製造業、ハイテク産業で業績下方修正、雇用調整進む

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年5月

労働省が2001年3月9日に発表した2月の雇用統計では、失業率は1月と同じ4.2%であった。非農業部門の雇用者数は1月に比べ13万5000人増加した。その中で、製造業の雇用者数は、1月(9万6000人減)とほぼ同様、9万4000人減少した(7カ月連続で減少)。1月に工場操業停止を行った自動車産業(1月には3万8000人雇用減)で一時解雇されていた労働者が再雇用されたものの、繊維などの他の多くの製造業では人員削減が行われた。他方、非製造業では、予想以上の雇用増があり、サービス(9万5000人増)、小売(3万7000人増)、政府部門(3万7000人増、うち地方政府で2万6000人増)、建設(1万6000人増)で雇用者が増加した。民間非農業部門の生産労働者および非管理職の労働者の時間当たり平均賃金は14ドル10セントで前月比0.5%上昇した。

商務省が2001年2月28日に発表した、2000年第4四半期のGDP(実質国内総生産)成長率の改定値は1.1%で、前月発表の速報値から0.3ポイント下方修正された。1999年第4四半期より、四半期ごとのGDP成長率は、8.3%、4.8%(2000年第1四半期)、5.6%、2.2%、1.1%と、2000年後半に景気が失速している。消費と設備投資が減少しており、消費財産業、素材産業の業績が落ち込んでいるほか、非製造業の卸売、小売、運送業などでも減速が目立つようになった。したがって、今後、製造業における人員削減が一服する可能性があるものの、非製造業における雇用状況が厳しくなるものと考えられる。

好景気の牽引役だったハイテク企業の不振が、年初以来目立つ。2001年3月上旬、最大で8000人(正社員3000~5000人、パートおよび契約社員2500~3000人)に及ぶ今会計年度の人員削減を発表したシスコシステムズ社(ネットワーク機器)をはじめ、ルーセント・テクノロジーズ社(通信機器、1万6000人削減)、モトローラ社(半導体・通信機器、3月13日に7000人の追加削減)、インテル社(半導体、自然減などで5000人削減)、ノーテル社(光通信システム、1万人削減)、デル社(コンピュータ製造、1700人削減)などの主要ハイテク企業は、2001年2月から3月にかけて、次々と業績下方修正を行い、大量レイオフ(一時解雇)の発表も相次いだ。消費者の情報関連機器・サービスの買い控えだけでなく、法人の情報技術への投資意欲が弱くなっていることが背景にある。

労働者の転職機会は、少なくなりつつある。ボストン市の再就職斡旋会社ドレーク・ビーム・モリン社のトム・シルベリ社長は、2000年には、一時解雇されたホワイトカラーは、再就職まで平均して3.3カ月ほどかかっていたが、2001年には、具体的な数字はないものの、より長い期間が必要になっていると語る。法人顧客向けドット・コム企業から解雇された労働者の経験では、各社は、米経済の先行きが不透明であることや、今後、有能な求職者が労働市場に現れることを考えて、採用を手控えている。高度な技術、金融などのサービス業での経験、仕事上の知己を多く持つ専門職労働者の転職は、比較的容易だが、製造業のブルーカラー労働者の転職は困難である。例えば、鉛管設備製造のアメリカン・スタンダード社のオハイオ州ティフィン工場の従業員約600人のうち80人が2000年9月に一時解雇されたが、時給9.5ドルから19.5ドルを得ていた労働組合員は、最低賃金に近い賃金で働かざるを得なかったり、あるいは同社から呼び戻されるのを待って2月初めまで失業を続けている。

1月に1万人の一時解雇を発表したルーセント社社員の再就職先を紹介したニュージャージー州のコンサルタント会社、リー・ヘクト・ハリソン社のゴーマン最高経営執行者によると、2月中旬の時点では、非常に有能なソフトウエアおよびエンジニアリングの専門家を例外として、労働者が、2、3社からの内定を確保してから転職できる時期は終わりつつある。また、使用者が、応募者と面接してから採用を決めるまでの時間も長くなる傾向がある。

ただし、失業率の急上昇は避けられるのではないかという見方もある。1990年代には、70年代のように生産年齢人口が毎年平均2.2%増加しておらず、同1%の伸びにとどまった。したがって、現在、失業率の上昇を回避するために必要な雇用創出は、毎月約10万職という低い水準(現在の実績とほぼ同じ水準)で足りることになる。労働統計局のフィル・ローンズ理事補佐(assistant commissioner)は、「現在、十分な雇用創出があるので、経済が縮小しない限り、理論上、失業率の大きな上昇が起こり得ないだろう」と語っている。

電力危機の影響が懸念されているカリフォルニア州では、失業率の上昇が1月までに起きていない。2000年12月、2001年1月の同州の失業率は、それぞれ4.7%、4.5%で、1999年12月の5.2%に比べ低い水準にある。シリコン・バレーでは、1月の失業率が1.3%で、ドット・コム企業の従業員が、従来型の産業等に再雇用されていることをうかがわせる。アトランタ市で、起業後間もないハイテク企業に管理職を紹介する、イートン・テクノロジー・パートナーズLLC社を経営するエドワード・バーチフィールド・ジュニア氏によると、技術担当の上級管理職が再就職するために必要な日数は、ボストン(30日)などの産業集積が進んでいる地域で短く、集積がやや劣る地域(アトランタで60日から90日)では長くなる傾向がある。

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