基礎情報:イギリス(2000年)
※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
1.一般項目
- 国名: グレート・ブリティンおよび北アイルランド連合王国(イギリス、ヨーロッパ)
- 英文国名: United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
- 人口: 5900万人(1998年)
- 面積: 24万4100平方キロメートル
- 人口密度: 242人/平方キロメートル
- 首都名: ロンドン
- 言語: 英語
- 宗教: 英国国教、カトリック
- 政体: 立憲君主制
2.経済概況
- 実質経済成長率:
+2.7%(1999年)、 +2.4%(1998年)、 +3.4%(1997年) - 通貨単位:
ポンド(Pound Sterling:£ Stg.) £1=US$1.6640、 1ポンド=175.30円(1999年10月) - GDP:
1兆2829億ドル(1999年)、 1兆3623億ドル(1998年)、 1兆2829億ドル(1997年) - 1人当たりGDP:
2万1740ドル(1999年)、 2万3462ドル(1998年)、 2万1740ドル(1997年) - 消費者物価上昇率:
+1.4%(1999年)、 +2.6%(1998年)、 +2.8%(1997年)、 +3.0%(1996年) - 主要産業:
農業(小麦、じゃがいも、羊、牛など)、鉱工業(石炭、原油、製造業など)
3.対日経済関係
- 対日主要輸入品目:
乗用車、原動機、自動車部品、集積回路、鉄鋼、金属製品など - 対日輸入額:
141.9億ドル(1999年)、 145.3億ドル(1998年)、 137.7億ドル(1997年) - 対日主要輸出品目:
事務用機械、 医薬品、 自動車、 アルコール飲料、 有機化合物、 電気計測器など - 対日輸出額:
59.2億ドル(1999年)、 58.3億ドル(1998年)、 72.2億ドル(1997年) - 日本の直接投資:
13070億円(1999年)、 12522億円(1998年)、 5054億円(1997年) - 日本の投資件数:
171件(1999年)、 176件(1998年)、 84件(1997年) - 在留邦人数:
5万5224人(1999年10月)
出所:
- The Economist(各号)
- Labour Force Survey, Office for National Statistics
- 日本:大蔵省(財政金融月報、外国貿易概況)、外務省(海外在留邦人数調査統計)
4.労働市場
1.労働市場の概況
最近の諸指標によれば、イギリスの労働市場は売手市場が続くと見られる。まず、イギリスの現在の労働力人口は2924万7000人で、そのうち雇用者数が2752万2000人である(1999年秋における季節調整済み数値。出所:Labour Force Survey)。労働力人口の生産年齢人口(16歳から64歳までの男子と、16歳から59歳までの女子)に対する割合は79%である。これは、過去最高の経済活動比率を意味する。性別で見ると、女子72.7%、男性84.7%である。完全雇用にはなおまだ達していないが、イギリスの失業率はこの6年間一貫して低下してきた。ILO 方式による労働力調査で、1999年秋の失業率は、1年前の6.2%から低下して5.9%(失業者数172万6000人)となった。この秋の結果には、ほとんどの労働アナリストが驚いている。多くの専門家が、失業率は1999年末まで上昇し続けると予測していたからである。たとえばOECDは、労働力調査による失業率は、2000年には8%にまで上昇するだろうと予測していた。
さらに、新聞や雑誌上の求人広告の量が加速度的に増えてきており、すでに2年近くもその増加速度を早めており、労働市場は、今後一層逼迫が進むと考えられる。新聞広告は、広範囲な経済の動きを示す指標として信頼できるものと見なされており、イギリス中央銀行は、注意深く観測している。2000年の雇用の伸びはわずか0.8%と予測されているが、労働力需要が拡大すれば、多少にかかわらず、所得の伸びを促す要因となりうる。
