基礎情報:ベトナム(2000年)
※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
1.一般項目
- 国名
- ベトナム社会主義共和国(ベトナム、アジア)
- 英文国名
- Socialist Republic of Vietnam
- 人口
- 7633万人(1999年4月国勢調査)
- 面積
- 33万1000平方キロメートル
- 人口密度
- 231人/平方キロメートル(1999年)
- 首都名
- ハノイ
- 言語
- ベトナム語
- 宗教
- 大乗仏教、カトリック
- 政体
- 社会主義共和制
2.経済概況
- 実質経済成長率
- +4.8%(1999年) +5.8%(1998年) +8.2%(1997年)
- 通貨単位
- ドン(Dong. D)US$1=D1万2,985 1ドン=0.008円(1999年10月)
- GDP
- 400兆ドン(1999年) 361兆ドン(1998年) 314兆ドン(1997年)
- 1人当たりGDP
- 524万ドン(1999年) 463万ドン(1998年) 409万ドン(1997年)
- 消費者物価上昇率
- +0.1%(1999年) +9.2%(1998年) +3.6(1997年)
- 主要産業
- 鉱業(原油、石炭など)、製造業、農業(米、キャッサバなど)
3.対日経済関係
- 対日主要輸入品目
- 集積回路、 自動車、 プラスチック類、繊維二次製品、 石油製品、 通信機器など
- 対日輸入額
- 1634百万ドル(1999年) 1327百万ドル(1998年) 1284百万ドル(1997年)
- 対日主要輸出品目
- 衣類、魚介類、石油、家具、石炭、加工食品、カバン類
- 対日輸出額
- 1962百万ドル(1999年) 1741百万ドル(1998年) 2199百万ドル(1997年)
- 日本の直接投資
- 110億円(1999年) 65億円(1998年) 381.4億円(1997年) 359.1億円(1996年) 102.4億円(1995)
- 日本の投資件数
- 17件(1999年) 12件(1998年) 45件(1997年) 65件(1996年) 54件(1995年)
- 在留邦人数
- 約2500人(1999年10月)
出所:
- Statistical Year Book in 1998
- Vietnam Economic Time, January 2, 1999
- 日本:大蔵省(財政金融月報、外国貿易概況)、外務省(海外在留邦人数調査統計)
4.労働市場
1.労働市場の概況
1999年国勢調査では、ベトナムの人口は、99年4月1日現在7633万人であり、76.5%が農村地帯に、23.5%が都市部に居住している。女性は50.9%を占めている。農村地帯では、女性の割合は50.8%であるが、都市部では51.0%であった。15歳以上の人口は5076万6000人であり、全人口の66.5%を占めている。当該人口の64.7%は農村地帯に居住している。生産年齢(男性15~60歳、女性15~55歳)人口は4355万6000人であり、全人口の57.1%を占めている。
技術的専門性
1999年国勢調査の結果、13歳以上人口のうち技術的専門性を持たない者は、92.4%(男性90.8%、女性93.9%)に上った。専門技術を備えている者の割合は、わずか7.6%にすぎなかった。この中で、2.3%が技術労働者である。職業高校を卒業した者は2.8%、大学卒業者は2.5%にすぎなかった。
生産年齢人口(15歳以上)のうち、非熟練労働者の割合は91.9%であった(男性90.0%、女性93.5%)。熟練労働者は8.1%を占めたが、そのうち技術労働者は2.4%であった。職業高校を卒業した者はわずか3.0%にすぎず、大学卒業者も2.7%にすぎなかった。
- 都市の状況
13歳以上人口のうち、非熟練労働者の割合は82.5%(男性78.8%、女性85.9%)であった。熟練労働者は8.1%であり、そのうち技術労働者は5.1%であった。職業高校卒業者はわずか5.5%、大学卒業者は6.9%にすぎなかった。
労働力人口における非熟練労働者の割合は、81.5%(男性77.5%、女性85.2%)であった。熟練労働者は18.5%であるが、そのうち技術労働者は5.5%であった。職業高校卒業者は5.6%、大学卒業者は7.3%にすぎなかった。
- 農村地帯の状況
13歳以上人口に占める非熟練労働者の割合は、95.7%(男性は94.8%、女性96.6%)であった。熟練労働者は4.3%であり、そのうち技術労働者は1.3%であった。職業高校卒業者は1.9%にすぎず、大学卒業者はわずか1.0%であった。
労働力人口に占める非熟練労働者の割合は、95.4%(男性94.3%、女性96.9%)であった。熟練労働者は4.6%であり、そのうち技術労働者は1.5%であった。実業高校卒業者は2.0%にすぎず、大学卒業者はわずか1.1%であった。
上記の数字は、ベトナムにおいて訓練を受けた労働力人口の割合は、ほとんど言及に値しないほど少ないという事実を示している。専門技能に関しては男女差はあまりない。都市部の熟練労働者の割合は、農村地帯よりもかなり多い。農村地帯の労働者の大部分が、専門技能をほとんど要しない自家の田畑を耕作する者だからである。しかし、この事実は、農村地帯の工業発展に大きな影響を与えるであろう。他に論じられるべき問題は、技術労働者、高校生、大学生が平均して存在する不合理な労働力構造であり、国家の近代化過程には多数の技術労働者とりわけ熟練労働者が必要なことである。より多くの熟練労働者を供給するための職業訓練は、現在のベトナムでは最優先課題の一つである。
雇用構造
1999年の時点で、生産年齢人口のうち3900万人が経済活動に携わっていたが、そのうち67.8%は、農林水産業に従事する労働者であった。12.9%の雇用者が建設および工業部門に、19.3%がサービス部門に従事している。1998年の数字と比較すると、農林水産部門の労働者は減少しているが、非農業部門への移行はそれ程多くはなかった。サービス部門では、まだ雇用創出の大きな向上は生じていない。工業部門の労働者数は、当該部門の成長率が最高であったにもかかわらず、あまり増加していない。
