(香港特別行政区)新政務官、新財政長官が決定

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年5月

香港公務員のトップ人事として、香港基本法に規定する北京の中央政府の承認を経て、新政務官にドナルド・ツァン財務長官が、新財務長官に民間から金融界出身のアントニー・ルン氏が決定し、2001年2月15日に童建華特別行政区政府長官によって発表された。気功集団「法輪功」の取締と関連して「一国二制度」の在り方が問われる中、同年1月のアンソン・チャン政務官の突然の退陣表明(本誌2001年4月号参照)を受けるものだけに、各方面で注目されており、また、香港の懸案である公務員制度改革、金融・財政を含む経済政策や雇用対策等、香港政治の中心課題を担う重要ポストの変更だけに、来年の長官選出を控え、今後何年にもわたる香港社会の動向を見て行くうえで極めて重要な人事である。政府ナンバー2である政務官に新たに決まったツァン氏(56歳)は、労働階級の出身で、学歴重視の香港社会で単科カレッジ卒業後、薬局勤務等を経て、1967年に幹部候補職員として公務員生活に入り、71年に香港公務員のエリート・コースである行政官コースに昇進し、これを転機として、無類の仕事熱心により順調に公務員の出世階段を今日まで着実に上り詰めてきた。この間、アジア開発銀行に出向、ハーバード大学で行政修士号取得等の経歴を経て、1990年代は主として通商畑で活躍し、数多くの交渉で香港通商の舵取役を担った。その後、香港出身者として初めて財務長官に抜擢されたが、ツアン氏の財政政策の基本は、1970年代に財務長官だったかつての上司フィリップ・ハドン・ケーヴ卿の市場への積極的不介入の考えに強い影響を受けていると言われる。このような英国統治下の上司の影響について、北京の中央政府の覚えの悪さを取り沙汰する向きもあったが、1998年の金融危機に際してツァン氏が1000億ドルを投入して株式市場に介入した決断は、中央政府、なかんずく朱鎔基首相の高い評価を受け、また、チャン現政務官に比べると董長官とも良好な関係を保っており、同長官もツァン氏を北京政府に対して政務官職に強く推したと言われている。

一方、政府ナンバー3である財務長官に決まったルン氏(49歳)は、やはり貧困家庭から金融界のエリートにのし上がった立志伝の人で、苦学に香港大学で経済学を修め、卒業後1973年にシティバンクに入社して、金融界に身を投じた。その後、ハーバード大学のビジネス・スクールでも学び、商業金融、投資等様々な銀行業務で頭角をあらわし、ニューヨークやアジア各地の重要ポストを歴任し、1995年にはシンガポールに本拠をおく同銀行のアジア・太平洋地域を統括する支部長に昇進し、1996年にはライバルのチェース・マンハッタン銀行のアジア・太平洋地域支部長に転じて、今日に至っている。この間、ルン氏は1987年以来香港の教育分野でも幾つかの役職について業績を残し、98年には香港教育委員会委員長に就任し、初等・中等教育改革の大胆なて提言で、そのリーダーシップを高く評価されている。また政府の諸種の諮問機関にも名を連ね、1997年以来政府行政会議のメンバーでもある。民間からの財務長官の登用は、1980年代のジョン・ブレムリッジ卿以来2人目である。

この新たな公務員のトップ人事に対する各界の反応は様々であるが、全体的な評価としては、董建華長官の指導基盤が強化されて、北京の中央政府の意にも沿う人事となったとされているようである。以下、各界の意見を紹介する。

立法会議員は、一般にツァン長官の政務官就任を歓迎しているが、民間の銀行家から財務長官に抜擢されたルン氏に対しては、公務と民間の利害の衝突を懸念して、賛否の態度を留保する意見が多い。マルティン・リー民主党党首は、公務員としての経験からも、チャン女史の後継者としてツァン氏ほどの適任者はいないとしており、同氏が香港の法の支配と人権尊重を擁護していくことに期待を表明しているが、ルン氏に対しては、時間をおいて同氏の今後の業績を見て評価を行うべきだとしている。またイプ・クォク・ヒム民建連(DAB)副党首は、ルン氏のビジネス界との良好な関係を認めながら、財務長官の職務をこなすには公務員の支持が不可欠であることを強調している。

これに対して、北京政府に近い経済界の代表は、ルン氏の財務長官任命を歓迎している。自民党のジェームズ・ティエン党首は、ルン氏が民間企業の利益を公務に優先させることはあり得ないとして、公務と民の利害の衝突を懸念する意見に反駁している。また、香港の最大財閥長江財閥の総師李嘉誠氏は、ルン氏が金融界で長年の経験をもち、金融のグローバル化に精通していることを高く評価して、理に適った人選だとしている。また香港の親北京政府筋の中には、ルン氏が年収1500万ドルの民間の銀行家の仕事から、年収245万ドルの公務員職に転じた決意を高く評価するものもある。

これに対して、公務員関係労組はルン氏が民間から登用されたことに失望を表明している。パン・タト・チョイ先任非移入者公務員連盟委員長は、民間から登用されたルン氏が、公務員諸部局の民営化の方向で改革を進める可能性について懸念を表明し、またセシリア・チョウ中華公務員連盟(組合員10万人)会長は、今後公務員の生え抜きが昇進の機会を狭められる可能性があると、同様に懸念を表明している。

このように各界から様々な意見が表明される中で、コラムニストのクリス・ユン氏は、ツァン氏とルン氏が香港公務員の2つの最高ポストへ登用されたことは、アンソン・チャン政務官の突然の退陣表明の衝撃を受けた後の香港で、董長官のなし得た最善の人選だったとしている。ユン氏は、ツァン氏が法の支配等の香港の伝統や価値をチャン女史ほど協力に擁護し得るかという懸念や、ルン氏がビジネスにおける経歴・スタイルと公務員としての関係をうまく調和しうるかという懸念が、一部に存在することに理解を示しながら、 この人選によって、董長官は、香港公務員制度にとって重要な継続性と信頼確保の要請と、新鮮な刺激と外部からの新しい考え方の導入の必要性という2つの要素を、巧みに調和することができたとしている。

ちなみにルン氏は2月16日、新財務長官としての抱負を語り、香港の成功は知識主導型の産業を維持・発展させることにかかっており、そのために有能な人材を海外から獲得せねばならず、また香港の教育改革も急務であるとし、その上で今後香港が世界中から投資家と熟練労働者を吸収し、資本と人材の拠点になることは十分可能で、そのために最善の努力をsすると語っている。

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