使用者連盟会長、政府に失業対策の改善要求

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年7月

景気と労働市場の回復基調が続いてきたとは言え、 350万人を超す失業者数の存在は来年連邦議会選挙(総選挙)を控えるシュレーダー政権にとって大きな問題で、 なかんずく長期失業者が失業扶助(Arbeitslosenhilfe)や社会扶助(Sozialhilfe)(注1)に甘んじて労働市場に編入されない傾向については、これを市場に編入する施策がこれまでも論じられてきた。

このような中で2001年4月初めにシュレーダー首相が、 怠けることに対する権利はないと強い調子で労働意欲のないものに対して制裁措置を講ずべきことを主張したが、これに対してリースター労相も、 失業手当(Arbeitslosengeld)の給付期間を短期化する等の改善策を、 夏季休暇前までに立法措置として講ずるとの意向を示している。

リースター案では、 職業安定所は、 若年失業者に対しては失業6カ月後、 成人失業者に対しては失業1年後に、 求職のための訓練、 適切な資格付与措置、 雇用仲介等の労働市場への編入計画を個々に提案し、 失業者がこれを拒否した場合には、 失業手当支給停止を言い渡さなければならないとしている。 現行規定でも、 失業者が受け入れ要求の可能な職種を拒み、 自らの行動によって雇用関係の成立を失効させ、 適切な理由なしに助成措置を拒むか若しくは中止させた場合は、 最高12週間失業手当支給停止を課されるが、 リースター案はこの現行規定の制裁をさらに強化する趣旨である。

このような政府の動きに対して、 フント使用者連盟(BDA)会長は4月末に至り、 リースター労相をはじめとする政府の基本方針を一応評価しながら、 まだ内容が不十分だとして具体的な改善案を提言し、 政府に失業対策の抜本的な改善を要求した。

フント会長は、 第1に、 失業手当支給期間を現行の最長32カ月から12カ月まで制限すべきだとした。 第2に、 職業安定所が雇用仲介を行う限度を制限し、 受け入れ要求の可能な職種を失業者が拒否した場合を限度とすべきで、 これによって非熟練・低賃金の職種に対しても失業者が雇用を受け入れるようにすべきだとした。 さらに第3に、 低賃金の職種と社会扶助の間に政府の補助金支給によって格差を設け、 低賃金職種と補助金を結び付けていわゆるコンビローンの構想を復活させるべきで、 これによって長期失業者を労働市場に編入すべきだとした。 最後の点は、 1998年秋の総選挙で政権が交替する前に、 前保守・中道連立政権が実施を構想し、 選挙で敗北したために実現されなかったものである(本誌1998年10月号、 11月号参照)。

低賃金職種について、 労働問題専門家は、 現行制度では月収630マルクから約2300マルクの職種では、 社会給付の計算との関係で労働者の手元に残る手取賃金額が割に合わなくなっているとしているが、 フント会長も、 低賃金職種では名目賃金に対して失業扶助と社会扶助を計算に入れると、 手取りが僅かしか残らず、 これが失業者が低賃金職種につく意欲を妨げ、 長期失業を生む主な原因になっているとしている。 それゆえ同会長は、 幅広い職種でコンビローンを導入して長期失業者の就労意欲を高め、 労働市場への編入を図るべきだとしている。 また、 これを通して、 経営側が従来から主張している失業扶助と社会扶助の統合も図るべきだとしている。

使用者側の主張に対して、 シュルテ労働総同盟(DGB)会長はじめ労働側は、 失業対策としてはむしろ企業が雇用を増やす努力をすべきで、 雇用の拡大を怠るか雇用を削減した企業には課税の強化を図るべきだとしており、 また、 政府案における失業者に対する制裁措置の強化にも反対している。

しかし、 フント会長の政府に対する要求、 なかんずくコンビローン導入の要求は、 前保守・中道連立政権で実現の可能性が大きかった案の復活であり、 現実中道路線を着実に進めているシュレーダー政権の失業対策の趣旨にも沿うものなので、 今後の展開が注目される。

関連情報