都市部における失業率、および農村地帯における不完全就業率は増加傾向にある。都市部における失業率は、7.4%という警戒水準に達している。当該地域の金融危機が、この高い失業率の主な原因である。さらに重要なことは、大卒の失業率が高いことであり、これは人的資源の無駄をもたらしている。農村地帯の不完全就業率は、29%と高くなっている。したがって、仕事を見つけるより高い収入を得るため、農村から都市へと移住する大きな流れが存在する。その中には季節的移住者も、都市に一時的に住む者もいる。
2.労働市場の諸指標
生産年齢人口
ベトナムの生産年齢人口は、全人口の57.1%を占めている。生産年齢人口の割合は、都市部で63.6%であり、農村地帯では55.1%である。
正規経済活動人口(regular economic active population)の割合
- 15歳以上人口の71.2%、生産年齢人口の79.5%。
- 都市部:15歳以上人口の62.3%、生産年齢人口の70.3%
- 農村部:15歳以上人口の74.2%、生産年齢人口の78.0% (失業率)
- 農村地帯:7.4%(Vietnam Economic Time)
農村地帯では、利用されない労働時間 (unused working time) は26.8%を占める。
出所:Ministry of Labour, Invalid and Social Affairs (MoLISA), Survey on Labour and Employment, 1999
5.賃金
1.賃金制度の概況
ベトナムの賃金制度は、政府により決定される最低賃金並びに給与総額に基づいている。
最低賃金
ベトナムの賃金制度は、経済部門=たとえば、国内経済部門と外資系部門ごとに異なる。
- ベトナムで操業している外資系企業、外国および国際的機関、並びに団体
有効な法律並びに規則にしたがって外資系企業に導入され、政府により定められる最低賃金は、1999年3月以前は、当該企業が置かれている地域に応じて、45ドル、40ドル、35ドル、30ドルの4段階となっていた。しかし、従業員への実際の支払いは、当時の交換レートで換算されたベトナム・ドンによってなされる。この支払方法は、交換レート変更により従業員の給料を再計算しなければならず、企業にとって煩わしさが伴った。そのうえ、社会保険や健康保険料等の拠出額も変化するので、企業に困難をもたらした。
企業からコメントと返答を得て、1999年3月26日、首相が決定53TTg/1999を発し、その後決定708/1999QD-BLDTBXH が発せられた。上記決定に基づき、最低賃金は、ベトナム・ドンで従業員に支払われることになった。その月額は、以下の通りである。ハノイ、ホー・チ・ミン市で働く労働者に対しては、62万6000ドンを下回らない額。ハイフォン、ビエンホア、ブンタオ市で働く労働者に対しては、55万6000ドンを下回らない額。その他の省・市で働く労働者に対しては、48万7000ドンを下回らない額。貧しくインフラが整備されていない地域で労働集約型産業で働く労働者に対しては、41万7000~48万7000ドンを下回らない額。上記金額は、消費者物価指数が10%以上上昇した場合に改定される。
- 国内経済部門
国は、最低賃金18万ドンを定め(それ以前の最低賃金は、14万4000ドンであった)、原則として2000年1月1日から適用する。
給与額
公共行政部門の給与額もまた、最低賃金に基づいて国が定めている。それによると、最高給与額(大統領に対する)は、最低賃金の10倍となっている。この給与額は、勤務期間、役職格付(幹部職員、上級職員、等)に基づいて計算され、給与額の産業間の格差は少ない。賃金は3年ごとに引き上げられる。
国有企業の給与額については国が企業の支払義務を定めている。給与額は最低賃金に基づいている。国有企業の従業員に支払われる賃金は、企業の事業効率にも基づいているが、いかなる場合でも最低賃金を下回ることはない。
その他の経済部門の企業の給与額も、国により定められている。国の給与額が、企業が自らの給与額を決める基礎となる。しかし、この方法は、まだ企業によって導入されてはいない。
時間外労働およびその他の手当に対する支払い
時間外労働について、下記の追加手当が、すべての企業に対して共通に適用される。
- 通常勤務日は1.5倍
- 週末休日は2倍
- 夜間勤務(午後10時から午前6時)は、日中勤務の30%増
賃金に加えて、下記の諸手当が企業より支払われる。
- 地域手当:最低賃金の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、100%の8段階
- 有害・危険手当:有害で危険な作業環境の下での、職・仕事に適用される。最低賃金の10%、20%、30%、40%の4段階
- 職務手当:最低賃金の10%、20%、30%の3段階
その他の手当も支給される。
2.賃金と給与の現状
- 最低賃金
様々な経済部門で操業している320企業(国有企業10.3%、外資系企業6.6%、私企業69.4%、個人経営企業13.8%)において、労働科学・社会問題研究所の調査の結果、以下のことが判明した。従業員に対する賃金が最低賃金より少ない事例は存在しない。本調査は、企業における労働法の執行に関する包括的評価を行う目的で実施された。しかし、外資系企業の4分の1は、熟練労働者に最低賃金しか支払っていなかった。
- 企業における給与額の決定方式
国有企業については義務的であるにもかかわらず、20%の企業が上述の給与額決定方式を実施していない。給与額は、国が定めた給与額に基づいて、その他の企業も決定されなければならない。しかし、70%の企業がこの方式を導入していない。
- 手取賃金額
