基礎情報:インド(2013年)
2. 雇用・失業対策

2-1 公共職業安定制度

公共職業安定制度の方針や基準は中央レベルの労働雇用省が担当し、その運営は州政府が担当している。公共職業安定所は全国で966カ所(2011年7月現在)設置されている。その中には大学生、専門管理職、身体障害者、プランテ-ション労働者のための安定所も含まれている。1959年職業安定(求人情報公開の義務化)法が基本法である。公共部門や労働者数25人以上を雇用する民間部門は、職業安定所に求人情報を開示しなければならない。その開示には特別に雇用優先が設定される指定カースト、指定部族、その他後進諸階層、障害者ごとの数も含まれる。一定の割合で雇用を保障するために留保枠を設定しなければならないからである。

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2-2 労働者派遣制度

日本の労働者派遣制度と同じ制度はない。しかし、それに類似した制度として請負労働制度(契約労働制度)は存在する。1970年請負労働(規制及び禁止)法(Contract Labour(Regulation and Abolition)Act, 1970)によれば請負労働は一時的に生じる業務に利用することができ、恒常的な業務には利用できない制度になっている。しかし、実際にはあらゆる業務に1990年代以降利用されている。この法律は20人以上の請負労働者を雇用する事業所と、20人以上の労働者を雇用する請負業者に適用になる。請負労働者を利用するには使用者は登録証明書を取得し、請負業者は免許を取得しなければならない。請負業者は請負労働者の健康と福祉のために、食堂、照明、空調、トイレ、洗い場、飲み物、救急箱の設置が義務づけられている。賃金の支払いを使用者の代理人の面前で請負労働者に支払わなければならない。不足している場合には、使用者に支払い義務があり、あとで請負業者から回収することができる。請負労働者は請負業者に賃金の平均7%を手数料として支払い、さらには紹介してもらったお礼を支払っている事例もある。

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2-3 失業保険制度

失業保険制度は1948年従業員国家保険法(Employee State Insurance Act, 1948)の改正によって2005年から給付の1つとして設けられた。適用となる事業所は労働者10人以上雇用している工場か、20人以上雇用する店舗、レストラン、ホテル、自動車運送業、映画館、新聞社、民間の教育施設や医療施設である。労働者は月収1万5,000ルピー以下で、被保険期間が3年以上でなければならない。事業所閉鎖や人員削減、職務以外の要因による永久的障害によって失業した場合に、1年間、従前の賃金の50%相当額が失業手当として支給される。保険料は事業主が4.75%、労働者が1.75%である。限定された範囲ではあるが、インド最初の失業保険制度と言えよう。

1947年労働争議法(Industrial Disputes Act, 1947)によって解雇する場合、予告期間とともに、勤続期間1年につき平均所得の15日分の補償金を支払うことになっており、それが失業中の生活保障の意味を持っている。

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2-4 補足的な失業扶助制度

2005年農村雇用保障法(National Rural Employment Guarantee Act, 2005)によって、未熟練労働に従事する農村の家庭に対して、会計年度ごとに最低100日以上の賃金を保証する働く場を提供することによって、農村の家庭の生活の維持を図ることを目指している。特に乾季で農業のできないシーズンには有効な制度となりうる。農村での貧困撲滅政策の一環でもある。

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2-5 困難な状況にある者に対する施策

高齢者向け施策

特別に高齢者の雇用を促進する政策はない。人口構成では若者の割合が高く、その雇用をいかに確保するかが重大な課題となっている。

若者向け施策

技能開発イニシアチブ制度(Skill Development Initiative Scheme:SDIS)では、14歳以上の学校中退者や産業訓練研修所の卒業生、非組織部門の労働者を対象に雇用可能な技能単位ごとに短期間訓練を受けることができる。雇用可能な技能単位は産業ごとに業界との協議を経て決められる。週末だけの訓練や通信制で訓練を受けることも可能である。試験をパスすれば証明書を得ることができる。すでに52部門で1,260の雇用可能な技能単位が設定されている。115万人以上の者が訓練を受けている。

民間のNGOが学校を中退した者に職業訓練の機会を提供することによって国家または州段階の職業検定試験を受けて合格させ、職探しに便宜を与える活動をしている。

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2-6 年齢に関する法制度(定年等関係)

1986年児童労働(禁止及び規制)法(Child Labour(Prohibition and Regulation)Act, 1986)によって、14歳未満の労働者の危険かつ有害な16の職種、65の作業工程への従事を禁止している。それ以外の職種や作業工程には従事できる仕組みになっている。つまり、全面禁止にはなっていない。全面禁止とする法案が作成されたが、まだ成立していない。しかし、就労可能な児童の労働を認めているが、厳格な規制が定められている。19時から翌日の8時までの労働禁止、時間外労働の禁止、継続勤務3時間を超えることを禁止、継続勤務3時間内に少なくとも1時間の休憩時間の付与、週1日の休日付与、健康や安全への配慮義務が定められている。

定年年齢に関する法律は存在しないが、通常は就業規則の中で定年年齢が定められている。平均的に58 歳が定年年齢となっている。

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2-7 障害者雇用対策

1995年障害者(雇用平等、権利平等、完全参加)法が基本法として1996年2月から施行されている。障害者権利保護条約を2008年10月1日に批准した。障害者のための職業相談や職業紹介、職業訓練が実施されている。

資料出所:浅野宜之(2013)「第5章 インドにおける障害者の雇用と法制度―判例と新法制定から」小林 昌之・編(2013)『アジアの障害者雇用法制 —差別禁止と雇用促進—』アジ研選書 No.31

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:インド」