基礎情報:ミャンマー(2016年)
6. 労使関係

6-1 労使関係

約50年間にわたって労働組合の結成が禁止されていたが、民政化に移行して2011年労働組織法、2012年労働争議解決法が制定され、集団的労働関係の基本法ができあがった。

2011年労働組織法における「労働者」は、経済活動に従事する労働によって生活する者であり、日雇労働者、臨時労働者、農業労働者、家事労働者、政府職員、見習いを含む。ただし、軍隊勤務者、警察官、軍隊の管理下にある戦闘組織に従事する者は除かれる。農業労働者も労働組合を結成でき、農民組合と呼ばれているが、ここでいう農業労働者は10エーカー未満の農地を所有している者とされている。この中には全く農地を持たない者も含まれる。農地10エーカー以上の農地を所有している者は地主として分類されており、労働組織を結成することはできないという扱いになっている。外国企業、民間企業、国有企業の従業員や政府職員は本法の労働者に含まれる。

使用者とは、雇用契約によって1人以上の労働者を雇用する者であり、労働者を直接または間接的に管理し、監督し、指揮命令をおこなって、賃金を支払う者を指している。使用者を合法的に代理する者も使用者とされている。なお、海上労働にはこの労働組織法は適用されない。

出所:2011年労働組織法

6-2 労使団体

労働組合

ミャンマー国内で労働組合を組織することが禁じられていた1991年に、ビルマ労働組合連盟(FTUB)がタイで結成された。2012年にはFederation of Trade Unions Myanmar(FTUM)に名称変更され、これが母体となって2014年11月29日・30日に行われた大会で、農業(AFFM)、交通運輸(MTLTUF)、鉱業(MWFM)、製造業(IWFM)、建設木材(BWFM)の五つの全国産業別労働組織をもとにナショナル・センターとしてミャンマー労働組合総連盟(Confederation of Trade Unions in Myanmar:CTUM)が結成された。CTUMは全ミャンマーを代表する組合組織として2015年7月に登録が許可された。

CTUMとは別に、もう一つの労働運動の流れがMyanmar Trade Union Federation(MTUF)である。主に軍政時代でも海外に脱出しないでミャンマー国内にとどまって組合活動を行っていた者が中心になって設立された。当時、組合活動は非合法な活動であったために、刑務所に政治犯として収容された経験を持つ者が多い。民政化後に刑務所から釈放されて、組合の組織化に本格的に取り組んだ活動家による組織である。その活動家は国民民主連盟のメンバーでもある。第1回総会は2014年4月26日開催されている。2014年8月現在、非農業部門で加盟組合が120、組合員数が約1万人となっている 。

ミャンマーにおける組合の推定組織率について、ミャンマー政府からの公式発表はないが、組織人数6万人、労働力人口3,000万人として計算すれば、推定組織率0.2%ということになる。

使用者団体

ミャンマー商工会議所連合会は1919年にビルマ商業会議所(Burmese Chamber of Commerce:BCC)として設立されたが、1948年のイギリスからの独立後にビルマ商工会議所連盟(Union of Burma Chamber of Commerce & Industry:UBCCI)となった。1962年から1988年までのネーウィン政権時代は機能していなかった。軍事政権が成立時の1989年から市場経済が導入されたことによって、UBCCIは再組織され、ミャンマー商工会議所連盟(Union of Myanmar Chamber of Commerce & Industry:UMCCI)となった。1999年には現在のミャンマー商工会議所連合会(Union of Myanmar Federation of Chambers of Commerce & Industry:UMFCCI)となった。これまで軍との関係は強かった。3万社を超える企業が加盟し、71の事業者団体、管区や州単位の商工会議所、国境貿易の商工会議所から構成されている。1,100社ほどの外国企業も加盟している。

出所:UMFCCIウェブサイト参照(ウェブサイト最終閲覧日:2017年1月6日)

6-3 労働紛争処理システム

1929年労働争議法が改正され、2012年3月28日に労働争議解決法が制定された。この法律では紛争を個別紛争と集団紛争に分け、労働争議解決法は後者の集団紛争を処理するために制定された法律である。

個別紛争と集団紛争で異なる解決方法を採用しており、個別紛争では調停を利用できるが、裁判所での処理を取り入れ、集団紛争では調停から仲裁で処理する手法をミャンマーは採用している。職場調整委員会、調停機関、仲裁機関、仲裁評議会の4段階にわたる紛争解決機関が設置されている。

職場調整委員会

職場調整委員会は30人以上労働者を雇用する企業に設置が義務づけられている。労働組合が50%以上の労働者を組織している場合には、その労働組合から2名、組織されている労働者の割合が50%未満の場合にはその労働組合から1名と選挙で選ばれる労働者代表1名の計2名、労働組合がない場合には選挙によって選ばれた2名が労働者代表となり、使用者代表2名の合計4名の委員で構成される。任期は1年である。委員は21歳以上でなければならない。