MoLISA の報告では、1999年の国有企業の従業員の平均月給は、90万ドンから100万ドンの間であることが示されている。これに対応する外資系企業の従業員の賃金額は110万ドンであり、一方、非国有部門の企業従業員の場合は60万ドンであった(当時の交換レートは、1USドル=1万4000ドン)。
6.労働時間
1.労働時間の概観
1999年には、外資系企業の87%を含むほとんどの企業が、週6日労働制で、建設業並びにサービス業を別にすれば、1日の一般労働時間は8時間であった。すべての企業において、労働時間数は同一である。
320の企業を対象に行われた労働法執行に関する調査結果によれば、労働時間の違反はなかったが、時間外労働は一般的であった。1999年には、76.2%の企業で時間外労働が行われた。時間外労働は、国有企業において最も多く行われている(85%)。外資系企業の81%で時間外労働が行われたが、個人経営では36%であった。一般的に、企業規模が大きくなるほど時間外労働が多くなっている。調査結果によれば、対象企業において、1日12時間以上働いた労働者はいなかった。8.5%の企業の従業員が、年間200時間以上の時間外労働をしており、労働法に違反していた。
2.労働時間に関する法的規制
通常の労働時間は以下の通り。
1日の労働時間は8時間、週の労働時間は、48時間を超えることはできない。
1999年9月17日付決定188/1999/QD-TTg に基づき、週5日労働制が導入され、1999年10月2日以降国の行政部門に適用されている。国有企業に関しては、1999年10月4日付通達23/1999/TT-BLDT BXH で定められており、当該企業の置かれている具体的条件に応じて、週の労働時間は40から44時間の間で決められることになっている。国有企業は、従業員の労働時間を削減するよう奨励されている。
危険職業における労働時間は、保健省(MOH)および MoLISA が発行する職業一覧については、1~2時間削減された。
時間外労働は、1日4時間、年間で200時間を超えることはできない。MoLISA は、1999年5月18日付通達を発し、従業員の1日12時間労働を許可した。しかし、当該従業員にはそれを補う休暇取得権が認められており、従業員は、通常の給与を受け取る。
下記の時間は有給労働時間に含まれる。
- 交替勤務における中断時間
- 職種による中断時間
- 必須中断時間
- 1歳未満の子供を持つ女性労働者は、1日60分の休憩を与えられる。
- 女性労働者は、生理期間中30分の休憩を与えられる。
- 労働者に原因のない、停止労働時間
- 労働安全衛生に関する研修時間
- 使用者が許可した研修、会議に参加する時間
3.有給休暇の概要
労働者は、8日の休日がある。毎年の休暇はつぎのとおりである。
- 通常の労働環境で働く者について12日。
- 危険な作業に従事する者、18歳未満の労働者に対しては14日。
- 極めて危険な作業に従事する者は16日。
- 年次休暇の日数は、勤続年数にしたがって追加される。
- 勤続 5~10年、1日追加
- 勤続10~15年、2日追加
- 勤続15~20年、3日追加
- 勤続20~25年、4日追加
- 勤続25~30年、5日追加
- 勤続30~35年、6日追加
7.労使関係
1.労使関係の概況(労働組合を有する企業の場合)
労働契約
320企業の調査結果においても、労働契約の動向が分析されている。分析結果は下表の通りである。
労働契約に署名していない従業員数が少ないことは明らかである。国有企業では期間の定めのない労働契約が一般的である。これは、国有企業では従業員は終身雇用であったが、期間の定めのない労働契約に変えられたという事実による。ほとんどの国有企業では、労働組合が結成されており、文書による労働契約を行う国有企業の割合が最も高くなっている。
団体交渉
調査結果によれば、団体交渉の動向は以下の通りである。
法的には、労働組合代表と使用者が署名し、地方労働機関が当該内容を承認した場合にのみ、団体交渉は有効となる。データからは、国有企業が最も高い団体交渉率を有していることが分かる。ほとんどの国有企業に労働組合があるので、これは妥当な結果である。
労働争議
MoLISA の報告によると、労働法が施行(1995年1月1日)されてから、1999年9月までに244件のストライキが行われた。
- 外資系企業:
- 132件
- 国有企業:
- 32件
- 非国有企業:
- 80件
ストライキは、外資系企業で最も頻繁に発生している(54.1%)。多くのストライキは南部で発生し、そのうち相当数(61%)がホー・チ・ミン市で、12%がドンナイ省で発生している。
国有企業 | 外資系企業 | 民間企業 | 個人経営企業 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
労働契約の形態 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
文書による労働契約 | 98.5 | 93.0 | 83.0 | 3.2 | 90.2 |
口頭による労働契約 | 1.5 | 7.0 | 17.0 | 96.8 | 9.8 |
国有企業 | 外資系企業 | 民間企業 | 個人経営企業 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
労働契約の種類 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
期限の定めのない契約 | 61.1 | 36.2 | 35.7 | 48.4 | 46.1 |
1~3年 | 15.8 | 22.7 | 17.0 | 6.5 | 17.6 |
1年契約 | 20.6 | 38.6 | 31.8 | 19.4 | 28.7 |
季節契約 | 1.2 | 2.6 | 12.8 | 19.4 | 6.1 |
その他 | 1.3 | 0.0 | 2.6 | 6.5 | 1.6 |
