基礎情報:カンボジア(2017年)
4. 賃金・労働時間・解雇法制等労働条件
4-1 労働契約と就業規則
(1)労働契約
労働契約には期間の定めのある場合と、期間の定めのない場合がある。前者の場合、労働契約は書面で締結され、明確に契約終了日が書かれなければならない。休職中の労働者の代わりに雇用されている場合、季節的業務、臨時の追加作業や企業で通常おこなわれない業務の場合は、契約終了日が書かれていなくても、その期間の終了によって契約は終了となる(労働法67条4項)。契約期間は2年を超えない範囲で、更新できる(67条2項)。だが、この解釈をめぐって対立がある。労働職業訓練省は更新期間が2年を超えないかぎり、何度でも更新が可能になるとしている。これに対して、仲裁委員会は更新期間が全体で2年を超える場合は、期間の定めのない労働契約に転換する(67条3項)と解釈している。
有期の労働契約が書面で締結されていない場合、無期の労働契約として取り扱われる(67条8項)。2年未満の有期の労働契約については、当事者が異議なく期間満了後も平穏に労務提供をしている場合は、無期の労働契約となる(97条9項)。
無期の労働契約は口頭でも書面でも効力が生じる(65条)。口頭の場合に、労働契約の内容が定められていない場合は、労働法に定められている条件に従うという内容の黙示の合意がなされたものとみなされる。
試用期間は労働者の職業適性を判断するためと、労働者が職場環境や労働条件を理解するための期間と定義されており、正規の労働者の場合3カ月、専門職の場合は2カ月、専門性のない労働者の場合1カ月を超えることができない。試用期間中、住居を離れて勤務する場合、交通費を使用者が支払わなければならない(68条)。
1日単位や時間単位で雇用され短期間で契約が終了する場合は、有期の労働契約と看做されている(67条7項)。これはパートタイマーを対象としているが、あくまでも短期のパートタイマーに限っている。
徒弟は使用者との間で訓練を受けるために徒弟契約を締結する。期間は最長2年を超えてはならない(51条)。この契約は公正証書または書面の契約書でなければ無効となる(52条)。
労働者は労働契約の範囲内で、職務に専念する義務を有するが、労働時間外には勤務先の企業と競合しないで、かつ業務に悪影響を与えない事業活動に従事できる(69条)。従って、労働時間外に、労働者が活動することを禁ずる契約は無効となる(70条)。複数の仕事を持たなければ、生活を維持できないというカンボジアの現実を考慮したものと考えられる。
労働契約とは別に、カンボジア国籍を有する労働者は雇用票(employment card)を所持していなければならない(32条)。雇用票は、労働監督官によって作成され、発行される(34条)。雇用票は、その所持者、労働契約の性質、契約期間、賃金額および支払方法を確認することを目的としており、採用、解雇、賃金額を雇用票に記録されなければならない(34条、37条)。
カンボジア労働法の特徴的なことではあるが、請負契約に関する規制が労働法に規定されていることである。労働請負人に使用者としての責任が課せられ(47条)、それが破産や債務不履行に陥った場合、発注元が請負人の代わりに責任を負う(48条)。請負人は発注元の氏名・住所を作業場に掲示し(49条)、発注元はいつも労働請負人の氏名・住所・身分を記載した一覧表を閲覧できる状態にしておき、それは労働監督官に契約締結日から7日以内に送付しなければならない(50条)。
(2)就業規則
8名以上を雇用する使用者は就業規則を作成する義務がある(22条)。会社設立後3カ月以内に、労働者代表と協議をして作成されなければならない(注)。就業規則は労働監督官に送付されて、60日以内に承認を受けなければ効力を生じない(24条)。承認を受けやすくするために、モデル就業規則に従って就業規則を作成している場合が多い。労働協約に定める労働条件や労働法規に違反する就業規則の規定は無効となる。労働監督官は就業規則の規定の修正を使用者に求めることができる(25条)。就業規則を周知されるために作業場の容易に閲覧できる適当な場所に掲示しなければならない(29条)。
モデル就業規則には以下の項目が記載されている。採用条件、採用前の手続、労働者の身上の変更手続、訓練、試用期間、業務の仕方、採用時の健康診断、採用後の健康診断、深夜労働・時間外労働、休日、年間休日・祝日・特別休暇、出産休暇、傷病休暇、労災による休業、給与・ボーナス・諸手当、給与の支払方法、給与の減額、欠勤、休暇、無断欠勤、備品の利用、施設の利用、違反行為の場合の処罰、安全衛生、労災予防である。
