基礎情報:イギリス(2003年)

基礎データ

  • 国名:グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland )
  • 人口: 5923万人(2002年推計)
  • 経済成長率: 2.0%(2001年、OECD統計)
  • GDP: 1万4241億ドル(2001年)
  • 労働力人口(※Economically active, 経済的稼働状態にある者):2,976万人(2003年12月~2004年2月平均、16歳以上、季節調整値)
  • 就業者数:2833万人(同上)
  • 失業率(ILO定義による):4.8%(同上)
  • 日本の直接投資額:5314億円(2002年度)
  • 日本の直接投資件数:30件(2002年度)
  • 在留法人数:5万0864人(2002年10月)
  • 週平均労働時間 (残業を含む): 37.3時間(2002年11月~2003年1月)

資料出所:National Statistics "Labor market Statistics"、外務省新しいウィンドウ財務省新しいウィンドウ

I.2003年度の主な動き

英国経済は安定成長を続けており、2003年第4四半期のGDP成長率は年率3.8%とこの4年間で最高の水準を記録した。これを背景に雇用情勢も記録的な好調ぶりを見せた。失業率は長期的な低下傾向にあったが、2004年2月までの四半期の失業率(ILOの定義による。)は4.8%で、前年同期(5.0%)から0.2%ポイント改善した。これは1984年の労働力調査開始以来最低の数字とされている。この期間の就業者数(2,833万人)、就業率(74.9%)もともに記録的な高水準となり、求人数も前年と比べて増加傾向にある。

失業率改善の要因としては、景気拡大が続く中で職業訓練、職業紹介プログラムの充実、最低賃金制度の導入等労働者保護法制の見直し等により、労働市場が活性化したことが指摘されている。

若年層の失業率が高いことは他の先進国と同様の傾向である。同四半期の18~24歳層の失業率は前年同期と比べるとやや改善したものの、9.9%という高率となっている。英国では1998年から若者の就労支援策として「若年者のためのニューディール」を導入しているが、就職率の上昇効果が報告される一方、長期失業者が職とプログラムを往復するだけで参加者ストックが減少しないという指摘もあり、所期の効果をあげているとは必ずしもいえないようだ。

企業が求めるスキルを持たないことが若年失業の背景にあるが、スキル不足の問題は実は若者にとどまらず英国労働力全体について指摘されている。2003年に公表された教育技能委員会(Learning and Skills Council)の調査によれば、求人の5分の1が埋まらないのは求められるスキルを持った応募者がいないためだという。政府が昨年打ち出した新たなスキル戦略では、必要とされるスキルを特定・分類し、個人のエンプロイアビリティがそれを満たすよう訓練や資格制度を改定することとしている。

2003年度に施行された新たな法律のうち主なものとしては、2002年雇用法(Employment Act 2002)が4月から施行された。これにより働く親(6歳未満の子供又は障害を持つ18歳未満の子供を持つ者)がフレックス勤務や在宅勤務等、柔軟な勤務体制で就労することを要求する権利が認められた。また父親のための休暇制度の権利が規定され、女性の出産休暇時の所得保障と同水準の所得保障が導入された。

これは政府の「ワーク・ライフ・バランス」キャンペーンの一貫として導入された法律だが、労働者の制度利用希望あるいは期待が大きいといわれ、今後企業に多大な影響を与える可能性がある。

また12月からは2003年雇用平等規則(Employment Equality Regulations 2003)が施行され、性別、宗教・信条を理由とした職業上の差別や嫌がらせが違法であることが規定された。

このほか、EU労働時間規制の「適用除外」の問題、年金制度の見直し等、従来からの懸案ともいえる問題が引き続き議論された。また、グローバリゼーションが進む中でコールセンター等の業務の海外輸出が進み、それに伴う国内雇用が喪失されるといういわば先進国共通の問題が、英国においても労使の関心を集め大きな議論となっている。

II分野別の動向

1.雇用管理

募集・採用

英国企業が欠員補充を行う際の募集・採用方法としては、社内募集、出版物による社外募集、職業紹介所、人材紹介会社及び「口コミ」による募集が一般的である。また「電子募集」も増えつつある。まず応募書類で選考し、最終選考としては面接、評価センター、認識能力に関する試験(数字及び言葉の推理試験など)、適性試験及び性格検査などが行われている。2003年の雇用平等規則の施行により、人種や国籍に関する質問はモニタリングを目的とする場合を除いて控えられるようになった。

