(香港特別行政区)中国本土の専門技術者導入問題、論議が活発化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

ドナルド・ツァン財務長官は2001年3月7日、政務官就任前の財務長官としての最後の予算案を発表し、この中で香港経済の将来のために積極的に中国本土から専門技術者を導入する必要性を強調した。そしてこれが契機となって、地元の専門技術者養成の問題とも絡んで様々な意見が唱えられ、この問題についての従来からの議論が一気に活発化した。ツァン長官が予算案で提言したのは「中国本土からの専門技術者導入計画」で、中国本土のIT分野と金融分野の学位取得者について、何人導入するかの数字的枠を設けずに、香港経済の発展のために積極的に導入するというものである。さらに、香港の大学で学ぶ中国本土からのこの分野の学生についても、従来は卒業後香港に留まることは認められなかったが、学位取得後に香港で就職する機会を与えることを積極的に検討するとされた。

このような提言の背景には、これらの分野の専門技術者の不足に対する認識があり、政府の予測によると、IT部門では2005年までに1万5000人の専門技術者が不足し、2010年までには5万人の不足が生ずるとされている。また金融部門では、1999年に存在した17万6500人の労働力に対して、2005年までに労働力需要は21万9300人に達すると予測されている。また、導入枠を設けなかったことについては、政府は1994年に実施された同様の計画が失敗に終わったことの反省に基づくとしている。1994年の計画では、中国本土の大学をトップ36大学に限定し、手続的にも厳しくしたために、1997年に計画が終了した時には、与えられた1000人の人数枠の中で602人の本土学生しか残らなかった。

このような計画発表にたいして、地元の学生が就職の機会が奪われることを理由に一斉に反対の声を上げたことは当然だが、各界からも様々な意見が出され、賛否両論に別れて活発な議論が展開された。その中で、主に経済界と学界は政府の提言を支持し、労働側と財界の利益を代表しない立法会議員は、政府案を制限すべきだとして反対しており、これに対して、地元のIT分野の技術者たちは当面の賛否の意見は留保して、将来的には地元の専門技術者を養成すべきだとしているようである。

労働側は、政府の計画は規制が緩すぎ、特に香港でハイテクの陰で多くの失業者が出ていることを考慮すべきで、計画実施によってさらに地元の失業者が出ると批判している。また、導入に数字的枠を設けないことについて、政府見解は人数は市場原理で調整されるとしているが、労働側は、市場の要請では歯止めがかからないので、人数枠を設けるべきだと批判している。また政党では、香港の人権問題の擁護者を自認するリベラル派の民主党も、この問題については地元香港の大卒や若年層の就職の機会が奪われることを理由に、政府案に反対している。その他、中国本土の専門技術者の導入で、香港のこれらの分野の賃金が低下することになると、政府案に反対する意見もある。

これに対して、財界の利益を代表する自由党等は、海外の投資家が他の地域に拠点を移さないためにも人材を確保すべきで、そのためにも人数枠は不要だとして政府案を積極的に支持している。また、特に上海や深土川でこれらの分野が発展しているので、この計画を実施しなければ香港が後れを取ることになることも強調している。さらに学界からは、中国本土に対する保護主義的な発想を捨てるべきだとの意見も出ている。

このように様々な意見が出る中で、ツァン長官は3月27日に政府計画を重ねて擁護し、香港は本土の専門技術者を排斥しては自由な国際都市としての評価を維持できず、外国企業も専門技術者を確保できなければ拠点を移してしまい、さらに、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を間近に控えて香港の競争力を高めるためにも、政府計画の実施は是非とも必要だと述べている。

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