基礎情報:カンボジア(2017年)
6. 労使関係

6-1 労使関係に関する最近の動向

(1)全国レベルの労使関係

(ア)国レベルの労使関係

全国レベルの労使関係に関して、使用者の組織は「カンボジア使用者協会」(CAMFEBA)に統一されているが、労働組合は運動の路線や経緯、支持する政党の違いの関係で10を超える全国団体に分立している。全国レベルの労使対話のテーマとしては、最低賃金、労働法制、社会保障などがある。労働政策に関しては政府の審議会などで意見が交わされ、主要な課題については労使間の対話も行われているが、その関係が成熟しているとは言い難い。

2012年から2017年までの間の焦点の一つは最低賃金への対応である。手当分を含む最低賃金額は2000年の月額50米ドルから2010年の66米ドルまでは緩やかに上昇した。しかし、2012年以降は上昇のテンポがあがり、政府の審議会で労使が激しく対立し、とくに2013年前後には労働組合の全国的な賃上げを求める行動やストライキなどが首都以外にも広がり社会問題となった。2017年現在では170米ドル(手当を含めて)であるが、政府は、最低賃金について、縫製皮革産業のみを対象としていた制度を広げることを検討中である。

出所:The Secretariat of Labour Advisory Committee (LAC), 2016, “Minimum Wage Setting in Cambodia.

(イ)産業、地域レベルの労使関係

産業別の労使関係の中心は国の主力産業である繊維・被服産業にある。代表的な使用者団体は「カンボジア繊維製造業協会」(GMAC)である。労働組合は、主要な全国団体の傘下にそれぞれ繊維関係の組織があり、労使関係に一定の実態がある。このほか、観光・サービス産業、建設産業、食品産業などでは労使関係が労使関係の枠組みができつつある。教員と公務関係は労働組合の結成が認められず「労働者協会(Workers’ Association)」が組織されている。

地域(プノンペン特別市と24の州など)での労使関係は一部を除き未成熟である。使用者団体、労働団体の活動はプノンペンとその周辺が中心であり、その他では北西部のシェムリアップ、南部のシハヌークビルや工業地域などで労使間の若干の対話がみられる。

(2)企業レベルの労使関係と労使紛争

(ア)労使関係と労働協約

企業別の労使関係の中心も繊維・被服産業である。この分野では労働者の組織化が他を大きく上回っており大手企業では団体交渉と労働協約をベースとした本格的な労使関係も見られる。一方では、労働組合の分立と対立の傾向も顕著で、建設的な労使関係の進展の阻害要因となっている。エーベルト財団の調査(FES, ”Building Unions in Cambodia”, 2010)によれば、大工場には平均で4つ程度の労働組合(企業別組合や職業別組合など)が存在しており、労使間の紛争に加えて労働組合間の対立によるトラブルもあり、法的手続きを踏まえないストライキも珍しくない。

そのなかで、建設的な労使関係の形成に向けた取り組みの一つに、労働・職業訓練省による最も代表的な労働組合(MRS:Most Representative Status)のステータスの認証がある。2010年の研究者の調査によれば、2008年~2010年のMRS認証付与は年平均30強である。この制度は2016年制定の労働組合法に規定された。労働協約の2008年~2010年までの間の登録数は年間100程度であり、カンボジア全土での質の高い労働協約の数は30程度であろうと推計されている。

出所:香川孝三(2010)「アジアの労働法と労働問題(8)ILOのカンボジア工場改善プロジェクト(Better Factories Cambodia)―労働基準監督の技術協力」『季刊労働法』230号pp.167-181、等。

(イ)労使紛争の推移と現状

カンボジアの労使紛争の動向に関して、繊維・縫製産業でのストライキ件数ならびに労働損失日数の2006年~2015年までの間の推移は図表7のとおりである(GMACの統計による)。いずれも2012年から2015年にかけては、それ以前の4年間と比較して平均で2倍以上となっている。とくに2015年には、ストライキ件数、労働損失日数ともにピークを記録しているが、最低賃金の引上げが社会問題化した時期であり、企業レベルの労使関係にも影響を与えたものと思われる。一方、2016年の夏までの統計では2009年~2010年と類似のペースであり紛争が沈静化の方向を見せるかが注目される。

図表7:カンボジアのストライキの数と労働損失日数の推移(繊維・縫製産業)
  2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
ストライキ数 86 80 105 58 45 34 121 147 108 118
労働損失日数 343.7 294.1 304.4 314 202.2 139.5 542.8 888.5 526.9 452.4

