基礎情報:アメリカ(2004年)
1. 概況

1-1 基礎データ

国名:
アメリカ合衆国(United States of America)
人口:
2億9,629万人(2005年6月)
実質GDP成長率:
3.5%(2005年第1四半期、季節調整済)
GDP:
11兆7,350億ドル(2004年、季節調整済)
一人あたりGDP:
4万650ドル(2004年第4四半期、季節調整済)
労働力人口:
1億4,147万人(2005年5月)(注1)
就業者数:
1億3,024万人(2004年9月、概算)
失業率:
5.1%(2005年5月、季節調整済)(注2)

注:

  1. 労働力人口は、16歳以上を指す。
  2. 失業者の定義調査週において仕事がなく、調査週を含む過去4週間以内に求職活動を行い、かつ就業可能(一時的な病気の場合は除いて)であった16歳以上の者。レイオフされた労働者で前職に復帰するために待機中の者を含む。

資料出所:

アメリカ統計局新しいウィンドウアメリカ商務省経済分析局新しいウィンドウアメリカ労働省労働統計局新しいウィンドウ, 厚生労働省「海外情勢報告2003~2004」

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1-2 仕事の海外移転

2004年はハイテク産業のオフショア・アウトソーシングが注目を集めた。定義は一様ではないが、オフショアリングとは、同一会社の海外支店および海外の別会社への仕事の移動であり、アウトソーシングとは、それまで会社内で給与が支払われていた仕事を別会社に移動させることである。この場合、別会社は国内外を問わず、仕事も別地域で行われるか当該の会社内にて行われるかは問わない。こうした動向を踏まえ、2004年1月の労働省統計プログラムの「大量レイオフ統計」に、初めて「失業」と「仕事場の移動」の関係に関する質問が採用されている。

これまで「rust belt(さびついた地帯)」、「deindustrialization(脱工業化)」などで問題になったホワイトカラーの仕事の海外移転現象は、I.B.M.のソフトウエア設計などの機械・電子部品の設計部門を中心に、2003年夏ごろからあらわれ始めた。その後、サービス関連職にも広がっていった。以下は、その莫大なスケールを表す代表例である。

