基礎情報:中欧・東欧(2005年)

基礎データ

ポーランド

  • 国名:ポーランド共和国 (Republic of Poland)
  • 人口:3,817万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:3.2% (2005年)
  • GDP:4,223億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:1,1100ユーロ (2005年、PPS)
  • 労働力人口:1,702万人 (2004年)
  • 就業者数:1,379万人 (2004年)
  • 失業率:17.7% (2005年)

ハンガリー

  • 国名:ハンガリー共和国 (Republic of Hungary)
  • 人口:1,010万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:4.1% (2005年)
  • GDP:1,377億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:13,600ユーロ (2004年、PPS)
  • 労働力人口:415万人 (2004年)
  • 就業者数:390万人 (2004年)
  • 失業率:7.2% (2005年)

チェコ

  • 国名:チェコ共和国 (Czech Republic)
  • 人口:1,022万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:6.0% (2005年)
  • GDP:1,625億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:15,900ユーロ (2004年、PPS)
  • 労働力人口:512万人 (2004年)
  • 就業者数:469万人 (2004年)
  • 失業率:7.9% (2005年)

スロバキア

  • 国名:スロバキア共和国 (Slovak Republic)
  • 人口:538万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:6.0% (2005年)
  • GDP:632億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:11,700ユーロ (2004年、PPS)
  • 労働力人口:265万人 (2004年)
  • 就業者数:217万人 (2004年)
  • 失業率:16.4% (2005年)

ブルガリア

  • 国名:ブルガリア共和国 (Republic of Bulgaria)
  • 人口:776万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:5.6% (2004年)
  • GDP:535億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:6900ユーロ (2004年、PPS)
  • 労働力人口:332万人 (2004年)
  • 就業者数:292万人 (2005年)
  • 失業率:9.9% (2005年)

ルーマニア

  • 国名:ルーマニア (Romania)
  • 人口:21,66万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:4.1% (2005年)
  • GDP:1,581億ユーロ (2004年、PPS)
  • 一人あたりGDP:6,500ユーロ (2003年、PPS)
  • 労働力人口:990万人 (2004年)
  • 就業者数:910万人 (2004年)
  • 失業率:7.7% (2005年)

資料出所:欧州統計局(Eurostat)

概況

2004年5月の中東欧10カ国のEU加盟に続き、2007年1月にはブルガリア及びルーマニアのEU新加盟が予定されており、またトルコ、クロアチアも2005年10月から加盟交渉を開始するなど、近年東欧諸国のEU加盟の動きが活発化している。

中東欧諸国にとってEU加盟は、安全保障上の問題もさることながら、経済再建の重要な意味を持っている。1989年の東欧革命以後、中東欧諸国は社会主義体制から資本主義体制への転換を進めてきたが、その具体的な経済改革はEU加盟の基準を達成するというプロセスの中で実現されてきたと言える。一方EUにしても、隣接する中東欧各国の安定は政治的・経済的にEUの利益に資するため、中東欧諸国のEU加盟を支援してきた経緯がある。

本稿では、「ⅠEU加盟に関する動向」において2004年加盟国及び加盟予定国のうちから最近の動向を記述し、次いで「Ⅱ労働関係の動き」において中東欧主要国の労働関係の状況を記述する。

Ⅰ.EU加盟に関する動向

ポーランド:EU憲法批准問題

ポーランドでは、欧州憲法批准の国民投票が当初10月に大統領選挙と同時に実施される予定であったが、クワシニエフスキ大統領は6月21日、国民投票の「無期限延期」とした。事前の世論調査ではポーランド国民の多くが欧州憲法を支持(支持56%、反対15%)していると見られていたものの、5月29日のフランス、6月1日のオランダでそれぞれ行われた国民投票の結果、同批准がともに否決されたことを受け、否決された場合のフランス、オランダに続く第三の「反対国」となることを回避したい旨の判断が働いたものと見られる。その後9月25日に行われた総選挙で、EU憲法批准に反対している野党の中道右派が大勝し、続く10月の大統領選で当選を確実としたカチンスキ候補は、「EU加盟に満足としつつも、欧州憲法批准には反対」と表明したことから、今後の見通しについては一層の不透明感が漂っている。現与党は欧州憲法の批准に否定的であり、延期された国民投票を回避したい姿勢と見られる。EU憲法の批准は、下院で3分の2以上の賛成を得るか、国民投票で投票率50%・過半数の賛成のどちらかが必要となっている。フィナンシャル・タイムスによれば、与党が欧州憲法に否定的である理由の一つは、フランスやドイツが反市場のための規制をポーランドに課すことになるという懸念を持っているためである。また、「市民プラットフォーム」(PO)の幹部は、「今後は国家間の様々な交渉場面において欧州憲法に反対する国々の発言力が増す可能性があり、ポーランドが批准することは、自国の交渉力を弱めることにつながる」と見ている。