注:労働損失日数は千日単位

出所:カンボジア縫製製造業協会新しいウィンドウ(GMAC)統計(加盟組織からの報告の集計)(最終閲覧2017年3月)

6-2 労使団体の概要説明

(1)労働団体について

2017年現在、カンボジアには、全国労働団体として大小13ほどのナショナルセンターが存在する。そのうち主要なつぎの三組織はいずれもITUC(国際労働組合総連合:International Trade Union Confederation)に加盟し、2012年にITUCカンボジア加盟組織協議会(ITUC-CC:ITUC-Cambodian Council)を結成している。

(ア)「カンボジア労働組合連盟」(CCTU: Cambodian Confederation of Trade Unions

カンボジア人民党(旧人民革命党・与党)系の労働組合が、2000年代の野党系労組の統合の動きをにらみ、2003年に結成した組織である。その中心は1996年に結成された「カンボジア労働組合連合」(CUF)である。政治的には与党・人民党を支持する労働組合のグループであり、現首相のフン・セン氏(人民党議長)とも近い関係にある。最低賃金や労働法制などの運動では他の二組織と行動を共にすることもあり、労使関係では対話型が基調である。

(イ)「カンボジア労働組合連合」(CCU: Cambodia Confederation of Unions

旧カンボジア民主党系(現救国党系・野党)の労働組合により2006年に結成された組織である。その中心は民主化に伴い1996年に結成された「カンボジア王国自由労働組合」(FTUWKC)である。FTUWKCは旧民主党のリーダーであったサム・ランシー氏(亡命中)に運動の理念が近い関係にある。現在は政府に対して最低賃金の引上げや労働法制改正の要求を行うとともに、企業レベルの労働争議の支援などの運動をすすめている。2016年制定の労働組合法については国際労働条約(ILO87号条約)違反としてILOに訴えている。

(ウ)「カンボジア労働総連合」(CLC: Cambodia Labor Confederation

民主化を推進する労働組合のグループのうち、政党との関係では中立的なグループがCCUとは別に2006年に結成した組織である。欧米の労働団体、支援組織から支持を受け、教育活動を行うほか、人材面でのNGOとの交流もある。経済成長に見合う労働条件の実現を求めており、最低賃金引上げについての大衆運動を組織し、2013年などにはゼネラルストライキも行っている。

(2)使用者団体について

(ア)カンボジア使用者協会(CAMFEBA: Cambodian Federation of Employers and Business Associations

2000年に結成されたカンボジアを代表する使用者団体である。2016年1月現在、7つの産業別団体など各産業分野から250を超える企業が加入する。民間の産業セクターをとりまとめ、良好な労使関係づくり、産業政策の実現、加盟組織への支援などをすすめる。政府の審議会などに参加し、産業政策や労働政策への関与を強めている。2016年の労働組合法の制定に向けてのプロセスでは、繊維産業などの産業別組織や専門家との連携を強め、法案の基本的性格や具体的内容について影響を与えるなど大きな役割を果たした。

出所:CAMFEBA新しいウィンドウのウェブサイト

(イ)カンボジア縫製製造業協会(GMAC: Garment Manufacturers Association in Cambodia

カンボジアの産業別の使用者団体のなかで、国の主力産業の組織として強い影響力を持つ。同国の繊維・被服産業は、1996年に米国が最恵国待遇を供与に伴い成長が動き出すとともに使用者団体の形成がすすみ、1999年に今日の組織として発足した。ミッションとして、産業の発展、人的資本の開発、CSRの推進などを掲げている。政府の繊維産業政策や労働政策への関与を続けており、2016年の労働組合法制定では、CAMFEBAとともに法案の形成と成立に寄与している。

6-3 労働紛争処理システム

労使紛争は個別紛争と集団紛争に分けられている。個別紛争は、使用者と1人またはそれ以上の労働者(徒弟を含む)との間の労働契約や労働協約の解釈運用をめぐる紛争と定義されている(300条)。集団紛争は、1人またはそれ以上の使用者と複数の労働者との間で生じる労働条件、組合の権利行使、組合の承認、労使関係に関する紛争と定義されている(302条)。それぞれの紛争で処理システムが異なっている。

(1)個別紛争処理

個別紛争では、労働監督官に対して一方当事者が調停を申請することができる。申し立てを受理した労働監督官は、3週間内に両当事者から意見を聴取して、当事者間の調停を試みなければならない。それで合意に達すれば法的拘束力を有する。調停は不調に終われば、2カ月以内に裁判所に訴訟を提起することができる。それをすぎると訴訟は却下される。