しかし、イギリスの労働市場がいまだになお構造的問題の影響を受けていることが、いくつかの指標によって示されている。まず、求人数は、1970年代以来の最高水準に達している。このことは、労働力需給にかなりの規模のミスマッチが存在することを示唆している。このミスマッチを生んでいる要因の一つは、伝統的な非熟練男子労働力に対する需要の喪失である。また、持ち家労働者数が増加し、同時に公営住宅への入居資格者数が減少しているという2つの理由があいまって、労働力が地理的に移動できないことも、専門家は要因の一つとして指摘している。
さらに、イギリスの労働市場での、労働者に対する技能訓練の水準が懸念されている。イギリス経済が「低賃金、低付加価値」の状態にはいり込んでいる、と言われるようになってから数年が経っているが、最近のデータはこの状況が依然として根強く続いていることを示している。1998年8月に公表されたイギリス産業連盟(Confederation of British Industry)の雇用調査では、サービス部門の企業の49%と製造部門の45%が、適格な労働者がひどく不足しているため業績が悪化していると述べ、その技能不足の主要な原因として、回答者の71%が、求人に対する適格な応募者数の不足をあげた。応募者数の不足そのものを要因として挙げたのは、わずか27%にすぎない。このことは、失業者のかなりの技能不足を示している。
イギリス労働組合会議(TUC)の報告でも同様の懸念が表明されており、自由志願による国の職業教育および訓練のやり方では、長期的な技能投資を行うことができなかったのではないかという指摘がある。報告によれば、国の職業訓練に対する努力は、過去10年間、皆無でないにせよほとんど改善されておらず、1980年代中頃以降訓練の規模にも基本的な前進はない。
その外の労働市場に関する重要な特徴として、製造部門とサービス部門における情勢の相違がある。政府の掲げる2.5%のインフレ抑制という経済目標を維持するために、イギリス中央銀行の金融政策委員会は、1999年中、利率を上げ続けてきた。そして国立経済社会研究所(National Institute of Economic and Social Research)は、2001年末までインフレ目標を維持するためには、年末までには利率が6.5%にならなければならないだろう、としている。これが、すでに高水準にあるイギリス通貨をさらに上昇させ、製造業の業績に悪影響を及ぼしてきており、特にイギリス北部にその現象が見られる。しかし、輸出製造業については、好転しているヨーロッパおよびアジア経済からの恩恵を受けられる見込である。事実、最新のイギリス産業連盟の地域経済調査では、製造業において、以前よりも楽観論が増えている。
2.労働市場の特徴
- 労働力人口: 2924万7000人(季節調整済み数値)
- 労働力人口の生産年齢人口(16歳から64歳までの 男性と、16歳から59歳までの女性)に対する割合: 79%
- 失業者数: 2172万6000人。ILO 定義の労働力調査による(季節調整済み数値)
- 失業率: 5.9%(季節調整済み数値)
出所:Labour Force Survey, Autumn, 1999
5.賃金
1.賃金制度の概況
イギリスにおける賃金決定システムは、近年、分散化がさらに進んでいる。産業全体もしくは全国レベルで行われる複数労組対複数使用者の団体交渉で、産業もしくは経済部門全体の賃金レベルが決められるという方式は、もはや事実上消滅した。
団体交渉による賃金決定に包含される労働力人口の割合は、1998年では35%でしかない。
出所:LFS, Labour Market Trends, 1999
団体交渉に代わって、非肉体労働者に対する利益分配方式(職場の30%が採用)、従業員持株制度(15%)、および成績給制度(11%)の採用が増加してきている。
出所:Workplace Employee Relations Survey, 1998
2.最低賃金
一部の産業の最低賃金を決めていた賃金審議会(Wages Councils)は、1993年に廃止された。しかし、1997年5月の選挙で成立した労働党政府は、国内の最低賃金を設定する低賃金委員会(Low Pay Commission)を発足させた。低賃金委員会は、1998年の年末に報告を出し、21歳以上の成人に対しては3.6ポンド、18~21歳の従業員には3ポンド(2000年6月には3.2ポンドに引き上げ)の金額を勧告した。成人のレートは、2000年中に3.7ポンドに引き上げられる。21歳以上の労働者で、新しい使用者の下で新しい仕事に就いたばかりの定められた研修を受けている者の賃金資格は、6カ月間は1時間当たり3.2ポンドの見習賃金とし、その後は満額の成人賃金水準とする。16歳および17歳の労働者で、徒弟として見習中の者は、最低賃金の規定から除外される。この方式は、概ね OECD の平均に沿ったものである。
