基礎情報:アメリカ(2004年)
3. 労使関係
- 3-1. 労働者の権利
- 3-2. 労働組合の組織化
- 3-3. 労働組合
- 3-4. 2004年の組合活動
合衆国連邦法である全国労使関係法(National Labor Relations Act:NLRA)は労使関係法の基幹をなし、労働組合の結成、団体交渉などについて規定している。
3-1 労働者の権利
NLRA第7条により、労働者の「団結する権利、労働団体を結成・加入・支援する権利、自ら選んだ代表者を通じて団体交渉を行う権利、および団体交渉またはその他の相互扶助ないし相互保護のために、その他の団体行動を行う権利」を認めている。この労働者の権利に対する雇用主の侵害行為は、「不当労働行為」として禁止されている。
3-2 労働組合の組織化
全国労働関係法は労働組合を組織する場合は、交渉団体組織の労働者の30%以上の賛成署名を集めるとともに、選挙において労働組合は過半数の支持を得なければならない。交渉代表に選出された多数組合は、その組合を支持しない労働者も含めて、当該組織内の全雇用主のために団体交渉を行う権限を有する。組合と雇用主間で締結された労働協約は、当該組織内の全労働者に適用される。なお、雇用主がこの労働組合からの交渉要求を拒否することは、「不当労働行為」と判断される。しかし、このような労働組合がない場合は、雇用主は団体交渉義務を負わない。
3-3 労働組合
1. 労働組合の形態
合衆国の労働組合は、産業、職種ごとに組織されている。このような組合は本部を持ち、幾つかの州を管轄下に置く地方本部、各地方支部(ローカル)から形成されている。組合員は地方支部に所属する形となる。
2. ナショナルセンター
米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)が、合衆国労働組合の唯一のナショナルセンターである。AFL-CIOは1955年に職業別組織であったAFLと、産業別組織であったCIOが合併して作られた。そのため、ほとんどの産業・職業別組合がAFL-CIOに参加し、2004年3月の時点では、64組織、および国際組織が加盟し、組合員総数は約1300万人である。現在のAFL-CIOの会長はジョン・J・スウィーニー氏である。
主要組合の組合員数の変化は以下のとおりである。
主要組合 | 2002年 | 2003年 | 2004年 |
---|---|---|---|
チームスター(Teamstars) | 140万人 | 140万人 | 140万人 |
全米州都市労組(AFSCME) | 130万人 | 140万人 | 140万人 |
国際サービス労組(SEIU) | 150万人 | 160万人 | 170万人 |
国際食品・商業労組(UFCW) | 140万人 | 140万人 | 140万人 |
全米自動車労組(UAW) | ※71万人 | ※71万人 | ※71万人 |
国際電気工友愛労組(IBEW) | 78万人 | 78万人 | 75万人 |
全米教員連盟(AFT) | 100万人 | 120万人 | 130万人 |
全米通信労組(CWA) | 70万人 | 70万人 | 70万人 |
国際機械工労組(IAM) | 73万人 | 73万人 | 73万人 |
国際建設労組(LIUNA) | 80万人 | 80万人 | 80万人 |
※ 合衆国、カナダ、プエルトリコの活動中(アクティブ)のメンバーのみ。
資料出所:日本労働研究気候海外労働時報、NO.322、p.162、2002年12月、2004年2月、2005年3月の各労組HP
3. 組織率
合衆国の労働組合組織率は、長期にわたり低落傾向にある。はじめて比較可能データ収集を行った1983年の20.1%が最高率の記録になり、2000年には13.5%まで低下し、2001年は同率、2003年は12.9%であり、2004年では12.5%であった。2004年の特徴は、公務員の組織率が36%となり、私企業の労働者組織率の8%を大きく上回った。また、教育、研修、図書館関係の職と、消防士や警官職の組織率に顕著な増加がみられた。男女別では、男性の方が女性よりも組織に加入する率が比較的高く見られた。人種別では黒人が、白人、アジア人、ヒスパニックおよびラティーノと比べて、最も組織率が高い。
産業別に見ると、公共部門の36.4%に対し、民間部門はわずか7.9%に過ぎない。公共部門の内訳を見ると、地方自治体41.3%がもっとも高く、教師、警官、消防士が含まれる。民間部門では、輸送・公益事業(電気、ガス、水道など)が24.9%と最も高く、続いて、建設業14.7%、情報産業14.2%、製造業12.9%となっている。情報産業の中ではテレコミュニケーション職の組織率が22.4%であった。低い産業は金融・保険・不動産業で2.0%であった。
