが、この間、企業は製品価格を6%しか上げることができなかったため、利益幅は史上でも稀なほど低い水準にとどまっている。また、2002年第1四半期にGDPが大きく伸びたが、そのうちの半分以上は、2001年の生産調整による急激な在庫の減少から、適正な在庫水準に回復するための生産を行ったことが寄与している。在庫の積み増しが増加した後も成長を続けるためには、消費や設備投資が伸びる必要がある。この他、第1四半期には、政府が防衛費を7.9%増やすといった特殊要因がいくつかあった。中東情勢の悪化により石油価格が高騰する恐れも将来収益予想を困難にし、設備投資意欲は弱いままになっている。

ニューヨーク市チャイナタウンで深刻な雇用減

2001年9月11日の同時多発テロ以来3カ月間で4人に1人の労働者が失業したニューヨーク市チャイナタウンでは、多くの労働者の教育水準と英語会話能力が低いこともあり、雇用対策の効果が上がっていない。非営利コミュニティ・サービス団体であるニューヨーク・アジア系アメリカン人財団は、2002年4月4日に公表した調査の中で、同時多発テロ後も雇用され続けているチャイナタウンの衣服労働者の平均給与が、9月11日以前の週207ドルから112ドルへと急落したことを明らかにした。同地域の労働者数、計3万3658人のうちの約4割が衣服産業で働いており、地域の産業、家計への影響は大きい。同様に、レストランで働く労働者の平均給与は週320ドルから124ドルに低下、宝石店従業員の給与は週356ドルから72ドルに低下している。

援助の手も十分に差し伸べられていない。9月11日以来、ロウアー・マンハッタンと一部地域が市当局によって閉鎖されたため、この閉鎖の影響を直接受けた地域については赤十字、サルベーション・アーミーなどの慈善事業による援助を受けることができる。しかし、閉鎖の影響を直接受けていないチャイナタウンの50%、チャイナタウンの衣服工場の8割は、援助を受けることができない。援助対象外となった衣服工場ズーム・ズームは、閉鎖の影響を間接的に受けてトラックによる配送ができなくなり、10月に60人の従業員の半数を解雇している。

2002年1月以来、州がチャイナタウンの同時多発テロ被害者対象にコンピュータ、英語、在宅医療プログラムを実施しており、350人の解雇された労働者が参加した。しかし、必要書類の不備などでこれまで約300人の労働者の受講を断らなければならなかった。このプログラムの予算は限られており、2002年9月までしか継続できない見込みである。また、英語会話能力が短期間に向上しないため、在宅医療講座を受けた多くのチャイナタウンの労働者は、職が見つかっていない。

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