全国最低賃金制度は、1999年4月1日から実施された。200万人に近い労働者がこの影響を受け、最低レートが導入された時点で、平均30%の賃金引き上げを得た。全国最低賃金制度に関して現在までに明らかになったことは、この制度が雇用創出に対して全く悪影響を及ぼさなかったということである。導入に反対であった保守党は、雇用に対して否定的な影響が出る可能性を強調したが、導入後は保守党議員も、たとえ政権に復帰しても最低賃金制度は維持することを公約している。
最低賃金制度は、家計所得の不平等の是正に関してはほとんど影響を与えなかった。全国最低賃金制度の恩恵を受けた200万人の労働者のうち、約130万人が女性である。しかし,これらの女性労働者のうちの多くは、パートタイムで働く比較的裕福な家庭の第2番目の賃金稼得者である。英国の最貧困家庭の多くは、働き手のいない家庭で、そのような家庭に対して最低賃金制度は何の援助ともならなかった。
3.賃金関連情報
1週間当たりの平均総収入:400ポンド(すべての、フルタイムで働く成人レートの労働者の平均)。
出所:New Earnings Survey
1週間当たり総賃金の平均上昇率:1999年秋までの1年間で3.7%。
出所:Labour Force Survey
公共部門における平均上昇率:2.1%(1999年秋まで)。
出所:Labour Force Survey
民間部門における平均上昇率:4.2%(1999年秋まで)。
出所:Labour Force Survey
1時間当たりの平均総収入(超過勤務手当と超過時間を含む):10.01ポンド。
出所:New Earnings Survey
1時間当たり総収入の平均上昇率(超過勤務手当と超過時間を含む):1999年4月までの1年間で4.5%。
出所:New Earnings Survey
6.労働時間
1.労働時間制度の概要
イギリスは、EU の労働時間に関する指令を採用するまでは、労働時間を規定する法規をもたなかった。EU の労働時間に関する指令は、1998年10月1日に発効し、労働者に対して1週に48時間を超えて労働させてはならないと明記している。またこの指令により、食事のための休息時間を取る権利も導入された。
労働時間指令は、使用者側からの強い反対にあった。たとえば、1999年9月に発表されたイギリス産業連盟の調査では、85%の工場が、指令によって課せられる官僚的な負担に不満を示している。
産業界からの圧力により、政府は1999年7月に、無給の時間外労働をする労働者については全員、指令の完全な保護からはずすという修正案を出した。この案では、事実上約900万人の専門職労働者およびホワイトカラー労働者が指令の保護から外されることになる。
当然、労働組合はこの動きに反対を示した。TUC のモンクス書記長は、政府の提案する変更が EU の指令に反しないかどうか欧州委員会に訴える用意があり、必要ならば裁判も辞さないと述べた。しかし、バイヤズ通商産業大臣が9月に TUC の総会に向けて、政府の狙いは、ホワイトカラーを規定からはずすことではなく、除外の範囲は上級管理職に限定する予定であることを保証してからは、法的手段に訴えるという労働組合の動きは、一時停止状態になっている。
1999年11月、ブレア首相は、EU の労働時間規則の実施がどのように行われるかを新たに調査することを約束し、過剰な規則に対する産業界の不満も考慮すると語った。
- 平均労働時間: フルタイム雇用者-1週間当たり38.1時間(1999年秋)。
出所:Labour Force Survey
2.有給休暇等の概要
EU の労働時間指令は、年次休暇に関する必要条件を定めている。EU は、労働者は、1週間に最低1日の休み(16~18歳の場合には2日)が与えられるべきであり、また年間では、最低4週間の有給休暇が与えられなければならないとしている。
1日当たりの休憩時間の権利
労働時間指令では、労働者はすべて、毎24時間の中で11時間の連続した休息時間を取らなければならない(16~18歳の場合は12時間)と規定している。
労働時間指令では、さらに、成人労働者の1日の労働時間が6時間以上である場合には、20分間の休憩をとらなければならない(16~18歳では、4.5時間以上の場合、最低30分間)と規定している。
育児休暇