英国では中堅社員の転職は一般的に行われている。多くの管理職や専門職が、経験を広げ専門性を高めるために企業を移っている。特に情報・通信技術分野の専門職の場合、転職を繰り返すことで収入を増やしていく例もみられる。

雇用形態の多様化

労働人口に占めるパートタイム労働者の割合は、2003年9月から11月の期間については26.2%であった(1984年には約21%)。また、一時的あるいは臨時の雇用契約に基づく労働者の割合は、同期間については6.2%であった(1990年代初頭には約5%)。

このように就業形態の多様化が進む中、パートタイム及び有期雇用契約の利用に関する規則が導入されている。有期契約労働者(不利益待遇の防止)に関する規則は2002年10月1日から施行されている。有期契約の被用者は客観的に正当化される場合を除き、その雇用の条件に関して正社員よりも不利な待遇を受けることがあってはならない。また、有期雇用契約は客観的に正当化される場合を除き、4年を超えて継続してはならないこととされている。ある被用者の雇用契約が2年以上継続し、余剰人員を理由に更新されない場合、その被用者には法定の整理解雇手当の受給資格が生じる。

パートタイム雇用契約については、パートタイム労働者に関する規則(不利益待遇の防止)が2000年7月に導入されている。パートタイム労働者は客観的に正当化される場合を除き、同じ場所で同種の契約に基づき就業するフルタイム労働者よりも不利な待遇を受けることがあってはならない。パートタイム労働者は、例えば次のような権利を与えられる:フルタイム労働者と同じ時間給/同じ年次休暇と出産の請求権/養育休暇(日割り計算による)/平等な研修の機会。また事業主は、フルタイム労働者が希望する場合には、パートタイム契約への変更を認めなければならない。

派遣労働者についてはこの種の規則は今のところ存在しない。しかし派遣労働に関するEU指令草案では、派遣労働者は客観的に正当化される場合を除き、派遣先の企業の正社員よりも不利な待遇を受けることがあってはならないという均等待遇原則の適用を求めている。これらの提案が法的拘束力のある指令となるためには、今後欧州理事会と欧州議会の承認を得る必要がある。

定年制

英国における現行の退職年齢は男性が65歳、女性が60歳である。しかし政府は2003年、強制的な定年制を廃止することを検討していると発表した。また被用者には年齢による差別を理由に雇用主を労働裁判所に訴える権利が与えられるという。新しい法律の導入目標は2006年10月とされているが、今後大きな議論を呼ぶと考えられる。

2.労働条件

最低賃金

2003年10月から、成人の最低賃金(22歳以上)は1時間当たり4.50ポンド、若年労働者(18-21歳)及び新たに就職して正式な研修(最長6カ月)を受ける労働者については1時間当たり3.80ポンドとなっている。18歳未満の労働者は最低賃金の適用外だが、2004年1月の政府発表によれば、16-17歳層の労働者にもこの規定を適用することが検討されている。

最低賃金規定は出来高払いの労働者、在宅勤務者、派遣労働者、パートタイム労働者及び日雇い労働者を含む全ての労働者に適用される。ただし、自営業者、ボランティアの労働者、19歳未満の見習い、見習い期間が12カ月以内の26歳未満の見習い、大学または大学院の授業の一環として働いている学生、一定の研修プログラムを受けている労働者、一定の教団の信者、軍隊、及び漁師は適用外とされる。

労働時間規制とオプト・アウト

EU労働時間指令の実現のために制定された労働時間規則(WorkingTime Regulations 1998)は、労働者の基本的権利及び保護について規定している。具体的には、労働者に要求できる週当たり労働時間を上限48時間とすること、夜間労働者の24時間当たり労働時間を上限8時間とすること、夜間労働者が無料で健康診断を受ける権利、1日に11時間の休息の権利(16-18歳については12時間)、週休1日の権利(16-19歳については2日)、労働時間が6時間を超える場合の20分の休憩時間の権利(1日に4.5時間を超えて働く16-18歳の労働者については30分)及び4週間の年次有給休暇の権利が規定されている。