  • マイクロソフト社、GE、JPモルガン・チェース、ベストバイなどを顧客に持つインドのテクノロジーコンサルタントグループ・ウィプロでは、3カ月ごとにインド人2,000名を採用しないと、業務が回らない。マイクロソフト社は約1,600人の顧客サポートセンターの仕事をインドに移転する予定だ。
  • ハイテク関連企業のオラクルには既に2,000人のインド人社員が在籍し、ソフトウエア設計、経理、顧客サービスなどに従事。同社は、当該2,000人の仕事のインドへの移転を検討中。
  • 仕事のアウトソーシング最大手のアウトソース・パートナーズ・インターナショナル社では、インド人会計士が米国の納税手続きマニュアルや納税規定を身に付けさせるための財務、経理、及び税金手続きの手法を開発。それには、米国文化への理解も含まれ、同社の税金サービス部門では、税金手続きに関する教育に先立って、インド人への米国経済や社会文化に関する教育を行っている。一般に米国市民は、納税手続きまでが海外アウトソーシングの対象になっていることを認知していない。人口の26%が貧困層のインドにおいて同社は、米国人会計士の3分の1もしくは半額に該当する1万8,000~2万ドルをインド人会計士に支払っている。米国の会計事務所は、同社の当該制度を利用することにより、50%の労務費削減が可能となっている。このほか税理部門では、大手企業が簿記業務などをイスラエル、インド、フィリピンに移転。月給は、米国では5,000ドル程度であるのに比して、フィリピンでは修士号取得者でも600ドル程度。
  • 2004年にバンクオブアメリカは、技術者及び技術アシスタント2万5,000人のうち3,700人を解雇。2005年3月にはさらに1,000人が解雇された。これらの仕事のうち3分の1程度は、時給100ドルの米国から、時給20ドルのインドに移転した。同社は、米国内でのインド人の雇い入れにも積極的で、2004年時点で、1,100人程度の枠を検討していた。同社のITソフト製作は、インドのバンガロールにあるインフォシス社の技術者250人程度が従事。米国内でも、カリフォルニア州グリーンポイント社の依頼により、インフォシスのスタッフが住宅ローン処理に従事する例がある。
  • 同じくバンガロールにあるウィプロ社は、マサチューセッツ州にある総合病院のCTスキャン説明のうち、1日30台分を担当するインド人放射線医師を派遣。また、テキサスインスツルメントの研究所には、第三世代の携帯電話用のチップ設計を同社のインド人労働者が行っている。同社のニューデリー支社では、大卒の男女2,500人が、米国大手保険会社の保険支払要求の処理と米国インターネット供給会社の相談窓口を担当。これにより、労務費60%カットが可能になる。同社には、分子生物学の博士号取得者が7人在籍しており、製薬会社の研究業務も行っている。同社は、アメリカ英語の発音指導にも取り組んでいる。
  • インテルやテキサスインスツルメントは、チップ回路設計に従事するインド人・中国人技術者を多数雇用。また、フィリップス社は、テレビ、携帯電話、オーディオの技術開発部門の大半を上海に移している。回路設計技術者への月給は、米国では7,000ドルだが、インドでは1,000ドル程度。しかも、5年の実務経験を有する修士号取得者であることが要求される。
  • リーマン・ブラザーズやベアー・スターンズなどの証券会社もインドで財務分析に着手している。このほか財務部門では、米国証券会社、投資会社、格付け会社などが、普通株の調査や産業報告をインド人財務専門家に担当させている。財務専門家のインドでの月給は1,000ドル。米国では月給7,000ドルである。
  • アメリカン・エクスプレス、デルコンピュータ、イーストマン・コダックなどの企業も海外に仕事を移転し、24時間体制の顧客サービスを低価格で提供。また、これまでテキサスインスツルメントやIBM、インテルで技術開発を支えてきたアジア人労働者は、現在では、インド人や中国人技術者が自国でR&Dチームを組んでいる。例えばGEは、技術者・科学者6,000人を海外10カ国で雇っている。
  • 建築設計部門では、カリフォルニア州のフルーア社が、技術者・製図工1,200人をフィリピン、ポーランド、インドで採用し、巨大産業施設の設計図の細部仕様及び青焼製図の作成を担当。また、サウジアラビアに数十億ドルを注入して建設予定の化学工場の建設にあたっては、建設プラン作成のために、200人の年収3,000ドル以下で就労する若手技術者200人が、年収9万ドルの米国・英国人エリート技術者と共に、リアルタイムの共同作業をインターネット上で行っている。コンピューターによる産業プラントや住宅スケッチの青焼製図の作成はフィリピン、ハンガリー、中国などで行われることが多い。青焼製図技術者の月給は、米国では月7,000ドル以上だが、インドでは1,000ドル程度に過ぎない。
  • 航空宇宙関連部門では、ボーイング社が、ロシアの航空学専門家にボーイング777の格納庫と翼の部分のデザインを任せている。数学もしくは航空学修士が求められるこうした航空学専門家に対する米国での月給は6,000ドルに及ぶが、ロシアでは月給650ドル程度だ。
  • 公的部門でも、州政府が仕事の海外移転に着手。海外の電話センターなどの利用によるコスト削減を実施している。例えば、ペンシルバニア州では、生活保護者からのフードスタンプ(低所得者向け食券)関連の問い合わせが毎月約1万5,000件を超えるが、電話対応はインド人・メキシコ人労働者である。以前は、こうした電話処理をテキサス州やフロリダ州が対応していたが、シティコープ電子金融サービス社が電話処理業務を海外移転したため、州政府は年間約100万ドルの経費節減が可能となった。コンピューター業務やコールセンター業務といったサービス職の海外移転は州政府でも増加しており、海外移転職種として最も一般的なのは、データベースマネージャー、ソフトウエア・コード技術者、ファイナンシャル・アナリスト、会計士、テープ起こし、データ入力職などだ。

