基礎情報:インド(2013年)
6. 労使関係

6-1 労使関係

推定組織率が6~7%と低いので、組合のない企業が多いが、組合のある場合には企業または事業所単位で団体交渉が実施されている。産業別組織がある場合には産業レベルの団体交渉(有名な事例はAhmedabad Textile Labour Assoiciationの産業別交渉)がおこなわれている。労働条件についての話し合いがおこなわれ、合意ができれば労働協約が締結されている。その労働協約は当事者のみを拘束するので、労働組合員のみを拘束する。そこで一旦合意ができても、労働争議法上にある調停官に付託して、そこで合意したという形式を用いて協定書を締結する。そうなると組合員以外にもその事業所に働く従業員すべてに効力を及ぼすことができる(1947年労働争議法(Industrial Disputes Act, 1947)18条3項)。もし協定に基づいた支払いがなされない場合は、労働争議法33-C条によって税金を取立てる手続に従って使用者から取り立てることができる。イギリス法を継受しつつも、インドの土着に適した方式を編み出している1つの事例である。企業別に組合が結成されている場合も同様な取り扱いがなされている。

組合のない場合、労働条件は就業規則によって定められるケースが多い。就業規則は産業雇用(就業規則)法によって規制されており、使用者が一方的に案を作成し、認証官に送付し、認証官は組合があればその組合、組合がなければ労働者の代表にそのコピーを送付して、その意見を聞き、不満がある場合には上位の機関に申し立て、そこで最終的判断が下される。その際、就業規則の規定の妥当性と合理性が判断基準となっている。したがって、行政機関によって、労働者の意見も考慮して就業規則の内容がチェックされることになっている。

最近は組合を忌避する使用者もおり、組合を恐れる使用者もでてきている。組合役員が外部の政党とつながっている場合、その活動は過激化する傾向がある。言い換えれば、組合員の支持を強化するために、活動が明確な形で組合員に示される必要があるためである。そこで組合潰しに走る使用者がでてくる。それを規制するために労働争議法の1982年改正(1984年8月21日から施行)で、第五別表に不当労働行為類型が定められている。使用者・使用者団体側と労働者・労働組合側の両方を定めている。不当労働行為をおこなう者に6カ月以内の禁固、1,000ルピー以下の罰金、その両方が課せられる。

使用者・使用者団体側の不当労働行為

  • 労働者の組合結成、加入、活動を制限すること
  • 財政援助によって組合を支配、介入すること
  • 御用組合を結成すること
  • 組合員への差別的取り扱いによって組合活動を抑制すること
  • 組合活動等を理由に解雇や懲戒処分に付すこと
  • スト破りのために請負業者に仕事をまかすこと
  • 不当な配置転換をおこなうこと
  • 仕事復帰の条件として合法なストに参加した組合員に善行誓約書に署名を求めること
  • 特定の労働者をえこひいきすること
  • 正規労働者の仕事を奪うために臨時労働者を雇用すること
  • 労働争議調整中に使用者に不利な申告をしたことを理由に、懲戒処分や差別的取扱をおこなうこと
  • 合法なスト中に労働者を募集すること
  • 裁定や協定を順守しないこと
  • 暴力や暴行をおこなうこと
  • 誠実に団交に応じないこと
  • 違法なロックアウトを実施しないこと

労働者・労働組合の不当労働行為

  • 違法なストを実施したり、そそのかしたりしないこと
  • 組合加入や脱退を強制しないこと
  • 使用者との誠実な団交を拒否すること
  • 団交代表の承認に反対して争議行為をおこなうこと
  • 怠業やゲラオ(職場占拠)をおこなわないこと
  • 使用者や管理職の住宅のまわりでデモをおこなわないこと
  • 使用者の財産に損害を与えないこと
  • 労働者の出勤を妨害する意図で、労働者に暴力や暴行を与えること

資料出所:P.L. Malik(2007) “Handbook of Labour and Industrial Law”Eastern Book Company

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6-2 労使団体

1926年労働組合法(Trade Union Act, 1926)によって、事業所の従業員の100人または10%のいずれかの少ない方の人数(最低7人)で組合を結成することができる。従来7人以上で組合を結成できたが、この人数を多くした。これは小規模組合の乱立を避けるためである。しかし、多くすると組合結成が難しくなるので、妥協の数字で決着がついた。その結果、従業員規模によって、最低組合員数は以下のようになった。