EU の育児休暇指令は、働く親に対して、出産時もしくは子どもを養子に迎えた時に、3カ月までの無給休暇を取る権利と、従業員に対して、家族のために緊急を要することを理由として休暇をとる権利を与えている。これは、雇用関係法(Employment Relations Act)の一部として1999年12月15日に実施された。
7.労使関係
1.労使関係の概観
- 労働組合員: 710万人(1998年。1997年の数値から1万人減少)。
出所:Labour Force Survey
最新の数値では、現在、全労働力人口の29.6%が労働組合に加入している。1989年は39%、1979年は58%であった。民間部門では組合員数が少なく、TUC の推定によると、民間部門の労働者の20%が組合に加入している。1998年にリストアップされた組合の数は233で、これは1997年より12減少している。
出所:Labour Market Trends
1998年の数字が全体的に労働組合の衰退を示してきている一方で、1999年中の労働組合員数と承認された労働組合数は増加を示している。TUC が行った調査によれば、1999年の1月から10月までの期間に、74の承認協定があり、その組合員総数は2万1366人になる。そのうちの85%が、賃金その他の雇用条件に関する交渉権を労働組合に与えている。
TUC の調査によれば、労働組合の5つのうち1つが新しい承認協定を得られたのは、差し迫っている法的な承認権のためであった。70%近い労働組合が、承認を獲得するための運動に加わっていると回答した。さらに、この調査で46%の労働組合が、今回は承認をめぐる交渉でこれまでよりも勝つ公算が大きいと述べており、労働組合の承認に関して楽観的な見方が広がっていることが判明した。60%が、新しい法的な承認の権利によって、運動における態度に変化が生まれていると付け加えた。
TUC のモンクス書記長によれば、労働組合を取りまく環境の逆転は、法律的な状況の変化によるものである。さらに、氏によれば、労働組合に対する経営側の本能的な敵対心がなくなってきており、より協調的なアプローチをとることの利点と、労働組合と「パートナーシップ」を結ぶことの潜在的な利点が、経営側に理解されてきている。
- ストライキ件数(1998年): 期間中に開始-159件。期間中に進行中-166件。
出所:Labour Force Survey
- 争議に参加した労働者数(1998年): 期間中に関わったもの-9万3000人。
出所:Labour Force Survey
- 争議による喪失労働日数: 28万2000日(1998年。23万5000日(1997))。
2.労働組合と労使関係に関する法律
1980年代から90年代初期にかけて、労働組合に関して多くの法律が作られた。こうした法律は下記の分野にわたる。
- クローズド・ショップの禁止:団結否定権(negative rights of association)が導入されたことで、雇用前、雇用後加入のどちらの形であってもクローズド・ショップは禁止された。
- 争議行為に関する免除範囲の制限:法律により労働争議の定義が狭められ、使用者と、その使用者に雇用されている従業員との間の非政治的なストライキだけが免除の対象となるようになった。万一、非公認の、労働争議の定義に当てはまらないストライキもしくは争議行為を行った場合には、その労働組合または組合幹部は、罰金、損害賠償、もしくは組合資産の仮差押えの処分に服さなければならない。
- 一次ピケッティングおよびマス・ピケッティングの禁止
- 組合民主制に関する法律
- 秘密ストライキ投票
- 政治資金徴収制度の維持もしくは導入についての投票
- 全国役員の任命投票
- 団結否定権の拡張:たとえば、労働組合員は、多数の支持による争議行為であっても、それに参加しないことが今では可能である。
現政府は、1980年および90年代初期に作られた法制度の枠組みの大部分を廃止することは計画していない。しかし、2000年夏には、労働組合の正式承認を受ける権利が法的に有効になる。この権利は、雇用関係法(Employment Relations Act)により導入されるが、従業員が20人を超える企業に対して適用される。その手続きは、自主的な合意を得ることが狙いであるが、自主的合意が得られない場合には、労働組合は、中央仲裁委員会(Central Arbitration Committee: CAC)に申し立てることができる。CAC は、適切な交渉単位を決定すると同時に、その単位内の労働者の多数が承認を支持していることを確認する。全従業員の50%以上が労働組合員であることを労働組合が証明できる場合には、自動的に承認が与えられる。使用者は、この承認が良好な労使関係に悪影響を与えると考える場合、もしくは労働組合の組合員が必ずしも団体交渉の原則を支持していないと考える場合には、CAC に提訴する権利を持つ。CAC で訴えが支持された場合には、労働組合は投票を行わなければならない。労働組合承認の賛成を得るには、投票総数の過半数、かつ全従業員の40%の賛成票がなければならない。