今後の見通し

マッキンゼ-社及びインドのソフトウェア協会の推計によると、2008年時点でインドにおけるITその他のサービス部門での総輸出額は570億ドル(GDP7%)に及び、400万以上の雇用が創出されると予測されている。この背景には、低賃金国における豊富な高学歴者の存在がある。例えば人口7,500万人のフィリピンでは、毎年の新規学卒者数が38万人程度。現在、米国会計基準を学んだ税理士は供給過剰になっている。米国の新規学卒者のうち技術者は3万5,000人程度だが、インドでは既に52万人ものIT技術者が初任給5,000ドルで就職している。中国人IT技術者数は、インド人の2倍にも及ぶ。2004年11月にマイクロソフト社ゲイツ会長は、R&D及び海外調達を目的に、中国に対し7億5,000万ドル、インドに対し4億ドルの投資を発表。北京のマイクロソフト研究所に在籍するプログラマー180人のうち3分の1は、米国大学の博士号取得者が占めている。こうしたグローバルレベルの知識産業の台頭は最近のことで、大半の経済学者は未だに今後の見通しについて推測できずにいる。今後確実なのは、迅速かつ低価格でアクセスできるインターネット接続回線と投資家優遇政策を有し、大卒の人材が豊富な開発途上国がインターネット接続回線を持ち、投資者に親切な政策、そして多くの大卒者を提供する開発途上国が、多大な利益を享受するということだ。

仕事の海外移転に対する反対派の動き

米国労組やホワイトカラー労働者は、以前から仕事の海外移転に異議を唱えてきた。米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は政府に対し、中国における団結権・団交権制限や最低賃金法違反などを中心に労働者の権利侵害が顕著であるために賃金水準が不当に低レベルに維持されているとして、1974年米国通商法(労働者の権利侵害に対する罰則規定を定めた法律)に基づいて訴えを提起。労働者の権利の不法な抑圧により、中国製品は平均43%もの費用対効果を得ていると主張している。1974年米国通商法に基づく訴えは今回が初めて。だが、専門家の見方によれば、世界貿易機関(WTO)が労働者権利の保護をしていないことに鑑みると、当該訴えの正当性が難しいとの考え方が一般的だ。

労働省発表の調査結果によれば、2004年1月から3月にレイオフの対象となった労働者は18万2,486人で、このうち4,633人が仕事の海外移転を理由に、9,985人が米国内での仕事の移転を理由にレイオフされていることが明らかになった。こうした状況に対し組合側は、労働協約の締結により国内での仕事の確保に取り組むと同時に、海外移転に伴う失業の増加現象を組織化向上の契機として位置づけている。例えば全米通信労組(CWA)は2004年5月、ストライキ後にSBCコミュニケーションと締結した新協約は、インドやフィリピンに移転された約3,000の仕事をアメリカに取り戻すことを協約事項として盛り込むことに成功している。

このほか、海外への仕事の移転については、ソフトウェア関連のヘルプライン等を担当するオペレータの文化的コミュニケーション力不足が顧客の苦情を招くケースも報告されるなどの問題点も指摘されている。

仕事の海外移転:代替方法

テキサス州に本社を置くアウトソーシング会社は、海外への仕事の移転の代替方法として、国内で契約社員を雇い在宅勤務によるコールセンターの運営を挙げている。在宅勤務の活用により、光熱費、施設費、インターネット管理費などが社員もちになるため、企業側の経費節減が可能。また、全米レベルで経験豊富な人材が確保できる。在宅勤務者側からも、柔軟なスケジュール管理が可能となるため、仕事と家庭のバランスが保ちやすいと好評だ。海外への仕事の移転と在宅勤務の活用では、在宅勤務が約25%割高であると考えられている。だが、当初約50~60%のコスト節約になると考えられていた仕事の海外移転では、英語やコミュニケーション能力の欠如により顧客の苦情が増加するといった問題で、海外移転による節減の一部を事実上損失している。また、国内であれば、インターネット電話などの新技術の導入によるコストカットも可能であるため、技術革新の力を借りれば国内での代替の余地はある。

この他の代替方法としては、外国人技術系労働者の直接採用が挙げられる。米国議会は2004年11月、熟練外国人労働者に対する2万件の新ビザ(H-1B:3年間の専門職ビザ)の発給を決定。取得条件は、1) 米国大学院の卒業、2) 米国企業からの仕事の申し出——だ。米国企業側は、外国人採用を決定する前に、米国人労働者採用の努力が必要とされ、米国人労働者で適任者が見つからなかった場合に限り、外国人労働者の採用が可能だ。2004年における技術系企業でのH-1Bビザ申請件数は6万5,000件であった。