注:労働法283条で、8人以上常時雇用する企業または事業所は労働者代表を選ぶ義務がある。したがって従業員が7人以下の企業や事業所では労働者代表がいなくても構わない。
4-2 最低賃金制度
最低賃金額は、労働法357条に基づき労働諮問委員会が政府に勧告する額によって決められている。この委員会は政府代表14名、使用者代表7名、労働者代表7名で構成されている。この委員会は専門的な作業部会を設置することができる。作業部会は三者同数の委員から構成され、賃金額の実態調査をして、いくら最低賃金をあげるのが妥当かについて労働諮問委員会に報告する。毎年7月にそれぞれの政労使の代表者委員ごとに検討を始め、8月から労使、政労、政使の二者間の話し合い、9月から政労使の三者間の話し合いを始め、10月には最低賃金引き上げ額を決定して、翌年1月1日から施行するという日程ができている。最低賃金額はコンセンサス方式が採用されているが、それで決まらない場合には投票による過半数以上によって決定される。労働諮問委員会によって勧告された額が政府案として出されるが、フン・セン首相の指示によって引き上げられる場合もある。2015年、2016年、2017年の最賃額の決定では、政府案の額に首相の指示によって5ドル上乗せされた。地方選挙や中央選挙という政治的事情を配慮して引き上げが決定されるとも言われる。
2016年から最低賃金額を決める要素は、家族の状況、インフレ率、生計費という社会的基準、生産性、競争力の確保、労働市場の状況、各部門の利益率という経済的基準の7つの要素からなっている。これはILO条約第131号の最低賃金決定に関する条約の3条に定められているものである。
現段階では縫製業・靴製造業組合に加盟している事業所にのみ最低賃金額が適用されている。しかし、この最低賃金額が他の企業や事業所の賃上げに大きな影響を与えている。
2017年1月1日施行の最賃額は月153ドル、出勤手当は月10ドル、通勤および住居手当は月7ドルで合計170ドルである。試用期間中の者は5ドル低くすることが可能になっているので、最賃額は135ドルとなる。出来高払いの場合には、出来高が最低賃金を上回った場合は出来高給与、下回った場合は最低賃金額が保障されなければならない。
現在カンボジアのすべての労働者に適用される最低賃金を定める法案が検討されている。
4-3 最低賃金額の推移
最低賃金額の推移を示したものが図表2である。最低賃金額の上昇率が2013年は31.1%、2014年は25%、2015年は28%と急激に高くなっているが、2016年9.4%、2017年9.3%と少し落ち着いてきている。
施行日 | 最低賃金額 (ドル) |
皆勤手当 (ドル) |
通勤および 住宅手当(ドル) |
合計 (ドル) |
引上げ率 |
---|---|---|---|---|---|
1997年 | 40 | 40 | ― | ||
2000年8月1日 | 45 | 5 | 50 | 25% | |
2007年1月1日 | 50 | 5 | 55 | 10% | |
2008年4月1日 | 50 | 5 | 6(生計手当) | 61 | 10.9% |
2010年10月1日 | 61 | 5 | 66 | 8.2% | |
2011年3月1日 | 61 | 7 | 68 | 33.3% | |
2012年1月1日 | 61 | 7 | 5(健康手当) | 73 | 7.4% |
2012年9月1日 | 61 | 10 | 7(通勤手当)+ 5(健康手当) |
83 | 13.7% |
2013年5月1日 | 80 | 10 | 7(通勤) | 97 | 16.9% |
2014年5月1日 | 100 | 10 | 7(通勤) | 117 | 20.6% |
2015年1月1日 | 128 | 10 | 7(通勤) | 145 | 23.9% |
2016年1月1日 | 140 | 10 | 7(通勤) | 157 | 8.3% |
2017年1月1日 | 153 | 10 | 7(通勤) | 170 | 8.3% |
注1:通勤および住宅手当の額は勤務日数が月14日以上の場合の額を示している。勤務日数が月13日以下の場合は、半額になる。
注2:2012年1月から義務化された健康手当は、2013年5月の引上げの際、61ドルから75ドルへの引き上げに伴って廃止され、最低賃金額に組み込んだ結果として80ドルとなった。
