派遣労働でキャリアを培うには

雇用戦略研究部門 副主任研究員 小野 晶子

この数年、派遣労働に関する研究を行っている(※)。これまで多くの派遣労働者、派遣会社の方たちから話を聞いた。

派遣労働でキャリアを積むことは難しい――これが筆者の素直な感想である。ただし、職業能力形成の初期の段階であれば、派遣労働は入口が広く、派遣会社が未経験者を派遣先に送り込む行動もあり、業務経験を積める可能性がある。出口に関しても、派遣先に正社員転換しているケースが認められ、正社員へキャリアを繋げる「ステッピング・ストーン(足がかり)」的役割を担う可能性を持っている。しかし、すべての派遣労働者がこれに当てはまるわけではない。

では登録型派遣労働でうまくキャリア形成するポイントとは何だろうか。

第1に、業務未経験から始める場合、どんな小さな仕事であっても、足がかりを作るために働いてみること。そこから次の派遣でチャンスは広がる。派遣労働者の入職は、正社員転職に比べて学歴や職歴を問われることが少なく、また業務未経験であったとしても、ヒューマンスキルが高ければ、それを担保に派遣会社が派遣先へ「押し込む」ことがある。また、専門職で派遣先とのパイプが太い場合、補助的業務から入職出来る可能性がある。派遣労働では業務未経験から技能を磨けるチャンスは正社員よりも大きい。

第2に、派遣会社と派遣先を固定し、長期にわたって同じ職種(専門業務)に就き、能力形成を行い、実績を積み上げること。賃金上昇を伴うキャリア形成では、派遣先を渡り歩くよりも、固定した方が有利であることが分かっている。また、派遣会社を固定して派遣実績を積むと派遣元は人物担保がしやすくなり、優先的に派遣される傾向にある。

第3に、正社員を希望する者は、30歳前半までに正社員転換を行っている企業に派遣してもらい、実績を積み、30歳半ばまでに転換すること。派遣会社が感じる、引き抜かれやすい派遣社員の年齢は30歳前後である。この年齢層は、統計的に見ても正社員と非正社員の賃金格差が小さく、派遣先にとって無理なく正社員へ乗り入れさせやすい。この時期を逃すと、賃金格差は急激に広がり転換に大きな障壁ができてしまう。

第4に、40歳以降も派遣労働の継続を希望する者は、専門職種で業務を高度化すること。派遣で年金受給年齢まで働き続けられる人は少ない。どうすれば年齢の壁を越えられるのか。1つは、専門職でその職務をより高度化させること。経理であれば、年次の決算まで出来る人材や、貿易事務でもオールラウンドに輸出入を担当できる、トラブルにも迅速に対応できる人材は需要が多い。もう1つはヒューマンスキルを大いに磨くことである。年齢が高くなると、年下の正社員から指示を受けることも多くなる。周りの派遣社員も自身よりも年若になる場合が多い。柔軟に職場に溶け込み、年の功で職場を和まし統率するような働きぶりを派遣会社が把握していると、次の仕事が紹介されやすいというケースがみられる。

派遣労働では、契約業務以外の仕事は与えてはいけないことになっている。上記に書いたような第1と第2のポイントでは、あるいは契約業務を超えて仕事をする場面も出てくるかもしれない。習熟と共に仕事が高度になり職業能力が向上し、賃金上昇につながる、あるいは職場でなくてはならない存在となり正社員への道が広がるというケースは往々にして、業務区分が緩やかな職場で見られる。

業務を限定し、それ以外の業務を与えないという契約は、派遣労働者の業務内容を明確にし保護するという役割や、同職場の正社員の職域を奪わないという役割がある一方で、キャリア形成はやりにくくなる。

現在の日本では3分の1が非正規労働者となりつつある。派遣労働も含めて、非正規で働くもののキャリア形成をどのように構築すべきか、次世代の日本を担う労働者の大きな課題である。

(2010年10月1日掲載)