多くのキャッシュ・バランス・プランのポータビリティに不備

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

労働省監査官が行った監査結果によると、キャッシュ・バランス・プランを導入した5社に1社が、転職した労働者の年金資産を規定よりも減額していた。労働者によっては、減額された金額は生涯所得で10万ドルにも達する。大部分の場合、減額は、他社へ転職しようとする労働者がそれまで蓄積した年金資産を算定する際の、使用者の計算間違いによって生じている。労働省は、この監査結果を既に2月に内国歳入庁(IRS)に送っており、IRSで違反事実が確認されれば、違反者に対して適切な措置をとるとしている。

キャッシュ・バランス・プランは伝統的な確定給付型年金と401Kプランを始めとする確定拠出型年金両者の性質を併せ持つ折衷型企業年金で1980年代半ばに考案され、1990年代半ばに本格的な普及をみた。キャッシュ・バランス・プランでは確定給付型年金のように企業が運用に責任を持つ(利率を一定に保証)が、各従業員に対し仮想口座が設けられ確定拠出型年金のように積み立てた年金資産を他社に持ち運ぶことが可能となっている。

同プランは、年金受給権が比較的早く蓄積されるため、若年あるいは比較的勤続の短い労働者に有利な年金である。そのため、転職者の多い労働市場で有能な人材を集めやすくなるという利点が強調される。しかし、確定給付型年金からキャッシュ・バランス・プランへの転換で年輩労働者への給付を減らし、企業年金債務を減らすことができることも、同プランの急速な普及の背景にある。このため、IBMなど、いくつかの企業で、長期勤続者がキャッシュ・バランス・プラン導入による年金資産減額に抵抗してきた。

今回の監査結果は、同プランの恩恵を受けると考えられていた転職者の年金ポータビリティ(蓄積した年金資産を他社に持ち運ぶことができること)も、不完全であったことを示している。監査結果によると、企業年金をキャッシュ・バランス・プランに転換した企業数について正確な数字はないが、企業年金のうち約300~700プランで同プランを採用していると推定される。監査では、そのうち60プランを調査した。

従来型企業年金からキャッシュ・バランス・プランに転換する際、それまでに蓄積されていた年金資産は一般に良く保護されているものの、60プランのうちの13プラン(22%)で、通常の退職年齢よりも前に退職した労働者が法的に権利のある年金資産全額を受け取っていなかった。これは、統計サンプルのサンプリング方法がどのようなものであっても無視できないほど、心配な事実であると監査報告書は結んでいる。推定では、年金資産の減額総額は年1700万ドルで、60プランの統計サンプルから得られたこの数字をもとに推定すると、国内の約300~700プラン全体では年8500万ドルから1億9900万ドルに達する。

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