一方、政府はこの指令の適用除外(オプトアウト)を申請し、労働者が週48時間を超えて働くことを望む場合にそれが認められるようにしている。しかし2003年11月、欧州委員会はこのオプトアウトを取り消す可能性があると発表した。欧州委員会は英国の労働者が雇用契約を締結する際にオプトアウトに不当に署名させられているとして、使用者によるオプトアウトの濫用傾向を指摘している。政府は実態を調査する方針だが、オプトアウトを廃止すれば多くの労働者が超過勤務手当という追加所得を奪われる事態となるため、オプトアウトを継続したい意向である。

休暇関係(出産休暇・父親休暇)

2002年雇用法(Employment Act 2002)の施行により、出産を予定する女性に対する普通出産休暇(26週間)の権利、また同じ雇用主に6カ月間継続勤務している女性については追加出産休暇(最長26週間)の権利が認められた。同じ雇用主に6カ月間継続勤務しかつその週給が75ポンド以上であれば、法定出産手当が受けられる。雇用主は法定出産手当を支払う義務がある。最初の6週間は給料の90%、残りの20週については100ポンド(または平均所得の90%のいずれか安い方)である。週給が75ポンド未満の女性、及び同じ雇用主への継続勤務が6カ月未満である女性は出産手当を受けることができ、これは週62.20ポンドが最長18週まで支払われる。

また、同法により父親についても2週間の父親休暇(子どもの誕生日から56日以内に取る必要がある。)の権利が規定され、女性の出産休暇時の所得保障と同水準の所得保障が導入された。

さらに、休暇取得後の復職時に原職又は原職相当以上の職を提供される権利も規定されている。

3.労使関係

英国の主な労働団体としては労働組合会議(TUC)があり、労働組合の大半はその傘下にある。また、主な事業主団体としては英国産業連盟(CBI)と経営者協会(IoD)がある。

労働組合運動

労働組合の組合員数は、2002年の秋時点で730万人であった(資料:Labor Force Survey, 2003年7月)。これに基づくと労働者の組合加入率は26.6%となる。この割合は長期的に低下傾向にあり、1989年には39%、1979年には58%であった。なお組合への加入率は民間部門の方が低く、民間部門の加入率は20%というTUCの推計もある。

若年労働者の組織化は組合運動が直面する課題の一つである。労働力全体の平均年齢34歳に対し、組合員の平均年齢は46歳である。50歳以上の労働者の加入率35%に対し、20-24歳層では11%にとどまっている(2002年8月までの12カ月間)。

なお、争議に加わっている労働者数:17万3800人、争議のために無駄にされた労働日:47万1700日となっている(資料:Labor Market Trends, 2004年2月)。

賃金交渉

英国での賃金交渉は企業ごとに行われるのが一般的である。一部では産業レベルで行われている。賃金が労働協約の影響を受けるという労働者の割合は、2002年の秋には36%となっている(資料:Labor Market Trends,2003年7月)。

労使間の直接協議とEU指令

労働組合を介さずに行われる労働者と経営側との直接協議が一般化しつつある。1999年雇用関係法(Employment Relations Act 1999)により、労働者は苦情や懲戒のためのヒアリングに同伴者を同席させる権利を与えられている。2003年12月に議会に提出された雇用関係法案(Employment Relations Bill 2003)では、そうした会合での同伴者の役割が明確化されている。

EUの情報と協議に関する指令によれば、EU域内の従業員数50人以上の企業は経営状況を労働者に通知し、あらゆる重要な決定(企業再編から会社の組織や契約関係に相当の影響を及ぼしうる決定まで)について労働者と協議することを義務付けられる。通常は労働者の代表を介して協議が行われるが、指令に規定されたものとは異なる手続きについて労使が合意すること、あるいは情報と協議に関する現行の合意によってそれぞれの義務を遂行することもできる。英国は2005年3月23日までにこの指令を実施しなければならない。当初はこの指令の適用は従業員数150人以上の企業に限定されるが、2007年には従業員100人以上の企業に、2008年には従業員50人以上の企業にも適用される予定である。