参考:ILO (2016) “How is Cambodia’s minimum wage adjusted? ,” Cambodian Garment and Footwear Sector Bulletin, Issue 3, March 2016(PDF:535KB)等を参照。
4-4 労働時間制度
(1)所定労働時間と変形労働時間制
所定労働時間は1日8時間および1週48時間を超えてはならない。これは基本として週6日勤務することを前提としている。ただし、いくつかの例外的措置として変形労働時間制を認めている。
土曜日の午後を休日とすることや、ウィークデイの1日の午後を休日とする場合、1日あたり1時間を超えないという条件で、つまり1日9時間までの労働時間とすることができる。この条件のもとで、週48時間の枠内で労働時間を配分することができる。
週単位の平均で1週間あたり48時間を超えず、1日の労働時間が10時間を超えない、かつ1日あたりの追加の労働時間が1時間を超えないという条件のもとで、週以外の区切りによって労働時間を配分することができる。たとえば、1月単位(31日の場合)で先の条件のもとで、総所定労働時間が48×31/7=212.5時間を超えないで時間配分を行うことができる。
(2)労働時間規制の免除
通常業務時間外でなされる予備的または補助的業務、断続的業務の場合には、恒常的に労働時間の規制を免除される(141条3項)。この場合、労働職業訓練省の許可が必要となる。
さらに、季節的業務や以下の場合には、一時的に労働時間の規制免除を受けることが認められる。この場合も、労働職業訓練省の許可が必要となる。
- 深刻または切迫した事故、不可抗力、機械や設備の維持のための緊急な作業
- 傷みやすい原材料の損失や作業の結果損なわれることを防止する場合
- 資産目録、貸借対照表の作成、清算や決算のための作業
- 他にとりうる手段がなく、超過労働を認める場合
さらに、戦争や国家の安全が脅かされる事態が生じた場合には、労働時間の規制を停止することができる。
(3)残業時間と割増賃金
残業は、特別かつ緊急の場合に例外的に可能とされている。残業時間は1日2時間に制限されている。この場合、労働職業訓練省の許可が必要である。15日前までに申請する必要があり、2カ月先までの許可を受けることができる(1999年残業時間に関する労働省令3条)。
残業に伴う割増について、50%の割増賃金、22時から翌日の5時までの夜間の残業について、または週休における残業については、100%の割増賃金が支払われなければならない。祝日の労働の場合は、100%の祝日手当が支払われなければならない(164条)。
縫製や製靴に従事する労働者には、食事を無料で提供するか、食事手当として2,000リエルの現金を給付する必要がある。
勤務スケジュールは各企業の業務や性質に応じて作成できるが、シフト制を採用する場合は、通常、午前と午後にシフトを組むことができる。夜間の勤務シフトを設ける場合、昼間の賃金の30%の割増賃金を支払う義務がある。
残業の割増賃金は管理職にも支払われなければならない。日本とは違って、割増賃金について管理職を非管理職と別に扱う規定がないからである。
(4)労働時間の埋め合わせ(代休)
偶発的事故や自然災害、休日や地方の祭や催事によって、大規模な業務の中断や業務の遅延によって失われた労働時間を埋め合わせる制度が設けられている。残業によって処理するのではなく、労働時間の埋め合わせという制度で、労働時間の延長を労働省令によって認めている。1年に30日以上の労働時間の埋め合わせは認められない。業務再開後15日以内に実施しなければならない。農業の場合は、1カ月以内になっている。1日あたりの労働時間の延長は1時間以内であり、1日10時間を超えることはできない(140条)。
(5)週休制
週7日労働させてはならないという規制があり、少なくとも連続して24時間の週休を付与することが義務づけられている。したがって週1日の休日の保障が求められている。しかも、原則として日曜日に週休を付与することになっている。しかし、例外として、全員が日曜日に週休を取得すると、社会に不利益をもたらしたり、業務に支障が生じる場合は、別の曜日や、日曜日の午後から月曜日の正午までの時間帯や、シフト制で週休を取得することができる(148条)。
シフト制による週休制を認められるのは、生鮮品製造業、ホテル・レストラン・バー、生花店、病院・診療所・薬局等の医療機関、公衆浴場、新聞社・芸能・博物館、車両貸出業、電気・水道・機械動力企業、陸運業、腐りやすい原材料を扱う企業、安全・衛生にかかわる企業が含まれている(149条)。