ルーマニア:EU加盟を目前に控えEUより司法改革の要請

EU加盟を最優先課題とするルーマニアは、EU加盟交渉を2004年12月に終了、2005年4月に加盟条約に調印し、2007年の正式加盟を予定している。しかし10月にEUより提出されたモニタリング報告書において、汚職の一掃のための司法改革などの必要性が指摘されたことから、政府は改革を行うこととしたが、憲法裁判所がこの改革を差し止めた。要請されている改革が進まない場合は、セーフガード条項が発動され加盟が1年延期される可能性もでている。

一方、国連開発計画(UNDP)が9月に発表した「人間開発報告書2005」では、貧困人口の割合、教育、男女均等、児童死亡率、伝染病の感染率など様々な指標から算出した「人間開発指数」を公表されたが、中東欧諸国のほとんどが先進諸国と同じ「高」開発グループに属する中、EU加盟を目前に控えたルーマニアは「中」開発グループに属したものの、2003年との比較では順位の伸びが著しく、72位から64位へと上昇しており、他の中東欧諸国の中で最も大きい上昇ぶりを示した。EU加盟は、加盟を目指す国の経済開発をはじめとした改革のスピードに強い推進力を発揮すると言われるがその成果が数字に表れている。項目別にみると、1人当たりGDPが2003年の5830米ドルから2005年には7277米ドルと大きく伸び、また初等・中等・高等教育への参加率が68%から72%に上昇し、平均寿命も70.5歳から71.3歳に上昇している。なお、ルーマニアの1人当たりGDPはまだEU平均の3分の1程度であり、全体の水準に追いつくには年5~6%の成長を続ける必要があるとみられている。

ブルガリア:EU加盟に向けて進む労働市場の構造改革

ブルガリアは他の加盟候補国に先がけてEU加盟交渉を終了し、2007年1月にEU加盟を予定している。今後はEUと同等の経済・社会制度の実現に向けて進むことになる。

2004年11月から国家発展計画(the Plan for the National Development:2007年~2013年まで)の策定作業が開始され、そこではEU加盟後を睨み、国として優先的に取り組むべき事項が議論されている。その目標及び優先事項は次のとおりである。

目標:
EUに統合される過程での保持可能な社会・経済の発展及びそれに基づく質の高い生活。
優先事項:
  1. 基礎的インフラの改善
  2. 人的資源の育成と社会的インフラの改善
  3. 保持可能かつ一貫した地域開発
  4. ブルガリア経済の競争力の強化
  5. 地方部・農業の開発

こうした中で、ブルガリアのGDP成長率は2003年4.5%、2004年5.6%、2005年は6.0%に達する見込みである。こうした順調な経済成長はEUによっても評価されている。経済の成長とともに雇用情勢も改善傾向にある。失業率も低下傾向にあり、2004年の12.0%から2005年には9.9%に低下を示した。政府の雇用創出計画と季節労働の増加がその主な理由とあげられる。

EUからは今後の労働面の構造改革として、労働市場の柔軟性の向上と教育システムの質・効率の改善が指摘されているため、特に若者の雇用促進、人材開発に注力し改革を推進していくこととしている。このため、EU加盟に先立ちEUから財政支援を受け若年者に対する職業訓練又は再訓練/専門能力を修得させるための見習い雇用など各種プロジェクト(対象1万人)などを実施することとしている。

Ⅱ. 労働関係の動き

1. 雇用失業の動向

欧州統計局(Eurostat)のデータでは、主な中東欧諸国の失業率(2005年)は次のとおりである。チェコ7.9%(前年比0.4ポイント低下)、ハンガリー7.1%(同1.0ポイント上昇)、ポーランド17.7%(同1.3ポイント低下)、スロバキア16.4%(同1.8ポイント低下)、ブルガリア9.9%(同2.1ポイント低下)、ルーマニア7.7%(同0.1ポイント上昇)。

また、同データによる就業者数(2004年)は次のとおりである。チェコ469万1000人(前年比0.1%増)、ハンガリー390万人(同0.7%減)、ポーランド1379万4000人(同0.3%減)、スロバキア216万8000人(同0.3%減)、ブルガリア292万3000人(同3.1%増)、ルーマニア910万3000人(同0.4%増)。

