労働組合とワーク・ライフ・バランス

研究員 池田心豪

去る6月3日に「女性が働き続けることができる社会を目指して」と題する労働政策フォーラムに登壇し、出産・育児期の就業継続に関する研究報告とパネルディスカッションを行った。会場の浜離宮朝日ホールはほぼ満席であった。だが、あまりに盛況であったため、逆にどのような人が来ていないか気になった。

参加者の多くは企業の人事担当者であった。対して、労働側、たとえば労働組合の関係者は少なかった。こうしたことが気になったのは、昨年ヒアリング調査(※)をしたある企業(以下D社と呼ぶ)の労働組合が印象に残っているからでもある。

D社(従業員数961人、不動産業)は、仕事と育児の両立支援の優良企業であることを示す次世代認定マーク(くるみん)を取得している。その取り組みの背景として、労働組合の要求で一般の女性従業員をメンバーに入れた次世代専門委員会を設置したこと、そして、こうした要求をする労働組合は日ごろから活発に活動しているという話を同社の人事担当者からうかがい、労働組合にもヒアリング調査にご協力いただいた。

その組合活動で特に印象に残っているのは、毎年テーマを決めて春闘に臨んでいることだ。2009年のテーマは心の健康問題、2008年は体の健康問題、そして2005年にテーマとしたのが次世代専門委員会設置要求であった。この要求に当たり、組合執行部は、毎年春闘前に実施している組合員アンケートに両立支援の項目を入れて組合員のニーズを把握していた。ほかにも、年3回の支部会議、年1回の支部長会議で組合員の様々な意見・要望を把握している。こうした方法により、組合活動のマンネリ化を防ぐとともに、要望がある組合員は仮に少なくても当事者にとっては切実な問題を労使交渉の中心に据えることができている。焦点を絞っているため、要求が通ったのか否か成果も見えやすい。毎年の春闘を周囲は「どうなるんだろう」という心配と「何かやってくれるのかな」という期待感をもって見守っているという。組合員の切実な意見を反映した要求には人事担当者も共感できるものが多いという。

筆者も労働組合の執行委員をしていて思い当たるのだが、ワーク・ライフ・バランスに関する労働者のニーズは多様であり、誰もが差し迫った必要性を感じている要求事項というのはあまりない。子育てや介護をしている人にとって両立支援は切実な問題だが、子育てや介護がまだ現実的でない人やすでに終わっている人も職場にはいる。結果として、賃金など、多くの組合員に共通する「最大公約数」的な項目を柱に春闘要求を組み立てると毎年変り映えがしなくなる。両立支援の項目があってもあまり目立たたない。少数意見も反映しようと要求事項を増やすと総花的になり、焦点がぼやける。

D社でも、かつては今ほど組合活動が活発ではなかったそうだ。しかし、現在のスタイルになってから活発になったという。みなさんの職場の労働組合はどうでしょうか?

※調査結果は労働政策報告書No.122『女性の働き方と出産・育児期の就業継続』を参照。調査にご協力いただいた方々に改めて謝意を申し上げたい。なお、D社労働組合については第5章と巻末のヒアリングレコードで詳しく取り上げている。

(2010年8月20日掲載)