救助活動、事故防止、原材料や機械設備の復旧作業などの緊急事態が生じた場合は、週休を停止することができる。その代わり代休が付与される。日曜日に週休がとれない守衛や管理人は、別の曜日に代休をとらなければならない(152条)。小売店で地方の休日と週休が重なる場合、季節産業や傷みやすい物または悪天候に影響を受けやすい食品加工業の場合、労働監督官の許可によって週休を取り消すことができる。取り消されると翌週に代休をとらなければならない。悪天候のために数日間の休日を取らざるをえない場合は、月に最大2日間、週休を減らすことができる。
集団的に週休をとる場合、週休の予定表は目につきやすいこところに貼り出さなければならない。集団的にとらない場合は、個々の労働者ごとの週休日を特定した表を作成しなければならない(158条、159条)。
週休の停止を希望する経営者は、その理由、週休停止の期間、停止される労働者の数、代休の予定を示して、労働監督官の許可を得なければならない。申請から4日以内に通知がなされなければ許可されたものとされる(160条)。
(6)有給の祝日
毎年、労働職業訓練省は有給の祝日を省令で発布する。年によって日時が異なっているためである。祝日が日曜日と重なる場合、翌日は休みとなる。この祝日は賃金カットの対象ではなく、有給である。祝日も労務提供が不可欠な企業では、労働者に賃金のほかに、それと同額の残業手当を支払わなければならない。祝日のために労働時間が失われた場合、労働時間を埋め合わせることができ、それは通常の労働時間とみなされる(165条)。
1月1日 1月7日 2月11日 3月8日 4月14日~16日 5月1日 5月10日 5月13日~15日 5月14日 6月1日 6月18日 9月19日~21日 9月24日 10月15日 10月23日 10月29日 11月2日~4日 11月9日 12月10日 |
新年 ポルポト政権からの解放の日 ミァック・ボーチャ祭 国際婦人デー カンボジア正月 メーデー ピサック・ボーチャ祭および仏陀生誕記念日 シハモニ国王誕生日 王室耕作祭 国際子どもの日 モニク前王妃誕生日 プチュン・バン(お盆) 憲法記念日 シハヌーク前国王の他界記念日 パリ和平条約記念日 シハモニ国王即位記念日 水祭 カンボジア独立記念日 国際人権の日 |
(7)年次有給休暇
週の所定労働時間によって、月の有給日数が決められている。週48時間勤務する場合、1カ月勤務する毎に1日半の割合で有給休暇を取ることができる。そこから年の有給日数を図表4のように計算できる。勤続3年ごとに1日の割合で増加する(166条)。
週所定労働時間 | 月の有給日数 | 年の有給日数 |
---|---|---|
48時間 | 1.5日 | 18日 |
40時間 | 1.25日 | 15日 |
32時間 | 1日 | 12日 |
24時間 | 0.75日 | 9日 |
有給休暇を取得する権利は勤務開始日から発生するが、勤続1年が経過しなければ実際に行使することはできない。その結果、勤続1年になる前に退職する場合は、有給休暇日数を買い上げなければならない(166条)。
有給休暇は原則としてクメール正月に取得する。別の合意によって別の日に取得する場合は、労働監督官に申告しなければならない。クメール正月にまとめて年休を取得して、農村からプノンペンなどの都市に出稼ぎのため働きにきている労働者が農村に里帰りをするために年休が利用されている実態を反映している。15日を超える年休日数について、残りの休暇を年内に取得するようにしなければならない。
有給休暇を放棄する、または免除するという合意や、買い上げをするという労働協約はすべて無効となる。ただし、労働契約が終了する場合に年休が残っている場合に買い上げることは認められている(167条2項)。しかし、有給休暇の一部または全部を留保すること(日本法で言えば年休の繰越)は放棄とはみなされない。この留保は連続して3年を超えることはできない。さらに留保できるのは有給日数のうち12日を超える日数についてのみ可能となる(167条)。
(8)特別休暇
親族にかかわる出来事(結婚式・出産・病気・死亡など)が起きた期間中、特別休暇を年間7日間取得することができる(171条)。年休日数が残っている場合には、そこから特別日数分を差し引くことができる。残っていない場合に、翌年の年次休暇から差し引いてはならない。特別休暇で失われた労働時間は埋め合わせることができる。
(9)病気休暇
