労働政策研究報告書No.124
人材派遣会社におけるキャリア管理
―ヒアリング調査から登録型派遣労働者のキャリア形成の可能性を
考える―

平成22年6月25日

概要

研究の目的と方法

本研究は、登録型派遣会社が派遣労働者のキャリアをどのように考え、どのような方法でキャリアを管理しているかということを明らかにすることにある。派遣労働者のキャリア形成を、経路の側面からとらえると、次の3つの問題を明らかにする必要がある。すなわち、キャリアの入口の問題、派遣社員としてキャリア形成中の問題、キャリアの出口の問題である。(第1図)。

研究方法はヒアリング調査による。調査対象は派遣会社全14社。調査期間は2008年12月から2009年12月までの1年間である。

第1図 派遣労働者のキャリア形成経路の概念図

第1図 派遣労働者のキャリア形成経路の概念図/労働政策研究報告書 No.124「人材派遣会社におけるキャリア管理―ヒアリング調査から登録型派遣労働者のキャリア形成の可能性を考える―」

主な事実発見

第1図に従って、発見事項を整理する。まず、入口である。登録型派遣労働の入職ハードルは低い。学歴や正社員としての履歴はほとんど問われない。業務未経験であったとしても、ヒューマンスキルが高ければ、それを担保に派遣会社が派遣先へ「押し込む」ことがある。また、専門職で派遣先とのパイプが太い場合、補助的業務から入職出来る可能性がある。

次に、派遣期間中のキャリア形成の可能性であるが、キャリア形成を、能力の向上に伴って賃金が上昇するという定義で見た場合、派遣先を移動しながらキャリアを積む「移動型」は、市況によって変化する派遣料金に連動するため、能力の向上に伴う賃金の上昇は担保されない。それよりも、同一派遣先にいて仕事の幅を広げていく「内部型」の方が、賃金を伴ったキャリア形成が出来る可能性が高いが、概して派遣会社の派遣先に対する立場は弱いため、必ずしも期待出来ない面もある。よって、派遣期間中は仕事を通じて実務経験を積むことによる能力形成は可能だが、賃金を伴うことが難しい。

派遣労働における年齢上限に関しては、事務系では40歳前後、製造、軽作業系では年齢は関係ないが、労働者側の体力的問題が発生する。いずれにしても、年金受給資格年齢まで接続して派遣労働で働くことは難しい。ただし、専門業務(経理、医療事務、技術職等)に関しては、年齢の「壁」を乗り越えやすい。また、30歳代から1つもしくは少数の派遣会社に固定し、実績を積むことにより、派遣会社はその人の働きぶりを把握できるため、年齢が上がっても仕事が紹介されやすい。

最後に、出口である。登録型派遣労働者が、紹介予定派遣以外の方法(「引き抜き」)で、派遣先へ直接雇用されるケースは少なくない。派遣会社では契約満了後の転換については、把握しきれないが、その数は、紹介予定派遣と同じかそれ以上になる可能性もある。転換申し込み時の雇用形態は契約社員が多いようである。直接雇用になりやすいのは、正社員との職域が重なっている派遣労働者、年齢は30歳代半ばまでである。派遣労働をステッピング・ストーンとして正社員へ転換する可能性はある。派遣元での「期間の定めのない雇用」への転換は、主に請負事業にシフトする事業においてそのリーダー役として雇われるようなケースで、今後増えていくと考えられる。

政策的含意

  1. 派遣労働者の賃金は派遣料金を通じて、市場の需給や市況の変動に影響されやすい。派遣労働者の能力の向上や職務難易度の向上に伴い、賃金を上昇させるしくみを作り、価格競争から質的競争への転化させる必要がある。特に専門職に関しては、職種ごとの職務分析によるレベル分けと、そのレベルにあった派遣料金の結びつけ、そして評価制度について、業界全体の業務と派遣料金をデザインすることが求められる。
  2. 派遣労働から正社員への転換に関して、移行がスムーズに行われるような方策が必要である。派遣会社は派遣労働者に対し、仕事の紹介にあたり、派遣先で正社員転換の制度等があるか、過去の転換事例があるかといった情報伝達を行うことが求められる。

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

小野 晶子
労働政策研究・研修機構副主任研究員
米澤 旦
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
(東京大学大学院人文社会系研究科社会学専門分野博士課程後期)
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査員

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