8.労働行政
労働政策の概況
失業対策
1980年代と90年代の保守党政権は、労働市場に対して自由放任政策をとり、したがって、失業を減らすための積極的な労働市場政策を実施しなかった。この政策の姿勢はおおむね変わっていないが、1997年5月の選挙で労働党政権になってから「働くための福祉」(Welfare to work)政策が導入された。その主要な目的は、6カ月以上失業している25歳以下の25万人の若者が、再び就職できるように援助することである。25歳以下で長期失業者とされた若者はすべて、読み書きの基礎と理数系の基礎を教育する「入門訓練」を受けた後、下記のなかから1つの道を選ぶことができる。
- 民間部門の会社で6カ月間の就労研修につく。使用者は、雇用した失業中の若者1人につき週60ポンドの補助金を受ける。
- ボランティア部門で働く。
- 環境対策部門の中の業務につく。
- 上級の教育・訓練に進む。
さらに、失業期間が2年以上の25歳以上の人を雇い入れた使用者には、週75ポンドの補助金が支払われる。ただし、これにはそれほどの重点は置かれていない。政府の見解では、「働くための福祉」計画は成功しており、それは労働市場に積極的に参加している人数によって証明されている。
また、政府は、「労働者家庭の税額控除(Tax Credit)」政策を導入した。この政策の目的は、低所得家庭の税負担を軽くすることにより、扶助から就労への転換を促すことにある。
技能訓練
1990年代から、下記のようないくつかの新しい訓練施策が始められた。
全国職業資格認定制度(National Vocational Qualifications)(NVQs)は、国家認定の職業資格を与える唯一の制度である。これは、それまで統一がなくさまざまに混在していた多くの教育コースに変わって登場した。しかし、その効果はあまり上がっていない。調査の結果、NVQs の利用状況は、職業資格認定全国協議会(National Council for Vocational Qualifications)が目指す水準よりもかなり低いことがわかった。
1991年から92年にかけて訓練企業協議会(Training and Enterprise Councils:TEC)が複数設立され、各地の地域企業のトップが委員に就任するよう要請された。その目的は、訓練内容を地域の必要性に合わせていくためである。「成功のための学習」と題された教育雇用局(Department for Education and Employment)の白書では、2001年までに TEC 制度と上級教育基金協議会(Further Education Funding Council)に代わるものとして、国の学習技能協議会(Learning Skills Council:LSC)を当てることを提案している。LSC は,16歳以後の教育と職業訓練について、すべての計画および財政の責任を担うことになる。
さらに、以下の制度施策も実施されている。
- 人材への投資家: 国家的に認められた良き訓練慣行の規準。良い訓練を実行している使用者を認定するもの。
- 現代の徒弟制度: 1993年秋に、イギリスの徒弟制度を復活させる試みとして導入された。限られた利用しかなされておらず、また、政府からの資金を得る目的で、現在の徒弟制度の名称を変えるだけの例もあると言われている。
- 産業のための大学: 1999年3月、政府は、特に小企業の最新IT技能の習得を助けるため、全国40の優秀な施設に9000万ポンドの助成金を支給することを発表した。
9.労働法制
イギリスの雇用保護法は、イギリスで通常の労働を行う労働者に、一定の個別的な就業に関する権利を認めている。この法制度は、他のEU諸国の法制度と比較すると規制の度合いはかなり少ない。雇用保護法は下記について定めている。
- 雇用関係
- 賃金
- 出産の扱い
- 人員整理
- 解雇通告
- 不当/不正解雇
