基礎情報:インド(2013年)
4. 賃金・労働時間・解雇法制

4-1 賃金制度

最低賃金制度

1948年最低賃金法(Minimum Wages Act, 1948)は主に非識字者であり、団交能力を持たない非組織部門の労働者の利益を保護することを目的としている。中央政府と州政府の両方が最低賃金額の決定や見直しの権限を持っている。中央政府は45職種、州政府は1,628職種の最低賃金額を決めている。最低賃金額は物価、生産性、支払い能力、地域などを考慮して、月額と日額の2通りが決められているが、消費者物価指数に連動して引き上げるという可変物価手当保障制度(Variable Dearness Allowance)という制度が中央および23州・中央直轄領で1989年以来採用されている。

最賃額は未熟練、半熟練・未熟練監督職、熟練・事務職、高度熟練の4つの技能水準毎に決定しているが、実際には一定の就学年数と職務経験年数によって決められている。したがって実際に熟練の技能を持っていなくても熟練の最賃額が適用になる場合がある。

中央政府は国全体の最低賃金額として、2011年4月1日から未熟練の日額を100ルピーから115ルピーに値上げした。州政府はこの額以上の最低賃金額を設定することが望まれている。実際には未熟練労働者の最低賃金額は日額で220ルピー前後になっている。

ボーナス支払い

1976年均等報酬法(Equal Remuneration Act, 1976)によって、男女が類似の労働に従事する場合、同一の報酬を支払うことを義務づけている。そこで最低賃金には男女の格差は設けられていない。

1965年ボーナス支払法(Payment of Bonus Act, 1965)によって、20人以上雇用している事業所に年間30日以上働き、月1万ルピー以下の賃金しか支払われていない労働者にボーナスの支払いを義務づけている。会計年度の労働者の賃金の8.33%または100ルピーのいずれか高い額が支払われる。これは企業が利益をあげているかどうかを問わない。

退職一時金支払い

10人以上雇用している事業所で、5年以上勤務した労働者には1972年退職一時金支払法によって退職一時金(gratuity)を支払うことが義務づけられている。年に6カ月以上勤務した場合、1年あたり賃金の15日分が退職金額となる。

資料出所:C. S. Venkata Ratnem(2006) “Industrial Relations”Oxford Univ. Press

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4-2 最低賃金額の推移

最低賃金額は州や連邦直轄地毎に異なっており、業種毎にも異なっているため、ここではデリー地域の1日あたりのもっとも低い未熟練労働者の最低賃金を表記する。日本の包括地域最賃に相当する額である。

表:デリー地域の最低賃金額
日額(単位:ルピー)
2005 121.75
2006 127.40
2007 135.25
2008 142.00
2009 152.00
2010 203.00
2011 234.00
2012 279.00
2013 297.00

資料出所:Indian Labour Statistics(2005-2009)、デリー政府ウェブサイト「最賃額発表(2010-2013)」

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4-3 労働時間制度

1948年工場法(Factories Act, 1948) (10人以上、動力を使わない場合は20人以上の労働者を雇用している事業上に適用)では、成人(18歳以上の者を指す)と14歳以上18歳未満の者は1日あたり9時間、週あたり48時間を上回らないことが規定されている。これを超える時間働く場合には通常の賃金の2倍の割増賃金を払わなければならない。週あたり1日の休日、連続して5時間以上働かないこと。最低30分の休憩時間を設ける。休憩時間を含めた拘束時間は1日最大10.5時間とされている。年次有休休暇は、前年に240日以上働いた者に、前年の労働日20日につき1日が付与される。女性労働者は午後7時から翌朝6時まで働くことはできない。

工場法が適用されない事業所では州法が規制しているので、注意が必要である。

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4-4 解雇法制

1947年労働争議法(Industrial Disputes Act, 1947)にレイオフや人員整理の場合の規制が定められている。使用者側からは厳しい規制なので緩和すべきであるという主張がなされている。100人以上雇用する事業所に適用になり、さらに非管理的業務に従事し収入が月1,600ルピー以下の者に適用される。

経済的理由による解雇、つまり人員整理の場合、(1)年間平均100人以上雇用する事業所、(2)月間平均50人以上、年間平均100人未満雇用する事業所、(3)月平均50人未満雇用する事業所または季節的あるいは断続的事業をおこなう事業所と3つに分けて規制している。

電力不足、自然災害で人員削減をおこなう場合、(1)では政府の指定した機関の認可が必要、(2)(3)ではいらない。

(1)ではレイオフ補償金として賃金の50%を支払うことが義務であるが、労働協約であらかじめ定めがあって、レイオフ期間が1年間のうち45日を超えた場合やストライキが原因の場合、他の事業所への移動拒否の場合には支払い義務がない。

(2)ではレイオフ補償金として賃金の50%を支払うことが義務であるが、労働協約であらかじめ定めがあって、レイオフ期間は1年のうち45日を超えている場合、他の事業所に移動を拒否する場合は支払う必要はない。

(3)ではレイオフ補償金の支払い義務はない。そこで、(2)と(3)では、政府の指定した機関の許可なくして、45日を超える場合にはレイオフ補償金なくして人員削減ができることになる。

人員整理をおこなう場合、(1)の場合、政府の指定した機関の認可が必要であり、事業所閉鎖の場合には90日前に認可を得ることが必要である。(2)、(3)の場合、機関に届出が必要であり、事業所閉鎖の場合には60日前の認可が必要である。(1)の場合、解雇の3カ月前の予告が必要であり、(2)(3)の場合は1カ月前の予告が必要である。3つの場合とも勤続年数1年につき15日分の解雇補償金を払わなければならない。

解雇は最後に雇用された労働者から順に解雇され、再採用される場合はその逆の順番で再雇用される。いわゆる先任権の発想が取り入れられている。

レイオフや人員整理以外の普通解雇については1946年産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment(Standing Order)Act, 1946)に定めがあるが、解雇事由や解雇手続を就業規則に定めることが規定してあるだけである。解雇には正当理由が必要であり、非行、故意の怠慢、服務違反などを就業規則に明記し、さらに解雇する前に社内で内部審査会を開催して本人の弁明の機会を与えることが必要である。これは判例法によって確立している。中央立法にはないが、州法の中には解雇予告期間の代わりに、その日数分の手当の支払を義務づけている場合もある。

事業所の経営者が変更になった場合で、以前の経営者のもとで変更の直前1年以上勤務していた労働者は解雇される場合は、事前通知と解雇補償金を受ける権利がある。これは「みなし解雇規制」(労働争議法25FF条)と呼ばれている。

資料出所:C. S. Venkata Ratnem(2006) “Industrial Relations”Oxford Univ. Press

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