組合の組織率が上がらないのは、ブッシュ政権の組合政策によるところも大きいが、企業が組合の組織化を阻止していることも挙げられる。ほとんどの企業が組織化阻止のため、合法的ではあるが、ミーティングで組合の暴力的シーンをビデオで見せたり、組合に反対するビラや手紙などを労働者の家に送りつける。しかし中には非合法の企業側の行為で、組合を支持する労働者の解雇が全ての組織化選挙の25%で見られる。(下表参照)研究者の指摘によると、この数は1960年代と比較すると3倍に増えた。これに対し企業は異論を唱えている。組合の組織化が進まないのは、組合にハイテクの設備が少なく、知識社会に適さないからだと言う。確かに、組合が賃金やベネフィットを守ることは難しくなり、鉄鋼やエアラインでは労働者は多くの年金を失っているが、問題は組合と一般労働者との関連性が薄れてきたからであるとある専門家は指摘している。
1964-69年 | 8% |
---|---|
1980-84年 | 20% |
1988-99年 | 25% |
出典:Robert J Lalonde & Bernard D. Meltzer, Kate Bronfenbrenner, Cornell university
方策 | 企業の割合 |
---|---|
組合反対の強制的ミーティング | 92% |
スーパーバイザーが労働者と1:1で会い組合批判を行う | 78% |
組合阻止のためコンサルタントを雇う | 75% |
組合反対のビラを労働者に配る | 70% |
組合反対の手紙を労働者宅に郵送する | 70% |
組合反対のビデオを労働者に見せる | 55% |
出典:Kate Bronfenbrenner, Cornell University
3-4 2004年の組合活動
ストライキ:
南カリフォルニア州に位置するスーパーマーケットの従業員のストライキが5カ月ぶりに終了した。2003年10月11日に始まり、今までで最も長期にわたるものであったが、組合員の86%が新しい協約(3年間)に合意し、7万人の従業員は職場に戻った。この国際食品・商業労働組合(UFCW)とスーパーマーケットの親会社であるアルバートソン・クローガー社(ラルフの親会社)、セーフウェイ(ボンズとパビリオンズの親会社)との争議の焦点は保健医療問題で、健康保険補助の範囲と賃金の二重構造の提案により交渉は行き詰っていた。
新協約はUFCWと、これから交渉される他のスーパーマーケットとの協約のモデルになるとして注視されている。新協約では、今後採用される従業員は、現在の従業員より低い賃金で少ないベネフィットを受け取ることなどが定められた。会社側は、ウォルマートなどと競争するには必要な措置だと述べるが、結局これらのスーパーマーケットもウォルマートの賃金やベネフィットと同等となるであろう。
このストライキによりスーパーマーケットチェーンは15億から25億ドルの収入を失った。またストライキにより他のスーパーに移ってしまった顧客を呼び戻さなければならない。
合併:
米国の主要な衣服製造従事者の組合とホテル・レストラン従業員の組合が合併することになった。これは、移民労働者を積極的に組織している全米縫製・繊維労働組合(UNITE:組合員18万人)と国際ホテル・レストラン労働組合(HERE:組合員25万人)の合併である。この合併により出来上がる組織名はUnite HEREとなり、本部はマンハッタンに置かれる。
UNITEは1995年に全米婦人服労働組合と合同衣服繊維労働組合が合併して組織されたもので、全米婦人服労働組合が組織されたのは1990年で組合員は一番多い時期には45万7,000人いた。合同衣服繊維労働組合が組織されたのは1914年で、組合員は一番多い時期には56万9,000人いた。HEREが組織されたのは1891年でピーク時には40万人の組合員がいた。UNITEは、以前は産業労働者の組合員が圧倒的に多かったが、米国の衣料産業が海外移転したことにより最近は流通センターや洗濯業に従事する労働者を組織することに焦点が移っている。
組織改革の動き:
アンドリューL. スターン氏(国際サービス労働組合会長)など新しい組合のリーダーはAFL-CIOの根本的改革を訴え、「新しい団結にむけての連帯」(NUP)を2003年に組織した。これにかかわったのは大工労働組合(カーペンターズ)、縫製業労働組合、ホテル労働者組合などのリーダーたちで、NUPはこれらの組合を統合したものである(ビジネスウィーク誌)。現在はスターン氏がNUPをリードし、全米1,600万人の組合員全体の改革を目指している。目的は、13%に低下している組織率を引き上げることで、来年6月のAFL-CIOの総会ではAFL-CIOの60の組合を15から20の強力な組合に作り変えるなどの、組織改革を目指している。
また、スターン氏は国際サービス労組(SEIU)の組織拡大に成功した。SEIUは組織員の数をスウィーニー氏のSEIUの会長時代の2倍の110万に増やし、組織化のための資金も5,000万ドルを用意している。多くの組合で組合員が減少する中、SEIUの組合員は今年度末には180万人に増えることが予想されている。スターン氏は、今まで組織化されていなかった清掃員や病院の補助員など低所得の少数民族や移民労働者の組織化にも成功した。このことにより、歴史的に白人男性が占めていた組合構成員の急激な変化も見られる。
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