- 性別、人種、障害を理由とする差別
労働者は、法律上の権利が侵害されたと考える場合には、資格要件を満たせば、雇用審判所(Employment Tribunal)を通じて救済を求めることができる。雇用審判所は、独立の司法機関であり、費用が安く、迅速で、アクセスしやすく、簡易な司法判断を行うために設置されたものである。
雇用関係法(Employment Relations Act)に、いくつか新しい個人の雇用権利が追加された。
- すべての個人は、「重大な」苦情(制定法上、契約上、および慣習法上の権利の潜在的侵害)に関する申し立ての手続きを、認定された労働組合を代理人として行う権利を持つ。
- 法的根処のある活動を行っている間に解雇された労働者は、不当解雇に対し異議を申し立てることができる。この権利は、もし使用者が両者間で「紛争を解決するためのあらゆる合理的手段をつくした」ことを証明できるならば、8週間後に消滅する。
- 不当解雇の賠償金の最高額が、1万2000ポンドから5万ポンドに引き上げられた。不当解雇に対する異議申し立ての期間は2年から1年に短縮された。
- EU の育児休暇指令の規定と同様の育児休暇に関する規定が1999年12月15日に実施された。
- パートタイム労働に関する指令の実施により、パートタイム労働者の権利が広がり、賃金および待遇についてフルタイム労働者と均等の取り扱いをうける権利を持つ。これは2000年4月7日に実施された。
- 通常の出産休暇の権利が、14週間から18週間に延長された。妊娠中の女性は、一定期間勤めなければ産休の権利が得られないということはなく、就職した日から出産休暇をとる権利をもつようになった。
10.労働災害
1.労働災害の概況
安全衛生問題に関する主要な法律は、労働安全衛生法(1974年)である。同法は、就労中の労働者の安全衛生を確認すること、当該作業(労働)によって生じる安全衛生面でのリスクから当該労働に関係しない者を保護すること、職場における爆発物の保管・管理に関すること、有害・危険物質の大気への排出を防止することなどを定めている。
この法律は、安全衛生委員会(Health and Safety Executive:HSE)その他地方自治体の検査官により施行される。
使用者には、職場に安全担当者を任命する義務がある。安全担当者は通常、労働組合の職場内組織の役員である。その権限は、労働安全衛生法に定められており、HSE 規則により補完されている。
2.労働災害補償制度の概要
労働災害に対する補償は、裁判を必要としない国家給付、あるいは民事訴訟を通じて得ることができる。国家給付には、就労不能給付および障害給付がある。
職業病については、社会保障法(1975年)が労働災害とは別個に扱う。損害賠償を求める市民法に基づく裁判は、過失、法律上の義務違反および保証責任について訴えることができる。損害賠償は、過失がある場合(原告の行為が障害に関与した場合)には減額される場合がある。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
致命的傷害 | 2.2 | 0.1 |
重傷 | 119.9 | 43.2 |
軽傷(3日以上) | 916.2 | 321.9 |
出所:1995年 HSE 資料から作成
11.その他の関連情報
一般学校教育制度
イギリスの児童は5歳から学校教育を受ける。学校を離れる最低年齢は16歳であり、この時点で生徒は中等教育一般認定試験(GCSE:General Certificate of Secondary Education)を受ける。
A級からC級までの5つの GCSE に合格する生徒の割合は、現在46.5%である。
教育および訓練目標に関する全国諮問委員会は、この割合を引き上げて、C級における5つの GCSE または中間 GNVO/NVO レベル2に2000年までに児童の85%に合格させることを目標としているが、目標達成の可能性は高くない。
16~18歳の児童のうち約64%が、現在全日制または定時制の教育または訓練を受けている。この割合は、他の西欧諸国に比べて低い。ドイツでは、この割合は90%である。
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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
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