労働監督官は、調停の結果を報告書に記載し、それには労働監督官と当事者の署名がなされなければならない(301条)。

(2)集団紛争処理

集団紛争の場合、両当事者は労働監督官に紛争発生を通知しなければならない。通知がなくても労働監督官は紛争を認識したときに調停手続に入る(303条)。通知を受けて48時間以内に労働大臣は、調停員を任命しなければならない(304条)。任命から15日以内に調停を実施しなければならない(305条)。その結果、合意ができれば、それは労働協約と同じ効果を持つ(307条)。調停が不調に終わった場合、調停員は争点を記録した報告書を作成し、調停終了後48時間以内に労働大臣に送付しなければならない(308条)。

調停が不調に終わった場合、労働協約における仲裁手続か、すべての当事者が合意する手続、またが労働法上の仲裁手続に入らなければならない(309条)。

調停員からの報告を受けた労働大臣は、3日以内に仲裁委員会に付託しなければならない。事件を受理した仲裁委員会は3日以内に期日を開催しなければならない(310条)。

仲裁委員会は政労使それぞれ5名、合計15名で構成されており、政府側の委員は法学士またはそれに相当する法律上の資格を有し、道徳的資質や経済社会問題に精通する有識者から選ばれる。労働者側の委員は労働諮問委員会の労働者委員によって選出され、労働法の知識を有し、少なくとも1年以上労働問題や紛争処理の経験を有している者である。過去1年間労働組合の役員であった者は委員になれない。使用者側の委員も労働諮問委員会の使用者委員によって選出され、労働法の知識を有し、少なくとも1年以上労働問題や紛争処理の経験を有している者である。過去1年間使用者団体の役員は委員になれない。

仲裁委員会は、調停不調の際の報告書に記載された論点や報告書作成以後に生じた紛争についての調査する義務を負う。労働法規、労働協約の解釈運用についての法的判断をおこなう。企業経営の状況や労働者の社会的状況を調査する権限も有する。そのために必要な情報、会計、財務等の書類の提出を求める権利を有する。それらを解明するために、専門家の支援を求めることもできる。仲裁委員会の期日は非公開で実施される。

具体的な紛争については政労使それぞれ1名、合計3名の小委員会(arbitration panel)で取り扱われる。そこで両当事者が拘束力のある裁定を希望する場合には、裁定がだされればそれで拘束力を持つ。拘束力を持たない裁定を当事者が希望する場合、出された裁定をみて、通知を受けて8日以内に同意する場合はそれで拘束力を持つ。同意しない場合には、紛争が権利紛争のときには裁判所に付託されるか労働争議(ストライキやロックアウト)に入っていく。利益紛争のときには労働争議に入っていく。仲裁委員会は受理してから15日以内に裁定の結果を労働大臣に報告しなければならない。拘束力のある裁定は、労働監督官のいる事務所に掲示される。さらに利益紛争の裁定は労働職業訓練省に労働協約と同じ方法で登録されなければならない。

(3)ストライキとロックアウト

ストライキ権は、紛争解決のためのあらゆる手続によって合意に至らない場合に行使することが認められている。つまり団体交渉で解決せず、仲裁にも合意できない場合である(320条)。しかし、労働協約や仲裁裁定が有効な期間のストライキはできないという平和義務が定められている(321条)。ストライキを実施するためには、組合による秘密投票で承認を得ること、使用者および労働職業訓練省に7日以上(生命、安全、健康に危害を加える業務の場合は15日以上)前に事前に通知をすることが組合に義務づけられている(324条、327条)。さらにストライキは平和的に実施されなければならない(330条)。これらに違反すると違法なストライキとなる。ストライキが違法かどうかは裁判所の判断にゆだねられている。違法と判断されれば、労働者は判決後48時間以内に職場復帰しなければならない(337条)。

さらに施設設備や機材を維持するために保安要員を確保することが義務づけられている(326条)。保安要員はその業務に従事しなければならない。それをおこなわない場合は重大な企業秩序違反行為とみなされる(327条)。

ストライキ中は、労働者は賃金を受ける権利を持たない(332条)。ストライキ参加を理由に労働者に制裁を課すことはできず、もしその制裁がなされても無効となり、使用者は過料を科せられる(333条)。ストライキ中、使用者は新規に労働者を雇用することは、事業維持に必要な場合を除いて禁止されている(334条)。

職場から労働者を締め出すロックアウトは、ストライキに関する規定が適用される。違法なロックアウトがなされた場合、使用者は労働者に損害賠償を支払わなければならない(335条)。

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