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1-3 労働形態の変化:在宅ワーク勤務の普及

在宅勤務者(テレワーカー)が増加傾向にある。雇用政策協会(EPF)調査によると、米国労働者のうち週1回以上テレワークに従事する労働者は、15%に及んでいる。そのうち、約30%は自営業であったが、17%は在宅勤務の会社員。性別では、男性14.8%、女性15.2%でほぼ同様である。また、世帯主でテレワークに従事する割合は、独身者の約2倍。18歳以上の子供がいるテレワーカーの比率は男性17%、女性16.6%で、子供がいないテレワーカーは男性13.2%、女性14.3%である。職種別では、テレワーカーの5人に4人が管理職、専門職、販売職で、製造業でのテレワーカーは約2.2%に過ぎず、オペレーター、組立工、肉体労働者などである。さらに同調査は、テレワークにより社員の仕事への満足度が高まり、欠勤率や離職率が低下すること、また、社員の生産性が向上し、企業側にも利益になると分析している。

テレワーク志向は、上級管理職レベルでも広がりつつある。その場合、所属部署全てを自宅のオフィスから管理している。ニューヨークに本社を置く上級管理職リクルート会社ザ・ラダーズ・コムが1,078人の管理職を対象に行った調査では、年間10万ドル以上を稼ぐ上級管理職者の約20%がテレワークの可否は仕事を選ぶ上での重要な条件に位置づけていることが明らかになっている。また、米国テレワーク協会が9月に実施した調査では、何らかの形でテレワークを経験している労働者数は、2003年の4,130万人から2004年には4,440万人に増加している。

在宅勤務は職場の異動を望まない者、育児負担がある場合、また子供や家族と過ごす時間を増やすことを希望する者にとって、魅力的な制度だ。テレワークを利用する上級管理職者は、定期的に職場に赴いて職務をこなす。テレワークの可否は、CEOなど経営トップの理解と判断に拠るところが大きく、制度の導入はトップダウンで行われる場合がほとんどである。また、テレワークの普及は、高速インターネット、ワイアレスコンピューター、電子メールなどといった新技術の一般化により加速化している。大半の企業は、テレワークに必要なテクノロジーを無償で提供しており、企業によっては必要な備品、事務用品などの購入手当を支給する場合もある。

専門家の見解では、これらテレワークにかかるコストを考慮しても、優秀な人材を確保するためには十分採算がとれる制度だという。近年、優秀な上級管理職者の人材確保は困難な状況が続いている上に、大半の上級管理職者は仕事と家庭の両立を望んでいるためだ。2003年6月にスフェリオンが行った調査では、仕事と家庭のバランスを最優先項目に挙げた従業員が約85%に及び、昇進を最優先項目に挙げた従業員は35%と、大きく下回った。

他方、テレワークという就業形態をいまだに疑問視する従業員も存在し、テレワークを新たな仕事のモデルとは考えず、役職員に与えられる特典として位置づけているようだ。また、不況下の買い手労働市場では、テレワーク制度をはじめとする各種ベネフィットを廃止するコストに敏感な企業や、制度自体は存在しても、出社頻度が減少することが解雇を誘引するとの危機感から制度を利用しない管理職者も多い。管理職リクルート会社のオフィス・チームが2001年2月に行った世論調査によると、スーパーバイザーの25%以上はテレワークでは業務パフォーマンスが落ちると考えており、生産性が上がると考えているのは21%であった。

だが、一般的な傾向としては、USAトゥデイなどのメディアも、テレワークの増加傾向を報じている。USAトゥデイは、9・11同時多発テロ後に、1) テレワーク制度を採用する、2) ネットによる遠隔会議の活用により旅費を削減する——企業が増加しつつあると指摘している。こうした傾向は、航空機の安全性への不信感から出張を避けたい労働者の意識も反映したものである。遠隔会議の増加によって、遠隔会議関連産業も徐々に活性化しつつある。

インターネット上でのウエッブ会議は、未だ一般化しているとは言いがたいが、遠隔会議関連産業の収益は健全な増加を続けている。2005年における遠隔会議関連産業の収益は37億万ドルに及ぶと推測され、2000年以降、増収率32%で推移している。同産業の収益の約3分の2は遠隔会議が占めており、ウェブ会議とテレビ会議が3分の1程度だ。例えば、4年前に株式公開したばかりの業界大手のウェブエックスの今年の収益は2億5,000万ドル、顧客数は1万社にのぼると予測されている。