国有企業 | 外資系企業 | 民間企業 | 個人経営企業 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
署名・登録済み | 87.4 | 57.1 | 12.6 | 0.0 | 21.6 |
署名したが、未登録 | 6.1 | 9.5 | 0.9 | 0.0 | 1.9 |
未署名 | 6.1 | 33.3 | 86.5 | 100.0 | 76.6 |
国有企業 | 外資系企業 | 民間企業 | 個人経営企業 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
労働組合存在せず | 0.0 | 9.5 | 59.9 | 65.9 | 51.3 |
提案がない | 0.0 | 0.0 | 7.7 | 0.0 | 5.3 |
交渉中 | 3.0 | 14.3 | 2.3 | 0.0 | 2.8 |
その他 | 3.0 | 9.5 | 16.7 | 34.1 | 17.2 |
2.労働組合と労使関係に関する法律
労働組合に関する最も一般的な法的規制は、1990年に国会が承認した労働組合法である。
労使関係についての最も一般的な法的規制は、1994年6月に国会が承認し、95年1月1日正式に施行された労働法典である。その他に、労働法典の執行を促進するため、政府により2つの命令と30の法的規則が発せられ、MoLISA により、100の規則と省庁間通達が発せられている。
3.労働組合
雇用者を代表する最も強力な団体は、ベトナム労働総同盟(Vietnam General Confederation of Labor:VGCL)である。南部にはこれ以外に小規模の労働組合連合がいくつかあり、その中には VGCL の加盟組合もある。
VGCL は、縦型の組織である。全土に中央レバル、省レバル、および市レベルの組合事務所がある。VGCL は、ILO の年次総会に代表を送る権利を有し、労働法の形成に多大な貢献をしている。
4.使用者団体
下記団体は、ベトナムにおける使用者を代表している。
- ベトナム商工会議所(Vietnam Chamber of Commerce and Industry)
- ベトナム協同組合協議会(Vietnam Co-operatives Council)
- ホー・チ・ミン市工芸家協会(The Association of Artists in Hochiminh City)
- 経営者クラブ(Club of Managers)
- 外資系企業経営者クラブ(Club of Foreign Invested Enterprises' Managers)
使用者を代表する団体はいくつかあるが、ベトナム商工会議所(VCCI)とベトナム協同組合連合(VICOPSME)が使用者を代表する2大団体である。この2つの団体は、労働分野の政策を推進するよう政府に働きかけてきた。上記2団体は、各市各省に支部を有する。VICOPSME は、政府とVGCLとともに、ILO 年次総会に出席するよう指名されている。
8.労働行政
1.労働政策の概況
ベトナムの労働政策は、1994年制定の労働法典、政府、MoLISA 並びに他の関係省庁により発せられた2つの命令、その他多くの法的規則から構成されている。
労働法典は、国有企業が主導的役割を果たした市場経済移行期に制定された。したがって、労働法典の中には、国有企業の地位を低め、市場経済運営を尊重する条項も含まれる。法的制度は整っているが、多くの理由によって現実の実施は未だ効率的ではない。主要な理由は以下の通りである。
- 労働法典とその他の法律文書との間には食い違いがある。
- 多数の法律文書が発せられたが、まだ普及してはおらず、外国人投資家は、英語版がないために当該規則の適用が困難であると感じている。
- 国有企業のみに向けて作成された条項があるので、その他の企業に適用するのが困難である。
- 労働組合は、外資系企業の半分程にしか組織されておらず、また非国有企業の大部分には設立されていないので、労働法典を施行するのは困難である。
ベトナムは現在、労働法典の改定と修正の可能性について検討中である。労働法典の実施における関係機関の能力を強化するため、様々な契約が現在推奨されている。
2.関係行政組織
労働法典によれば、国全体の労働問題は、中央の政府の国家管理の下に属することになる。MoLISA は、国のすべての省と地方における労働問題に関して管理を担当する。
様々な段階での人民委員会は、地方労働事務所の援助を受けて、地方の労働問題に関する国家管理に対する責任を負う。
VGCL および異なる段階の労働組合は、国家管理の労働問題に関して法律に基づいて監督・監視する。
労働組合も、中央から地方段階まで類似の構造を有する。労働組合の構造は、MoLISA の構造に類似する。
9.労働法制
1.労働法制の概況
労働関係について最も一般的な法律は、1994年に国会で成立し、95年1月1日から正式に施行された労働法典である。労働法典は17章198条で構成されているが、第1章総則と第17章施行規則を除く15章はそれ以前に個別の法律や政府決定で定められていた規定を法典としてとりまとめたものであり、以前の規定と大きく異なるところはほとんどない。法典の第1の意義はそれまでバラバラに出されていた労働関係の法律、規則を体系化し、集大成したことにあるといえる。法典の第2の意義は、はじめて労働者のストライキ権が容認されたことである(第172~179条)。
労働組合に関する最も一般的な法律は、国会で1990年に成立した労働組合法である。さらに、ベトナム政府、MoLISA その他の省から、多くの法令や省庁通達が出ている。
2.ベトナム社会主義共和国労働法典の目次
- 前文
- 第1章 総則(第1~11条)
- 第2章 雇用(第12~19条)
- 第3章 実習訓練(第20~25条)
- 第4章 労働契約(第26~43条)
- 第5章 労働協約(第44~54条)
- 第6章 賃金(第55~67条)