4.労働行政の動き

ニューディール政策

失業者の就職支援のために、政府は種々の「ニューディール政策」を打ち出している:若者のためのニューディール(6カ月以上失業している18歳~24歳層が対象)、25歳以上のためのニューディール(求職者手当を請求している2年以上の失業者が対象)、50歳以上のためのニューディール(求職者手当、所得補助あるいは就労不能給付を6カ月以上請求している者が対象)、片親のためのニューディール(16歳以下の子どもを有する週当たりの労働時間が16時間未満か無職の者が対象)及び配偶者のためのニューディール(現在給付を請求している者の配偶者が対象)がある。これらの参加者は就職可能性を高めるために、個別に実際的な支援を受ける。それぞれの状況に応じた異なるプランがあり、参加者には求職を支援するパーソナル・アドバイザーがつく。

失業保険の求職者手当は人員整理の対象となった労働者に対して支給されるが、仕事に就いている配偶者が請求者にいるかどうか家計調査が行われる。「ニューディール」政策により、仕事があるにも関わらず就職を拒否したり研修の受講を拒否した請求者は受給資格を失う場合がある。一方、「勤労家族税控除」制度を導入して低所得世帯の税負担を軽減することにより、給付に依存せずに働くことを奨励している。

スキルの開発:職業訓練

教育技能委員会(LSC)が2003年に公表した調査によれば、雇用主の4割は労働者の研修に関与していない。英国の職業教育・訓練制度は基本的には任意のものであり、雇用主に労働者の訓練への関与を義務づける法律はない。しかしスキルの不足は英国経済に深刻な影響を与えかねず、政府はその克服にとりくんでいる。近年導入された職業訓練のイニシアティブには、国家職業資格制度(NVQ:全国的に認知された唯一の職業資格制度)、人への投資者(Investor in People:優れた研修を行う雇用者に対する全国的な評価基準)、基礎/先進見習い制度(Foundation/Advanced Modern Apprenticeships)及び産業大学(電子学習の機会を提供する)などがある。

雇用平等規則の施行

2003年雇用平等規則(性別志向)及び同規則(宗教あるいは信条)が施行され、労働者に対する性別志向、宗教あるいは信条を理由とする間接・直接の差別や迫害が禁止された。これらの規定は均等待遇に関するEU指令の実現のために導入されたものである。

なおEU指令に従い、年齢を理由とする雇用上の差別を禁止する法律を2006年10月までに導入する必要がある。

外国人労働者向けの措置:移民法

政府の移民管理政策は2001年から開始され、これによる複数の労働許可のカテゴリーがある。:「高度技能移民プログラム」は学士、医学・獣医学の有資格者及び金融の専門家が対象である。また2004年の夏から、英国で科学技術分野を専攻している外国の学士及び大学院生は学位取得後1年間の滞在が認められる。

分野別のスキームもある。労働力不足の分野(例えばケータリング業や建築業)の職を求める外国人労働者向けのスキームでは、2003-2004年に2万職が提供される予定である。季節的な農業労働者向けのスキームでは、非熟練の季節労働者が農家で働くことが認められ、最長6カ月の臨時許可が発行される。2003-2004年には2万5千職が提供される予定である。また、イノベータースキーム:申請者の企業家としての能力、専門性及び事業計画の質が評価されるというものもある。

年金制度

英国の年金制度としては国家年金、企業年金、ステークホルダー年金、個人年金がある。企業年金には確定給付型の最終給与年金方式(その一定割合が退職時の年金水準となる)と、確定拠出型のマネー・パーチェス方式がある。企業の拠出率は前者の最終給与年金方式の方が高く、多くの企業が新入加入者に対してこの方式を閉鎖している。また2004年2月の政府の発表によれば、企業倒産時に最終給与年金の加入者を保護するための基金の創設が予定されている。

英国の年金制度は複雑で、制度そのものや関係税制、手続きの簡素化の検討が現在行われている。

参考資料:

  • Dr. Kim Hoque, Nottingham University Business school "UK Basic Labor information(February 2004)"
  • IDS "Employment Europe"
  • National Statistics Online
  • ILO「世界の労働」(2003年12月号)
  • Business Labor Trend(2004年5月号)

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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:イギリス」

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