UAW、自動車大手3社と労働協約合意

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

全米自動車労組(UAW)はダイムラークライスラーと1999年9月16日、ゼネラルモーターズと9月26日、フォードモーターと10月9日、労働協約に暫定合意、前2社ではUAW一般組合員が労働協約を既に批准、フォードでは批准投票が10月24日までに終了する見込みである。

自動車業界の好業績と、UAW組合員の約半分が向こう5年で全ての年金給付を得て引退できるという年齢構成とを反映し、労働者に有利な内容を向こう4年間にわたって維持した内容になった。使用者にとっても、ストを回避し、事業分離(スピンオフ)による労使衝突を避ける方法が見出された今回の合意は決して悪いものではない。3社は効率性向上のために従業員の配置転換を現在よりも広範に行うことをUAWに認めさせたが、これは他の2社に比べ業績が劣るGMにとって特に重要である。

待遇面での合意は3社に共通点が多く、その主要内容は、(1)労働協約期間は現行の3年ではなく4年間、(2)物価調整手当を除き、4年間毎年3%の賃上げ、(3)1350ドル(1ドル=103.5円)の一括(注・全組合員同一額)の協約署名時のボーナス、(4)年金額の増額(GMでは4年間で18%増など)。

後退した団結権要求

UAWはダイムラークライスラーのアラバマ州ヴァンス工場での組織化に対する同社の抵抗に反発し、1999年7月にはストも辞さないとしていたが、ヨーキチUAW会長は後にこれを撤回した。さらに同工場で50%以上の従業員が組合設立を要望する援権カードに署名した段階で従業員の投票を経ずに同工場が組合設立を認めるべきであるというUAWの主要な要求も実現しなかった。UAWがダイムラークライスラーから得た譲歩は、労働時間外に工場内で従業員に会い、組合に勧誘する権利である。団結権については、大手3社がUAWの組織化活動に対し中立を保つこと、そして組織化活動を行っている下請け工場から仕事を取り上げないことを約束するといった弱い表現を協約に盛るにとどまった。UAWの長期的な勢力拡大に関わる団結権要求に代わって、協約交渉は組合員の経済的要求、雇用保障、そして事業分離への対応を軸に展開していった。

事業分離容認と雇用保障

団結権要求が退潮していく一方で、将来フォードから事業分離されると見られる部品部門ビステオン・オートモーティブ・システムズ(UAW組合員2万3500人)の分離にUAWが抵抗していたため、フォードでの交渉が比較的困難なものになると予想された。そこでUAWは全国労働協約期限切れ前日の1999年9月13日にダイムラークライスラーを1999年交渉のターゲットに選択、事業分離が直接問題になっていないダイムラークライスラーで事業部門の分離を認めない条項を協約に含め、これをフォードとの協約での出発点に位置づけた。

GMでは1999年5月にGMから分離したデルファイ・オートモーティブ・システムズ(以下デルファイ社)の事業分離を巡り過去数年間諸工場でストが起き、同社は何十億ドルもの販売機会を失っている。GMとの協約の適用対象はGMで働く約14万人の時間給労働者であるが、デルファイ社の組合員4万8000人を対象とした別個の協約もGMの協約と基本的に同内容である。ただしデルファイ社の従業員については、協約期間中にGMの工場内で空きポストが生まれた場合に復職できる条項や、2000年1月1日までにデルファイ社の従業員が引退した場合にGMの企業年金と健康保険給付を受給できるという条項がある。

ダイムラークライスラーの協約に盛り込まれた、雇用者数が各社(GMとデルファイ社は区別される)の各交渉単位ごとに定められた最低基準(注・漸次低下し契約期間中に5%減少)の100%から90%の水準では、(再雇用を待つ一時解雇者プールからの採用が尽くされた後)退職者3人に対し1人、80%の水準に低下するまでは退職者2人に対し1人、そして80%以下では退職者1人に対し1人の採用・配置を行うという採用ルールはGM、デルファイ社、フォードにも適用された。GMを始め、各社でベビーブーマーの大量退職が見込まれるため、新規採用者数を退職者数に条件付けることは、勤続を続ける労働者に対する実質的な雇用保障を意味する。

これまでは協約期間中のアウトソーシングによる人員削減だけに適用される採用ルールがあったが、新協約は「如何なる理由」であれ雇用数減少があれば上記採用ルールが適用されるとし、採用ルールが強化されている。ただし「如何なる理由」には各社が制御可能でない、自動車の売上減少は含まれておらず、次第に市場シェアを失っているGMにとって重要な抜け道になる可能性がある。また1996年のGMの協約にも類似の採用ルールがあったが、各地方労組指導者は自分の工場に新投資を呼びこもうとして採用ルールの履行を要求しなかった。従ってこの採用ルールの意義は未知数である。証券市場関係者は、採用ルールの曖昧さを利用してGMが自然減で組合員を20%削減できると評価している。なお交渉途中でGMがLifetime employment(退職時までの雇用保障;一部日刊紙報道で終身雇用と訳されたものだが実質的内容は不明)をUAWに提示したと伝えられていたが、GMにおけるUAWのレジー・マギー交渉代表によればUAW交渉当事者はその内容を検討した結果、交渉に応じず他の選択肢について交渉を進めていった。

最後まで残されたフォードとの交渉はUAWがストを通告していた交渉期限を越えても続けられた。短時間の山猫ストが4カ所の工場で起きたがUAWは組合員にストを命じず、全てのフォード工場は通常の操業を行った。その背景には、組合員の間に好業績下の利益分配制度による収入をストによって放棄したくないという気持ちがあり、UAW指導部も組合員がストを支持するかわからないという事情があった。その翌日の10月9日に合意に達したフォードとの暫定協約の中で、UAWは懸案の部品部門ビステオン・オートモーティブ・システムズの将来の分離を容認したが、分離された場合にも同部門の労働者が退職時までフォードの手厚い賃金と年金を得ることができ、ポストが空いた場合にフォードとビステオンとの間での人事異動で仕事を確保することも可能になった。さらにビステオン部門の新規採用者にもフォードとの協約が適用され、この適用は今回の協約が期限切れになった後も2回の協約期間(それぞれ3~4年と予想される)中、有効である。ビステオン部門従業員の間にも、将来の同部門分離は不可避であるという見方があり、分離された場合の労働条件についてUAWがフォードからどこまで譲歩を引き出すことができるか注目していた。交渉中にフォードを批判していたUAWのヨーキチ会長も、フォード経営陣が協約の中でビステオン部門に示した配慮を讃えている。

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