- 第7章 労働時間・休憩(第68~81条)
- 第8章 労働規律・物的責任(第82~94条)
- 第9章 労働安全衛生(第95~108条)
- 第10章 女子労働に関する特別規定(第109~118条)
- 第11章 未成年者およびその他の労働者に関する特別規定(第119~139条)
- 第12章 社会保険(第140~152条)
- 第13章 労働組合(第153~156条)
- 第14章 労働争議の解決(第157~179条)
- 第15章 労働の国家管理(第180~184条)
- 第16章 労働法規違反に対する国家の労働制裁監査(第185~195条)
- 第17章 施行規則(第196~198条)
3.労働法典「第6章 賃金」
- 第55条
- 労働者の賃金は、労働契約の当事者双方の合意により、労働生産性、労働の質、および効率性に応じて支払われる。労働者の賃金は国の定める最低賃金以下であってはならない。
- 第56条
- 最低賃金は、生活コストを基礎とし、正常な労働条件の下で最も単純な業務を行う労働者が、その単純労働を回復させ、かつ労働の拡大再生産のために蓄積することを保証するものでなければならない。この最低賃金は、他の労働形態の賃金算定の基礎として用いられる。
政府は、ベトナム労働総同盟および使用者代表と協議した後、各期ごとの共通最低賃金、地域別最低賃金、部門最低賃金を決定し、公布する。
生活費指数の上昇により労働者の実質賃金が低下したとき、政府は、実質賃金を保証するために最低賃金を再調整する。
- 第57条
- 政府は、ベトナム労働総同盟および使用者代表と協議した後、社会保険および医療保険制度の運用、時間外労働・深夜労働に対する特別賃金の算定、休業、年次休暇およびその他の休暇の基準として、賃金等級と賃金表を公表する。
- 第58条
-
- 使用者は、時間によって定められた賃金(時給、日給、週給、月給)、出来高給または請負払いの賃金の支払方法のうち1つを選択することができるが、一定期間その選択した方法に従い、かつ労働者にこの支払方法について通告しなければならない。
- 労働者は、労働後ただちに時給、日給または週給制の賃金を受領するか、もしくは当事者双方の合意に従い一括の支払いを受ける。一括払いは、遅くとも労働15日ごとに1回なされなければならない。
- 月給制の労働者は、毎月1回または半月に1回賃金の支払いを受ける。
- 出来高により、または一括制度によって賃金が支払われる労働者は、当事者双方の合意による賃金支払いを受ける。業務が何カ月にも及ぶときは、月ごとに達成する業務の量に応じて毎月賃金の前払いを受けるものとする。
- 第59条
-
- 賃金は、直接労働者にその全額を、一定の期日に、職場で支払うものとする。何らかの事由で賃金の支払いが遅れる場合、1カ月を超えてはならない。この場合、使用者は賃金支払時期に少なくとも国立銀行の発表する利率に相当する補償を労働者にしなくてはならない。
- 賃金は通貨で支払われる。小切手またはその他国の発行する郵便為替による賃金の一部支払いは、労働者に損害あるいは不便を与えないということを条件として、当事者双方が合意のうえとする。
- 第60条
-
- 労働者は、賃金の控除のすべての事由を知る権利を有する。労働者の賃金控除を行う以前に、使用者は、そのことに関し単位労働組合執行委員会と協議しなければならない。控除は月給の30%を超えてはならない。
- 使用者は、制裁の方法として労働者の賃金カットをしてはならない。
- 第61条
-
- 時間外労働の賃金については、以下のように定められる。
- 通常日の時間外労働賃金は、通常の労働日の時間給の少なくとも150%に相当すること。
- 週休日もしくは祭日の時間外労働賃金は、通常の労働日の時間給の少なくとも200%に相当すること。
深夜時間外労働については、労働者は、本条第2項に定める付加給を受ける。労働者がその後に、時間外労働の時間に相当する代替休暇をとる場合、使用者は勤務時間の賃金と勤務時間外の賃金の差額のみを労働者に支払う。
- 本法典第70条に定める深夜労働を行った労働者は、昼間労働をした場合に受ける賃金の少なくとも30%相当の付加給を受ける。
- 時間外労働の賃金については、以下のように定められる。
- 第62条
- 労働中断(休業)中の賃金の支払いは、以下の通りである。
- 休業が使用者の責に帰する場合、労働者は賃金の全額の支払いを受ける。
- 休業が労働者の責に帰する場合は、賃金は支払われない。労働を停止しなければならない同じ作業単位に属する他の労働者は、当事者双方の合意による賃金の支払いを受けるが、最低賃金以下であってはならない。
- 休業が使用者の責に帰さない停電、断水、その他不可抗力による場合、当事者双方の合意により賃金を支払わなければならないが、最低賃金を下回るものであってはならない。
- 第63条
- 手当、賞与、昇給制度およびその他の報奨制度は、労働契約、労働協約において定められるか、または事業体の定款によって定められる。
- 第64条
- 使用者は、政府の規則に従いかつ各業種の特徴に応じて、事業体に1年以上勤務した労働者に報いるために、事業体の年間収益控除をする責任を有する。
- 第65条
-
- 請負人もしくはそれに類する仲介者の性質を有する人を使用するところでは、常に事業主である使用者はこれらの請負人の氏名、住所の完全なリストを、その下で働く労働者のリストと一緒に所持していなければならない。使用者は、この請負人もしくはそれに類する仲介者に労働賃金、労働安全・衛生に関する法律の規定を遵守させなければならない。
- 請負人またはそれに類する仲介の性質を有する人が、労働者に賃金の全額支払いを怠ったり、あるいはその他労働者の権利を保障しない場合、事業主である使用者は、労働者に賃金の支払いをし、かつその他の権利を保障する責任を有する。この場合において、事業主である使用者は、請負人またはそれに類する仲介者に労働者に補償をするよう要求するか、もしくは所轄の関係機関に法律に定める争議解決を要求することができる。
