時間給労働の急増に法・制度の整備追いつかず

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

1990年代後半から、沿海部大都市の経済成長に伴い、高所得者夫婦や独身者のニーズに応えて、時間給で働く家事サービスの労働者が現れた。その後、スーパー、ファーストフードやホテルなどの業界では、季節労働者や時間給労働者(注1)の需要が急激に伸びてきた。

中国では夫婦の共働きが一般的で、若年層や高収入の家庭においては、家事手伝いの短時間労働の需要が大きい。  天津市では、2001年の旧正月前後、どの家庭でも家事労働が急増するのを見て、町内会に相当する各町の居民委員会は、自発的に家事手伝いの派遣業を組織し、正月の料理や家事の経験豊富な熟年女性を派遣し、大変好評であった。2000年夏の上海市は猛暑に見舞われ、家事手伝いの需要も高騰した。共働きの夫婦にしてみれば、暑い中で、退社後にまた厨房に立つことはとても耐えがたい。家事手伝いの時間給労働者に来てもらえば、退社後に家事に煩わされず、美味しい食事まで用意してくれる。上海では家事手伝いの相場は時間あたり約5元(1元=14.56)であり、多くの家庭にとって負担できる範囲内にあるので、時間給家事手伝いの労働市場は近年、急速に伸びている。

時間給労働は決してブルーカラーに限るものではない。経済発展が進んでいる都市部では、ホワイトカラーの時間給労働も増えている。深土川市では、専任の会計士の給料がかなり高く、中小企業にとって専任会計士を雇うことは大きなコストとなる。市場に敏感な企業家は会計サービスのベンチャー企業を起し、中小企業を対象に時給制会計専門家の派遣業を展開し急成長した。深土川市でもう一つ急成長している時間給労働は秘書である。深土川市には、一年中、商談や視察のために国内外から多くのビジネスマンが訪れている。また、市内にオフィスを構える一部の 中小企業にしても、能力や学歴の高い常勤秘書を雇うのはコストが高い。このようなニーズに応えて、時給制秘書は今では花形職業となっている。

上海市の浦東地域は、1990年代後半から、深土川市の代わりに改革開放の拠点となっており、現在ではハイテクやベンチャー企業が相次いで設立されているが、こうした新興企業は人事労務の経験が浅く、人材集めにかなり苦労している。他方、市政府などの役所は人事管理に詳しい人材を多く抱えていながら、行政改革が進む中では、仕事もポストも減る一方である。こうした人材を週に数時間、人事のエキスパートとして迎えるベンチャー企業は今や数百社を数えている。人事のエキスパートたちは、役所での経験を生かして、新興企業のために、適材適所の人材を物色し、雇用され た後の戸籍や人事ファイルの移管、労働契約から政府所定のあらゆる雇用手続きをすべて遂行してくれる。こうした人事専門家の助けを得て、企業家たちは技術開発やマーケティングに専念でき、企業の発展に寄与している。深土川市などでは、事務労働をパートタイマーに委託する外資系企業も少なくない。

時間給労働が急増する一方、こうした労働形態に対する法・制度の立ち遅れが目立ってきている。一部の雇い主は時間給労働者に過度の労働をさせ、時間給労働者の権利保護が問われている。また時間給労働は知人の紹介や口約束などで成立するケースが多く、給料の設定も任意のところが少なくなく差が激しい。こうした問題を解決するために、上海市では、2001年から時間給労働の法・制度面の整備に動き出した。まず、時間給労働の最低賃金を4元と定め、また時間給労働者の社会保険費用の納付については、所属する職場をもたないということから、すべて個人単位で納付すると定め、一時間2元を最低基準とした。

時間給労働は、失業者の解消につながる新しい就労形態として、都市部では今後さらに増えると予測されている。

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