この委員会の任務は労働条件、安全衛生、職場環境、福利厚生および生産性を向上させることである。労働組合や労働者、使用者が苦情を委員会に申し立てた場合、申し立てを受領した日から公休を除いて5日以内に交渉して解決を図らなければならない。合意ができれば、協定書を作成して上位の調停機関に送付しなければならない。30人未満のために職場調整機関が設置されない場合であっても、労働者から苦情が申し立てられた場合には、使用者が5日以内に紛争を処理しなければならない。いずれの場合にも、解決できない場合は、上位の調停機関に申し立てすることができる。

調停機関

調停機関は、11名で構成されるもので、州や管区のタウンシップに設置される。議長として州や管区から任命される者1名、労働者または労働組織から3名、使用者や使用者団体から3名、タウンシップ(行政)から1名、有識者2名、労働省から書記として指名される1名から構成される。任期は2年である。年齢制限があり、21歳以上でなければならない。2014年現在、325の調停機関が設置されている。

調停機関は個別紛争か集団紛争かを判定する。個別紛争の場合には、調停機関で解決できなければ、裁判所に提訴することができる。

集団紛争の場合には、労働・入国管理・人口省、州、管区にその旨が伝えられる。受理した日から公休日を除いて3日以内に調停が行われる。合意が成立すれば協定書が締結される。合意ができない場合には、公休日を除いて2日以内に仲裁機関に付託しなければならない。そのことを関係当事者に通知しなければならない。解決できなかった場合には、その内容についての意見をまとめた報告書を州や管区に送付しなければならない。調停に不服がある場合には、裁判所に訴えを提起することもできる。

仲裁機関

仲裁機関は、11名からなるもので州または管区に設置される。議長として州または管区によって任命される者1名、労働組織の代表3名、使用者団体の代表3名、州または管区から選ばれる代表1名、有識者2名、書記として州または管区から任命される者1名からなる。任期は2年である。メンバーは25歳以上でなければならない。2014年現在、14の仲裁機関が設置されている。

付託されてから公休日を除いて7日以内に決定を下さなければならない。決定がなされたときには、その日から公休日を除く2日以内に関係者に通知しなければならない。紛争が重要事業や公益事業の場合には、その写しを労働大臣、州または管区に送付しなければならない。その決定に不服の場合には、二つの方法がある。一つは仲裁評議会に公休日を除いて7日以内に申し立てを行うことである。もう一つはロックアウトまたはストライキを実施することである。ただし重要事業の場合には公休日を除いて7日以内に仲裁評議会に申し立てしなければならない

仲裁評議会

仲裁評議会は15名の法律専門家と労働問題の専門家から構成される。その内訳は労働省が選ぶ5名、労働組合が指名する者から選ぶ5名、使用者団体が指名する者から選ぶ5名からなっている。任期は2年である。35歳以上でなければならない。仲裁評議会は全国で1カ所設置されている。

集団紛争の聞き取り調査をおこなって決定を下す。その委員会は付託を受けてから公休日を除いて7日以内に決定を下す。決定がなされたときには、その日から公休日を除いて2日以内に関係者に通知を行う。その写しを労働大臣、州または管区に送付する。

調停機関や仲裁機関、仲裁評議会の決定は、定めた日から有効になる。有効日から3カ月が経てば当事者の合意で修正できる。新しい協約で合意ができれば、調停や仲裁で合意された部分を無効とすることができる。

決定は紛争に関係するすべての者に効力が及ぶ。紛争にかかわる使用者の法的相続人、紛争当時だけでなく紛争後雇用された者にも効力が及ぶ。

決定や協約が有効な期間に決められた事項を変更するために、ロックアウトやストライキをおこなってはならない。これは平和義務を定めたものである。これに違反する者は3万チャットの罰金を科せられる。

調停機関や仲裁機関で決められた事項は履行しなければならない。それに違反した場合、10万チャットの罰金を科せられる。仲裁機関や仲裁評議会が紛争処理のために書類の閲覧を求めた場合にはそれに応じなければならないし、証人として呼び出しを受けた場合、本人またはその法定代理人は所定の期日内に出頭しなければならない。これに応じない場合10万チャットの罰金を科せられる。

施行されて約3年を経過した2015年9月現在、調停にかけられた3,050件のうち、288件が仲裁評議会に付託され、約99%が解決したとされている。

出所:The Republic of the Union of Myanmar, Ministry of Commerce, Union Minster's Office, Post-Hearing Brief support of Myanmar as a BDC and LDBDC, April 9, 2014、Factory workers weary of the Arbitration Council新しいウィンドウ, 25 September 2015, Myanmar Times.

参考レート

  • 100ミャンマーチャット(MMK)=8.4358円(2017年1月23日現在 Exchange-Rate.org新しいウィンドウ)

関連情報

お問合せ先

内容について

調査部 海外情報担当

お問合せページ(事業全般に対するお問合せ)

※内容を著作物に引用(転載)する場合は,必ず出典の明記をお願いします。

例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ミャンマー」