「下崗」(一時帰休)から失業保険制度へのシフトが加速

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年6月

1998年から国有企業は3年間の大規模なリストラ計画を開始した。急増するリストラ労働者の受け皿として、地域や企業内で再就職サービスセンターが設立され、リストラされた労働者は、センターで3年間生活保障を受けながら教育訓練を受け、就職活動を行う。再就職サービスセンターは社会保険に関わる納付も肩代わりしてくれる。再就職サービスセンターに籍を置くリストラ労働者は、「下崗」労働者と呼ばれ、これまでは失業者とは別個に扱われている。

こうした効果もあり、大手国有企業の多くは人員や組織の再編を経て、好転の兆しを見せ始めた。しかし、再就職サービスセンター設立当初から在籍しているリストラ労働者の多くは、これから2、3年の間に在籍期限切れを迎えることとなる。期限満了前後に再就職を果たせなかった労働者は、今後は失業者と変わり、失業保険の給付を受けることとなる。

再就職サービスセンターや下崗労働者の基本生活保障制度は、当初から過渡期の暫定的なものとして設けられ、最終的には失業保険制度に統一するとされている。労働保障部は、下崗労働者の失業者へのシフトに3つのステップを想定していた。最初は、失業と下崗が並存するが、3年間が過ぎた時点で新たなリストラ労働者は再就職センターを経ずに、そのまま失業者となる。さらに2、3年を経て、センター在籍の労働者もすべて期限満了を迎え、再就職センターも下崗労働者も姿を消し、失業保険制度が本格的に確立する。2000年10月に中国共産党第十五回中央委員会第5回全体会議が開催され、失業保険制度の整備に従い、今後、下崗労働者を次第に失業保険給付対象者に統合する方針が打ち出され、現在は、すでに第1のステップが完了しつつあり、第2のステップに移行し始めている。これを受けて北京市は2001年1月1日から、労働者がリストラされた場合、再就職サービスセンターへ転入せずに、そのまま失業者になると発表したほか、上海市は2001年に下崗を廃止し、失業制度に統一すると発表した。また、湖北省と江蘇省などの地域も下崗廃止のスケジュールを公表した。

下崗廃止の成否は、最終的に失業保険などセイフティーネットの整備にかかっている。1999年1月、国務院は『失業保険条例』を公布し、失業保険の範囲を都市部のすべての事業所まで拡大した。徴収比率も引き上げられ、さらにこれまで事業主のみが従業員賃金総額の1%に比例して失業保険負担分として納めたが、新条例ではこれが2%に引き上げられたほか、これまで納付が義務付けられなかった労働者個人についても、賃金の1%を納付するように変更した。2000年末の統計では、保険加入者数は1998年より2400万人増加し、保険金の徴収総額も2倍以上に跳ね上がった。失業保険基金の積み立てはすでに一定の規模に達し、失業保険制度の最終確立に必要な資金面の後ろ盾ができつつある。同統計によれば、失業保険の加入者数はすでに1億346人を超えており、全労働者の7割以上をカバーしたことになる。上海市の場合、失業保険はすでに全労働者をカバーするようになった。労働保障部は、失業保険の加入者が1億1000万人に、失業保険基金の収入が160億元にそれぞれ到達することを、2001年の目標として掲げている。

下崗労働者と失業者の比率を見ると、沿海地域では次第に失業者数が増加しつつあるのに対して、内陸部では、下崗労働者がまだ圧倒的に多い。

浙江省は失業保険制度の整備がもっとも進んだ地域であり、2000年11月時点では、失業保険の給付対象である失業者と基本生活保障金の給付対象である下崗労働者の比例は441:100となっている。両者の数がほぼ等しいのは北京市、福建省、広東省および江蘇省である。上海市、山東省、天津市では、失業給付を受ける失業者と基本生活保障金を受ける下崗労働者の比率は60:100となっている。

それに対して、湖南省、甘粛省、陜西省、貴州省、青海自治区、山西省および江西省などの地域では、失業者と下崗労働者の比率は5:100となっており、これらの地域における失業保険制度の立ち遅れを物語っている。

2000年11月の時点では、全国で失業保険給付を受ける失業者は167万人だが、1998年の再就職サービスセンター設立から3年を過ぎる2001年には、300万人がセンターから籍を移すことになると見込まれている。また今後2、3年間に下崗から失業へのシフトの加速に従い、失業保険給付の対象となる労働者の大幅増が見込まれ、失業保険制度は厳しい状況に直面している。

政府側は、リストラ労働者の再就職や自主起業を促すため、資金の貸し付けや税金面などの優遇策を打ち出しながら、特に、リストラ労働者の基本生活保障金と定年退職者の養老金支給の確保に力を入れている。失業保険給付を受ける労働者の増加に備えて、労働保障部は、失業保険の管理とサービスの改善を図り、2000年10月には『失業保険金の申請と支給の規則』を公布し、保険金申請の手続き、保険金給付の期限、給付基準などを明確化した。

2001年6月 中国の記事一覧

関連情報