銀行再編で大量解雇、退職金額が争点に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

政府は3月13日、地元資本の民間銀行128行のうち38行を同日閉鎖、7行を国有化、9行を公的資金投入によって再建すると公表した。政府は、少なくとも300兆ルピアの公的資金を用いて9行の再建にあたる。この額は再建に必要な資金の80%にあたり、再建される9行は、自身で残りの20%の資金を4月21日までに準備できなければ閉鎖されることになっている。公的資金300兆円は、国債発行で資金調達される。今回閉鎖された38行は全て中小銀行で、自己資本比率がB分類(4%未満、マイナス25%以上)21行とC分類(マイナス25%以下)の17行である。これらの銀行は再建不可能とみなされ、約1万7000人の従業員は全員解雇された。閉鎖銀行の口座は16日から大手5行に移され、預金は全額保護される。

バンバン蔵相によると、B分類の7行は支店や口座数が多く、閉鎖すると影響が大きいという理由で銀行再建庁(IBRA)が経営権を握る。また、A分類(自己資本比率4%以上)の73民間銀行は公的資金の投入が不必要と判断され、今後も政府が存続するための基準を満たしているかどうか半年ごとに調査をする。

この大量解雇を目前にした3月4日、国営社会保障会社Jamsostekが、民間および国営銀行から一時解雇された何万人もの労働者に対し、少なくとも総額2000億ルピアを高齢者給付として支払うと公表した。現在、6人以上の従業員を雇用している会社は、労働者の基本給の5.7%(労働者2%、雇用者3.7%を負担)を高齢者貯蓄として拠出しなければならない。この基金は労働者が55歳に達するか、死亡するか、あるいは一時解雇された時の支払いに用いられる。

閉鎖されることになった38民間銀行の大部分では、行員が業務を怠り、閉鎖行から預金を引き出そうとする顧客をいらいらさせた。例えば、Papan Sejahtera銀行の従業員はコンピュータ回線を閉鎖し、IBRAが銀行のデータを得られないようにした。また、Intan 銀行の一部行員は、預金引き出しに応じようとしなかった。この種のストには国内の支店の銀行員が参加し、「退職金額をめぐる要求が満たされるまでストを続ける」という行員も多い。3月16日には14閉鎖行からの約50人の銀行員がジャカルタ法律扶助協会を訪れ、1996年労働力省令第3号の3倍から5倍の退職金支払いを要求した。そして、彼らにIBRAが提示した退職金を「金額が少なすぎる」として拒否した。他方、ストライキをしている銀行員に連帯を呼びかけている銀行・金融業労働組合は、政府に労働力省規則の再検討を要求し、銀行員の退職金を少なくとも従業員給与の10倍にまで増額するよう求めた。

38閉鎖銀行の元銀行員の退職金増額要求は時とともに強まり、3月20日に推計2万5000人の銀行からの解雇者を擁護している「民主主義のための専門家協会(Professional Society for Democracy)」のBimo Nugroho委員長は「もしもIBRAとの話合いが平行線をたどるなら、路上で抗議行動をする」と語った。そして同委員長は、もし政府規則の10倍にも達する退職金要求にIBRAが応じなければ、失業した銀行員が口座振り替えを妨害することもある、と述べた。

1996年労働力省令第3号によると、勤続1年未満の労働者は1カ月分の給料を退職金として受け取り、勤続4年以上の労働者は5カ月分の給料を退職金として受け取る。IBRAが銀行員の退職金として提示しているのは、この金額の倍で、勤続1年未満の労働者に2カ月分、勤続4年以上の労働者に10カ月分の給料である。これに加え、特に5年以上勤続した労働者は功労手当を受けることができる。3月23日、IBRAのEko S. Budianto副委員長は、閉鎖された元銀行員に労働力省規則の倍の退職金を支払うという政府決定が最終決定であると語った。銀行員は、IBRAが銀行社主に圧力を加え、IBRAが提示した金額と銀行員の要求額との差額を銀行社主に負担させるよう要求したが、IBRAに拒否された。同日、閉鎖した10銀行の約700人の従業員はIBRA事務所からインドネシア銀行までデモ行進し、ポスターや横断幕を掲げ、労働力省規則の6倍から10倍の退職金支払いを要求した。従業員のスポークスマンDeni Danuri氏によると、従業員は、閉鎖した銀行の社主が中央銀行の流動性資金を不法に流用したかどうか、政府が捜査するよう求めた。

IBRAのEko S. Budianto副委員長によると、3月23日時点で銀行員が口座証明を拒否しているのは6行に過ぎず、銀行におけるストは沈静化している。同副委員長は、一時解雇された労働者の約70%をIBRAが半年契約で再雇用し、閉鎖銀行の資産の把握にあたらせるとし、労働者の約20%がIBRAで常勤の仕事を得る可能性があると述べた。また、他の健全な銀行が、閉鎖されたいくつかの銀行とその支店および従業員の受け皿になることが期待されている。

解説・銀行員による、政府規則の10倍にも達する退職金要求には奇異な印象を免れない。この背景として、銀行員の目からみると銀行破綻が不可避ではなかったことがあげられる。国際的な監査によって破綻の原因が明らかになってきている。例えば、多くの民間銀行では腐敗した経営陣と貪欲な株主が結託して法定貸し出し限度額を超えた貸し出しをしていたこと、他方、国営銀行では適切な債権評価をせずに政府にコネのある実業家に多額の貸付がされていたことが明らかになった。焦げ付いた貸付額は全銀行貸付の50%以上に上り、預金者や債権者を保護するために多額の税金が使われる。それにも関わらず、銀行経営者で裁判にかけられた者はほとんどない。

解雇された銀行員の多くは大卒なので、1998年銀行法令(Banking Act)に基づき悪質銀行経営者を訴えるために十分すぎるほどの証拠を持っていることに気がついている。しかし、政府はこの銀行法令をほとんど適用せず、政府に批判的な実業家に対して明らかに差別的な適用をしている。

1997年末には経営難の16民間銀行が清算され、約8000人の労働者が職を失った。1998年には政府が10民間銀行を閉鎖、4民間銀行を国有化していた。しかし、インドネシア金融部門労働組合(IFSU)のEstian Adrianto副委員長によると、過去の銀行再編ではいずれの場合も銀行員に十分な補償がなされなかった。今回の銀行再編も、銀行員の厚生を十分に考慮しないまま進められてきた。大金を着服した者が処罰されないのに、銀行員が解雇されることに対する怒りが多額の退職金要求にこめられている。そのため、悪質な銀行経営者を処罰すれば銀行員の要求も軟化し、調停への糸口となりうるとジャカルタ・ポスト紙社説は論じている。

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