- 第66条
- 事業体の合併または、分割、所有権・経営権または事業の財産使用権の移転があった場合、継承する使用者は、労働者の賃金支払いならびにその他の権利を保障する責任を有する。事業体が破産した場合においては、労働者の賃金、退職手当、社会保険、ならびにすでに締結されている労働協約や労働契約に記載されている労働者のその他の権利は事業体が債務を清算する際の第1の優先項目である。
- 第67条
-
- 労働者は自分もしくはその家族が困難な状況に遭遇した場合、当事者双方の合意による条件で賃金の前払いを請求することができる。
- 使用者は、労働者が公民としての義務の履行のために労働を一時休止しなければならない場合は、賃金の前払いをしなくてはならない。
- 一時拘留・監禁されている労働者に対する賃金の前払いは、政府の定めによる。
4.労働法典「第7章 労働時間・休憩」
第1節 労働時間
- 第68条
-
- 労働時間は1日8時間、1週48時間を超えないものとする。使用者は、1日または1週間ごとの労働時間のスケジュールを立てることができるが、労働者にその旨事前通告しなければならない。
- 1日の労働時間は、労働・傷病兵・社会問題省および保健省の発表する過重、危険、有害作業リストに定められる作業に従事する労働者に対しては1時間から2時間短縮される。
- 第69条
- 使用者および労働者は、時間外労働について合意をすることができるが、その時間は1日について4時間、1年について200時間を超えないものとる。
- 第70条
- 深夜労働時間とは、政府の定める気候地帯に応じて、午後10時から翌日の午前6時まで、または午後9時から翌日の午前5時までとする。
第2節 休憩
- 第71条
-
- 労働者は、継続して8時間労働する場合、少なくとも30分の休憩時間を取ることができ、それは労働時間の中に含められる。
- 夜間に勤務する労働者は、少なくとも45分の休憩時間を取ることができ、それは労働時間に含められる。
- 夜間に勤務する労働者は、次の交替勤務の開始される前に少なくとも12時間の休憩時間を取ることができる。
- 第72条
-
- 労働者は、毎週少なくとも1回の休日(継続24時間)を取ることができる。
- 使用者は週休日を日曜日またはその他の特定の日に定めることができる。
- 労働周期のため、休日を1週間について取りきめできない特別な場合、使用者は、労働者に対して少なくとも月平均4日の休日を与えるようにしなければならない。
- 第73条
- 労働者は、以下の祭日には休養でき賃金の全額支払いを受ける。
- 元旦(太陽暦):1日
- 陰暦による新年:4日(大晦日と新年の最初の3日間)
- 戦勝記念日:1日(4月30日)
- 国際労働日:1日(5月1日)
- 建国記念日:1日(9月2日)
- 第74条
-
- 同一の事業体もしくは同一の使用者のところで12カ月勤務した労働者は、以下の規定に従い、年次有給休暇を付与され、賃金を100%保証される。
- 通常の条件の下で働く者に対しては12日。
- 過重・危険・有害業務もしくは過酷な生活条件の場所で働く者および18歳未満の年少者に対しては14日。
- 著しく過重・危険・有害な業務もしくは著しく過重・危険・有害な生活条件の場所で働く者に対しては16日。
- 年休に含まれない旅行時間は、政府の定めるところによる。
- 同一の事業体もしくは同一の使用者のところで12カ月勤務した労働者は、以下の規定に従い、年次有給休暇を付与され、賃金を100%保証される。
- 第75条
- 年休の日数は、1事業体もしくは1使用者のところで勤務する年数ごとに、5年に1日の割合で増すものとする。
- 第76条
-
- 使用者は、単位労働組合執行委員会と協議したのち年休の暦を定める権利を有するが、それを事業体の全員に事前通告しなくてはならない。
- 労働者は、使用者との合意の上で年休を何回かに分割することができる。遠隔の辺境に勤務する者は、希望により2年分の年休を一度にまとめてとることができる。3年分の年休をまとめてとりたい場合は、使用者の同意を得なくてはならない。
- 離職またはその他の理由により年休を取得していないかもしくは年休の付与日数のすべてを消化していない労働者は、未使用有給休暇日数に対して賃金が支払われる。
- 第77条
-
- 年休取得中の労働者は、少なくとも休暇日数の賃金に相当する額の前払いを受けることができる。旅費および旅行中の労働者の賃金は、労使当事者の合意による。
- 勤務年数が12カ月未満の労働者は、労働の期間に比例する日数の休暇を取ることができ、この休暇は現金で支払いを受けることもできる。
第3節 私用に関する休暇・無給休暇
- 第78条
- 労働者は、次に掲げる状況の下では、私用に関して有給休暇を取ることができる。
- 結婚:3日
- 子女の結婚:1日
- 両親(夫または妻の両親を含む)の死亡、妻または夫の死亡、子女の死亡:3日
- 第79条
- 労働者は、使用者と合意の上で無給休暇を取ることができる。
第4節 特別な業務従事者の労働時間・休憩
- 第80条
- 海上、坑内労働、その他特別の業務に従事する労働者の労働時間および休暇は、政府の定めるところによる。
- 第81条
- 1日未満もしくは1週間未満の契約または請負契約で働く労働者の労働時間および休憩は、労使双方の合意による。
5.労働組合法「前文」「第1章 総則」
前文
社会主義革命における労働組合の役割を発揮させ、労働者の民主的権利および利益を保証するため、ベトナム社会主義共和国憲法第10条、第32条、第83条、第86条および第106条に準じて本法は、労働組合の機能、権限および義務に関して規定する。
第1章 総則
- 第1条
-
- 労働組合とは、ベトナム共産党の指導の下に、自主的に組織されたベトナムの労働階級および労働者(合わせて労働者と呼ぶ)の広範な政治・社会団体をいう。それは、ベトナム社会主義共和国の政治体系の構成メンバーであって、労働者の社会主義学校である。
-
