基礎情報:アメリカ(2004年)
2. 労働行政、法律

2-1 労働行政

主な雇用対策―職業紹介制度(公共紹介、民営紹介)

ブッシュ合衆国大統領は2001年6月20日の「21世紀労働力サミット」において、「21世紀労働力オフィス」を開設し、「21世紀労働力会議」を開始することの大統領令を発令した。その目的は合衆国の労働者がダイナミックなグローバル経済でどのような職種を選ぶかに関わらずキャリア成功を遂げることができるための必要なツールを身につけさせることであると考えられた。これは、21世紀経済に適応すべく、産業の基本的改革がなされ、高度な複合技術と高等教育が必要であると考えられたことによる。エレイン・チャオ労働省長官は数々のプロジェクトや会議を以って大統領発令の実現を試みている。2003年度の労働省の雇用と研修管理部門が掲げる予算の大項目は次の通りである。

Training and Employment Services (TES)

分散化学校教育、技術修得や関連した研修等を実施し、研修プログラム修了者の雇用や収入を増やすことを目的とする。現在と未来の労働者、特に低所得者、失職・離職者、無職・無就職者、そして就職を望む雇用待機者を対象としている。

Community Service Employment for Older Americans

このファンドは高齢者コミュニティ・サービス雇用プログラム(SCSEP)の運用に充てられる。(Title V of the Older Americans Act Amendments of 2000法令による承認がある。)これは55歳以上の低所得者を対象にしたパートタイムの雇用プログラムである。

State Unemployment Insurance and Employment Service Operations

このファンドは、新たな就職を探すまでの失職者・無職者、もしくは元の職場に戻る待機者に対する一時的な収入の援助である。雇用者と雇用希望者の要望をマッチさせるための援助も行い、雇用関連の連邦政府活動やFederal State Unemployment Insurance Program や、州政府運用のState One-Stop-Career Center の連携ネットワークに充てられる。

Federal Unemployment Benefits and Allowances(FUBA)

このファンドは、貿易調整援助に充てられ、増大する輸入に逆影響を被った就労者に対し、保険給付金、研修、求職活動、または転居手当て等を支払うものである。北アメリカ大陸自由貿易条約(NAFTA)による諸国との貿易に影響を受けた労働者に対しても同上の給付金等を支払う。

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2-2 労働関連の法律

合衆国労働省が制定し、執行する連邦法は180以上に上る。これらは行政義務のものであり、1,000万の雇用者、1億2,500万の労働者の労働状況を規制するものである。主に参考に利用される法として以下のものがある。

(1) 公正労働基準法 –Fair Labor Standard Act (FLSA):

FLSAは1938年に制定され、最低賃金や労働条件(最低賃金、時間外労働手当て、年少者の労働など)を規定する。この法律はブルーカラー職に適用され、管理職(週155ドル以上の給料で管理が主な仕事)、専門職(週170ドル以上の給料で、仕事に教育機関などが証明する専門知識が必要)などのホワイトカラー、または外部セールス員などの職に就く者にはこの法律は適用されない。救済方法は、未払い給料の支払い、損害賠償、弁護費用、裁判費用、1万ドルの罰金、そして禁固刑もある。2003年3月労働省はFLSAのホワイトカラーエグゼンプト(免除)規定項目の見直しを発表した。この見直しには、ホワイトカラーと規定する条件の一つである週給の引き上げ(週給を425ドルに引き上げる)や職務規定の変更などが含まれる。職務規定は管理職や専門職などの分類をし、最低賃金や時間外労働手当が免除されているかどうかを決定するもので、この見直しによりホワイトカラー免除規定である「仕事の20%以下がノン・エグゼンプト・ワーク(非免除の仕事)」という表現が削除されることになるが、議会で否決され、見直しの実施には至っていない。

(2) 職業安全衛生法 –Occupational Safety and Health Act (OSHA):

この法律は1970年に制定され、安全で衛生的な職場環境を提供し、ケガや健康を害するような危険な仕事状況、仕事方法、材料・原料、物質などからの保護を目的とする。企業はOSHA基準の理解を求められ、社員に対しOSHA基準に関する情報の提供や通知の義務があり、職場の安全や衛生基準を満たしているかを点検し、危険物の撤去や保護、そして職業上のケガや病気を記録し報告する義務を負う。公企業や社員が10人またはそれ以下の企業または標準産業分類の分類に属する企業(SIC: 55-67. 72-73, 78, 81-84、86, 88-89など)はOSHAの義務から免除されるが、OSHA連邦法で免除されても州法が適用される可能性は十分ある。

アメリカでも家庭内暴力が問題となり、最近企業は家庭内暴力を防止・予防に関するポリシーやプログラムの作成を促進しており、多くの企業で少なくとも現在ある職場内暴力防止・予防プログラムに家庭内暴力を組み入れている。企業が採用している家庭内暴力予防・防止プログラムには1)家庭内暴力に関しての社員教育、2)職場の安全策の具体化や社員安全プログラムの作成援助、3)避難所や相談所の紹介、4)管理職や警備員の教育、5)活動制限や保護請求を得るための援助、などがある。

(3) 家族・医療休暇法 –Family and Medical Leave Act:

1993年制定の家族および医療休業法で企業は資格のある社員に対し、12カ月間に12週間までの家族および医療上の理由による無給の休暇を与えなければならない(福利厚生の項参照)。

(4) 1964年公民権法第7編 –Title VII of the Civil Rights Act of 1964:

1964年の公民権法第7編で、個人の人種、膚の色、宗教、性別、または出身国などの理由による、採用、解雇、昇進、報酬、教育、任務(仕事の割り当て)、仕事上の取り扱い、または他の雇用条件や状態などにおける差別を禁止する。その後、1972年に雇用平等委員会(EEOC)の権限強化を中心とした改正が行われた。雇用差別の告発調査および違法行為に対する告訴はEEOCが行い、出身国に関しての差別、宗教に関しての差別、性別に関する差別、雇用者選択手続き統一ガイドライン、職場での性的嫌がらせ、雇用差別と出産・妊娠に影響をおよぼす危険などの法律解釈に関するガイドラインもEEOCから発行されている。救済方法としては、その雇用差別はなかったものと仮定した、復職、未払い給料の支払い、および先任権の提供などによる"修復"(元の状態の補償)が含まれる。また、1991年制定の公民権法では、意図的な性的および宗教に基づく差別(および心身障害者保護法)による被害者は、保障的損害賠償と懲罰的損害賠償を請求できる。請求額の上限は社員が100人以下の企業に対しては5万ドル、社員が101人から200人の企業に対しては10万ドル、社員が201人から500人までの企業に対しては20万ドル、社員が500人以上の企業に対しては30万ドルである。

また、労働省から独立の代表的組織には以下のものがある。

  • 雇用機会均等委員会 (Equal Employment Opportunity Commission:EEOC)
  • 公民権法第7編にかかわる雇用差別および雇用平等促進に携わる委員会
  • 全国労働関係局 (National Labor Relations Board:NLRB)
  • タフト・ハートレー法などの労使関係を扱う委員会
  • 全国調停委員会 (National Mediation Board:NMB)
  • 鉄道・航空会社に適用される鉄道労働法の下で代表選挙や争議調停を行う委員会

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