表:従業員規模別最低組合員数
従業員規模 最低組合員数
991人以上 100人
61~990人 10%に相当する数
7~60人 7人
6人以下 他の事業所なり企業と一緒になり人数を確保しないと結成できない

組合役員のうち3分の1または5人のいずれかの少ない人数を部外者(outsider leader)とすることができるが、それ以外はその企業や事業所に勤務している者でなければならない。

組合は登録することによって、民刑事上の免責や法人格を取得することができる。組合名によって訴えたり、訴えられたりすることができる。この登録は任意であり、登録しなくてもその組合活動が違法になるわけではない。登録組合が使用者によって団体交渉の相手として承認されるとは限らない。登録組合が組合承認の要件にはなっていない。しかし、いくつかの州立法(たとえばグジャラート、西ベンガル、マハラシュトラ)では要件としている。要件でない場合には、組合が実力で承認を勝ち取る他ない。先に述べた最低組合員数では複数組合が併存する場合があり、承認を勝ち取るための熾烈な競争がありうる。

組合数は登録組合だけの統計であり、組合員数は登録組合の中で年次報告書を提出して組合から得られた数である。年次報告書を提出する組合の割合が低いので、実態とは異なっていると思われる。したがって推定組織率が出にくいが、6%前後とされている。

中央労組の組合員数は政府が確認している。中央労組は50万人以上組織しており、最低4州4産業にまたがって組織されていることが要件となっている。10年ごとに確認作業がなされており、最近では2011年から開始されているが、4年ほどかかるので、まだ結果はでていない。しかも最近は中央労組に加入しない独立組合が結成されているために、全組合員数を把握できない状況にある。もともと非組織部門は組合ではなくNGOや社会活動家が組織してきたので、非組織部門の労働者は組合の組織化の対象になっていなかった。この中央労組は特定政党とつながっている場合が多い。しかし、どの政党ともつながっていないことを旨とする中央労組もある。

2002年12月31日段階での中央労組の確認組合員数は以下である。

表:中央労組の組合員数
組織名 組合員数
BMS 6,215,796人
INTUC 3,954,012人
AITUC 3,442,239人
HMS 3,338,491人
CITU 2,678,473人
UTUC(LS) 1,373,268人
TUCC 732,760人
SEWA 677,140人
AICCTU 639,962人
LPF 611,506人
UTUC 606,935人
NFITU-DHN 569,599人

資料出所:Pong-Sul Ahn (2010) "The growth and decline of political unionism in India", ILO DWT for East and South-East Asia and the Pacific

使用者団体も登録ができる。これはtrade unionの中に組合だけでなく使用者団体もふくまれているからである。使用者団体は産業別や職種別に組織されており、その上部に全国レベルの使用者団体が組織されている。インド使用者連盟、全インド使用者組織、公営企業常設会議の3つがインド使用者協議会を結成して、ILOや国レベルの審議会に委員を出している。この他にインド産業連盟、インド商工会議所がある。

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6-3 労働紛争処理システム

労働争議法が裁判外紛争処理手続として争議調整手続を定めている。

1 事業所内での紛争処理

(1) 工場委員会

年間100人以上雇用している事業所に設置され、使用者代表と労働者代表で構成され、労働者代表の数は使用者代表のそれを下回ってはならない。組合が結成されている場合は組合と協議して労働者代表を決める。両者の意見の違いを調整して良好な労使関係を構築することを目指している。

(2) 苦情委員会

年間50人以上を雇用する事業所で個別紛争を処理するために苦情処理委員会が設置される。この委員会に付託するには両当事者の同意がなければならない。

2 政府によって設置される6つの紛争処理機関

両当事者、あるいは一方当事者が以下に述べる6つの紛争処理方法のうち、どれを希望するかを示す申請書を提出するが、どの機関に係属させるかは管轄する政府が判断する。係属している間はストライキもロックアウトも禁止される。

(1) 調停官

労働争議を調停するために、適切な人物を管轄する政府が調停官として任命する。

(2) 調停委員会

労働争議を調停するために、委員長と2-4名の委員からなる調停委員会を管轄する政府がその都度、調停委員会を組織する。委員か労働者代表と使用者代表が同数となるように任命される。