各経済セクターに所属する生産・経営組織、外資系企業、その他の事業単位、国家機関および社会団体(以下、「単位」、「機関」、「団体」と略)に雇用されるすべてのベトナム人労働者は、ベトナム国の労働組合条例の枠内において、労働組合を組織し、それに加入することができる。
法の規定に従って労働者が創設する組合はいずれも、労働組合の連合体に加入することができる。労働組合を設立する場合、業務関係を樹立するため、関係政府機関または組織団体に通知するものとする。
労働組合の組織および運営への自主的参加の原則の妨害、それに違反する行為および労働組合への加入、活動をもって労働者を差別することを禁止する。
- 単位レベル以上の各労働組合は、法人資格を有する。
- ベトナム労働総同盟およびベトナムの産業別労働組合団体は、同様の目的を有する国際労働組合団体に加入することができる。
- 第2条
-
- 労働組合は、労働者の権利および合法的正当な利益を代表し、かつ保護する。それは国と連携して生産の発展を図り、雇用を創出し、かつ労働者の物質的・精神的生活水準の改善を図る責任を有する。
- 各労働組合は、労働者を代表し、組織して機関、単位、組織の管理、社会経済の運営、国家の管理に参加する。労働組合は、その機能の範囲内において、法の規定に従って、機関、単位および組織の活動検査・監督する権能を行使する。
- 労働組合は、労働者を組織し、教育し、労働者に国の主人公として公民の義務を遂行させ、祖国社会主義ベトナムの建設と防衛に努めさせる。
- 第3条
-
- 労働組合は、その活動を行うにあたって、憲法と法令を遵守しなければならない。国家機関、ならびに単位および組織の長は、独立した組織としての組合の権利およびその他本法で定める権利を尊重しなければならない。
- 国家機関、ならびに単位、組織および労働組合の長は、国家建設と労働者の利益擁護のために、これら国家機関、単位および組織の強化を目的とするすべての活動において協力関係を強化する。意見を異にする問題がある場合には、話し合い、交渉し、法の定めるところに従って解決するようにする。国家機関ならびに単位および組織の長は、組合活動に必要な条件を創出する責任を有する。
- 閣僚評議会は、ベトナム労働総同盟の同意の上、国家機関、単位・組織・組合の長と各級労働組合との間の、関係および運営を具体的に規定する。
6.労働法典「第13章 労働組合」
- 第153条
-
- 労働組合が未結成の現在操業中の事業体に対しては、本法典施行後遅くとも6カ月以内に、そして新設の事業体では、操業開始後遅くとも6カ月以内に、省級労働組合連合は、労働者および労働者団体の権利と利益を代表し、保護するために、事業体に暫定労働組合組織を結成しなければならない。
- 暫定労働組合の活動は、政府がベトナム労働総同盟と協力して定める。
- 第154条
-
- 労働組合法および労働組合条例に従って労働組合が結成された場合、使用者は、これを認めなければならない。
- 使用者は、労働組合と密接に協力し、本法典および労働組合法の規則に従って、労働組合の活動のための有利な条件を創出しなければならない。
- 使用者は、労働者が労働組合を結成すること、または労働組合に加入すること、もしくは労働組合の活動を行うことをもって不利益な取り扱いをしてはならず、また、労働組合の組織および活動に介入するために経済措置、その他の措置を用いてはならない。
- 第155条
-
- 使用者は、労働組合活動に対し、必要な活動手段を保証する責任を有する。
- 非専従労働組合職員は、労働組合の用務のために労働時間中その時間の一部を用いることができ、かつ使用者から賃金の全額支払いを受ける。この時間は、事業体の規模および使用者と単位労働組合執行委員会間の合意によるが、1カ月3労働日未満であってはならない。
- 専従の労働組合職員の賃金は、労働組合基金により支払われるが、事業体の規定や団体協約により、事業体の他の労働者同様の権利、集団福利の恩典を亨受する。
- 使用者は、単位労働組合執行委員会の委員である労働者を解雇したり、その労働者との労働契約を一方的に解除する場合、当該労働組合執行委員会の同意を得なければならない。当該者が執行委員会の委員長である場合は、直接上部の労働組合の同意を得なければならない。
- 第156条
- ベトナム労働総同盟および各級労働総同盟は、国の行政機関および使用者の代表と協力して労働関係に関する問題を討議し、かつこれを解決する。また求職周旋、職業訓練、相互扶助、法律相談を行い、労働者のための地域社会福祉施設を設立し、かつ労働組合法と本法典に定めるその他の権利を実現する。
7.労働法典のストライキ関連条項
- 第172条
-
- 労働者団体は、労働仲裁協議会の裁決に同意しない場合、争議解決を人民裁判所に要請するかまたはストライキを行うことができる。
- 使用者は、労働仲裁協議会の裁決に同意しない場合、この裁決の再考を人民裁判所に要請することができる。使用者による労働仲裁協議会裁決の再考要請は、労働者の団体ストライキ権を妨げるものではない。
- 第173条
-
- 労働調停協議会または労働仲裁協議会が労働争議の解決を図っている間、争議のいずれの当事者も相手方の当事者に一方的な行為をしてはならない。
-
ストライキは、労働者の過半数が投票もしくは署名で賛成した後、単位労働組合執行委員会により決定される。
単位労働組合執行委員会は、最大3人から成る代表を使用者に送り、要求書を提出すると同時に、省級の労働機関と省級労働組合同盟に各々通告をする。要求書と通告は、争議の問題、要求内容、ストライキ賛成の投票もしくは署名結果およびストライキ開始時期を特定しなければならない。
- ストライキ中、暴力行為または事業体の機械、設備、その他の資産に損害を与える行為および公共の秩序と安全を妨げるすべての暴力行為は、厳重に禁止される。
- 第174条
-
政府の定めるリストに規定される、公衆の用命に応ずる、または国民経済もしくは国家の安全保障および防衛に不可欠な若干の事業体でのストライキは禁止される。