これら中東欧諸国の中では、ブルガリアの失業率の改善及び雇用の拡大が際立っている。特に失業率については、2001年(19.5%)からの5年間で約10ポイントの低下となっている。EU加盟に向けたブルガリアの労働市場改革の進捗を端的に表していると言える。

2. 賃金の動向

欧州統計局のデータによる中東欧諸国の年間実収賃金(2004年、税・社保控除前)は、ハンガリー7100ユーロ(前年比14.6%増)、ポーランド6230ユーロ、スロバキア5706ユーロ(同15.4パーセント増)、ブルガリア1784ユーロ(同6.3%増)などとなっている。これに対し西欧加盟諸国(2004年以前加盟15カ国)の平均は3万3089ユーロ(2003年)となっており、中東欧加盟国の賃金額は西欧の4分の1から18分の1、という水準に留まっている。

また、最低賃金については、EU加盟国(25カ国)のうち18カ国が同制度を持ち、2004年5月EU加盟の中東欧10か国では9カ国が最低賃金制を導入している。中東欧加盟国の状況(2005年1月時点)では、スロベニアが最も高く(490ユーロ)、次いでチェコ(235ユーロ)、ハンガリー(232ユーロ)、ポーランド(205ユーロ)、エストニア(172ユーロ)、スロバキア(167ユーロ)などとなっている。これに対し、西欧加盟国の最低賃金は、ルクセンブルク(1467ユーロ)、オランダ(1265 ユーロ)、ベルギー (1210ユーロ)など高い水準にある。

中東欧加盟国の最低賃金は西欧加盟国の概ね1/5以下の低い水準に留まっているが、その中でハンガリーについては新たな最低賃金制度導入の動きがあった。ハンガリーのジュルチャーニ首相は2005年6月、同国の最低賃金制度に関する新たな提案をした。その内容は、政府統計局が算定する個人の最低生活水準の推計値と最低賃金の水準とを連動させること、さらにこれと併せ、現行の一元的な最低賃金から非熟練労働者、熟練労働者、大学卒の労働者の3つの賃金レベルから成る「最低賃金表制度」を導入するというものである。この最低賃金表が導入されると現行の最低賃金は、非熟練労働者が約10%、熟練労働者が約23%、大学卒労働者が約35%と、それぞれ引き上げられることになると見られる。この新たな制度は長年わたり労働組合とりわけハンガリー労働組合全国連盟(MSZOSZ)が要求していたものである。この提案に対する労使の反応は、最低賃金の引き上げは経営圧迫につながり、ひいては国の経済競争力を脅かすものであるとする経営側に対し、労働側も最低賃金の決定プロセスは政労使等で毎年利害調整が行われるべきであり、「機械的」メカニズムで決めるべきものではないとの、いずれも慎重論を述べている。

3. 労使関係

日系など外資の進出

2004年11月に発表された欧州委員会の「競争力レポート」では、西欧の自動車産業が競争力を強化するためには労働コストの低い東欧各国に生産機能を移転させることがこれまで以上に必要になるだろうと指摘した。その中で、2004年5月にEUに加盟したハンガリーは、労働力の質の高さなどから外国企業の投資先として注目されている。

ルノー、日産自動車(中東欧における両社の新車販売台数は2004年に12万5000台)は、2005年6月、共同の部品物流センターをハンガリーのギョール市に開設したことを明らかにした。ブダペストの北西120キロメートルに位置する同センターには1300万ユーロが投資され、ハンガリーのほかオーストリア、チェコ、スロバキア、スロベニアの周辺各国へ部品配送を行うこととしている。

ドイツの自動車部品大手のボッシュ・グループも、ハンガリーにおける製品生産能力を精力的に拡張しつつある。2004年11月、ミシュコルツに工場を開設したのに続き、自動車用電子制御システムの生産をドイツやフランスなどからブダペスト東部のハトバンの工場に移転させる計画を進めている。このほか、ボッシュ・グループの産業機器メーカーであるボッシュ・レックスロス社も北東部のエゲルに工場の新設を予定していると見られる。ボッシュ・グループがハンガリー投資を選んだ理由としては、インフラ整備などとともに、労働力の質の高さを挙げている。

出所:

  1. 当機構海外労働情勢、NNA

参考:

  1. 1ユーロ=145.39円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:中欧・東欧」

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