(3) 実情調査委員会

労働争議に関連する問題点を調査するために、事情調査委員会を管轄する政府が組織する。委員は2名以上とする。うち1名が委員長となる。

(4) 労働裁判所

1947年労働争議法(Industrial Disputes Act, 1947)の第二別表に定める権利紛争の仲裁をおこなうために、管轄する政府によってその都度組織される仲裁機関である。1名で構成され、高等裁判所の裁判官、3年以上地方裁判所の裁判官である者、または過去にそうであった者、7年以上司法省職員であった者、過去に5年以上州法に基づく労働裁判所の統括職員であった者から選ばれる。第三別表に関連する事項(利益紛争)であっても、影響を受ける労働者が100人以下の場合には労働裁判所が管轄することができる。裁定が出されると30日以内に公表され、その公表後30日すれば発効する。それが最終的解決となる。

(5) 産業審判所

1947年労働争議法(Industrial Disputes Act, 1947)第二別表の権利紛争と第三別表の利益紛争の仲裁をおこなうために、管轄する政府によってその都度組織される。1名で構成され、高等裁判所の裁判官またはそうであった者、3年以上地方裁判所の裁判官またはそうであった者から任命される。さらに産業審判所に助言する裁判官補佐人2名を任命することができる。産業審判所は裁定を下し、それが最終的解決となる。

(6) 全国審判所

労働争議が全国に影響をもたらす場合や複数の州にまたがる場合に、中央政府によってその都度組織される。1名で構成され、高等裁判所の裁判官またはそうであった者から任命される。全国審判所に助言するために裁判官補佐人を2名任命することができる。ここでも裁定が下され、それが最終的解決となる。

3 仲裁人による任意仲裁

紛争が生じた場合に仲裁人の仲裁に付託する協定をあらかじめ締結している時には、紛争は労働裁判所、産業審判所、全国審判所に係属される前であれば、任意の仲裁に付すことができる。

4 裁判所での紛争処理

労働争議法上の権利義務に関する紛争は労働争議法上の紛争処理機関によって処理され、裁判所では争えないことになっている。

労働争議がコモン・ロー上の権利義務から生じる場合には、民事裁判所で争うことができる。

社会活動訴訟(social action litigation)という紛争処理が1970年代末から活用されてきている。これは社会的弱者が訴訟を利用しやすくするために、訴訟要件を大幅に緩和している。たとえば、訴訟当事者として被害を受けた本人以外に救済活動をおこなう弁護士や社会活動家にも認めている。識字能力のない者のための配慮である。高裁や最高裁判事への私信でも訴訟の提起があったと認めている。州や中央政府への令状請求の形での訴えをみとめて、民事訴訟法の枠組みを超えて訴えを認める訴訟である。これを活用して児童労働の廃止措置を州政府に強制したり、最賃制度を順守させるための措置を州政府や中央政府に求めたりしている。社会的弱者の社会的正義が実現できるように司法の分野からの努力の表れである。

資料出所:Po Jen Yap , Holning Lau(2011) “Public Interest Litigation in Asia”London ; New York : Routledge

5 労働に関する民衆裁判所(ロック・アダラート Lok Adalats)

社会活動訴訟と並んで社会的弱者救済のための訴訟形式として編み出されたのがロック・アダラートである。インドでは裁判所での紛争処理に時間と費用がかかるために、早期にかつ安く紛争処理をおこなうために、裁判外の紛争処理としてロック・アダラートが設けられている。その根拠は1987年法律サービス庁法(Legal Services Authorities Act)にある。この法律は貧しい人達が法律を活用できるように法律扶助を与えることを目的としているが、そのうちの1つがロック・アダラートである。元裁判官、弁護士、社会事業家などが紛争の調停役となって和解によって裁定を下す。裁定は民事裁判所の判決と同等のものとされている。主に農村において活用されている。労働に係わる問題では、小作人にもなれず地主のもとで働く農業労働者の労働契約問題を扱っている。たとえば賃金額が最賃を下回っているのを是正したり、債務労働禁止法違反を根拠に地主への債務額を減額させたりして、農業労働者の救済に役立っている。

資料出所:Anpam Kurlwal (2011) “An Introduction to Alternative Dispute Resolution System (ADR)”

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:インド」