基礎情報:カンボジア(2017年)
5. 社会保障制度

社会保障制度の基本法として2002年8月に「労働者のための社会保障法」が制定され、その運用を定めた国会社会保障基金設置に関する政令16号が2007年に発布された。年金、医療保険、労災保険を実施する予定になっているが、現段階では労災保険だけが実施されている。

5-1 公的年金制度

公務員・軍人・警察官の場合には、勤続20年以上で55歳から支給される全額国庫負担による年金制度がある。しかし、民間ではまだ実施されていないが、3種類の年金制度を準備している。

老齢年金は、55歳以上で、過去20年間のうち10年間に60カ月以上年金保険料を納付した者に支給される予定である。

障害年金は、過去5年間のうち、直近12カ月間に6カ月以上の年金保険料を納付した者に支給される予定である。

遺族年金は、老齢年金または障害年金を受給していた者が死亡した場合、加入者であって死亡した場合、年金保険料を180カ月以上支払っていた場合に、その遺族に支給される予定である。

出所:Law on Common Statute of Civil Servants of the Kingdom of Cambodia, 1994 Law on Social Security, 2002

5-2 医療保険制度

公的な健康保険制度は導入されていない。HIV/AIDS、マラリア、結核、デング熱という感染症、地雷によって生じる死亡や障害がカンボジアでは大きな問題である。国際NGOや海外のODAからの支援を得て治療が実施されている地域がある。

民間の保険会社が健康保険を運営しているが、加入者は限られている。

出所:ILO Subregional Office for East Asia ed., Cambodia: SKY Health Insurance Scheme, SERIES: SOCIAL SECURITY EXTENSION INITATIVES IN EAST ASIA (PDF:1.0MB)新しいウィンドウ

5-3 労働災害補償

労働災害は、労働に起因する事故・病気を意味し、労働時間中だけでなく通勤途上(仕事と関係のない理由で通勤が中断または迂回された場合は除く)や職業病も含まれている(248条、257条)。使用者には労働災害防止の義務や、安全配慮義務が課せられている(229条、230条、250条)。その具体的内容は労働法228条から232条、238条から247条、労働職業訓練省令によって定められている。

意図的に事故をおこした場合は使用者には責任は生じない。労働者が重大な過失によって生じた事故の場合は補償額が減額され、使用者の重大な過失で発生した場合、補償額は増額される(252条)。

使用者は労働災害の疑いのある事故・病気が発生した場合、48時間以内に労働職業訓練省および国家社会保険基金に書面で通知しなければならない。労災給付金を受けるためには、必要な書類を添付して国家社会保険基金に申請しなければならない。

労働災害補償として労働法に規定されている内容と、国家社会保険基金から支給される労働災害給付金とは同じにはなっていない。保険制度によってカバーされる内容には保険制度として維持する必要性から、限界があるからである。そこで労働法による補償が上回っている場合、その差額を使用者に申請することになる。

業務上の病気に対して病院での治療費と病院に通う交通費が保険制度から支払われる。労働法では治療費(入院費用、現物支給、投薬、手術費用)だけでなく、人口装具の費用も含まれている(254条)。

一時的に入院などで労務提供ができない場合、労働法によれば、事故によって5日以上の労働能力喪失が生じた場合に限って、使用者に補償を請求できるとしている。4日以下の場合は、通常の賃金を受ける権利を有する(252条)。5日以降は、1日あたり、過去30日間の総賃金額を30で割った額が支払われる。これに対して、保険制度では、最大180日間、1日あたり平均賃金の70%が支払われる。

障害を負って、労働能力喪失率が20%を超える場合、障害年金が支給される。その額は障害の程度によって異なる。2002年労働職業訓練省令243号によれば、以下のようになっている。

労働能力喪失率が50%以上の場合、過去12カ月の総賃金の50%の額、労働能力喪失率が20%以上50%未満の場合、過去12カ月の総賃金の25%と(労働能力喪失率x1.5-75%) である。介護が必要な場合は、上記金額の1.4倍の障害年金が支払われる。

労働者が死亡した場合、遺族に遺族年金が支払われる。額は配偶者には年収の30%、子の1人目と2人目には年収の15%ずつ、3人目からは10%とし、総額では年収85%を上限とする。

葬儀費用として労働法では90日の賃金相当分以上が支払われるとなっているが、保険制度では1,000,000リエルが支払われる。

5-4 社会保険料の労使負担割合

労災保険の保険料は使用者の負担であるが、その額は平均月給の0.8%になっている。月給2万リエル以下の場合1,600リエルが最低の保険料となっている。最高額は月給1,000,001リエル以上で8,000リエルの保険料となっている。

出所:IM Phalla, PHO Sotheaphal and NHEAN So Munin, 2014, Employment in Cambodia- A Legal Practice & Guidance, p.71.

参考レート

  • 100カンボジア リエル(KHR)=2.75円(2017年10月16日現在 Exchange-Rate.org新しいウィンドウ)

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:カンボジア」

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