医師の診断書があれば、病気休暇が認められる(71条)。6カ月以上続く場合には、解雇する権限が使用者に認められている。病気休暇中の給与は2002年労働省令14号によって、図表5のように就業規則に定めることが推奨されている。
病気休暇期間 | 給与減額 |
---|---|
1カ月目まで 3カ月まで 4カ月から6カ月まで |
給与100% 給与60% 給与の支払いなし |
(10)出産休暇
90日間の出産休暇が認められている(182条)。これは産前と産後をあわせた日数である。したがって、産前休暇をいつとるかは妊産婦の意思や健康状態によって決められる。1年以上勤続した女性は、出産休暇中、給与その他の手当の半額を受け取ることができる(183条)。出産休暇後2カ月間は軽作業のみしか従事させられない。出産休暇中、または解雇予告期間の最終日が出産休暇中に到来する時期に、女性を解雇することが禁止されている(182条)。
生後1年以内の子どもを持つ女性は、1日あたり1時間の有給の授乳時間をとることができる。30分ずつ2回に分けることもできる(184条)。どの時間にとるかは母親と使用者との合意で決められる。合意がなければシフトの中間に取得するものとする。授乳時間は通常の休憩時間とは区別され、賃金を差し引くことはできない(185条)。
100人以上の女性を雇用する企業では、事業所内やその近くで、授乳室および生後18カ月以上の子どもを預かる保育所を設置しなければならない。保育所を設置しない場合には、保育所に預ける費用を使用者側が負担しなければならない(186条)。
4-5 解雇法制
解雇に関しては、有期労働契約と無期労働契約に分けて規制されている。有期労働契約の場合、2年を超えることはできないが、2年を超えない範囲で更新することは可能である(67条)。満了前に解約する場合、重大な非行や不可抗力の場合には可能となる。さらに満了前に終了させたい場合には、終了までの報酬に相当する額を支払えば可能である。金銭の支払いによって処理するという発想が見られる。
有期労働契約の期間が6カ月以上の場合には、更新するかどうかを終了10日前までに予告しなければならない。期間が1年以上の場合には、15日前に予告しなければならない(73条)。この事前の更新しない予告がない場合、同じ期間延長に限られるという説と、雇用期間を合計すると2年を超える場合は期間の定めのない労働契約に転換するという説がある。
無期労働契約の場合、一方当事者の意思によって契約を終了させることができる。ということは労働者側が退職する場合や使用者側が労働者を解雇する場合の両方を規制していると見ることができる(74条)。事前の予告期間が図表6のように求められる(75条)。
勤務期間 | 予告期間 |
---|---|
勤続期間が6カ月以下の場合 勤続期間が6カ月を超え2年以下の場合 勤続期間が2年を超え5年以下の場合 勤続期間が5年を超え10年以下の場合 勤続期間が10年を超える場合 |
7日 15日 1カ月 2カ月 3カ月 |
予告期間を遵守せずに解雇する場合は、予告期間中に受け取る賃金および手当に相当する金額を使用者は払わなければならない。この場合、短期の労働契約を繰り返す方が、労働者にとって受け取れる額が有利になっている。これは長期間継続して雇用されるより短期で転職を繰り返す者が多いことを反映しているのではないかと思われる。
予告期間は再就職先を探すことが目的なので、週あたり2日の有給の休暇を労働者は取得することができる(79条)。予告期間中に再就職先を見つけた場合、重大な非行で解雇される場合以外の場合には、予告期間満了前に、労働者は退職することができる、この場合、労働者は使用者に賠償金を払う必要はない。転職しやすい状況を保障していると思われる。
以下の場合には、予告期間が必要なくなる。つまり、試用期間またはインターンシップの期間、重大な非行がある場合、不可抗力で義務を履行できない場合である(82条)。
「重大な非行」とは、83条Bによれば、労働者の窃盗、着服、横領、詐欺行為、懲戒や安全、健康についての重大な違反行為、脅迫、暴言、暴行、他の労働者に不履行をそそのかす行為、事業所での政治的プロパガンダ、活動やデモ行為があげられている。ただし、重大な非行を認知してから7日以内に解雇しなければ、解雇権を放棄したものとみなされる(26条)。
使用者が労働者の重大な非行以外で、労働契約を終了させる場合、予告期間だけでなく、解雇補償金を支払わなければならない。これは勤続期間によって額が異なってくる。額は6カ月分の賃金と付加給付を超えることはできない(89条)。
- 継続勤務が6~12カ月の場合
