エンロン社経営破綻
―401kで資産を失った従業員窮地に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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世界最大の総合エネルギー会社エンロンは2001年12月2日、連邦破産法11章の適用を申請し、本社4000人を含む約25%の従業員削減を発表した。グループの債務残高は160億ドルで過去最大規模の会社倒産。まだ明らかになっていない簿外取引により債務残高はさらに膨らむ見込みである。

エネルギー卸売・小売事業、天候デリバティブ、金融、エネルギー取引などで急成長を遂げてきた同社は、日本の電力自由化にも大きな役割を果たすと予想されていた。エンロン社が投資対象にしていた通信産業不振による損失、10月に表面化した簿外金融取引による債務膨張などを嫌い、11月28日にエネルギー大手のダイナジー社が、エンロン社買収合意を撤回、株価が急落していた。証券取引委員会(SEC)は、97年から2000年までの財務諸表を11月に訂正したエンロン社、そして同社の会計監査を行っていたアーサー・アンダーセン社についても、監査や投資家への情報開示が適切に行われていたか調査を開始した。しかし、エンロン社が関与していた金融取引は複雑で、債権者の数も多いため、長い時間がかかるものと思われる。

従業員が集団で提訴

労働省によると、多くの従業員の退職後の生活資金が7割から9割減少した。従業員は、401kプラン管理者が代わるという理由で(通常この場合、約数週間、プランの資産内容を変えることができなくなる)、401kプランに組み込まれているエンロン株や他の株の売却を30日間禁止されており、その間に過去の財務諸表訂正を発表したエンロン社の株は急落した。ヒューストン連邦裁判所では、401kプラン加入者に対し同社が誤解を招く投資情報を与え、株価急落が十分予想できてからも同社株売却を妨げたとして、11月13日以来、複数の集団代表訴訟が起きている。また、従業員には自社株購入を勧める一方で、株価急落を予知した同社取締役が自社株を大量に売却し利益を得ていたことも批判されている。

労働省は、エンロン社従業員が加入していた401kプランに問題がなかったか、他の関係機関と協力して調査を開始、さらに同社離職者には、失業手当受給や無料職業訓練に関する情報提供を行っている。

連邦法は、年金や退職金プランに自社株を提供し、従業員に自社株保有を強制することを認めている。エンロン社は、従業員による401kプランへの拠出1ドルごとに、賃金の6%を上限として50セントのエンロン株を同プランに拠出していた。50歳以下の従業員は、このように会社が拠出した401kプラン中のエンロン株売却を許可されていなかった。しかし年金受託者には、購入者の利益を尊重し慎重な投資先を選ぶ義務がある。この義務が果たされていなかったと裁判で立証することは難しく、これまでも401kに組み込まれた自社株による損失を争った裁判は、会計上の恣意的な操作などの批判があがった後に起こされることが多かった。

401kプラン運営について規制強化の動きも

使用者は、現在の法律が労働者を十分に保護していると主張している。しかしIKONオフィス・ソルーション社、マッケソン・グループの従業員による現在係争中の案件に引き続き、2001年にはルーセント社、ライト・エイド社が従業員に提訴された。これらの裁判では、エンロン社の場合同様、年金受託者が、経営上の問題により株価が下がることを知っていながら、使用者の株を401kプランに提供していたことの是非が争われている。5年前には、カラータイル社破産の折に従業員の401kプランへの資産がほとんど無価値になってしまった。97年に、退職後の所得保障プランにおける使用者の株の比率を10%以下とする法案が提案されたが、使用者側がこれを骨抜きにすることに成功し、実質上、使用者株比率に上限は設定されていない。

この問題が繰り返されないように、2001年12月中旬、下院のピーター・ドイチ、ジーン・グリーン両民主党議員が、401kプランへの従業員拠出分のうち使用者株が占める比率を10%以下とする法案を提出した。12月下旬には、上院のバーバラ・ボクサー、ジョン・コージン両民主党議員が、退職後の所得保障プランにおける自社株比率を20%以下とする法案を提出している。使用者団体は、こうした動きを批判し、自社株比率に上限を設けることは従業員を保護することにならず、従業員の権利を奪うだけであると反対している。非営利団体の401k評議会によると、企業の401k加入者のプランに占める自社株比率は2000年末に39.2%であった。特に、エンロン社の場合には、従業員が、自社株のリスクを知らないまま、本人拠出分でも多くの自社株投資をしたため、被害が大きい。一般に使用者は経営上の理由からも自社株への投資を悪い投資と考えることが少なく、従業員も確かな根拠なしに自社株への投資を好む傾向があるため、401kプラン運営への規制強化を求める声が高まっている。

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