NRニュースは、「テレワークや遠距離会議など仕事の多様性の増加は企業文化の変化を招くだろう」と報じ、VNUは、「柔軟な仕事形態は重要なものとなってきているが、企業は従業員にテクノロジーを提供するだけで、社会的そして企業文化への影響を考慮することに留意していない」などと報じている。テレワークに代表される就業形態の変化がもたらすインパクトは、企業文化のみならず従業員の意識、管理形態、個人の業績評価、業務遂行方法そのものにまで及んでいくことだろう。

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1-4 時間外割増賃金の改正

時間外労働割増賃金をめぐる公正労働基準改正法が8月23日に施行された。労働組合はこれに抗議して、同日、ワシントンDCの労働省前をはじめ全米各地で抗議デモを行った。AFL-CIOによると、ブッシュ大統領が2003年3月に時間外割増賃金の改正を主張し始めて以降、合計160万以上にも及ぶ抗議の電子メール、FAX、手紙がホワイトハウス、議会、労働省へ送られたとしている。ケリー民主党大統領候補(当時)は、自分が次期大統領に選ばれたならば、今回の改正法を直ちに撤廃するとしている。法律は改正されたものの、154ページからなる改正内容は非常に複雑であるため、使用者側も改正内容を理解し、それを個々の従業員に当てはめるのは容易ではないだろうと多くのコンサルタントは述べている。

改正のポイントは、年収が2万3,660ドル以下の者は、自動的に時間外割増賃金の対象となること。1970年に定められたこれまでの定めでは、年収8,060ドル以下が基準であったため、今回の改正により約130万人の労働者が新たに割増賃金の対象になると計算されている。しかし、従業員が時間外割増賃金対象にならないように企業が時給を引き上げ、実際にはもっと少ないものになるであろうと予測する声もある。第2のポイントは、年収10万ドル以上で管理や経営に携わる者は、エグゼンプト(割増賃金対象外者)と見なされること。問題は、年収2万3,660ドルから10万ドルの労働者であり、使用者側がどう彼らの仕事を定義するかにより、対象者になるのかエグゼンプトになるのかが決まるとされている。今回の改定により時間外賃金の適用から外れる労働者数について、労働組合側は600万人としているのに対して、政府側は10.7万人と推定している。

時間外賃金の適用から外れる者として、正看護師、保育士、飲食店マネージャー、コンピュータ関連労働者、葬儀屋、調理師などがあげられている。とくに正看護師は、これまでプロフェッショナル職とみなされてきたが、給与体系が時間給の場合が多く、時間外割増賃金も適用されてきた。しかし改正法では、給与体系が時間給、日給、月給のいずれにかかわらず、プロフェッショナル職はすべてエグゼンプトとみなすとしているため、正看護師はエグゼンプトの扱いを受けることになる。残業が恒常化している多くの正看護師にとって、残業代は年収の2~3割を占めるとされ、改正法が適用されると大きな年収減となる。ある病院では今後も正看護師に対する残業代を支払い続けるとしているが、残業代を支払わない病院が出てくれば、病院間の競争から残業代の中止に踏み切る可能性も少なくない。人事コンサルタントの一人は、「これまで受けてきた恩恵を従業員から奪うことは困難であるだけでなく企業自体に大きな負荷をかけるため、企業には新ルールの適用を行わないように助言している」と述べている。

なお、警察官、消防士、救急救命士、緊急医療技師などの公共の安全にかかわる業務に携わる労働者には、割増賃金の支給が保障されることとなった。約60年ぶりに行う今回の改正の背景には、増えつづける時間外割増賃金をめぐる訴訟を労働省が減らしたいとする意向があるとされる。1997年以降、時間外割増賃金をめぐる訴訟件数は2倍になり、雇用差別に関する訴訟数を上回っている。

大手企業を対象に実施したある調査では、米国労働省の新時間外割増賃金規定により、対象企業の約半数が労働者への割増賃金の支給額が増加したと回答。残りの半数は、特に変化はない、あるいは若干の変化があるのみと回答している。

なお、公正労働基準法には、連邦法の州法への優位性を定める条項がないため、各州の裁量によって労働者により有利な賃金・労働時間を定めることも可能だ。このため、イリノイ州、カリフォルニア州などは、当該法改正の影響を受けない。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:アメリカ」