(香港特別行政区)キャセイ航空、パイロットと経営側の賃金紛争深刻化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年8月

キャセイ航空の労使紛争の発端は3月中旬にさかのぼる。パイロットの賃金をキャセイ航空の株式買取権と引き換えに最高27%まで大幅にカットするとの経営側の決定がきっかけとなったが、これに徹底して反対するパイロット組合との間で深刻な紛争に発展したものである。

経営側は、同航空は昨年35年ぶりに5億4200万ドルの損失を計上したが、機長クラスのパイロットの賃金が他の航空会社のパイロットの賃金に比べて格段に高く、そのため賃金カットによる経費の節減が必要であるとして、3月16日に4月9日を期限として最後通告を発した。これに対して約1300人のパイロットの一部は経営側の決定を受け入れたが、パイロット組合が中心となって徹底して反対し、その後、最後通告期限が2度延長された。

しかし、経営側は5月25日に至り、約半数の反対派パイロットに、(1)株式買取権と引き換えに最高22%までの賃金カット、(2)早期自主退職、(3)解雇、の3つの条件のいずれかを受け入れるように申し入れ、6月11日を最終的期限とする最後通告を出した。経営側は、この最終案で同航空は向こう10年間に15億ドルの経費を節減でき、しかもパイロットの賃金は他の航空会社と比べて遜色のないものだとし、これがなし得るぎりぎりの譲歩であると表明した。

これに対してパイロット組合は、董建華長官に紛争の仲介を求める書簡を送り、同航空株主に事態の進展による会社への打撃を訴え、また徹底抗戦として争議行為に訴える構えも見せたが、5月28日に電話で病気欠勤を届けるという戦術に出た。1995年の民間航空局航空条例は、パイロットは肉体的もしくは精神的条件が航空業務に適しないと自ら懸念するときは任務を遂行すべきでない旨規定しているが、パイロット組合はこの条例に依拠して、パイロットは賃金紛争による将来の不安から心理的ストレスにより任務を遂行する状態にないとして、医者の診断書を用意した病気欠勤戦術に出た。

この結果5月28日、キャセイ航空は航空券の予約受付を中止し、3便が欠航したが、さらに29日から31日にかけて欠航が相次いで合計94便に達し、5000人を大きく超える旅客が影響を受けた。同航空は臨時便を就航させる等の処置で旅客に対する影響を最小限度に止めるように対処しているが、6月11日の最後通告期限以後のフライトスケジュールがどうなるか確約できないとしている。

ちなみに、パイロット組合によると約150人のパイロットが電話で病気欠勤を届け出たとされ、経営側は、過去にこのような事態は存在しなかったが、パイロットの病気欠勤が医学的な診断によるならば懲戒処分はとらないとしている。しかし、香港の代表的企業であるキャセイ航空の今回の賃金紛争がどのような決着を見るか、今後の動きが注目される。

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