- 6日分の賃金と付加給付
- 12カ月以上の勤務の場合
- 1年あたり15日分の賃金と付加給付
さらに使用者の悪意や不当な理由によって労働契約が終了された場合には、労働者が損害賠償金を請求することができる。この時、先の解雇補償金と同額の損害賠償金の支払を求めることができる。さらに損害賠償の額は地方の慣習、仕事の種類や重要性、労働者の年齢、損害の有無や範囲を考慮して裁判所が認定する(94条)。
労働者が不法に労働契約を破棄し、別の仕事に従事した場合には、それが新しい使用者の勧めでなされた場合には、その新しい使用者と労働者は、前の使用者に損害賠償を支払う義務が生じる(92条)。
解雇する場合には、予告期間を設ける必要があるだけでなく、労働者側の勤務態度の問題等の解雇を正当とする理由を挙げる必要性や企業、事業所が操業を継続していくためには解雇以外の手段がない等の理由を挙げる必要がある。
前者の労働者の意欲や態度に関する正当な理由については具体的な内容は定められていない。12条では、人種、肌の色、性別、信条、宗教、政治的意見、出生、社会的出自、労働組合員やその活動をしていることを理由とする差別が禁止されており、解雇も禁止と解釈されている。293条では、企業や事業所の職場委員(労働組合法43条では、任期を終了して3カ月以内の職場委員や職場委員選出の投票で落選して3カ月以内の候補者も含まれる)が解雇される場合、労働監督官の承認が必要になっている。通知を受けてから1カ月以内に労働監督官は職場委員の解雇を認めるか、取り消すかの判断を示さなければならない。組合委員長、副委員長、書記長の解雇の場合には労働監督官の承認が必要とされている。これらは先任権のルールが組合役員には適用されないことを意味している。182条では、産前産後の90日間の休業中の解雇も禁止されている。
事業所の業務の縮小、内部組織の再編によって、人員整理が必要な場合、使用者は人員整理の対象となる従業員について労働者代表に通知し、さらに労働監督官に連絡する必要がある(95条)。職業上の資格、先任権、家族の負担を考慮して、職業上の能力の低い者、勤続年数の短い者が、人員整理の対象となる。既婚者には1年ごとに先任権が加算され、扶養している子どもの数だけの年数が加算される。労働監督官は、人員整理による影響を最小にするために、使用者や解雇予定の労働者を複数回呼び出して調査をおこなうことができる。
人員整理された労働者は、解雇から2年間は、復職する権利が保障され、そのために企業に住所変更を通知し、配達記録や書留郵便で復職の連絡が使用者からなされる。労働者は、1週間以内に事業所に出向かなければならない(95条)。
解雇がなされた場合、雇用票(労働者台帳)に記録され、その記録は査証をうけるために、解雇の翌日から7日以内に労働監督官に提出されなければならない。さらに使用者は未消化の有給休暇を買い取る必要がある(110条)。
一方、カンボジアでは民法が2007年に制定され、同年12月8日に公布、施行された。その民法の第9章が雇用について664条から668条まで規定している。それらの中で解雇に関係するのは、667条の一身専属性を定めたところである。労働者が使用者の承諾なく、自己に代わって第三者を労務に服することはできない。それに反して使用者の承諾なく、第三者に労務に服させた場合、使用者は雇用契約を解除、つまり解雇することができる。それ以外は、668条には労働法の定めによって処理されることを明記している。
解雇は、個別紛争手続によって解決されている。一方当事者から労働監督官に申し立てがなされ、労働監督官は受理してから3週間以内に当事者から事実関係を聴取して調停を試みる。そこで合意が成立すれば、労働協約として法律上強行される。しかし、合意が成立しない場合、調停が失敗した日から2カ月以内に裁判所に提訴することができる。2カ月を過ぎれば訴訟は却下される。労働裁判所の設置が予定されているが、まだ設置されていないので、一般裁判所で処理されている。2006年民事訴訟法が日本の支援を受けて制定され、施行されているので、その手続に従って裁判所で処理されることになる。
参考レート
- 100カンボジア リエル(KHR)=2.75円(2017年10月16日現在 Exchange-Rate.org
)
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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:カンボジア」