国の管理機関は、労働者団体の正当な要求解決に適時助力を与えるために、当該事業体における労働者団体の代表および使用者の意見聴取を定期的に行わなければならない。集団的労働争議が発生した場合、省級労働仲裁協議会が解決する。当事者のどちらか一方が、労働仲裁協議会の裁決に同意しない場合、争議解決を人民裁判所に要請することができる。
- 第175条
- ストライキが、国民経済または公共安全を著しく危うくする恐れがあると判定された場合、首相は、ストライキの延期もしくは中止を命じることができる。
- 第176条
-
- 次に掲げるストは違法である。
- 集団的労働争議から発生したものでない場合、または労使関係の範囲を超えている場合。
- 事業体の範囲を超えている場合。
- 本法典第173条の第1項および第2項ならびに第174条の規定に違反している場合。
- ストライキが合法的なものであるか否かの判定権限は、人民裁判所に属する。
- 次に掲げるストは違法である。
- 第177条
- 人民裁判所は、ストライキ、集団的労働争議に係る争議について決定権を有する。
- 第178条
-
- ストライキ参加者または指導者に対し、いやがらせや報復行為をすることは厳重に禁止される。
- ストライキ権の行使を妨げたり、または他人にストライキを強要したり、ストライキ中に不法行為を行ったり、首相もしくは人民裁判所の決定に応ずることを拒否する者は、その違反の重大度により、損害賠償を支払い、かつ行政の制裁もしくは刑事責任の追及を受けなければならない。
- 第179条
- ストライキおよび労使関係の裁判事件の解決は、国会常務委員会の規定による。
10.労働災害
1.労働災害の概況
労働災害や職業病に関して MoLISA と保健省は、職業上の安全衛生に関する、政策・基準を公布する責任を負う。当該政策、基準実施の監督に責任を負う他の機関も存在する。検査および監督は、常に労働組合の参加を得て行われる。
しかし、検査官の不足により、検査および監督の実施数は非常に少ない。その結果、職業病に冒されている労働者数の合計は計算されていない。入手できた数字は、死に至る重大労働災害についてだけである。保健省が行った抽出調査では、調査対象労働者の15%が職業病に罹患していることが判明した。一般的な疾病は、珪肺(66%)、職力障害(19%)である。労働者は農薬、鉛などの有害物質に汚染されることもある。
労働災害の合計数に関しては、1999年には3825件の事故があり、これは98年の数字に比べ900件の増加となっている。約300件の重大事故が発生、355人が死亡、1000人以上が負傷している。労災事故を減少させるために、労働条件に関する検査を増やすことが国の機関により計画されている。
2.労働災害補償制度の概要
労働法典では、労働災害を被った労働者にその状況に応じて補償が受けられると定めている。災害が従業員の過失によって引き起こされたのではない場合に、労働能力の81%以上を失った従業員および死亡者の親族に対して30カ月分以上の賃金を使用者は支払わなければならない。従業員の過失によって災害が発生した場合は、使用者は少なくとも12カ月分以上の賃金に相当する手当を当該従業員に支払わなければならない。
11.その他の関連情報
1.社会保険
現在、10人以上の従業員を雇用している企業は、以下の社会保険への加入を義務づけられている。
- 疾病保険
- 労働災害・職業病保険
- 妊娠保険
- 退職保険
- 遺族保険
上記の社会保険の財源は下記のとおりである。
- 労働者の月額賃金の15%相当額を毎月、使用者が拠出
- 労働者は月額賃金の5%を毎月拠出
- 政府の補助金
統計によれば、社会保険制度によってカバーされている労働者はわずか350万人である。この数値は、全国の労働者総数の12%であり、社会保険制度への加入を義務づけられる企業の従業員総数の60%にすぎない。
また、MoLISA は、労働者の失業給付制度を立案するよう政府の指示を受けている。さらに、農民の強制社会保険はまだ整備されておらず、一般に非国営企業はその従業員について社会保険基金に保険料を支払っていない。政府の計画では、これら非国営企業を対象とした任意保険制度を設立するとしている。
2.人的資源開発、教育訓練
人材開発制度にはつぎが含まれる。
- 大学、技術専門学校(全国に65校)
- 中等学校制度
- 職業訓練学校、職業訓練センター
上記の大学、技術専門学校には公立と私立がある。
1998年に労働市場に熟練労働者が不足しており早急に技能労働者を養成する必要があるとの認識に基づき、政府は、労働・傷病兵・社会問題省の管轄下に総合職業訓練局を設置することを承認した。
2000年までに労働者の20%は訓練を受けることになると計画している。これは当面する大きな課題の1つである。
3.一般学校教育制度
教育制度は以下のとおりである。
- 公立学校:施設、教材などは政府が提供。
- 準公立学校:政府は教育課程に責任を持ち、運営費は学生、生徒の授業料で賄う。
- 私立学校:非政府組織または各種法人によって管理され、すべての運営費用は当該組織、法人が負担。
教育課程は3段階であり、小学校(1~5学年)、中学校(6~9学年)、高等学校(10~12学年)である。教育法によれば、小学校教育は義務教育であり、生徒は授業料を払う必要がない。
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- 基礎情報:ベトナム(2004年)
- 基礎情報:ベトナム(2003年)
- 基礎情報:ベトナム(2002年)/全文(PDF:797KB)
- 基礎情報:ベトナム(2001年)/全文(PDF:310KB)
- 基礎情報:ベトナム(2000年)
- 基礎情報:ベトナム(1999年)
※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
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